異世界で四神と結婚しろと言われました

浅葱

文字の大きさ
550 / 653
第4部 四神を愛しなさいと言われました

98.抱き上げるのが基本動作なのでしょうか

しおりを挟む
『花嫁様、婚礼の衣裳の仮縫いができましたので是非に』

 皇太后の笑みがとても怖いと香子は思った。

『ところで、皇上ホワンシャン。四神と花嫁様が輿に乗って王都内を巡るという話はどうなったのかえ?』

 皇太后が皇帝に尋ねた。皇帝は目を逸らしながら、

『……花嫁のご提案で、輿に乗っていただく案はなくなりました。代わりに、四神に空を飛んでいただくことになりました』

 と告げた。

『……四神に、空を……』

 皇太后は信じられない物を見るような目で玄武と白虎を眺めた。

『そ、それは婚礼の後すぐということかえ?』
『……そうなりますな。詳しいことはこれからになりますので、眷属の方にも話を聞いていただけると助かります』

 李雲が引き取って答える。白雲はそれに頷いた。
 やはりなんだかんだいって白雲を頼りにしてしまう。
 そうして香子は玄武から白虎の腕に移され、玄武と白雲をその場に残して慈寧宮に向かうこととなった。その際黒月には四神宮の主官である趙文英を呼んできてもらうように告げた。

『……我は花嫁様の守護ですが……』
『我が香子シャンズを抱いているのだ。何があろう?』
『……承知しました』

 香子は白虎の腕の中にいるので、何か起こりようはずもない。黒月はしぶしぶ了承し、飛ぶように四神宮へと戻っていった。
 途中で誰かにぶつからなければいいのだけどと香子は少しだけ心配になった。
 そうしてみな慈寧宮に移動する。

『……黒月が戻るまでは離さぬぞ』

 白虎が香子だけでなく皇太后にも言い聞かせるように言う。皇太后はそれに笑んだ。

『わかっておりますとも』

 それぐらい四神は花嫁を離したくないのである。

『……本当に立ち方や歩き方も忘れてしまいそうです……』

 それがまた恥ずかしくて、香子はぼやいた。そんな香子に皇太后は笑んだ。

『ほ、ほ……愛される妻というのは動かぬものですよ。自らあちらこちらへと動き回る女主人というのは嫌われるもの。花嫁様は四神を己の足とすればいいだけではありませぬか』
『それは……』

 本気で言っているのかどうなのかわからないと香子は苦笑した。

『嫌うということはありえぬが……そなたを閉じ込めてしまうやもしれぬな?』
『うっ……』

 耳元で、白虎の低いバスの声。しかもその内容はどこまでも恐ろしく、甘い。
 香子は頬を染め、皇太后はにんまりと笑んだ。

『ほ、ほ……まだ寒い時分だというのにお熱いこと』

 香子はどう返したらいいのかわからなかった。
 こんな時ばかり、と香子は白虎を睨む。

『そなにかわいい顔をしていると、室に連れ込みたくなるな……』
『だめです! やることが先です!』

 白虎と香子のやりとりを聞いて皇太后は上機嫌だった。

『……やらねばならぬことを終えたら白虎様と仲良うされるのですな。ではできるだけ早めに終わるよう努めましょうぞ』
『あっ! いえ、あの、そういうことではなく……』

 香子はしどろもどろになった。延夕玲が嘆息した。

老佛爷ラオフオイエ
『なんじゃ?』
『花嫁様をからかわれるのも大概になされませ』
『たまにしか会えぬのじゃ。よいではないか。のぅ、花嫁様』
『……あ、あんまり……』

 逆らうのもアレだが、嫌なものは嫌という香子なりの返事である。そうしている間に黒月が戻ってきた。

『ただいま戻りました』

 その姿を見て、みな目を見開いた。
 黒月に趙を呼んでくるようにとは伝えたが、まさか抱き上げて連れてくるとは誰も思ってはいなかった。香子は遠い目をしたくなった。
 四神やその眷属というのは人を抱き上げることが基本動作としてプログラムされているのかと、香子は考えてしまう。もちろんそんなことはないだろうが、趙としてはそれどころではないだろう。顔を赤くしたり青くしたりして慌てていた。

『黒月、ご苦労さま。ジャオを下ろしてあげて?』
『はっ』

 黒月は今気づいたというように趙をその場に下ろした。その動きもまた丁寧である。黒月の背も高いから、その姿はなかなかにさまになった。
 皇太后の背後にいた女官や侍女たちがその姿を見て内心悶えていたのだが、そんなことを香子が知るよしもない。
 趙は倒れそうになっていたが、どうにか立ち上がり拱手した。

『四神宮主官趙文英ジャオウェンイン、お召しにより参上いたしました……』
『ご苦労。婚礼の予定に変更がある。玄武兄、白雲と共に皇帝から話を聞くがいい』
『……承知しました』

 白虎に言われ、趙が移動しようとすると黒月がまた当たり前のように抱き上げた。

『黒、黒月殿!?』
『この方が早い』

 黒月はそう言うと、そのまま趙を先ほどまでいた皇帝の執務室へ運んでいった。

『あら、まぁ……』

 香子は思わず呟いた。

『……花嫁様、黒月殿はもしや……』

 皇太后がにこにこしながら香子に声をかけた。

『……私は……知りません』

 趙への遣いをあえて黒月に頼むこともあった香子だったが、黒月の気持ちまではわからない。だいたい黒月にそんなことを聞こうものならブリザードもかくやという視線を向けられてしまうことを香子はわかっていた。

『……花嫁様』
『はい……』
『人の恋路というのはいいものじゃのう……』
『……そ、そうですか……』

 同意するのもはばかられ、香子は白虎の腕の中でそっと目を逸らしたのだった。
しおりを挟む
感想 94

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

黒騎士団の娼婦

星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です

氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。 英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

処理中です...