526 / 653
第4部 四神を愛しなさいと言われました
74.青龍の屋敷に戻ります
しおりを挟む
昼食においしい海鮮を沢山食べたことで、香子は顔が緩むのを止められなくなった。
『ご機嫌だな』
『はいっ! やっぱり海鮮はいいですねー』
魚を揚げた物や、海老を茹でただけの物もおいしかったと香子は拳を握って力説した。海老は殻付きを茹でたものが出てきた。皿の上に等間隔に並べられた海老はそれだけで芸術である。自分で殻を剥かなければいけないが、青龍が香子の為に丁寧に殻を全部剥いた。それはもう香子の胸をときめかせるのに十分だった。
『殻はない方がいいのだろう?』
『はいっ!』
香子が言ったことを覚えていて海老の殻を全部剥くなんて最高である。色気のない話ではあるが、香子はすっかり青龍にメロメロ(死語)になった。香子、チョロすぎである。
とはいえ海老もゆうに一斤(500g)はあったので、青龍がたいへんだったことも間違いない。
その後は青龍の眷属に促されるままに海沿いの店を巡ってから馬車に乗った。屋台で煎餅(クレープのような皮に卵、香ばしいソース、ネギ、パリパリに揚げた小麦粉の煎餅みたいなものを挟んで食べる中国版総菜系クレープ)を見つけ、香子はそれを購入してもらった。
『煎餅、おいしい……』
おなかがいっぱいのはずなのにそういう小吃(スナックのような軽食)は不思議と腹に入るものである。
馬車でもそもそと香子が食べる。
『香子、楽しめたか?』
『はい、とても楽しかったです』
屋台の物を食べるなんて久しぶりである。平らげてから、香子はおなかを壊さないかどうかを心配した。とても長い間屋台飯など食べていない。おいしかったが身体が付いていかないのではないかと思ったのだ。
(うかつだった……)
四神宮で紅児の父にやってもらった疑似屋台のようなものは、衛生管理がきちんとした状態で用意されたものである。とはいえすでに食べてしまったのだから後の祭りだ。四神も一緒になって食べていたのを思い出す。
(四神って、おなかを壊したりするのかしら?)
香子はありえないことを考えてしまった。
『青龍様、私まだ自分の身体のことを把握していないのですが……おなかを壊すということはあるのでしょうか?』
『おなかを壊す?』
青龍は玄武と朱雀を見やる。玄武と朱雀もほんの少しだけ不思議そうな顔をした。それがなんだかおかしくも香子には感じられた。
『ええと、便が緩くなるとか……』
『ないだろう』
『ないな』
『……そなたの身体は毒を飲んだとてなんの反応もすまい。もちろん、毒を飲ませようとする者あらば生かしてはおかぬが』
朱雀がそう言って口元をクッと上げた。
『そ、そうなのですか……』
随分と遠くにきてしまったものだと香子は遠い目をした。見た目が人なだけで、香子はもう人ではない。それを少し寂しいと香子も思うが、毒を盛られても問題ないというのは素晴らしい。前向きに考えた方がいいと香子は思った。
『何を気にしている?』
青龍に顔を覗き込まれた。
『いえ、屋台で物を買って食べたのが久しぶりなので、身体が驚いているのではないかと思ったのです』
大陸に来る時、身体が大陸に慣れるまでは屋台の飯は食べないようにと口を酸っぱくして言われたことを香子は思い出したのだ。
屋台のごはんを食べ始めた時期について覚えてはいない。けれどそれはとても楽しくて得難くて、一時期屋台飯にはまったこともある。日本ではお祭りの時以外は無理かなと思っていた。
『そうか。そのようなことはないから安心するといい』
『ありがとうございます』
いろいろなことが思い出されて、香子は泣きそうになった。
こちらの世界に来て、まだ一年も経っていないのに記憶はあまりにも遠い。それは戻れないと知っているからだろう。
やがて馬車が停まる。
馬車の扉の向こうから、『到着しました』と声がかかった。
『我が先に出よう』
玄武が先に出て、香子を抱いた青龍が、そして最後に朱雀が降りた。何があってもいいようにと玄武が先に出たことも香子にはわかっている。
(でもきっと、私はもうちょっとやそっとのことじゃ死なないんだろうな……)
病気をしないとか、歳を取らないとかそういうことを抜きにしても、おそらく攻撃を受けるようなことがあっても傷ついたりはしないかもしれないと香子は考える。
『こちらへどうぞ』
青龍の眷属たちに促され、青龍の室の横にある居間へ案内された。
『……広い、ですね』
『ここでは本性を現わすことも多いのでな』
確かに青龍の本性が収まるような広さの場所だと香子も納得した。おそらく、同時に玄武と朱雀が本性を現しても部屋は壊れないに違いない。居間というよりも広間である。
隣の寝室はどうだろうかと思ったが、今そんなことを聞いたら床に連れ込まれてしまうだろうことは予想ができたので、香子は考えなかったことにした。どちらにせよ、寝る時は一緒である。
お茶を用意され、青龍の膝に腰掛けたまま啜った。
やはり緑茶がおいしい。
『おいしいですね……』
『花嫁様のお口に合い、幸いです』
街の茶屋で持たされた茶葉でさっそく淹れたらしい。
『ありがとう』
高そうな茶葉だったなと思い、香子はゆっくりとお茶を楽しんだのだった。
『ご機嫌だな』
『はいっ! やっぱり海鮮はいいですねー』
魚を揚げた物や、海老を茹でただけの物もおいしかったと香子は拳を握って力説した。海老は殻付きを茹でたものが出てきた。皿の上に等間隔に並べられた海老はそれだけで芸術である。自分で殻を剥かなければいけないが、青龍が香子の為に丁寧に殻を全部剥いた。それはもう香子の胸をときめかせるのに十分だった。
『殻はない方がいいのだろう?』
『はいっ!』
香子が言ったことを覚えていて海老の殻を全部剥くなんて最高である。色気のない話ではあるが、香子はすっかり青龍にメロメロ(死語)になった。香子、チョロすぎである。
とはいえ海老もゆうに一斤(500g)はあったので、青龍がたいへんだったことも間違いない。
その後は青龍の眷属に促されるままに海沿いの店を巡ってから馬車に乗った。屋台で煎餅(クレープのような皮に卵、香ばしいソース、ネギ、パリパリに揚げた小麦粉の煎餅みたいなものを挟んで食べる中国版総菜系クレープ)を見つけ、香子はそれを購入してもらった。
『煎餅、おいしい……』
おなかがいっぱいのはずなのにそういう小吃(スナックのような軽食)は不思議と腹に入るものである。
馬車でもそもそと香子が食べる。
『香子、楽しめたか?』
『はい、とても楽しかったです』
屋台の物を食べるなんて久しぶりである。平らげてから、香子はおなかを壊さないかどうかを心配した。とても長い間屋台飯など食べていない。おいしかったが身体が付いていかないのではないかと思ったのだ。
(うかつだった……)
四神宮で紅児の父にやってもらった疑似屋台のようなものは、衛生管理がきちんとした状態で用意されたものである。とはいえすでに食べてしまったのだから後の祭りだ。四神も一緒になって食べていたのを思い出す。
(四神って、おなかを壊したりするのかしら?)
香子はありえないことを考えてしまった。
『青龍様、私まだ自分の身体のことを把握していないのですが……おなかを壊すということはあるのでしょうか?』
『おなかを壊す?』
青龍は玄武と朱雀を見やる。玄武と朱雀もほんの少しだけ不思議そうな顔をした。それがなんだかおかしくも香子には感じられた。
『ええと、便が緩くなるとか……』
『ないだろう』
『ないな』
『……そなたの身体は毒を飲んだとてなんの反応もすまい。もちろん、毒を飲ませようとする者あらば生かしてはおかぬが』
朱雀がそう言って口元をクッと上げた。
『そ、そうなのですか……』
随分と遠くにきてしまったものだと香子は遠い目をした。見た目が人なだけで、香子はもう人ではない。それを少し寂しいと香子も思うが、毒を盛られても問題ないというのは素晴らしい。前向きに考えた方がいいと香子は思った。
『何を気にしている?』
青龍に顔を覗き込まれた。
『いえ、屋台で物を買って食べたのが久しぶりなので、身体が驚いているのではないかと思ったのです』
大陸に来る時、身体が大陸に慣れるまでは屋台の飯は食べないようにと口を酸っぱくして言われたことを香子は思い出したのだ。
屋台のごはんを食べ始めた時期について覚えてはいない。けれどそれはとても楽しくて得難くて、一時期屋台飯にはまったこともある。日本ではお祭りの時以外は無理かなと思っていた。
『そうか。そのようなことはないから安心するといい』
『ありがとうございます』
いろいろなことが思い出されて、香子は泣きそうになった。
こちらの世界に来て、まだ一年も経っていないのに記憶はあまりにも遠い。それは戻れないと知っているからだろう。
やがて馬車が停まる。
馬車の扉の向こうから、『到着しました』と声がかかった。
『我が先に出よう』
玄武が先に出て、香子を抱いた青龍が、そして最後に朱雀が降りた。何があってもいいようにと玄武が先に出たことも香子にはわかっている。
(でもきっと、私はもうちょっとやそっとのことじゃ死なないんだろうな……)
病気をしないとか、歳を取らないとかそういうことを抜きにしても、おそらく攻撃を受けるようなことがあっても傷ついたりはしないかもしれないと香子は考える。
『こちらへどうぞ』
青龍の眷属たちに促され、青龍の室の横にある居間へ案内された。
『……広い、ですね』
『ここでは本性を現わすことも多いのでな』
確かに青龍の本性が収まるような広さの場所だと香子も納得した。おそらく、同時に玄武と朱雀が本性を現しても部屋は壊れないに違いない。居間というよりも広間である。
隣の寝室はどうだろうかと思ったが、今そんなことを聞いたら床に連れ込まれてしまうだろうことは予想ができたので、香子は考えなかったことにした。どちらにせよ、寝る時は一緒である。
お茶を用意され、青龍の膝に腰掛けたまま啜った。
やはり緑茶がおいしい。
『おいしいですね……』
『花嫁様のお口に合い、幸いです』
街の茶屋で持たされた茶葉でさっそく淹れたらしい。
『ありがとう』
高そうな茶葉だったなと思い、香子はゆっくりとお茶を楽しんだのだった。
25
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です
氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。
英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。
【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
喪女なのに狼さんたちに溺愛されています
和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です!
聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。
ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。
森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ?
ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる