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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
58.会話がこわいのです
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翌日の夕方、香子たちは長い回廊を通って慈寧宮に向かった。
慈寧宮は落ち着いたたたずまいの建物だった。王宮の中はどれも似たような建物だが内装は当然違うので興味深いと香子は思う。掲げられた書は見事なものだし、飾られている花は落ち着いた色合いで統一されていた。
『老佛爷……本日はお招きいただきありがとうございます』
下ろしてもらえなかったので、自分何様だと内心ツッコミを入れながら朱雀の腕の中から挨拶する。あちらはわざわざ立って出迎えてくれているのにである。
『ほ、ほ。四神の、花嫁殿への溺愛ぶりはまこと凄まじいものよのぅ』
口元に笑みは浮かんでいるが当然のことながら目が笑っていない。その一歩後ろに佇んでいる皇后は目を伏せているが口元がひきつっているように見えた。その隣で目を伏せている徳妃は我関せずという体なのが対称的だった。
(確か徳妃って皇帝の寵妃だよね……)
香子は記憶を辿り、皇帝が寵愛しているのは徳妃だろうと当たりをつけた。皇后はいわゆる政略結婚、代々の皇帝は後宮を持ちそこには数々の妃がいる。もし皇帝に見初められれば待遇が変わるのだから皇后以上に彼女たちは必死だろうと思う。
想像して香子は身震いした。
(後宮こわい、後宮こわい)
そんなことを考えている間に慈寧宮の奥に招かれて、前菜などが並べられ食事の用意がされている席についた。今日は朱雀の膝の上である。
席の配置は圓卓に、皇太后を中心として左に朱雀、右に白虎、朱雀の隣に皇后、白虎の隣に延夕玲、皇后の隣に徳妃、そして夕玲の隣の席は空いている。時計周りで説明すると、皇太后、朱雀、皇后、徳妃、空席、夕玲、白虎の順である。おそらく空席が香子の席だったのだろうがそんなことを四神が許すはずもない。誰が席を決めたのかは知らないがさすがにこれはまずいのではなかろうかと香子は思う。
『白香娘娘、下りなさい』
そんなことを考えていたら左隣から声がかかった。香子は一瞬何を言われたのかわからず皇后を見る。
『恐れ多くも四神に抱かれたまま食事の席につくなどあるまじきこと。そなたの席は……』
柳眉を逆立てた皇后の顔も怖かったが、それよりも背後からぶわっと噴きだした殺気に冷汗が流れる。今回は白雲、黒月だけでなく紅夏も背後に控えている。正確には白雲は白虎の後ろなので影響はないが、黒月と紅夏、二人分の殺気を浴びたらしく皇后は口をつぐんだ。
『……皇后というのは四神の花嫁について何も知らぬものなのか』
朱雀のため息交じりの呟きに皇太后が苦笑する。
『妾もお会いしたのは此度が初めてですからの。教育しなおしましょう』
香子は内心首を傾げた。内容は香子についてなのだが、以前より皇太后の当たりが柔らかい気がする。
『それには及ばぬ。皇帝の怠慢だ』
『!? へ、陛下は……』
『皇后、そなたに誰が発言を許したか』
朱雀と皇太后の話に皇后が口を挟んだ形になり、皇太后にぴしゃりと言われた。香子は目の前のお茶と色とりどりの前菜に手を伸ばしたくてしかたなかったが、袖はひらひらしており爪も装飾を施されている。それに話も終わらないので我慢していた。
『も、申し訳ありません……』
『江緑、今回の席次は誰が決めた。……次はないぞ』
皇太后の右から唸るような低い声。それに皇太后は肩を竦めてみせた。
『ほ、ほ。まぁ怖い。女の可愛い嫉妬ではありませぬか。それぐらいさらりと流せぬようでは花嫁殿に呆れられてしまいますぞ』
白虎が唸る。恐ろしい状況に香子はふるりと身を震わせた。
白虎を香子の隣に座らせず、皇太后と夕玲の間に座ることになったのが不満らしい。四神宮の中では多少の余裕を見せる白虎だが、こうして部外者が多い表では苛立ちを隠せないようである。
しかしこのままにしておいたら夕玲がいたたまれないだろうと香子は思い、
『白虎様……明日もご一緒させてくださいませ』
と消え入りそうな声で告げた。今日は衣裳合わせの関係もあり白虎と午後過ごしてたのだ。順番でいえば明日は青龍と過ごすことになっているが、そこらへんは事情を話せばわかってくれるだろう。
(青龍様に甘えすぎかな……)
『香子、その言違えるでないぞ』
『……是』
途端機嫌を直した白虎が皇太后越しに流し目をくれる。香子は朱雀の腕の中でまたふるりと身を震わせた。四神の色気は心臓に悪い。
『せっかくの晩餐じゃ。さ、気兼ねなくいただきましょうぞ』
皇太后の言に、みなまずは食事をすることにした。
慈寧宮は落ち着いたたたずまいの建物だった。王宮の中はどれも似たような建物だが内装は当然違うので興味深いと香子は思う。掲げられた書は見事なものだし、飾られている花は落ち着いた色合いで統一されていた。
『老佛爷……本日はお招きいただきありがとうございます』
下ろしてもらえなかったので、自分何様だと内心ツッコミを入れながら朱雀の腕の中から挨拶する。あちらはわざわざ立って出迎えてくれているのにである。
『ほ、ほ。四神の、花嫁殿への溺愛ぶりはまこと凄まじいものよのぅ』
口元に笑みは浮かんでいるが当然のことながら目が笑っていない。その一歩後ろに佇んでいる皇后は目を伏せているが口元がひきつっているように見えた。その隣で目を伏せている徳妃は我関せずという体なのが対称的だった。
(確か徳妃って皇帝の寵妃だよね……)
香子は記憶を辿り、皇帝が寵愛しているのは徳妃だろうと当たりをつけた。皇后はいわゆる政略結婚、代々の皇帝は後宮を持ちそこには数々の妃がいる。もし皇帝に見初められれば待遇が変わるのだから皇后以上に彼女たちは必死だろうと思う。
想像して香子は身震いした。
(後宮こわい、後宮こわい)
そんなことを考えている間に慈寧宮の奥に招かれて、前菜などが並べられ食事の用意がされている席についた。今日は朱雀の膝の上である。
席の配置は圓卓に、皇太后を中心として左に朱雀、右に白虎、朱雀の隣に皇后、白虎の隣に延夕玲、皇后の隣に徳妃、そして夕玲の隣の席は空いている。時計周りで説明すると、皇太后、朱雀、皇后、徳妃、空席、夕玲、白虎の順である。おそらく空席が香子の席だったのだろうがそんなことを四神が許すはずもない。誰が席を決めたのかは知らないがさすがにこれはまずいのではなかろうかと香子は思う。
『白香娘娘、下りなさい』
そんなことを考えていたら左隣から声がかかった。香子は一瞬何を言われたのかわからず皇后を見る。
『恐れ多くも四神に抱かれたまま食事の席につくなどあるまじきこと。そなたの席は……』
柳眉を逆立てた皇后の顔も怖かったが、それよりも背後からぶわっと噴きだした殺気に冷汗が流れる。今回は白雲、黒月だけでなく紅夏も背後に控えている。正確には白雲は白虎の後ろなので影響はないが、黒月と紅夏、二人分の殺気を浴びたらしく皇后は口をつぐんだ。
『……皇后というのは四神の花嫁について何も知らぬものなのか』
朱雀のため息交じりの呟きに皇太后が苦笑する。
『妾もお会いしたのは此度が初めてですからの。教育しなおしましょう』
香子は内心首を傾げた。内容は香子についてなのだが、以前より皇太后の当たりが柔らかい気がする。
『それには及ばぬ。皇帝の怠慢だ』
『!? へ、陛下は……』
『皇后、そなたに誰が発言を許したか』
朱雀と皇太后の話に皇后が口を挟んだ形になり、皇太后にぴしゃりと言われた。香子は目の前のお茶と色とりどりの前菜に手を伸ばしたくてしかたなかったが、袖はひらひらしており爪も装飾を施されている。それに話も終わらないので我慢していた。
『も、申し訳ありません……』
『江緑、今回の席次は誰が決めた。……次はないぞ』
皇太后の右から唸るような低い声。それに皇太后は肩を竦めてみせた。
『ほ、ほ。まぁ怖い。女の可愛い嫉妬ではありませぬか。それぐらいさらりと流せぬようでは花嫁殿に呆れられてしまいますぞ』
白虎が唸る。恐ろしい状況に香子はふるりと身を震わせた。
白虎を香子の隣に座らせず、皇太后と夕玲の間に座ることになったのが不満らしい。四神宮の中では多少の余裕を見せる白虎だが、こうして部外者が多い表では苛立ちを隠せないようである。
しかしこのままにしておいたら夕玲がいたたまれないだろうと香子は思い、
『白虎様……明日もご一緒させてくださいませ』
と消え入りそうな声で告げた。今日は衣裳合わせの関係もあり白虎と午後過ごしてたのだ。順番でいえば明日は青龍と過ごすことになっているが、そこらへんは事情を話せばわかってくれるだろう。
(青龍様に甘えすぎかな……)
『香子、その言違えるでないぞ』
『……是』
途端機嫌を直した白虎が皇太后越しに流し目をくれる。香子は朱雀の腕の中でまたふるりと身を震わせた。四神の色気は心臓に悪い。
『せっかくの晩餐じゃ。さ、気兼ねなくいただきましょうぞ』
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