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第4部 四神を愛しなさいと言われました
90.いろいろ決まっていくものなのです
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衣裳の形なんて決まってるし、色とかももう全部お任せでいいと香子は思っていた。
それぐらい衣裳を作る際に布を選ぶのは面倒なのだ。
そうでなくても大祭の際の衣裳決めで散々な目に遭った香子である。せっかくの婚礼、と拳を握りしめている侍女たちに香子は遠い目をした。
あの悪夢はどうやっても繰り返されるものらしい。
春である。
まだ寒いが、暦の上では春が訪れていた。
香子がこの世界に降り立ってからまもなく一年が経とうとしていた。
四神宮の庭に植わっている木々は青々としているから、あまり季節の変化は感じられない。それでも、日の光の差し方であるとか、時折吹く風の冷たさなどで香子も感じ取ることができた。
『春、ですね……』
白虎の腕の中で、香子は呟いた。
白虎の室と香子の部屋の間の渡り廊下で、香子は風を感じていた。今日は庭でお茶をすることに決めたので、準備が整うまでこうして屋根のある渡り廊下でまったりしている。
香子の婚礼の日取りは皇帝により大々的に伝えられたらしい。
とうとう四神が花嫁を娶る、と巷では大騒ぎであるようだ。侍女たちもそわそわしているのが伝わり、延夕玲と楊芳芳に窘められている姿も見かけた。
楊は皇太后より紹介されてから二日後には四神宮にやってきた。
香子は彼女を自分と同い年ぐらいではないかと判断したが、今のところ夕玲ともそれなりにうまくやっているらしい。
『短い間ではございますが、精いっぱい務めさせていただきます』
楊には、香子が四神宮に滞在するのは長くても四か月程度だろうと伝えている。その後は香子も誰の領地に行くかを選ばなければならない。
(結婚する相手を決めるのを、先延ばしにしただけなんだよね……)
本当は婚礼を挙げる際どちらに嫁ぐのか決められればよかったが、最低でも百年以上も共に過ごす相手を決めるというのは香子には荷が重かった。
一年で決めろという時点でどだい無理な話だと香子は思ったのだけど、ひと昔前の日本でも親が結婚相手を決めていたことを思えば言われるがままに嫁いだとしても不思議なことではない。自由恋愛という歴史の方が浅いのだ。
香子は首を傾げた。
(? そう考えると、眷属との恋愛というのは自由恋愛になるのかしら?)
『香子』
白虎に声をかけられてハッとした。また思考が飛んでいたらしい。
『我と過ごす時間ぐらいは我のことを考えてもらいたいたいものだが?』
『……申し訳ありません』
白虎の腕の中で謝ってから、それもどうかと香子は思う。
『……白虎様のおっしゃることも正しいと思うのですが、私には全く一人の時間というものはないのですよ』
『そういえばそのようなことを言っていたな』
以前一晩ぐらい一人にさせろと香子が怒り狂ったことを白虎も覚えていたようだ。
『だが、我との時間中は我のことを考えよ』
『白虎様の何を考えろって言うんですか』
ふと視界の端に、困ったような侍女の顔が見えた。呼びにきてくれたらしい。
『白虎様』
白雲に促され、白虎と香子は黙った。
庭には、お茶の用意がされていた。侍女たちが控えている。
さすがに庭の椅子は狭いということもあってか、白虎はしぶしぶだが香子を隣の椅子に座らせた。石造りの椅子ということもあり、わざわざ布がかけられている。
今日は紅茶を淹れてもらうよう頼んでいたから、出てきたお茶は祁门红(キーマンティー)だった。香子は一口啜って頷いた。
(うん、リプトンティーの味がする)
他の人からは異論が出るかもしれないが、香子にとって祁门红からはリプトンティーの味しか感じられないのだ。つまり、クセのない世界に通じる味である。香子はほっとして、嬉しそうにお茶を啜った。
もちろんお茶菓子も絶品だ。香子が大好きな杏仁酥(アーモンドクッキー)もある。ただ、基本こちらのお茶菓子は乾き物が多いのでお茶が必須である。
『……そなたはほんに、おいしいそうに食うな』
『おいしいですから』
香子は即答した。
蓋碗を石の卓に置き、香子は隣に腰掛けている白虎の腕に手を絡めた。四神宮の中は庭なども含めて快適な温度が保たれているが、少し風が吹いたせいか肌寒いようなかんじが香子はしたのだった。
『……理性が試されるな』
白虎が低い声でぼそっと呟く。香子は幸い何かを考えていたようで聞いていなかったが、白虎の斜め後ろに控えていた侍女に被弾した。彼女は動揺を顔に出さないようにするのがたいへんだった。そんな努力を全く知らない香子は、白虎にくっついたままである。
『……寒いのか?』
『ちょっとだけ、そんな気がしたんです』
風さえ止んでしまえばまた快適な気温となる。
しかし香子は白虎から離れがたかったのでくっついていた。白虎も苦笑しながらもしばらくそのままでいた。
途中で香子は気づき、
『お茶が冷めちゃう』
と腕を離したぐらいで、こくりと飲んでお茶菓子を一口食べたらまた白虎にくっついてしまった。四神宮を離れることを考えたら、香子は寂しくなってしまった。まだ先のことではあるのだけれど、春はいろいろ不安定になるものらしい。
その様子を目の当たりにしていた侍女たちは、身もだえないようにするのが精いっぱいだった。
それぐらい衣裳を作る際に布を選ぶのは面倒なのだ。
そうでなくても大祭の際の衣裳決めで散々な目に遭った香子である。せっかくの婚礼、と拳を握りしめている侍女たちに香子は遠い目をした。
あの悪夢はどうやっても繰り返されるものらしい。
春である。
まだ寒いが、暦の上では春が訪れていた。
香子がこの世界に降り立ってからまもなく一年が経とうとしていた。
四神宮の庭に植わっている木々は青々としているから、あまり季節の変化は感じられない。それでも、日の光の差し方であるとか、時折吹く風の冷たさなどで香子も感じ取ることができた。
『春、ですね……』
白虎の腕の中で、香子は呟いた。
白虎の室と香子の部屋の間の渡り廊下で、香子は風を感じていた。今日は庭でお茶をすることに決めたので、準備が整うまでこうして屋根のある渡り廊下でまったりしている。
香子の婚礼の日取りは皇帝により大々的に伝えられたらしい。
とうとう四神が花嫁を娶る、と巷では大騒ぎであるようだ。侍女たちもそわそわしているのが伝わり、延夕玲と楊芳芳に窘められている姿も見かけた。
楊は皇太后より紹介されてから二日後には四神宮にやってきた。
香子は彼女を自分と同い年ぐらいではないかと判断したが、今のところ夕玲ともそれなりにうまくやっているらしい。
『短い間ではございますが、精いっぱい務めさせていただきます』
楊には、香子が四神宮に滞在するのは長くても四か月程度だろうと伝えている。その後は香子も誰の領地に行くかを選ばなければならない。
(結婚する相手を決めるのを、先延ばしにしただけなんだよね……)
本当は婚礼を挙げる際どちらに嫁ぐのか決められればよかったが、最低でも百年以上も共に過ごす相手を決めるというのは香子には荷が重かった。
一年で決めろという時点でどだい無理な話だと香子は思ったのだけど、ひと昔前の日本でも親が結婚相手を決めていたことを思えば言われるがままに嫁いだとしても不思議なことではない。自由恋愛という歴史の方が浅いのだ。
香子は首を傾げた。
(? そう考えると、眷属との恋愛というのは自由恋愛になるのかしら?)
『香子』
白虎に声をかけられてハッとした。また思考が飛んでいたらしい。
『我と過ごす時間ぐらいは我のことを考えてもらいたいたいものだが?』
『……申し訳ありません』
白虎の腕の中で謝ってから、それもどうかと香子は思う。
『……白虎様のおっしゃることも正しいと思うのですが、私には全く一人の時間というものはないのですよ』
『そういえばそのようなことを言っていたな』
以前一晩ぐらい一人にさせろと香子が怒り狂ったことを白虎も覚えていたようだ。
『だが、我との時間中は我のことを考えよ』
『白虎様の何を考えろって言うんですか』
ふと視界の端に、困ったような侍女の顔が見えた。呼びにきてくれたらしい。
『白虎様』
白雲に促され、白虎と香子は黙った。
庭には、お茶の用意がされていた。侍女たちが控えている。
さすがに庭の椅子は狭いということもあってか、白虎はしぶしぶだが香子を隣の椅子に座らせた。石造りの椅子ということもあり、わざわざ布がかけられている。
今日は紅茶を淹れてもらうよう頼んでいたから、出てきたお茶は祁门红(キーマンティー)だった。香子は一口啜って頷いた。
(うん、リプトンティーの味がする)
他の人からは異論が出るかもしれないが、香子にとって祁门红からはリプトンティーの味しか感じられないのだ。つまり、クセのない世界に通じる味である。香子はほっとして、嬉しそうにお茶を啜った。
もちろんお茶菓子も絶品だ。香子が大好きな杏仁酥(アーモンドクッキー)もある。ただ、基本こちらのお茶菓子は乾き物が多いのでお茶が必須である。
『……そなたはほんに、おいしいそうに食うな』
『おいしいですから』
香子は即答した。
蓋碗を石の卓に置き、香子は隣に腰掛けている白虎の腕に手を絡めた。四神宮の中は庭なども含めて快適な温度が保たれているが、少し風が吹いたせいか肌寒いようなかんじが香子はしたのだった。
『……理性が試されるな』
白虎が低い声でぼそっと呟く。香子は幸い何かを考えていたようで聞いていなかったが、白虎の斜め後ろに控えていた侍女に被弾した。彼女は動揺を顔に出さないようにするのがたいへんだった。そんな努力を全く知らない香子は、白虎にくっついたままである。
『……寒いのか?』
『ちょっとだけ、そんな気がしたんです』
風さえ止んでしまえばまた快適な気温となる。
しかし香子は白虎から離れがたかったのでくっついていた。白虎も苦笑しながらもしばらくそのままでいた。
途中で香子は気づき、
『お茶が冷めちゃう』
と腕を離したぐらいで、こくりと飲んでお茶菓子を一口食べたらまた白虎にくっついてしまった。四神宮を離れることを考えたら、香子は寂しくなってしまった。まだ先のことではあるのだけれど、春はいろいろ不安定になるものらしい。
その様子を目の当たりにしていた侍女たちは、身もだえないようにするのが精いっぱいだった。
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