503 / 653
第4部 四神を愛しなさいと言われました
51.やっぱり学習していないみたいです
しおりを挟む
青龍が青藍を伴って香子を迎えにきたのは、ちょうどいいタイミングであった。
おそらく青藍が気を利かせて時間を調整しているのだろうということは香子もわかる。香子が身支度を整えて、お茶を一杯飲んだところで来るなど絶妙だ。
『香子』
『青龍様』
香子は茶杯を卓に置こうとしたが、それは青龍によって取り上げられた。コトリと卓に置くと、青龍は香子を抱き上げた。
『……やっとそなたと過ごせる』
香子の顔が一気に赤くなった。
当初はすごく険悪であったのに、今はとても甘いと香子は思う。険悪から友人枠になり、だがやはりそこは四神である。香子を求め、絡め取るさまは蛇のようだと香子は思った。しかも青龍に抱かれると夜から翌日の昼過ぎまで確実に放してもらえない。目覚めたら翌日の夕方というのが普通で、香子はひどい空腹に泣くはめになるのだ。
だが香子は己の身体が食べ溜めをできることを知った。
(青龍様に事前に言っておいてもらえれば、夕飯の量を増やしてもらうことも可能よね?)
とにかく目覚めた時の空腹がひどくて指先一つ動かせなくなるのが香子はつらいのである。
抱かれている間は何故か途中靄がかかったようになり、気持ちいいということしかわからなくなる。だから抱かれるのはもう香子としてはかまわないのだ。
『今日は風はどうでしょうか』
『穏やかであるな』
『では、表でお茶をしたいです』
『わかった。用意せよ』
四神宮はそれなりの広さはあるが、散歩できるというほどではない。
『……少し、歩く場所がほしいです……』
この際自分の足でなくてもいい。四神に抱かれたままでもいいから、少し気分転換がしたい。許可を取らなければどこにも出られないというのが香子としてはストレスである。最初の頃は向かえていた景山にも行っていないし、御花園にも行けない。
今は正月だからまだ各国からの要人たちも滞在しているのだろう。
新年から仕事で皇帝もたいへんだなとは香子も思うが、それが皇帝なのだからしかたないとばっさり切った。香子の中で皇帝は最低な男筆頭なので容赦がない。
『……自分の足で歩きたいのか?』
青龍に尋ねられてはっとした。
『自分の足でなくてもかまいません。こう、四神宮の中だけで過ごしていると気が滅入ってくるのです』
『そうか……確か今年は龍の年であったな』
『えっ?』
この国で今が何年かなど香子は考えたこともなかった。ということは昨年が卯年だったのかとぼんやり思った程度である。
青龍は香子を抱いたまま渡り廊下に出た。そのままお茶の準備をしているだろう中庭に向かう。その間青龍は無言であった。
香子はなんとなく呟いてみただけだったから、その間に青龍が四神同士で何か伝え合っているとは全く思ってもみなかった。
『準備はまた後にせよ。しばし散歩に参る』
青龍は中庭で用意をしていた侍女たちにそう声をかけた。
「?」
香子は目を丸くして青龍を見た。散歩とは言うが、いったいどこに向かうつもりなのだろう。
『青龍様?』
『そなたの望む形ではないかもしれぬ。空中散歩をしたいと思うのだが如何か』
『え』
空中散歩というとあれだろうか。青龍の背に乗って空を飛ぶというやつか。想像しただけで香子はわくわくするのを感じた。
けれどさすがにそれは迷惑ではないかとも香子は思う。
『したい、ですけど……でも』
『ならば参るぞ』
『ええっ!?』
青龍は強引だった。そのまま中庭にトンッと下りると香子を抱いたまま本性を現し、目を白黒させる香子をその背に乗せた。
『捕まっておれ』
『え? はい? わあっ!』
香子が青龍の背に身体を伏せた途端、青龍はふわりと浮き上がった。
こんなことをしてたいへんなことにならないのかとか、そんな考えが浮かぶ。四神宮の面々が青龍を見上げながらあんぐりと口を開けているのが見えた。いきなりで申し訳ないと香子は思う。
《何故そなたがそなに困っているのか》
心話で話しかけられて香子はびくっとした。
《だって、突然ですから》
香子は苦笑する。
『ああっ、あれは!?』
『龍だ! 吉祥だ!』
青龍は一応皇帝には一方的に伝えていた。青龍は何度か王城の上空をぐるりと回る。それほど高度が高くないせいか、香子にも慌てて建物から出てきた人々の姿が見えた。
《青龍様、皇帝ってどこにいるんでしたっけ?》
こうなったらもう楽しんだ者勝ちと香子は割り切った。
《……皇帝に会いたいのか?》
心話でも低い声ということがわかる。不思議だなと香子は思った。
《皇帝の慌てているマヌケ面が見たいのですよ~》
私性格悪いので、と香子は笑った。青龍はフッと笑う。
《確かに、それは随分と性格が悪い。だがそんなそなたが好ましくてならぬ》
いきなり口説かれて香子はどんな顔をしたらいいのかわからなくなった。息をするように口説くのは止めてほしいと香子は思う。
《そなたが愛しいのだからしかたない》
そういえば本性を現した四神にくっついていると、心情がだだ漏れになるのだったということを香子は思い出した。
《では探してみるか》
青龍は楽しそうに王城の上空を飛び、建物から出てきて困ったような顔をしている皇帝の姿を香子に見せた。
《青龍様、大好きです!》
皇帝の周りには地位が高そうな者たちが何人もいて、しきりにこちらを指さしている。その中には外国の衣裳を着ている者も混じっていた。あれはどこかの要人なのかもしれないと香子は思った。
《聞くがいい。我は花嫁と飛んで参る。ただそれだけ故大事にするでない》
青龍は一方的に王城の者たちにそう告げると、北へ向かって飛んでいったのだった。
皇帝がこめかみに指を当て、この騒ぎをどうしたものかと頭を悩ませたのは香子たちのあずかり知らぬことである。
ーーーーー
エールとっても嬉しいです。ありがとうございますー!
おそらく青藍が気を利かせて時間を調整しているのだろうということは香子もわかる。香子が身支度を整えて、お茶を一杯飲んだところで来るなど絶妙だ。
『香子』
『青龍様』
香子は茶杯を卓に置こうとしたが、それは青龍によって取り上げられた。コトリと卓に置くと、青龍は香子を抱き上げた。
『……やっとそなたと過ごせる』
香子の顔が一気に赤くなった。
当初はすごく険悪であったのに、今はとても甘いと香子は思う。険悪から友人枠になり、だがやはりそこは四神である。香子を求め、絡め取るさまは蛇のようだと香子は思った。しかも青龍に抱かれると夜から翌日の昼過ぎまで確実に放してもらえない。目覚めたら翌日の夕方というのが普通で、香子はひどい空腹に泣くはめになるのだ。
だが香子は己の身体が食べ溜めをできることを知った。
(青龍様に事前に言っておいてもらえれば、夕飯の量を増やしてもらうことも可能よね?)
とにかく目覚めた時の空腹がひどくて指先一つ動かせなくなるのが香子はつらいのである。
抱かれている間は何故か途中靄がかかったようになり、気持ちいいということしかわからなくなる。だから抱かれるのはもう香子としてはかまわないのだ。
『今日は風はどうでしょうか』
『穏やかであるな』
『では、表でお茶をしたいです』
『わかった。用意せよ』
四神宮はそれなりの広さはあるが、散歩できるというほどではない。
『……少し、歩く場所がほしいです……』
この際自分の足でなくてもいい。四神に抱かれたままでもいいから、少し気分転換がしたい。許可を取らなければどこにも出られないというのが香子としてはストレスである。最初の頃は向かえていた景山にも行っていないし、御花園にも行けない。
今は正月だからまだ各国からの要人たちも滞在しているのだろう。
新年から仕事で皇帝もたいへんだなとは香子も思うが、それが皇帝なのだからしかたないとばっさり切った。香子の中で皇帝は最低な男筆頭なので容赦がない。
『……自分の足で歩きたいのか?』
青龍に尋ねられてはっとした。
『自分の足でなくてもかまいません。こう、四神宮の中だけで過ごしていると気が滅入ってくるのです』
『そうか……確か今年は龍の年であったな』
『えっ?』
この国で今が何年かなど香子は考えたこともなかった。ということは昨年が卯年だったのかとぼんやり思った程度である。
青龍は香子を抱いたまま渡り廊下に出た。そのままお茶の準備をしているだろう中庭に向かう。その間青龍は無言であった。
香子はなんとなく呟いてみただけだったから、その間に青龍が四神同士で何か伝え合っているとは全く思ってもみなかった。
『準備はまた後にせよ。しばし散歩に参る』
青龍は中庭で用意をしていた侍女たちにそう声をかけた。
「?」
香子は目を丸くして青龍を見た。散歩とは言うが、いったいどこに向かうつもりなのだろう。
『青龍様?』
『そなたの望む形ではないかもしれぬ。空中散歩をしたいと思うのだが如何か』
『え』
空中散歩というとあれだろうか。青龍の背に乗って空を飛ぶというやつか。想像しただけで香子はわくわくするのを感じた。
けれどさすがにそれは迷惑ではないかとも香子は思う。
『したい、ですけど……でも』
『ならば参るぞ』
『ええっ!?』
青龍は強引だった。そのまま中庭にトンッと下りると香子を抱いたまま本性を現し、目を白黒させる香子をその背に乗せた。
『捕まっておれ』
『え? はい? わあっ!』
香子が青龍の背に身体を伏せた途端、青龍はふわりと浮き上がった。
こんなことをしてたいへんなことにならないのかとか、そんな考えが浮かぶ。四神宮の面々が青龍を見上げながらあんぐりと口を開けているのが見えた。いきなりで申し訳ないと香子は思う。
《何故そなたがそなに困っているのか》
心話で話しかけられて香子はびくっとした。
《だって、突然ですから》
香子は苦笑する。
『ああっ、あれは!?』
『龍だ! 吉祥だ!』
青龍は一応皇帝には一方的に伝えていた。青龍は何度か王城の上空をぐるりと回る。それほど高度が高くないせいか、香子にも慌てて建物から出てきた人々の姿が見えた。
《青龍様、皇帝ってどこにいるんでしたっけ?》
こうなったらもう楽しんだ者勝ちと香子は割り切った。
《……皇帝に会いたいのか?》
心話でも低い声ということがわかる。不思議だなと香子は思った。
《皇帝の慌てているマヌケ面が見たいのですよ~》
私性格悪いので、と香子は笑った。青龍はフッと笑う。
《確かに、それは随分と性格が悪い。だがそんなそなたが好ましくてならぬ》
いきなり口説かれて香子はどんな顔をしたらいいのかわからなくなった。息をするように口説くのは止めてほしいと香子は思う。
《そなたが愛しいのだからしかたない》
そういえば本性を現した四神にくっついていると、心情がだだ漏れになるのだったということを香子は思い出した。
《では探してみるか》
青龍は楽しそうに王城の上空を飛び、建物から出てきて困ったような顔をしている皇帝の姿を香子に見せた。
《青龍様、大好きです!》
皇帝の周りには地位が高そうな者たちが何人もいて、しきりにこちらを指さしている。その中には外国の衣裳を着ている者も混じっていた。あれはどこかの要人なのかもしれないと香子は思った。
《聞くがいい。我は花嫁と飛んで参る。ただそれだけ故大事にするでない》
青龍は一方的に王城の者たちにそう告げると、北へ向かって飛んでいったのだった。
皇帝がこめかみに指を当て、この騒ぎをどうしたものかと頭を悩ませたのは香子たちのあずかり知らぬことである。
ーーーーー
エールとっても嬉しいです。ありがとうございますー!
26
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です
氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。
英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。
【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
喪女なのに狼さんたちに溺愛されています
和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です!
聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。
ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。
森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ?
ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる