異世界で四神と結婚しろと言われました

浅葱

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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました

43.噂の真偽を尋ねてみます

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 四神宮の侍女たちは、延夕玲が何故こちらに仕えることになったのかはっきりとは聞かされていないがなんとなく理由は察していた。それ故相手の身分が高いことはわかっていても自然と視線は厳しくなる。あからさまに様子を窺うことまではしないが、その一挙手一投足は観察されていた。
 夕玲からすれば針の筵かもしれない。それでも気丈に振る舞う彼女に最初から強い視線を向けていたものがいた。
 青藍である。
 どういうわけか青藍は夕玲の前によく現れた。
 それは侍女たちがもしや? と勘繰るほどの頻度であった。夕玲はともかく、四神やその眷属たちは己のしようとすることを隠したりしない。
 だから侍女たちはすぐに侍女頭である陳と白雲の関係を知ることができたし、青藍がどうも夕玲にアプローチしているらしいということも即広まった。
 知らぬは当人と香子ぐらいのものである。
 ちなみに黒月は香子が思っている程鈍くはない。香子の守護をする為あらゆる情報収集を欠かさぬようにしているので、へたな侍女よりはいろんなことを知っている。
 閑話休題。
 結局のところ香子が知りたいのは、夕玲の心の内である。
 夕玲が四神宮に来てそう日も経っていないのに青藍と噂になるということは、それだけ青藍が積極的ということに他ならない。念の為夕玲の反応を聞く限り、とても困惑しているようだったという。
 夕玲と青藍はおそらく初対面だったのではないかと香子は考える。

(だとしたら、青藍の一目惚れってことなのかしら?)
香子シャンズ

 いつのまにか眉間に皺が寄っていたらしい。声をかけられてはっとする。
 いつも通り聞きなれたバリトンの主に顔を覗き込まれており、香子は顔を瞬時に染めて後ずさろうとした。当然それは抱き込まれている状態なのでかなわなかったが。

『あ……すいません』

 玄武、朱雀と共にいるのにまた夕玲のことを考えていたのを申し訳なく思い、つい謝ってしまう。
 そして。

(しまった……)

 玄武はともかく朱雀は許してくれないということを失念していた。横から逞しい手が伸びてきて、頤に触れる。

『香子』

 ひどく色気を含んだテナーに香子は涙目になる。

『ご、ごはん中ですぅ……』

 無駄なあがきと知りつつ訴えてみたが、心ここにあらずで食べていたのはばればれである。

『香子』
『は、はいぃ……』

 更に色気を含んだ朱雀の声音に香子は縮こまる。


 もう、切実に、耳を塞ぎたい。


(やだやだもうもうっ、体の力が抜ける~~~!!)

 条件反射といおうか、惚れた弱みとでもいうのか、耳元で囁かれたら逆らえない。そしてそれをわかっていてやっているのだから朱雀は本当にタチが悪いと香子は思う。(玄武はそこまで己の声の威力を理解していない)

『こなに我らが想うているというのにそなたときたら……』
『だって、だってぇ……』

 その先は続けられなかった。
 人間の女性である夕玲にまでヤキモチを焼いた朱雀に唇を塞がれてしまったからである。


 そんな香子がどうにか解放されたのは昼食前だった。

(はうううううう~~~~!!)

 今日ほど食事前の着替えタイムを嬉しいと思ったことはない。多少機嫌が直ったらしい朱雀に抱き上げられて部屋に戻った時はひどくほっとした。
 四神と共にいる時他の者のことを考えてはいけないということをわかっていたはずなのだが、そもそも一人になれる時間が圧倒的に少ない為つい失念してしまう。

(お茶会……明日だっけ……)

 正直気が進まない。けれどそれと同時に少しわくわく感もある。

(自分が当事者じゃなければ手放しで楽しめるんだろうけど)
『花嫁様、支度が整いました』

 また心ここにあらずだったらしい。香子は反省する。
 鏡で、簪などで重くなった髪型を確認する。それほど長さがあるわけでもない髪が上手に結い上げられているのは一種芸術だと思う。

『ありがとう』

 鏡越しににっこりして礼を言う。支度をしてくれた侍女たちがそれにほんのりと頬を染める。けれどそれに香子が気づくことはなかった。


 昼食後は青龍と過ごす。
 ついお茶を入れてくれる青藍の手元を香子は見つめてしまう。

『香子、青藍が何か?』

 それにいち早く気付いたのは室の主である青龍で。
 顔をじろじろ見るのはあからさますぎるかと思って手元を見ていたのだが、挙動不審は否めなかったようである。ここでごまかしても仕方ないので、香子は単刀直入に聞くことにした。

『いえ……私付きの女官と青藍さんがただならぬ関係らしいと耳にしたもので』

 青龍が目を細めた。

『ほう。青藍、まことか?』
『残念ながらまだそのような関係には至っておりませぬが、いずれはそうなるかと』

 青藍は淡々と答えた。眉の一つも動かさないポーカーフェイスぶりが憎らしい。しかも言っていることが断定的で、それもどうかと香子は思う。

『それって……夕玲シーリンも青藍さんのことを憎からず思っている、という解釈でいいんでしょうか?』

 それならそれで香子の胸のつかえは取れるだろう。ただ恋バナには興味があるので出会い等根掘り葉掘り尋ねてしまうかもしれないが。
 けれど。

『いえ。まだ我に対してそのような感情はないでしょう』
『え?』

 自分のことを他人事のように話すのもいただけないが、夕玲が青藍を好ましいと思っていないのにいずれそういう関係になるというのはどういうことなのだろうか。
 しかし青龍にはわかったらしく、軽く頷いた。

『”つがい”なのだな』
はい

 二人のやりとりがわからず香子は首を傾げた。また四神と眷属だけに通じる言葉が出てきたようである。
 知らないよりは知っておいた方がいいだろうと香子は聞くことにした。

『青龍様、”つがい”とは何ですか?』

 すると青龍は少しだけ考えるような顔をし、さらりと答えた。

『我にとっての香子のようなものだ。眷属たちの”つがい”は唯一無二の相手のことを言う』
(青龍様にとっての私……唯一無二……)

 答えの意味を考えて、香子は瞬時に頬を真っ赤に染めた。

『……え……ええーーーっっ!?』

 まだ出会って数日ではないのかとか、なんでそうなるのかとかぐるぐると頭に浮かぶ。

”青藍にとって唯一無二だから、夕玲はいずれ彼と一緒になる。”

 とんでもない論理展開に、香子は頭がくらくらしてきた。
 これが人ならざる者たちの思考なのか。それともこれはただ青藍が言っているだけでなく本当にそうなってしまうのか。

(とてもついていけない……)

 香子は自分が四神の花嫁だということを、初めて荷が重いと思った。
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