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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
66.常識が違うみたいです
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延夕玲はよく仕えてくれている、と香子は思う。
最初に夕玲が来た時、なんとなく好かれていないということだけは感じとれた。けれどそれも仕方ないことだろうと思う。”四神の花嫁”なんてうさんくさいことこの上ない。夕玲も寝耳に水だっただろう。
夕玲は今のところ青藍にそういう感情を持っていないように思われた。こちらに来るまでは接点がなかったのだから当然である。
(夕玲が仕えてくれるようになってから半月かぁ……)
この半月もいろいろなことがあった、と思ってから香子は玄武と朱雀に抱かれるまでそれほど日がなかったことを思い出した。
(あああああ……)
またも穴があったら入りたい心境になる。
出会って半月で口説き落とされるとかありえないなんて話ではない。
(で、でもでもっ! 私は着いた時から”四神の花嫁”って決まってたんだからッ!!)
もう誰に言い訳をしているのかわからない状況である。
こちらに来てほとんど日が経たないうちに玄武と朱雀に合意で抱かれていたなんて。
(ううう……)
思い出すだけで穴を掘りたい。誰かパワーショベルの開発をしてほしい。埋まりたい。深く深く。
もちろんそれは四神が香子に余計なことを考えないよう常に傍にいたということもあるが、さすがに香子も気付いてしまった。
(青藍に説教をする資格なんて……ない……)
どちらにせよダメージがでかすぎる。
”書”を習う日である。
香子はふと思いついて、今回は夕玲の代わりに青藍を付き人として頼んだ。当然その他に白雲と黒月がいる。
筆の持ち方も日本と違い、この時間香子の眉間に皺が寄る。元々字が綺麗な方ではないし、書道も嫌いだった。しかし署名だけでもする必要があるとしたら一応まともな字を書けるようにはしておかないといけないと思う。
好好爺然とした張錦飛だが、”書”に関しては厳しかった。
持ち方を直され、字の書き方を直され、手取り足取り習っているような状態である。
『はて、花嫁様はそれなりに知識はおありじゃが文字を書いたことがないのかのぅ』
『くっ……筆を日常的に使う文化ではありませんでしたし……それに筆の持ち方も違いますから……』
言い訳をしながらもこの時間だけだからと集中する。
半刻ではあったが終った時は疲労困憊だった。主に精神的に、である。
卓を入れ替えてもらい、お茶にする。昼食準備前のほんのひとときではあるが、四神宮以外の人と話せる機会でもある。
『……張老師、つかぬことをお聞きしますが……。もし老師の娘さん(がいたとして)が四神の眷属に見初められたとしたら、すんなり嫁に出しますか?』
雑談中にふと気になったことを尋ねる。老師は考えるように髭を撫でた。
『ふむ……すんなりとはいかないでしょうが、嫁には出すでしょうな』
『それは、娘さんが嫌がっていても、ですか?』
直球で聞けば、背後から冷気が襲ってくる。仮にも香子は”四神の花嫁”なのだが。
(なんかー……花嫁への扱いひどくない?)
『ほ……それは眷属殿にがんばっていただくほかありませんな。初夜に出奔でもされたら困りますでのう』
『そうですね。……例えば他家でも四神の眷属に娘を嫁させることに抵抗はないのでしょうか』
『そうですなぁ……。反対する理由もないでしょう。むしろ家によっては名誉と考えるやもしれませぬ』
『なるほど』
やはり結婚については親が決めるものらしいということは確認できた。眷属にそういう頭があるかどうかはわからないが、夕玲の家、もしくは皇太后の覚えがめでたければ夕玲を嫁に出すだろうことは考えられる。
(そういうものだってことはわかってるけど、でもなぁ……)
しかし恋愛結婚を当たり前と思っている香子としては納得がいかない。
張を見送った後、
『花嫁様、なにか我に言いたいことがおありですか?』
背後から涼やかな、しかし威圧感を多分に含んだ声がした。
(こーわーいー)
振り向かずともわかる。しかしもう一つ、無言の威圧感もあるのは想定外だった。
冷汗がだらだら流れる。
『と、特に言いたいことは、ない? かな? バ、白雲の”つがい”も人なんだよね? なにか青藍に助言とか、ないの?』
無言の威圧感の正体は白雲である。白雲はあからさまに嘆息した。
『ならば……”余計なことを考えさせないように押し倒せ”と』
『ちょっと待て!!』
白雲から発せられたとんでもないアドバイスに香子はバッと振り向いた。
『も、もしかして白雲はそうしたの……?』
『はい。何か問題でも?』
しれっと言う白雲に香子は唖然とした。
『え……でも、結婚したわけじゃないよね……?』
『彼女は我の”つがい”です』
香子は頭を掻きむしりたくなった。これは絶対香子の聞き取り能力が低下しているわけではないと思う。
『……ちょっとオマエラそこへ座れ。眷族同士でもそうなの? いきなりするものなの?』
『そうですね』
『お互いが気に入れば』
黒月が少し困った顔をしているが気にしている余裕はない。とりあえず眷属同士はけっこうフランクなようだ。
『じゃあ眷属同士のことは置いておくわ。でもね、いくら”つがい”だって言ったってね、相手は人なのよ? 本来なら押し倒すにしても手順ってものがあるの。そうでなくたってここで預かっているのはみないいところのお嬢さんなの。本人に意志を確認するのが一番だけど、まずきちんと相手の親とか後見人に挨拶をして、結婚の許可をもらわないとダメ。そして結婚してからでなければ押し倒しちゃいけないのよッッ!!』
『そうなのですか』
『それは知りませんでした』
全く悪びれずに言う白雲と青藍を見ながら香子は途方に暮れた。
(何この”知らない世界”に超放り込まれた感……)
実際知らない世界に連れてこられてはいる。
『……せめてしっかり口説きなさい。特に青藍! 体から篭絡するとかないからね! きちんと言葉を尽くすのよ。彼女は皇太后のお気に入りなの。婚姻を結ばない限りそういうことは禁止です!』
途端青藍からぶわっと冷気が噴き出したが、そんなものに負けるわけにはいかない。
『”つがい”というのは貴方たち眷属にとって”四神の花嫁”より大事なんでしょう!? だったらまず大切にすることを考えなさい!!』
香子が怒鳴る。白雲と青藍はそれにはっとしたような顔をした。そして、
『確かに……では花嫁様も、青龍様との未来を考えてくださいますか……?』
意を決したように青藍が尋ねる。香子はコクリと頷いた。
『……正直、四神はみんな好きよ。……まだ好きの形が微妙に違うだけで……』
すると彼らは笑み、香子の前に傅いた。
『花嫁様、我らが神をどうか頼みます』
『……ちゃんと、考えるわ』
今はまだ、そうとしか答えられない。
その後、騒動を聞きつけた玄武と朱雀に香子がお持ち帰りされてしまったのは余談である。
最初に夕玲が来た時、なんとなく好かれていないということだけは感じとれた。けれどそれも仕方ないことだろうと思う。”四神の花嫁”なんてうさんくさいことこの上ない。夕玲も寝耳に水だっただろう。
夕玲は今のところ青藍にそういう感情を持っていないように思われた。こちらに来るまでは接点がなかったのだから当然である。
(夕玲が仕えてくれるようになってから半月かぁ……)
この半月もいろいろなことがあった、と思ってから香子は玄武と朱雀に抱かれるまでそれほど日がなかったことを思い出した。
(あああああ……)
またも穴があったら入りたい心境になる。
出会って半月で口説き落とされるとかありえないなんて話ではない。
(で、でもでもっ! 私は着いた時から”四神の花嫁”って決まってたんだからッ!!)
もう誰に言い訳をしているのかわからない状況である。
こちらに来てほとんど日が経たないうちに玄武と朱雀に合意で抱かれていたなんて。
(ううう……)
思い出すだけで穴を掘りたい。誰かパワーショベルの開発をしてほしい。埋まりたい。深く深く。
もちろんそれは四神が香子に余計なことを考えないよう常に傍にいたということもあるが、さすがに香子も気付いてしまった。
(青藍に説教をする資格なんて……ない……)
どちらにせよダメージがでかすぎる。
”書”を習う日である。
香子はふと思いついて、今回は夕玲の代わりに青藍を付き人として頼んだ。当然その他に白雲と黒月がいる。
筆の持ち方も日本と違い、この時間香子の眉間に皺が寄る。元々字が綺麗な方ではないし、書道も嫌いだった。しかし署名だけでもする必要があるとしたら一応まともな字を書けるようにはしておかないといけないと思う。
好好爺然とした張錦飛だが、”書”に関しては厳しかった。
持ち方を直され、字の書き方を直され、手取り足取り習っているような状態である。
『はて、花嫁様はそれなりに知識はおありじゃが文字を書いたことがないのかのぅ』
『くっ……筆を日常的に使う文化ではありませんでしたし……それに筆の持ち方も違いますから……』
言い訳をしながらもこの時間だけだからと集中する。
半刻ではあったが終った時は疲労困憊だった。主に精神的に、である。
卓を入れ替えてもらい、お茶にする。昼食準備前のほんのひとときではあるが、四神宮以外の人と話せる機会でもある。
『……張老師、つかぬことをお聞きしますが……。もし老師の娘さん(がいたとして)が四神の眷属に見初められたとしたら、すんなり嫁に出しますか?』
雑談中にふと気になったことを尋ねる。老師は考えるように髭を撫でた。
『ふむ……すんなりとはいかないでしょうが、嫁には出すでしょうな』
『それは、娘さんが嫌がっていても、ですか?』
直球で聞けば、背後から冷気が襲ってくる。仮にも香子は”四神の花嫁”なのだが。
(なんかー……花嫁への扱いひどくない?)
『ほ……それは眷属殿にがんばっていただくほかありませんな。初夜に出奔でもされたら困りますでのう』
『そうですね。……例えば他家でも四神の眷属に娘を嫁させることに抵抗はないのでしょうか』
『そうですなぁ……。反対する理由もないでしょう。むしろ家によっては名誉と考えるやもしれませぬ』
『なるほど』
やはり結婚については親が決めるものらしいということは確認できた。眷属にそういう頭があるかどうかはわからないが、夕玲の家、もしくは皇太后の覚えがめでたければ夕玲を嫁に出すだろうことは考えられる。
(そういうものだってことはわかってるけど、でもなぁ……)
しかし恋愛結婚を当たり前と思っている香子としては納得がいかない。
張を見送った後、
『花嫁様、なにか我に言いたいことがおありですか?』
背後から涼やかな、しかし威圧感を多分に含んだ声がした。
(こーわーいー)
振り向かずともわかる。しかしもう一つ、無言の威圧感もあるのは想定外だった。
冷汗がだらだら流れる。
『と、特に言いたいことは、ない? かな? バ、白雲の”つがい”も人なんだよね? なにか青藍に助言とか、ないの?』
無言の威圧感の正体は白雲である。白雲はあからさまに嘆息した。
『ならば……”余計なことを考えさせないように押し倒せ”と』
『ちょっと待て!!』
白雲から発せられたとんでもないアドバイスに香子はバッと振り向いた。
『も、もしかして白雲はそうしたの……?』
『はい。何か問題でも?』
しれっと言う白雲に香子は唖然とした。
『え……でも、結婚したわけじゃないよね……?』
『彼女は我の”つがい”です』
香子は頭を掻きむしりたくなった。これは絶対香子の聞き取り能力が低下しているわけではないと思う。
『……ちょっとオマエラそこへ座れ。眷族同士でもそうなの? いきなりするものなの?』
『そうですね』
『お互いが気に入れば』
黒月が少し困った顔をしているが気にしている余裕はない。とりあえず眷属同士はけっこうフランクなようだ。
『じゃあ眷属同士のことは置いておくわ。でもね、いくら”つがい”だって言ったってね、相手は人なのよ? 本来なら押し倒すにしても手順ってものがあるの。そうでなくたってここで預かっているのはみないいところのお嬢さんなの。本人に意志を確認するのが一番だけど、まずきちんと相手の親とか後見人に挨拶をして、結婚の許可をもらわないとダメ。そして結婚してからでなければ押し倒しちゃいけないのよッッ!!』
『そうなのですか』
『それは知りませんでした』
全く悪びれずに言う白雲と青藍を見ながら香子は途方に暮れた。
(何この”知らない世界”に超放り込まれた感……)
実際知らない世界に連れてこられてはいる。
『……せめてしっかり口説きなさい。特に青藍! 体から篭絡するとかないからね! きちんと言葉を尽くすのよ。彼女は皇太后のお気に入りなの。婚姻を結ばない限りそういうことは禁止です!』
途端青藍からぶわっと冷気が噴き出したが、そんなものに負けるわけにはいかない。
『”つがい”というのは貴方たち眷属にとって”四神の花嫁”より大事なんでしょう!? だったらまず大切にすることを考えなさい!!』
香子が怒鳴る。白雲と青藍はそれにはっとしたような顔をした。そして、
『確かに……では花嫁様も、青龍様との未来を考えてくださいますか……?』
意を決したように青藍が尋ねる。香子はコクリと頷いた。
『……正直、四神はみんな好きよ。……まだ好きの形が微妙に違うだけで……』
すると彼らは笑み、香子の前に傅いた。
『花嫁様、我らが神をどうか頼みます』
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今はまだ、そうとしか答えられない。
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