異世界で四神と結婚しろと言われました

浅葱

文字の大きさ
83 / 653
第1部 四神と結婚しろと言われました

83.後悔(玄武、黒月視点)

しおりを挟む
 玄武は逃げるように己の室に戻り、項垂れた。
 あんなに強引にするつもりはなかった。しかし香子を奪ってしまいたいと強烈に思ったことは確かで。
 前の花嫁のことをふと思い出した。
 彼女は、よくも悪くも運命に逆らわないひとだった。
 元の世界での生活がひどかったということもあるだろうが、彼女は最初から諦めていた。先代の白虎はすぐにそれを見抜き、彼女をかき口説いた。他の三神と歳がかなり離れていたということもあるだろう。そう時間も経たないうちに彼女は白虎にその身を委ねた。
 愛し合っていなければ四神との間に子は産まれない。最初のうちは諦めであったのだろうとは思う。そのうち彼女は白虎と心を通わせ、やがて子を沢山成した。
 それをただ玄武は、見ていただけだった。
 近寄ってはいけないと思っていた。あの甘い香りには抗えそうもなかったから。若さ故の無鉄砲さで、彼女を奪いたくはなかった。
 それなのに今はどうだ。
 朱雀に香子が抱かれることになると思ったら、その前に奪ってしまいたくなった。
 あの華奢な体を組み敷いて、自分だけのものにしてしまいたいと。

(なんと浅ましいことか……)

 愛していれば何をしてもいいわけではないと香子は言っていたではないか。

『我は……香子に相応しくないのやもしれぬ……』

 最初は、あの赤い髪に目をひかれた。赤は目出度い色ではあるが、わざわざ髪を赤く染める者はいない。それだけでも異世界からやってきた者とすぐわかったが、玄武がひかれたのはその香りだけではなかった。
 好奇心旺盛で理知的な香子。はっきりと物を言うところや、知ったかぶりをしないところ。全てが愛しくてならないのに、そう簡単には手に入らない。
 そんなことをつらつらと考えていると、扉の向こうから黒月の声がした。

『朝食の準備がそろそろ整うとのことです』
『……我は参らぬ』
『…………は?』

 黒月は自分の耳を疑った。毎回ろくに食べもしないのに四神はいそいそと食堂へ向かうというのに、今朝に限って玄武は行かないという。
 昨夜朱雀と香子の部屋に行き、玄武はそのまま朝まで戻ってこなかった。そして戻ってきた時には、何故かひどく沈んでいるようだった。
 男女のことはまだ黒月にはわからない。だが少なくともここに来てから玄武がそんな風になったのは初めてのように思われた。

(昨日はあんなに楽しそうであったのに)

 本来なら主の言うことを聞いて食堂に行けない旨を侍女なりに伝えればいいのだろう。けれどどこか玄武は思い詰めているような気がして、黒月は朱雀の室へと急いで足を伸ばした。

『紅夏様、玄武様が食堂へ行かないとおっしゃっています。どうか朱雀様にお考え直していただけぬかどうか説得していただくことは可能でしょうか』

 ちょうど朱雀の室の前にいた紅夏に、黒月は一気にまくしたてた。紅夏が目を丸くする。
 とその時扉が開いた。

『黒月、今の言はまことか?』

 朱雀だった。黒月はほっとしてことの次第を朱雀に話した。
 それに朱雀は眉を寄せる。

『……そこまで思いつめられていたとは……』

 呟くように言って朱雀は歩きだした。どうやら朱雀には玄武の懊悩がわかっているようである。黒月は慌ててその後を追った。
 果たして朱雀はまっすぐ玄武の室に向かい、『玄武兄! 我です、開けてください』と堂々とした声で言った。扉はそれほど間をあけずに開かれたが、

『何用か?』

 と聞く声はひどく低かった。その声に黒月は身震いした。そんな恐ろしい声を出す玄武を、今まで黒月は知らなかった。けれど朱雀は全くそれに動じない。

『朝食の席につけぬとは、一体何があったのですか?』

 答えるまでは一歩も動かぬ構えで朱雀が尋ねる。それに玄武はこう答えた。

『香子を、無理矢理抱いてしまいそうになった』

 黒月はあまりの驚愕に、目を見開いた。
しおりを挟む
感想 94

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

黒騎士団の娼婦

星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です

氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。 英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

処理中です...