異世界で四神と結婚しろと言われました

浅葱

文字の大きさ
220 / 653
第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました

66.常識が違うみたいです

しおりを挟む
 延夕玲はよく仕えてくれている、と香子は思う。
 最初に夕玲が来た時、なんとなく好かれていないということだけは感じとれた。けれどそれも仕方ないことだろうと思う。”四神の花嫁”なんてうさんくさいことこの上ない。夕玲も寝耳に水だっただろう。
 夕玲は今のところ青藍にそういう感情を持っていないように思われた。こちらに来るまでは接点がなかったのだから当然である。

(夕玲が仕えてくれるようになってから半月かぁ……)

 この半月もいろいろなことがあった、と思ってから香子は玄武と朱雀に抱かれるまでそれほど日がなかったことを思い出した。

(あああああ……)

 またも穴があったら入りたい心境になる。
 出会って半月で口説き落とされるとかありえないなんて話ではない。

(で、でもでもっ! 私は着いた時から”四神の花嫁”って決まってたんだからッ!!)

 もう誰に言い訳をしているのかわからない状況である。
 こちらに来てほとんど日が経たないうちに玄武と朱雀に合意で抱かれていたなんて。

(ううう……)

 思い出すだけで穴を掘りたい。誰かパワーショベルの開発をしてほしい。埋まりたい。深く深く。
 もちろんそれは四神が香子に余計なことを考えないよう常に傍にいたということもあるが、さすがに香子も気付いてしまった。

(青藍に説教をする資格なんて……ない……)

 どちらにせよダメージがでかすぎる。


”書”を習う日である。
 香子はふと思いついて、今回は夕玲の代わりに青藍を付き人として頼んだ。当然その他に白雲と黒月がいる。
 筆の持ち方も日本と違い、この時間香子の眉間に皺が寄る。元々字が綺麗な方ではないし、書道も嫌いだった。しかし署名だけでもする必要があるとしたら一応まともな字を書けるようにはしておかないといけないと思う。
 好好爺然とした張錦飛だが、”書”に関しては厳しかった。
 持ち方を直され、字の書き方を直され、手取り足取り習っているような状態である。

『はて、花嫁様はそれなりに知識はおありじゃが文字を書いたことがないのかのぅ』
『くっ……筆を日常的に使う文化ではありませんでしたし……それに筆の持ち方も違いますから……』

 言い訳をしながらもこの時間だけだからと集中する。
 半刻ではあったが終った時は疲労困憊だった。主に精神的に、である。
 テーブルを入れ替えてもらい、お茶にする。昼食準備前のほんのひとときではあるが、四神宮以外の人と話せる機会でもある。

『……ジャン老師、つかぬことをお聞きしますが……。もし老師の娘さん(がいたとして)が四神の眷属に見初められたとしたら、すんなり嫁に出しますか?』

 雑談中にふと気になったことを尋ねる。老師は考えるように髭を撫でた。

『ふむ……すんなりとはいかないでしょうが、嫁には出すでしょうな』
『それは、娘さんが嫌がっていても、ですか?』

 直球で聞けば、背後から冷気が襲ってくる。仮にも香子は”四神の花嫁”なのだが。

(なんかー……花嫁への扱いひどくない?)
『ほ……それは眷属殿にがんばっていただくほかありませんな。初夜に出奔でもされたら困りますでのう』
『そうですね。……例えば他家でも四神の眷属に娘をさせることに抵抗はないのでしょうか』
『そうですなぁ……。反対する理由もないでしょう。むしろ家によっては名誉と考えるやもしれませぬ』
『なるほど』

 やはり結婚については親が決めるものらしいということは確認できた。眷属にそういう頭があるかどうかはわからないが、夕玲の家、もしくは皇太后の覚えがめでたければ夕玲を嫁に出すだろうことは考えられる。

(そういうものだってことはわかってるけど、でもなぁ……)

 しかし恋愛結婚を当たり前と思っている香子としては納得がいかない。
 張を見送った後、

『花嫁様、なにか我に言いたいことがおありですか?』

 背後から涼やかな、しかし威圧感を多分に含んだ声がした。

(こーわーいー)

 振り向かずともわかる。しかしもう一つ、無言の威圧感もあるのは想定外だった。
 冷汗がだらだら流れる。

『と、特に言いたいことは、ない? かな? バ、白雲バイユンの”つがい”も人なんだよね? なにか青藍に助言とか、ないの?』

 無言の威圧感の正体は白雲である。白雲はあからさまに嘆息した。

『ならば……”余計なことを考えさせないように押し倒せ”と』
『ちょっと待て!!』

 白雲から発せられたとんでもないアドバイスに香子はバッと振り向いた。

『も、もしかして白雲はそうしたの……?』
『はい。何か問題でも?』

 しれっと言う白雲に香子は唖然とした。

『え……でも、結婚したわけじゃないよね……?』
『彼女は我の”つがい”です』

 香子は頭を掻きむしりたくなった。これは絶対香子の聞き取り能力が低下しているわけではないと思う。

『……ちょっとオマエラそこへ座れ。眷族同士でもそうなの? いきなりするものなの?』
『そうですね』
『お互いが気に入れば』

 黒月が少し困った顔をしているが気にしている余裕はない。とりあえず眷属同士はけっこうフランクなようだ。

『じゃあ眷属同士のことは置いておくわ。でもね、いくら”つがい”だって言ったってね、相手は人なのよ? 本来なら押し倒すにしても手順ってものがあるの。そうでなくたってここで預かっているのはみないいところのお嬢さんなの。本人に意志を確認するのが一番だけど、まずきちんと相手の親とか後見人に挨拶をして、結婚の許可をもらわないとダメ。そして結婚してからでなければ押し倒しちゃいけないのよッッ!!』
『そうなのですか』
『それは知りませんでした』

 全く悪びれずに言う白雲と青藍を見ながら香子は途方に暮れた。

(何この”知らない世界”に超放り込まれた感……)

 実際知らない世界に連れてこられてはいる。

『……せめてしっかり口説きなさい。特に青藍! 体から篭絡するとかないからね! きちんと言葉を尽くすのよ。彼女は皇太后のお気に入りなの。婚姻を結ばない限りそういうことは禁止です!』

 途端青藍からぶわっと冷気が噴き出したが、そんなものに負けるわけにはいかない。

『”つがい”というのは貴方たち眷属にとって”四神の花嫁”より大事なんでしょう!? だったらまず大切にすることを考えなさい!!』

 香子が怒鳴る。白雲と青藍はそれにはっとしたような顔をした。そして、

『確かに……では花嫁様も、青龍様との未来を考えてくださいますか……?』

 意を決したように青藍が尋ねる。香子はコクリと頷いた。

『……正直、四神はみんな好きよ。……まだ好きの形が微妙に違うだけで……』

 すると彼らは笑み、香子の前に傅いた。


『花嫁様、我らが神をどうか頼みます』


『……ちゃんと、考えるわ』

 今はまだ、そうとしか答えられない。


 その後、騒動を聞きつけた玄武と朱雀に香子がお持ち帰りされてしまったのは余談である。
しおりを挟む
感想 94

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

黒騎士団の娼婦

星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です

氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。 英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

処理中です...