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第1部 四神と結婚しろと言われました
83.後悔(玄武、黒月視点)
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玄武は逃げるように己の室に戻り、項垂れた。
あんなに強引にするつもりはなかった。しかし香子を奪ってしまいたいと強烈に思ったことは確かで。
前の花嫁のことをふと思い出した。
彼女は、よくも悪くも運命に逆らわない女だった。
元の世界での生活がひどかったということもあるだろうが、彼女は最初から諦めていた。先代の白虎はすぐにそれを見抜き、彼女をかき口説いた。他の三神と歳がかなり離れていたということもあるだろう。そう時間も経たないうちに彼女は白虎にその身を委ねた。
愛し合っていなければ四神との間に子は産まれない。最初のうちは諦めであったのだろうとは思う。そのうち彼女は白虎と心を通わせ、やがて子を沢山成した。
それをただ玄武は、見ていただけだった。
近寄ってはいけないと思っていた。あの甘い香りには抗えそうもなかったから。若さ故の無鉄砲さで、彼女を奪いたくはなかった。
それなのに今はどうだ。
朱雀に香子が抱かれることになると思ったら、その前に奪ってしまいたくなった。
あの華奢な体を組み敷いて、自分だけのものにしてしまいたいと。
(なんと浅ましいことか……)
愛していれば何をしてもいいわけではないと香子は言っていたではないか。
『我は……香子に相応しくないのやもしれぬ……』
最初は、あの赤い髪に目をひかれた。赤は目出度い色ではあるが、わざわざ髪を赤く染める者はいない。それだけでも異世界からやってきた者とすぐわかったが、玄武がひかれたのはその香りだけではなかった。
好奇心旺盛で理知的な香子。はっきりと物を言うところや、知ったかぶりをしないところ。全てが愛しくてならないのに、そう簡単には手に入らない。
そんなことをつらつらと考えていると、扉の向こうから黒月の声がした。
『朝食の準備がそろそろ整うとのことです』
『……我は参らぬ』
『…………は?』
黒月は自分の耳を疑った。毎回ろくに食べもしないのに四神はいそいそと食堂へ向かうというのに、今朝に限って玄武は行かないという。
昨夜朱雀と香子の部屋に行き、玄武はそのまま朝まで戻ってこなかった。そして戻ってきた時には、何故かひどく沈んでいるようだった。
男女のことはまだ黒月にはわからない。だが少なくともここに来てから玄武がそんな風になったのは初めてのように思われた。
(昨日はあんなに楽しそうであったのに)
本来なら主の言うことを聞いて食堂に行けない旨を侍女なりに伝えればいいのだろう。けれどどこか玄武は思い詰めているような気がして、黒月は朱雀の室へと急いで足を伸ばした。
『紅夏様、玄武様が食堂へ行かないとおっしゃっています。どうか朱雀様にお考え直していただけぬかどうか説得していただくことは可能でしょうか』
ちょうど朱雀の室の前にいた紅夏に、黒月は一気にまくしたてた。紅夏が目を丸くする。
とその時扉が開いた。
『黒月、今の言はまことか?』
朱雀だった。黒月はほっとしてことの次第を朱雀に話した。
それに朱雀は眉を寄せる。
『……そこまで思いつめられていたとは……』
呟くように言って朱雀は歩きだした。どうやら朱雀には玄武の懊悩がわかっているようである。黒月は慌ててその後を追った。
果たして朱雀はまっすぐ玄武の室に向かい、『玄武兄! 我です、開けてください』と堂々とした声で言った。扉はそれほど間をあけずに開かれたが、
『何用か?』
と聞く声はひどく低かった。その声に黒月は身震いした。そんな恐ろしい声を出す玄武を、今まで黒月は知らなかった。けれど朱雀は全くそれに動じない。
『朝食の席につけぬとは、一体何があったのですか?』
答えるまでは一歩も動かぬ構えで朱雀が尋ねる。それに玄武はこう答えた。
『香子を、無理矢理抱いてしまいそうになった』
黒月はあまりの驚愕に、目を見開いた。
あんなに強引にするつもりはなかった。しかし香子を奪ってしまいたいと強烈に思ったことは確かで。
前の花嫁のことをふと思い出した。
彼女は、よくも悪くも運命に逆らわない女だった。
元の世界での生活がひどかったということもあるだろうが、彼女は最初から諦めていた。先代の白虎はすぐにそれを見抜き、彼女をかき口説いた。他の三神と歳がかなり離れていたということもあるだろう。そう時間も経たないうちに彼女は白虎にその身を委ねた。
愛し合っていなければ四神との間に子は産まれない。最初のうちは諦めであったのだろうとは思う。そのうち彼女は白虎と心を通わせ、やがて子を沢山成した。
それをただ玄武は、見ていただけだった。
近寄ってはいけないと思っていた。あの甘い香りには抗えそうもなかったから。若さ故の無鉄砲さで、彼女を奪いたくはなかった。
それなのに今はどうだ。
朱雀に香子が抱かれることになると思ったら、その前に奪ってしまいたくなった。
あの華奢な体を組み敷いて、自分だけのものにしてしまいたいと。
(なんと浅ましいことか……)
愛していれば何をしてもいいわけではないと香子は言っていたではないか。
『我は……香子に相応しくないのやもしれぬ……』
最初は、あの赤い髪に目をひかれた。赤は目出度い色ではあるが、わざわざ髪を赤く染める者はいない。それだけでも異世界からやってきた者とすぐわかったが、玄武がひかれたのはその香りだけではなかった。
好奇心旺盛で理知的な香子。はっきりと物を言うところや、知ったかぶりをしないところ。全てが愛しくてならないのに、そう簡単には手に入らない。
そんなことをつらつらと考えていると、扉の向こうから黒月の声がした。
『朝食の準備がそろそろ整うとのことです』
『……我は参らぬ』
『…………は?』
黒月は自分の耳を疑った。毎回ろくに食べもしないのに四神はいそいそと食堂へ向かうというのに、今朝に限って玄武は行かないという。
昨夜朱雀と香子の部屋に行き、玄武はそのまま朝まで戻ってこなかった。そして戻ってきた時には、何故かひどく沈んでいるようだった。
男女のことはまだ黒月にはわからない。だが少なくともここに来てから玄武がそんな風になったのは初めてのように思われた。
(昨日はあんなに楽しそうであったのに)
本来なら主の言うことを聞いて食堂に行けない旨を侍女なりに伝えればいいのだろう。けれどどこか玄武は思い詰めているような気がして、黒月は朱雀の室へと急いで足を伸ばした。
『紅夏様、玄武様が食堂へ行かないとおっしゃっています。どうか朱雀様にお考え直していただけぬかどうか説得していただくことは可能でしょうか』
ちょうど朱雀の室の前にいた紅夏に、黒月は一気にまくしたてた。紅夏が目を丸くする。
とその時扉が開いた。
『黒月、今の言はまことか?』
朱雀だった。黒月はほっとしてことの次第を朱雀に話した。
それに朱雀は眉を寄せる。
『……そこまで思いつめられていたとは……』
呟くように言って朱雀は歩きだした。どうやら朱雀には玄武の懊悩がわかっているようである。黒月は慌ててその後を追った。
果たして朱雀はまっすぐ玄武の室に向かい、『玄武兄! 我です、開けてください』と堂々とした声で言った。扉はそれほど間をあけずに開かれたが、
『何用か?』
と聞く声はひどく低かった。その声に黒月は身震いした。そんな恐ろしい声を出す玄武を、今まで黒月は知らなかった。けれど朱雀は全くそれに動じない。
『朝食の席につけぬとは、一体何があったのですか?』
答えるまでは一歩も動かぬ構えで朱雀が尋ねる。それに玄武はこう答えた。
『香子を、無理矢理抱いてしまいそうになった』
黒月はあまりの驚愕に、目を見開いた。
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