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第4部 四神を愛しなさいと言われました
47.思いつきを口にするのはやめましょう
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白虎の室は香子の部屋の西側にある。
延夕玲はすぐに戻ってきた。
『お支度を』
『? このままでいいのではなくて?』
『御髪が少し乱れております』
夕玲が言えば、侍女がささっと髪を直してくれた。鏡を見せられて確認する。
『ありがとう』
ついでに衣裳の襟の部分などを直したりしていたら、白虎がやってきた。夕玲が睨む。まだ早いと言いたそうだった。
香子は笑いそうになったが、どうにかこらえた。夕玲に説教をされると長いのである。
『香子』
白虎は夕玲の視線などものともせず、長椅子に腰掛けている香子を抱き上げた。この腕の中も好きだなぁと香子は思う。昨夜の晩餐会では、四神の席は全て長椅子仕様であった。だが玄武が香子を離さなかった為、白虎の腕の中に収まるのは久しぶりだと香子は思った。
白虎を見る。
今日の視線が穏やかであることを確認して、
『白虎様の室でお茶がしたいです』
と香子は言った。白虎は苦笑するようにほんの少しだけ表情を動かした。本当に四神は表情が豊かになったと香子は思う。だがそれは香子だからこそ感じられるものであって、四神宮に仕える者たちからすればあまり変わっていないように見える。ただ、侍女たちも四神と香子の間にある雰囲気が甘く感じられるので、四神と香子が見ていないところで身もだえているのだがそれは余談である。
『では参ろう』
白虎は香子を抱いたまま部屋を出た。渡り廊下に出れば、少し風が吹いているのが感じられた。白虎の腕の中にいても感じられるということは、表は強風が吹いているのではないかと香子は心配になった。
『白虎様、四神宮の外の天気はどうなのでしょう? もしかしたら強い風が吹いているのではないでしょうか』
『それを知ってなんとする』
『謁見の間は四神の影響を受けないのでしょう? 趙が少し心配です』
『……白雲、見て参れ』
『是(はい)』
白虎の後ろに控えていた白雲がスッと動き、四神宮の外へ向かった。人をやれという話ではなかったが、香子の言を聞けばそうせざるを得なかったのだろう。いつものことではあるのだが、香子は思いつきで何か言うのは止めた方がよさそうだと反省した。そのまま白雲を置いて室に戻るのかと思ったが、白虎は何故かそこから動かなかった。
『白虎様?』
『冬の風は冷たいが……そなたと共に感じるのも悪くない』
『……白虎様は私の我がままを聞きすぎです……』
自分を甘やかしてどうする気だと、香子は白虎を睨んだ。白虎は楽しそうに口角を少し上げた。
『そなたが思っているほどそなたは我がままではないぞ。そなたの人を思いやる気持ちは大切だ。だがその気持ちを全て奪いたいと思うのは四神の性なのだ』
『……私の気持ちを……?』
『そうだ』
花嫁の全てを自分たちの物にしたいと願うのが四神だとは香子も聞いている。それは感情もということなのだろうかと、香子はぼんやり思った。決して密室の中ではしたくない会話である。
白雲が戻ってきた。
『四神宮の表は非常に風が強いです。趙は謁見の間の小屋の方に退避していました。謁見の間の扉は閉め切っております』
『そう、どうにか過ごせそうなのかしら?』
『この地では冬になると時折このような強風に晒されるようです。建物に心配はなさそうですが、ご心配であれば……』
『問題ないならいいわ。白雲、ありがとう』
趙が心配だからと眷属を向かわせるのはやりすぎだろうと香子は思う。
(あ、でも)
香子はまた何か思いついてしまった。
『黒月』
黒月は影のように控えていた。
『はい』
『私、今日は夕飯の時間まで白虎様の室で過ごすから、できたら趙に付き添っててもらえないかしら?』
『……私は花嫁様の守護です』
『白虎様の室の前でずっと立ってられても気兼ねしてしまうのよ。趙の話し相手とか、何かあったらこちらに連絡する要員として今日はあちらに向かってくれると嬉しいのだけど』
『……それは命令でしょうか』
『命令はしないわ。ただのお願いよ』
『では断っても?』
『それはかまわないわ』
香子もそこまで強制するつもりはない。あくまで、趙が強風で何もできないまま小屋にいるよりはいいだろうと思っただけである。
『あ、そうか……』
『なんでしょう?』
『黒月は四神の眷属とはいえ女性だもんね。趙の側にいてって言われても困るわよね』
なんとなく元の世界のノリで言ってしまったが、香子もさすがにまずいと思った。見た目は成人女性だが黒月はまだ未成年である。未成年なのに青年男性の元へ向かわせるというのはいけない気がした。
『ごめんなさい。忘れて?』
黒月は少し困ったような顔をした。
『……花嫁様、私は貴方の守護です』
『ええ、そうね』
『文官など男性のうちには入りません』
『……ん?』
『夕食の時間までには戻ります』
『え? どういうこと?』
黒月はさっそうと四神宮の外へ向かった。
香子は首を傾げた。
『……花嫁様は煽るのがお上手ですね』
白雲が感心したように言う。
『……どゆこと?』
香子には皆目見当もつかない。
だが、黒月が四神宮の外へ向かったということはそういうことだった。
ーーーーー
学生のノリで言った香子が悪い。
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延夕玲はすぐに戻ってきた。
『お支度を』
『? このままでいいのではなくて?』
『御髪が少し乱れております』
夕玲が言えば、侍女がささっと髪を直してくれた。鏡を見せられて確認する。
『ありがとう』
ついでに衣裳の襟の部分などを直したりしていたら、白虎がやってきた。夕玲が睨む。まだ早いと言いたそうだった。
香子は笑いそうになったが、どうにかこらえた。夕玲に説教をされると長いのである。
『香子』
白虎は夕玲の視線などものともせず、長椅子に腰掛けている香子を抱き上げた。この腕の中も好きだなぁと香子は思う。昨夜の晩餐会では、四神の席は全て長椅子仕様であった。だが玄武が香子を離さなかった為、白虎の腕の中に収まるのは久しぶりだと香子は思った。
白虎を見る。
今日の視線が穏やかであることを確認して、
『白虎様の室でお茶がしたいです』
と香子は言った。白虎は苦笑するようにほんの少しだけ表情を動かした。本当に四神は表情が豊かになったと香子は思う。だがそれは香子だからこそ感じられるものであって、四神宮に仕える者たちからすればあまり変わっていないように見える。ただ、侍女たちも四神と香子の間にある雰囲気が甘く感じられるので、四神と香子が見ていないところで身もだえているのだがそれは余談である。
『では参ろう』
白虎は香子を抱いたまま部屋を出た。渡り廊下に出れば、少し風が吹いているのが感じられた。白虎の腕の中にいても感じられるということは、表は強風が吹いているのではないかと香子は心配になった。
『白虎様、四神宮の外の天気はどうなのでしょう? もしかしたら強い風が吹いているのではないでしょうか』
『それを知ってなんとする』
『謁見の間は四神の影響を受けないのでしょう? 趙が少し心配です』
『……白雲、見て参れ』
『是(はい)』
白虎の後ろに控えていた白雲がスッと動き、四神宮の外へ向かった。人をやれという話ではなかったが、香子の言を聞けばそうせざるを得なかったのだろう。いつものことではあるのだが、香子は思いつきで何か言うのは止めた方がよさそうだと反省した。そのまま白雲を置いて室に戻るのかと思ったが、白虎は何故かそこから動かなかった。
『白虎様?』
『冬の風は冷たいが……そなたと共に感じるのも悪くない』
『……白虎様は私の我がままを聞きすぎです……』
自分を甘やかしてどうする気だと、香子は白虎を睨んだ。白虎は楽しそうに口角を少し上げた。
『そなたが思っているほどそなたは我がままではないぞ。そなたの人を思いやる気持ちは大切だ。だがその気持ちを全て奪いたいと思うのは四神の性なのだ』
『……私の気持ちを……?』
『そうだ』
花嫁の全てを自分たちの物にしたいと願うのが四神だとは香子も聞いている。それは感情もということなのだろうかと、香子はぼんやり思った。決して密室の中ではしたくない会話である。
白雲が戻ってきた。
『四神宮の表は非常に風が強いです。趙は謁見の間の小屋の方に退避していました。謁見の間の扉は閉め切っております』
『そう、どうにか過ごせそうなのかしら?』
『この地では冬になると時折このような強風に晒されるようです。建物に心配はなさそうですが、ご心配であれば……』
『問題ないならいいわ。白雲、ありがとう』
趙が心配だからと眷属を向かわせるのはやりすぎだろうと香子は思う。
(あ、でも)
香子はまた何か思いついてしまった。
『黒月』
黒月は影のように控えていた。
『はい』
『私、今日は夕飯の時間まで白虎様の室で過ごすから、できたら趙に付き添っててもらえないかしら?』
『……私は花嫁様の守護です』
『白虎様の室の前でずっと立ってられても気兼ねしてしまうのよ。趙の話し相手とか、何かあったらこちらに連絡する要員として今日はあちらに向かってくれると嬉しいのだけど』
『……それは命令でしょうか』
『命令はしないわ。ただのお願いよ』
『では断っても?』
『それはかまわないわ』
香子もそこまで強制するつもりはない。あくまで、趙が強風で何もできないまま小屋にいるよりはいいだろうと思っただけである。
『あ、そうか……』
『なんでしょう?』
『黒月は四神の眷属とはいえ女性だもんね。趙の側にいてって言われても困るわよね』
なんとなく元の世界のノリで言ってしまったが、香子もさすがにまずいと思った。見た目は成人女性だが黒月はまだ未成年である。未成年なのに青年男性の元へ向かわせるというのはいけない気がした。
『ごめんなさい。忘れて?』
黒月は少し困ったような顔をした。
『……花嫁様、私は貴方の守護です』
『ええ、そうね』
『文官など男性のうちには入りません』
『……ん?』
『夕食の時間までには戻ります』
『え? どういうこと?』
黒月はさっそうと四神宮の外へ向かった。
香子は首を傾げた。
『……花嫁様は煽るのがお上手ですね』
白雲が感心したように言う。
『……どゆこと?』
香子には皆目見当もつかない。
だが、黒月が四神宮の外へ向かったということはそういうことだった。
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