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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
67.もっと大切にしてほしいです
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昼食前だったのだ。
そろそろ部屋に戻って支度をし、食堂へ向かう予定だった。
『香子』
だからこの状況は香子にとって不満である。
『香子……何を拗ねている?』
テナーが笑っているように聞こえる。香子はむっとして叫ぶように言った。
『……ごはん!』
『それほど腹はすいてないはずだが。……そう睨むな』
そういう問題ではないのだ。いきなりやってきて二神に連れ去られたと思えばその先は玄武の室で。
『……何をしていた?』
低いバリトンに詰め寄られ、事情を話せば『そなたは優しすぎる』と何故か押し倒されて今に至る。
幸い朱雀によって熱は与えられなかったのでそれほど長い間抱かれていたわけではない。しかしそれはそれで香子にとってはひどく甘く、恥ずかしい時間であった。
(”熱”を与えられないでとか、初めてかも……)
途中まで玄武に触れられたことはあったが、あの時点で最後まではしなかった。だからあんなに恥ずかしくて助けてほしいと最中に思ったことはなかった。
(って、そうじゃなくてッ!)
行為のことでぐるぐるしているヒマはない。
『玄武様』
手を伸ばしてその滑らかな白い頬に触れる。
『香子』
『確認させてください。……今回は何に焼いたんですか?』
普段穏やかな玄武だが、その実ひどいヤキモチ焼きである。しかし四神同士と眷属には焼かないはずだ。
『兄はそなたがあの女官たちに心を配るのが気になるのだ』
ぐっと詰まった玄武の代わりに朱雀が答える。
『……女性ですよ?』
何を焼くことがあるのかと香子は目を丸くする。確か以前もそんなようなことがあった気がするが、香子にとって女性は恋愛の対象ではないのでスルーしていた。
『そなたの色気は人間であれば男女関係なく影響があると聞いたが』
『ああ……』
そんなことを注意されていたような気がする。香子は遠い目をした。
『でも……それはなんというか過剰反応だと思うんですけど……』
抗弁する。ひどく色を含んだ眼差しが香子が捕らえた。思わず身震いする。
『……香子?』
(玄武様は本気だ……)
緑の瞳に射すくめられる。
だけど。
『ひ、他人事じゃないと思ったんですっ! 四神の眷属は相手が”つがい”だったらもう自分のものだと思ってるみたいでっ! でもっ、相手は人なんですよっ! ”つがい”と言うなら、もう少し相手のこと思いやってくれたってって……』
白雲の言葉を、香子はどうしても許せなかった。
”つがい”というのは大事なものではないのか。その姿を見て”つがい”だとわかったとしたら何故きちんと手順を踏まないのか。相手は同じ四神の眷属ではない。人を”つがい”とするならばそれ相応の流儀があるはずである。
香子の剣幕に二神は目を丸くした。
『だいたいっ! 他にいないんですか!? 人を”つがい”とした眷属はっ!?』
怒鳴りながら香子は漢服の前を直す。どちらにせよ着替えはするようだがこれ以上肌をさらしておきたくはない。
二神は考えるような顔をした。
『……確か……黒月の前がそうであったやもしれぬ……』
『以前いたような……』
眷属の数がそれぞれどれだけいるのかわからないのでなんともいえないがうろ覚えのようである。
『……わかりました。彼らに聞きます』
『いや、我らが聞いておこう』
『いくらなんでもみんながみんな”つがい”と認識した途端押し倒したりはしてないと思いたいですが!』
香子の怒りを感じたのか、二神は苦笑し肩を竦めた。朱雀がなだめるように香子の手を取った。
『香子』
『……なんですか』
いつになく真剣な目で見つめられ、香子はどぎまぎした。
『そなたにわかってくれとは言わぬ。だが、我らも、眷属たちも”唯一”を前にして正気ではいられぬのだ』
(唯一……)
そう言われると情状酌量の余地はあるかもしれないと考えたが、いや違う、と思い直す。
『……それを言ったら、”つがい”になら何をしてもいいことになってしまいます……』
二神の目が泳ぐ。
『”つがい”ならば、”唯一”だと言うならば、もっと大切にするよう言ってください!!』
やっと昼食にありつけた香子だったが、すまない気持ちでいっぱいだった。
それは厨師や侍女たちに対してである。
香子たちの都合で振り回し、昼食に向かう前の支度や、食事の準備など手間をかけさせてしまった。
髪を整えてもらい、『谢谢啊』(ありがとう)と声をかけると侍女たちには嬉しそうな顔をされたが延夕玲は一瞬眉を寄せた。感謝を口にするのもいけないらしい。面倒なことである。
改めて温め直したりするのもたいへんだろうと思い、用意していたものをそのまま出してほしいと伝えたが、侍女たちはにこにこするだけだった。果たして冷たいものは冷たく、温かいものは温かく出てきて香子は申し訳ない思いでいっぱいだった。
『……花嫁様の心遣い、とても嬉しいですと厨師長(料理長)が申しておりました』
夕玲に伝えられ、香子は納得いかないまま頷いた。
少しでも食材がムダにならないことを祈るばかりである。
午後は白虎と過ごす予定だったが、黒月が思い出したように『確か、我の母は元人間だったと思います』と教えてくれたことで中止になった。
『黒月! その話もっと詳しく!!』
『黒月さん! 私もその話すごく聞きたいです!!』
香子だけでなく侍女頭の陳秀美や侍女たちも食いつき、『あの……私も、いいかしら?』と夕玲も控えめだが聞きたがった。
誰かの恋愛話など聞いて面白いだろうかと黒月は内心首を傾げたが、きらきらと光る期待の眼差しに逆らえず記憶を頼りに話した。
その後陳と夕玲の男性眷属たちを見る目が非常に冷たくなったのは必然であろう。
女性というのはえてしてうっとりするようなロマンスを求めるものである。
ーーーー
黒月の両親の話については「初恋は草海に抱かれ」全三話を参照してください。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/977111291/324128889
「っくしゅんっ!」
黒翠はくしゃみをした己にいぶかしげな表情をした。
「あらあなた、風邪?」
「……四神の眷属である我が風邪などひくわけなかろう」
「そうよね……じゃあ、誰かが噂でもしているのかしら?」
愛しい妻の言葉に困惑する。
「噂?」
「くしゃみをするのは誰かに噂をされているせいだ、っていうのが人の世界ではあるのよ?」
「そうなのか」
「もしかして黒月かしらね? うまくやっているのかしら……」
「帰還せぬのだからどうにかやっているだろう。それより……」
黒翠は妻を抱き寄せる。くしゃみによって妻の気がそらされてしまうことの方が問題だった。
「もう……まだ昼間なのに……」
「時間は関係ないだろう。玉蘭、愛している……」
四神や眷属は人の常識とは無縁である。
そろそろ部屋に戻って支度をし、食堂へ向かう予定だった。
『香子』
だからこの状況は香子にとって不満である。
『香子……何を拗ねている?』
テナーが笑っているように聞こえる。香子はむっとして叫ぶように言った。
『……ごはん!』
『それほど腹はすいてないはずだが。……そう睨むな』
そういう問題ではないのだ。いきなりやってきて二神に連れ去られたと思えばその先は玄武の室で。
『……何をしていた?』
低いバリトンに詰め寄られ、事情を話せば『そなたは優しすぎる』と何故か押し倒されて今に至る。
幸い朱雀によって熱は与えられなかったのでそれほど長い間抱かれていたわけではない。しかしそれはそれで香子にとってはひどく甘く、恥ずかしい時間であった。
(”熱”を与えられないでとか、初めてかも……)
途中まで玄武に触れられたことはあったが、あの時点で最後まではしなかった。だからあんなに恥ずかしくて助けてほしいと最中に思ったことはなかった。
(って、そうじゃなくてッ!)
行為のことでぐるぐるしているヒマはない。
『玄武様』
手を伸ばしてその滑らかな白い頬に触れる。
『香子』
『確認させてください。……今回は何に焼いたんですか?』
普段穏やかな玄武だが、その実ひどいヤキモチ焼きである。しかし四神同士と眷属には焼かないはずだ。
『兄はそなたがあの女官たちに心を配るのが気になるのだ』
ぐっと詰まった玄武の代わりに朱雀が答える。
『……女性ですよ?』
何を焼くことがあるのかと香子は目を丸くする。確か以前もそんなようなことがあった気がするが、香子にとって女性は恋愛の対象ではないのでスルーしていた。
『そなたの色気は人間であれば男女関係なく影響があると聞いたが』
『ああ……』
そんなことを注意されていたような気がする。香子は遠い目をした。
『でも……それはなんというか過剰反応だと思うんですけど……』
抗弁する。ひどく色を含んだ眼差しが香子が捕らえた。思わず身震いする。
『……香子?』
(玄武様は本気だ……)
緑の瞳に射すくめられる。
だけど。
『ひ、他人事じゃないと思ったんですっ! 四神の眷属は相手が”つがい”だったらもう自分のものだと思ってるみたいでっ! でもっ、相手は人なんですよっ! ”つがい”と言うなら、もう少し相手のこと思いやってくれたってって……』
白雲の言葉を、香子はどうしても許せなかった。
”つがい”というのは大事なものではないのか。その姿を見て”つがい”だとわかったとしたら何故きちんと手順を踏まないのか。相手は同じ四神の眷属ではない。人を”つがい”とするならばそれ相応の流儀があるはずである。
香子の剣幕に二神は目を丸くした。
『だいたいっ! 他にいないんですか!? 人を”つがい”とした眷属はっ!?』
怒鳴りながら香子は漢服の前を直す。どちらにせよ着替えはするようだがこれ以上肌をさらしておきたくはない。
二神は考えるような顔をした。
『……確か……黒月の前がそうであったやもしれぬ……』
『以前いたような……』
眷属の数がそれぞれどれだけいるのかわからないのでなんともいえないがうろ覚えのようである。
『……わかりました。彼らに聞きます』
『いや、我らが聞いておこう』
『いくらなんでもみんながみんな”つがい”と認識した途端押し倒したりはしてないと思いたいですが!』
香子の怒りを感じたのか、二神は苦笑し肩を竦めた。朱雀がなだめるように香子の手を取った。
『香子』
『……なんですか』
いつになく真剣な目で見つめられ、香子はどぎまぎした。
『そなたにわかってくれとは言わぬ。だが、我らも、眷属たちも”唯一”を前にして正気ではいられぬのだ』
(唯一……)
そう言われると情状酌量の余地はあるかもしれないと考えたが、いや違う、と思い直す。
『……それを言ったら、”つがい”になら何をしてもいいことになってしまいます……』
二神の目が泳ぐ。
『”つがい”ならば、”唯一”だと言うならば、もっと大切にするよう言ってください!!』
やっと昼食にありつけた香子だったが、すまない気持ちでいっぱいだった。
それは厨師や侍女たちに対してである。
香子たちの都合で振り回し、昼食に向かう前の支度や、食事の準備など手間をかけさせてしまった。
髪を整えてもらい、『谢谢啊』(ありがとう)と声をかけると侍女たちには嬉しそうな顔をされたが延夕玲は一瞬眉を寄せた。感謝を口にするのもいけないらしい。面倒なことである。
改めて温め直したりするのもたいへんだろうと思い、用意していたものをそのまま出してほしいと伝えたが、侍女たちはにこにこするだけだった。果たして冷たいものは冷たく、温かいものは温かく出てきて香子は申し訳ない思いでいっぱいだった。
『……花嫁様の心遣い、とても嬉しいですと厨師長(料理長)が申しておりました』
夕玲に伝えられ、香子は納得いかないまま頷いた。
少しでも食材がムダにならないことを祈るばかりである。
午後は白虎と過ごす予定だったが、黒月が思い出したように『確か、我の母は元人間だったと思います』と教えてくれたことで中止になった。
『黒月! その話もっと詳しく!!』
『黒月さん! 私もその話すごく聞きたいです!!』
香子だけでなく侍女頭の陳秀美や侍女たちも食いつき、『あの……私も、いいかしら?』と夕玲も控えめだが聞きたがった。
誰かの恋愛話など聞いて面白いだろうかと黒月は内心首を傾げたが、きらきらと光る期待の眼差しに逆らえず記憶を頼りに話した。
その後陳と夕玲の男性眷属たちを見る目が非常に冷たくなったのは必然であろう。
女性というのはえてしてうっとりするようなロマンスを求めるものである。
ーーーー
黒月の両親の話については「初恋は草海に抱かれ」全三話を参照してください。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/977111291/324128889
「っくしゅんっ!」
黒翠はくしゃみをした己にいぶかしげな表情をした。
「あらあなた、風邪?」
「……四神の眷属である我が風邪などひくわけなかろう」
「そうよね……じゃあ、誰かが噂でもしているのかしら?」
愛しい妻の言葉に困惑する。
「噂?」
「くしゃみをするのは誰かに噂をされているせいだ、っていうのが人の世界ではあるのよ?」
「そうなのか」
「もしかして黒月かしらね? うまくやっているのかしら……」
「帰還せぬのだからどうにかやっているだろう。それより……」
黒翠は妻を抱き寄せる。くしゃみによって妻の気がそらされてしまうことの方が問題だった。
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