196 / 653
第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
42.お風呂場は話しやすいみたいです
しおりを挟む
茶会についてはわくわくした気持ちが主なのだが、引き続き延夕玲に対しての気持ちは少し複雑である。そして今更ながらふと、香子は王城に仕える者たちの恋愛事情が気になってしまった。
(時代劇なんかだと皇帝の部屋付の侍女が手を出されちゃったりとかー、身分違いの恋でーとかあるのよね。そういえば侍女頭の陳秀美と白雲は恋仲っぽいし。そういうの誰か詳しい人いないかしら?)
守護である黒月がその手の話に詳しいわけはない。女官である夕玲はこちらに来たばかりである。
とすればやはり四神宮に仕えている侍女に尋ねるのが正しいと思われる。
とはいえ香子の部屋には最近夕玲が詰めているし、四神の室にわざわざ呼ぶというのも違う。誰にも邪魔されずに王城内の恋愛に関する噂話を聞くにはどうしたいいのだろう。
(後は……入浴の時かな?)
香子の入浴の際には何人か侍女が世話につくのである。
夕玲は今のところ一緒に入浴していない。黒月も毎回一緒に入ってくれるわけではない。
(そうしよーっと)
解決策を早々に導き出し、香子はにんまりした。
ちょうどその夜、黒月が共に入浴するのを渋った。
玄武の眷属である黒月は、水浴びは好きなのだが暖かい湯に入るのはそれほど好きではないらしい。しかも香子の守護として仕えるにはあまり無防備な恰好でいたくないというのが本音である。それでも香子に泣きつかれると弱いのかここのところ二、三回に一度は一緒に風呂に入ってくれている。
香子と入浴しない場合、黒月は基本浴室の前に控えてくれている。浴室内の会話を聞かれるかもしれないが、どうしても隠さなければいけない話題でもないので気にしないことにした。
体を洗ってもらい、湯船につかると「失礼します」と声がかかり肩や腕を侍女たちが揉んでくれる。
そんなに動いていないので体が凝ることはないと思うのだが、揉んでもらうと痛気持ちいいのでやはり多少は緊張しているのかもしれない。
(なんて贅沢なのかしら)
最近そうされることに慣れてきた自分が怖いと香子は思う。きっとこういうところに勤めている人々に対して全身マッサージをしろと言えばしてくれるのだろう。
(足裏マッサージとかは好きだけど……まず歩いてないし)
マッサージしてもらうなんてとんでもない。
自分の思考にツッコミを入れて、「ありがとう、もういいわ」とやんわり断った。
ふーっと静かに息を吐き出す。
どう切り出したものか。
(うーんと……)
振り返り、浴槽の縁で両腕を軽く組んで首をこてんと傾げる。
『……ねぇ……私、以前宮廷内の恋愛を題材にした小説を読んだことがあるのだけど、こちらでもそういうことってあるのかしら? 例えば……身分の高い人に仕える侍女がお手つきされちゃうとか……』
侍女たちの方に視線を向けて問えば、みな戸惑ったような表情をした。
『……答えにくいことならいいのだけど、例えばここでも誰と誰が恋仲みたいだとか知ってたら教えてくれないかなって……』
みな声を発してくれないので、最後の方はさすがに尻つぼみになってしまった。
(こういうことって聞いちゃいけないのかしら? それともなにか警戒してる?)
沈黙が痛い、と思っていると、一人の侍女がおそるおそる声を発した。
『あの……それは……どういう……』
警戒されているということがわかり、香子は笑顔を作った。仕えている者に職場恋愛を知られるとあまりよくないことが起きるのかもしれない。
『んー、ただの好奇心よ。私こちらに来て間もないでしょう? こちらの恋愛事情ってどうなのかしらと思って。なんかね、見てる限り白雲と侍女頭の陳さんがそれっぽく見えるんだけど、四神の眷属と人が一緒になるって一般的なのかなー、とか……』
侍女たちは一斉にぶんぶん首を振った。予想通りだが、どうやらそう簡単にあることではないらしい。
『そうよね? で、実際あの二人ってそうなのかしら?』
『おそれながら、恋人同士だと思います!』
『求婚されたって聞きましたよ!』
それを聞いて香子は驚いた。実のところ白雲と陳の関係については本人たちの口から聞いたわけではない。いわゆる女のカンというヤツである。
『えー、もう求婚まで? やっぱり人じゃないから手順とか全部すっとばしちゃうのかしら? どう思う?』
香子の口調がフランクなせいか、侍女たちの警戒も解けたようだった。一般的に女子は噂好きでおしゃべりなものだと香子は認識している。特に四神宮に仕える侍女たちはみな若い。ちょっとつついてあげれば堰を切ったように話してくれるに違いなかった。
『恋愛結婚とか素敵じゃないですか!』
『憧れます! しかもあんな……美しい方と……』
『でも陳さんだから許せちゃう! いいなぁ……』
『やっぱりこの国の結婚って親が決めちゃうものなの?』
さらに質問すれば、『そうなんです』『市井の人たちは知りませんけど、私たちは大体、ねぇ……』
という答えが返ってきた。
『じゃあ大体みんな何歳ぐらいで結婚するものなの?』
『普通は、十五~十七歳ぐらいです』
そういえばこの国の成人は十五歳だったと思い出す。それにしては、陳はもっと歳がいっているように見えたが。
香子の疑問が顔に出ていたのか、『侍女頭は確か二十歳を越えています』と答えてくれた。そこには何らかの事情があるのだろうと察し、香子はそれ以上聞かなかった。
そのまま侍女たちとガールズトークをたっぷり楽しみ、しびれを切らした朱雀が浴室まで迎えにくるというハプニングはあったものの、おおむね香子は満足した。
女性の情報網というのは本当に侮れない。
どうやら、青藍と夕玲がそれっぽいという情報まで手に入れたのだから。
(時代劇なんかだと皇帝の部屋付の侍女が手を出されちゃったりとかー、身分違いの恋でーとかあるのよね。そういえば侍女頭の陳秀美と白雲は恋仲っぽいし。そういうの誰か詳しい人いないかしら?)
守護である黒月がその手の話に詳しいわけはない。女官である夕玲はこちらに来たばかりである。
とすればやはり四神宮に仕えている侍女に尋ねるのが正しいと思われる。
とはいえ香子の部屋には最近夕玲が詰めているし、四神の室にわざわざ呼ぶというのも違う。誰にも邪魔されずに王城内の恋愛に関する噂話を聞くにはどうしたいいのだろう。
(後は……入浴の時かな?)
香子の入浴の際には何人か侍女が世話につくのである。
夕玲は今のところ一緒に入浴していない。黒月も毎回一緒に入ってくれるわけではない。
(そうしよーっと)
解決策を早々に導き出し、香子はにんまりした。
ちょうどその夜、黒月が共に入浴するのを渋った。
玄武の眷属である黒月は、水浴びは好きなのだが暖かい湯に入るのはそれほど好きではないらしい。しかも香子の守護として仕えるにはあまり無防備な恰好でいたくないというのが本音である。それでも香子に泣きつかれると弱いのかここのところ二、三回に一度は一緒に風呂に入ってくれている。
香子と入浴しない場合、黒月は基本浴室の前に控えてくれている。浴室内の会話を聞かれるかもしれないが、どうしても隠さなければいけない話題でもないので気にしないことにした。
体を洗ってもらい、湯船につかると「失礼します」と声がかかり肩や腕を侍女たちが揉んでくれる。
そんなに動いていないので体が凝ることはないと思うのだが、揉んでもらうと痛気持ちいいのでやはり多少は緊張しているのかもしれない。
(なんて贅沢なのかしら)
最近そうされることに慣れてきた自分が怖いと香子は思う。きっとこういうところに勤めている人々に対して全身マッサージをしろと言えばしてくれるのだろう。
(足裏マッサージとかは好きだけど……まず歩いてないし)
マッサージしてもらうなんてとんでもない。
自分の思考にツッコミを入れて、「ありがとう、もういいわ」とやんわり断った。
ふーっと静かに息を吐き出す。
どう切り出したものか。
(うーんと……)
振り返り、浴槽の縁で両腕を軽く組んで首をこてんと傾げる。
『……ねぇ……私、以前宮廷内の恋愛を題材にした小説を読んだことがあるのだけど、こちらでもそういうことってあるのかしら? 例えば……身分の高い人に仕える侍女がお手つきされちゃうとか……』
侍女たちの方に視線を向けて問えば、みな戸惑ったような表情をした。
『……答えにくいことならいいのだけど、例えばここでも誰と誰が恋仲みたいだとか知ってたら教えてくれないかなって……』
みな声を発してくれないので、最後の方はさすがに尻つぼみになってしまった。
(こういうことって聞いちゃいけないのかしら? それともなにか警戒してる?)
沈黙が痛い、と思っていると、一人の侍女がおそるおそる声を発した。
『あの……それは……どういう……』
警戒されているということがわかり、香子は笑顔を作った。仕えている者に職場恋愛を知られるとあまりよくないことが起きるのかもしれない。
『んー、ただの好奇心よ。私こちらに来て間もないでしょう? こちらの恋愛事情ってどうなのかしらと思って。なんかね、見てる限り白雲と侍女頭の陳さんがそれっぽく見えるんだけど、四神の眷属と人が一緒になるって一般的なのかなー、とか……』
侍女たちは一斉にぶんぶん首を振った。予想通りだが、どうやらそう簡単にあることではないらしい。
『そうよね? で、実際あの二人ってそうなのかしら?』
『おそれながら、恋人同士だと思います!』
『求婚されたって聞きましたよ!』
それを聞いて香子は驚いた。実のところ白雲と陳の関係については本人たちの口から聞いたわけではない。いわゆる女のカンというヤツである。
『えー、もう求婚まで? やっぱり人じゃないから手順とか全部すっとばしちゃうのかしら? どう思う?』
香子の口調がフランクなせいか、侍女たちの警戒も解けたようだった。一般的に女子は噂好きでおしゃべりなものだと香子は認識している。特に四神宮に仕える侍女たちはみな若い。ちょっとつついてあげれば堰を切ったように話してくれるに違いなかった。
『恋愛結婚とか素敵じゃないですか!』
『憧れます! しかもあんな……美しい方と……』
『でも陳さんだから許せちゃう! いいなぁ……』
『やっぱりこの国の結婚って親が決めちゃうものなの?』
さらに質問すれば、『そうなんです』『市井の人たちは知りませんけど、私たちは大体、ねぇ……』
という答えが返ってきた。
『じゃあ大体みんな何歳ぐらいで結婚するものなの?』
『普通は、十五~十七歳ぐらいです』
そういえばこの国の成人は十五歳だったと思い出す。それにしては、陳はもっと歳がいっているように見えたが。
香子の疑問が顔に出ていたのか、『侍女頭は確か二十歳を越えています』と答えてくれた。そこには何らかの事情があるのだろうと察し、香子はそれ以上聞かなかった。
そのまま侍女たちとガールズトークをたっぷり楽しみ、しびれを切らした朱雀が浴室まで迎えにくるというハプニングはあったものの、おおむね香子は満足した。
女性の情報網というのは本当に侮れない。
どうやら、青藍と夕玲がそれっぽいという情報まで手に入れたのだから。
24
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です
氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。
英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。
【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
喪女なのに狼さんたちに溺愛されています
和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です!
聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。
ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。
森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ?
ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる