異世界で四神と結婚しろと言われました

浅葱

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第1部 四神と結婚しろと言われました

84.これは痴話喧嘩でしょうか(黒月視点)

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 理解ができなかった。
 昨日はすごく仲睦まじそうに見えたというのに、あれから玄武と香子に何があったというのだろうか。
 香子は玄武に告白するとまで言っていたから、満更ではないはずだった。
 なのに何故無理矢理抱こうとしたなどということに発展してしまうのだろう。黒月は軽く首を振った。

『……玄武兄、想像はつきますがどうしてそうなったのです?』

 朱雀の困ったような声に、それでも玄武は顔を上げなかった。

『玄武兄、香子が生娘でないことは気づいているでしょう。我に抱かれたところで香子が我を選ぶとは思えませぬ』

 声を潜めて言ってはいたが、その場にいる者には丸聞こえだった。
 黒月は香子が生娘でないということにも驚いたが、それを表で言ってしまうのはどうかと思った。紅夏はあらぬ方向を向いている。黒月はなんともいたたまれなくて視線を茶室の方に向けた。

『!?』
『だが一度そなたに抱かれれば情も湧こう……』
『ええそうですね、でもこんなところでそんな話をする方々に抱かれたいとは思えませんが?』

 黒月は背筋を冷汗が伝うのを感じた。一番最初に香子の存在に気付いたのは黒月である。香子は少し離れた回廊の柱に寄りかかり、両腕を組んでいた。
 その目はあきらかに座っている。

香子シャンズ……!』

 朱雀と玄武の声が重なった。

『黒月さんが慌てる様子なんて珍しいと思って来てみたらこれですものね。せめてそういう話は室の中でされたらいかがですか?』

 そう言って香子は踵を返そうとしたが、何故か今の今まで項垂れていた玄武にすごい勢いで抱き寄せられた。

『……玄武様、私がどうするかは私が決めます』

 その声には呆れが含まれているようにも聞こえる。

『それに、抱かれても嫁がなければいけないわけではないと朱雀様がおっしゃいました』

 香子の言葉に朱雀は天を仰いだ。余計なことを言ったと後悔しているに違いなく、黒月は呆れてしまう。

『……そうであったな』

 玄武が呟くように言った。

『それから……私、こちらに来てからまだ七日ぐらいしか経ってないんですよ? 四神に会ってからは五日目? ですかね?』

 香子は指折り数える。

『私のいた世界でも会ってその日に抱き合う人たちっていますし、七日ぐらいで結婚を決めちゃう人たちだっています。でもそんなのは少数です。普通は半年とか一年お付き合いしてお互いをそれなりに知ってから結婚するものです。私の言ってること、わかります?』

 香子が玄武を見上げて言う。玄武は柔らかい笑みを浮かべ、そんな香子を見つめていた。

『つまり、我々にはまだ時間が必要ということだな……』
『こちらの国の結婚の概念はわからないのでなんともいえませんが、私はもっと玄武様のことも朱雀様のことも知りたいです』

 聞きようによっては熱い告白のようで、黒月は明後日の方向に目を向けた。結局お互い想いあってはいるようだが決定的ななにかに欠けるということだろうか。
 朱雀があからさまに嬉しそうな顔をしているのがなんとも複雑だった。

『香子……!』

 玄武が感極まったように香子を抱き上げる。そして唇を寄せようとして間一髪で押しのけられていた。

『だから! 人前でそういうことはしないでくださいってば!』

 ここ数日で香子の反応も早くなっているらしい。

(それにしても、あんな方だっただろうか……)

 いつもその緑の双眸は何も見ていないようで、時折遠くに向けられていた。それが今は香子の姿を捕えて離さない。

『玄武様! ごはんに行きましょう、ごはん! 朱雀様も!』

 それに仕方ないというように二神が笑む。紅夏がやれやれという顔で黒月を見た。黒月もまたそれにそっと苦笑してみせた。
 痴話喧嘩なら当人同士でやってもらいたいものである。
 黒月は心の中で嘆息した。
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