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第4部 四神を愛しなさいと言われました
109.食べ物は重要だと思うのです
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白虎の領地で迎えた朝である。
空腹もそうなのだが、それよりも恥ずかしさが勝り、香子は床単の中から出ることができなかった。
いつ朱雀が四神宮に戻ったのかは知らない。溢れる熱にうなされて、玄武に愛撫され、本性を現わした白虎を受け入れた。
それがありありと思い出されていたたまれなかった。
『香子、いつまでそうしているつもりか』
玄武のバリトンが響く。ククッと喉を鳴らす音に、玄武は機嫌よさそうだと香子は思った。
『我は戻るが、その前に顔を見せてはくれぬか?』
『あ……』
今日には四神宮に戻るので、後で玄武の顔を見られることは間違いないのだが、そう言われてしまうと香子は少し寂しく感じた。
慌てて床単から顔を出す。
『香子』
すぐ近くに、玄武の顔があった。その人とは隔絶した美貌に、香子は胸が高鳴るのを感じた。香子はメンクイということもあるが、四神の顔が好きなのである。
『あっ……』
玄武の腕に囚われて口づけを受ける。ゆっくりだけれども朝から官能的な口づけに香子は震えた。それと同時に腹の虫が鳴ってしまい、口づけは解かれた。
『香子は腹が減っているようだ』
『そうですな』
玄武が楽しそうに言う。反対側にいたらしい白虎がそっけなく答えた。
『我は戻る。今宵は覚悟しておけ』
玄武は香子の髪に口づけを落とすと、そのまま姿を消した。
(……今宵って……)
香子は真っ赤になった。毎晩抱かれているというのに、どうしても香子は恥ずかしくなってしまう。いわゆるアレだ。自分が求められていることが未だに信じられないというやつである。香子もなかなかにこじらせていた。
『おなか、すきました……』
『今準備をさせている故、しばし待て』
『はい……』
腕を上げる力もない。腹の虫は盛大にぎゅるぎゅる鳴っている。よくこんな色気も何もない女に欲情できるものだと香子は自虐的に思ったのだった。
朝食にはおかゆと包子(肉まん)、饅頭、ザーサイ等各種おかゆに入れるトッピングのような物が並べられ、香子はほっとした。
朝から昨夜のような料理を出されたらどうしようかと思っていたのである。
『ここの厨師を一人四神宮で修行させた方がよろしいかと存じます』
白雲は口を開くと、そんなことを言った。
『……そうだな。香子は食べることに執着している。四神宮ほどの質は必要ないだろうが、香子が満足する料理を出せなければ我の領地には来てくれぬだろう』
香子は包子にかぶりつきながら白雲と白虎の会話を聞いていた。
(食に執着って……それは確かにそうだけど……)
香子は中華料理がとても好きなだけである。元の世界に帰れないと知っても、食べ物がおいしいからどうにかなっていると言っても過言ではない。
『……花嫁様は昨夜の料理がお口に合わなかったと、そういうことでしょうか』
『そうだ』
食事中、白虎の室に控えていた白風の問いに白雲が答えた。
『……わかりました』
そのままどこかへ行こうとする白風を、香子は慌てて引き止めた。
『四神宮に人を入れる場合は許可が必要だから、先に白雲と話し合ってもらえる?』
『かしこまりました』
いきなり連れて行って料理の修行がしたいなんて言い出したら、主官である趙文英をまた困らせてしまうに違いないと香子は思った。そうでなくとも趙には苦労をかけっぱなしである。できるだけ趙に負担をかけたくない。
『……妬けるな』
『えっ?』
香子の椅子になっている白虎が呟いた。
『な、何を……』
『そなたは人を気遣いすぎる』
白虎はそう言いながら香子の髪に口づけた。
『我にもっとかまえ』
『……十分、かまっているではありませんか』
『足りぬ』
香子は頬を染めながら、饅頭を真ん中から少し割り、ザーサイと野菜の和え物を詰めた。そしてそれにかぶりつく。
(うん、おいしい)
中華料理はそれだけでおいしいが、白虎の土地の伝統料理はなんだろうと香子は考えた。中国はとにかく土地が広いので、郷土料理もたくさん種類がある。四神に嫁いだことで香子のこれからの人生はとても長い。一生かけて大陸の料理を制覇できるかしら? と香子はのんきに思った。
『香子?』
『はい?』
朝食がおいしくて、香子は白虎のことを一瞬忘れていた。そう、朝食はおいしいのだ。
『昼食は四神宮に戻ってからの方がよろしいでしょう。白虎様、そのようにお伝え願えますか?』
『わかった』
白虎を連絡係にするなんて、白雲でもなければできないだろうと香子は思う。もちろん白虎も念話が使えるから引き受けるのだろう。
『あ』
『如何した?』
『昼食を四神宮でということは、趙だけでなく延夕玲と黒月にも伝えてくださいね。それから、こちらの厨師を四神宮に派遣するという話は趙に早めに伝えるようにしてください』
『そなたは神使いが荒いのではないか?』
『いつも言葉が足りないではありませんか。私と一緒にいたいとお思いでしたら、もう少し考えてください』
そう香子が言えば、白虎は苦笑した。
『そなたにはかなわぬ』
白虎は香子が頼んだ通り伝えたようだった。
朝食の後は、戻ってきた白風に髪と衣裳を整えてもらい、香子は白虎の館の庭園を散策させてもらった。
庭園も綺麗なのだが、その背景がまた素晴らしいと香子は思う。高い雪山が連なっているのが、すぐ近くに見えるのだ。
『本当に、綺麗なところですね』
『花嫁様に気に入っていただけるなら何よりです』
白風が心持ち嬉しそうに言う。
(誰かの領地に向かうと決めたら、その後の私の行動はどうなってしまうのだろう……)
風光明媚な景色を眺めながら、香子はそんなことを思ったのだった。
空腹もそうなのだが、それよりも恥ずかしさが勝り、香子は床単の中から出ることができなかった。
いつ朱雀が四神宮に戻ったのかは知らない。溢れる熱にうなされて、玄武に愛撫され、本性を現わした白虎を受け入れた。
それがありありと思い出されていたたまれなかった。
『香子、いつまでそうしているつもりか』
玄武のバリトンが響く。ククッと喉を鳴らす音に、玄武は機嫌よさそうだと香子は思った。
『我は戻るが、その前に顔を見せてはくれぬか?』
『あ……』
今日には四神宮に戻るので、後で玄武の顔を見られることは間違いないのだが、そう言われてしまうと香子は少し寂しく感じた。
慌てて床単から顔を出す。
『香子』
すぐ近くに、玄武の顔があった。その人とは隔絶した美貌に、香子は胸が高鳴るのを感じた。香子はメンクイということもあるが、四神の顔が好きなのである。
『あっ……』
玄武の腕に囚われて口づけを受ける。ゆっくりだけれども朝から官能的な口づけに香子は震えた。それと同時に腹の虫が鳴ってしまい、口づけは解かれた。
『香子は腹が減っているようだ』
『そうですな』
玄武が楽しそうに言う。反対側にいたらしい白虎がそっけなく答えた。
『我は戻る。今宵は覚悟しておけ』
玄武は香子の髪に口づけを落とすと、そのまま姿を消した。
(……今宵って……)
香子は真っ赤になった。毎晩抱かれているというのに、どうしても香子は恥ずかしくなってしまう。いわゆるアレだ。自分が求められていることが未だに信じられないというやつである。香子もなかなかにこじらせていた。
『おなか、すきました……』
『今準備をさせている故、しばし待て』
『はい……』
腕を上げる力もない。腹の虫は盛大にぎゅるぎゅる鳴っている。よくこんな色気も何もない女に欲情できるものだと香子は自虐的に思ったのだった。
朝食にはおかゆと包子(肉まん)、饅頭、ザーサイ等各種おかゆに入れるトッピングのような物が並べられ、香子はほっとした。
朝から昨夜のような料理を出されたらどうしようかと思っていたのである。
『ここの厨師を一人四神宮で修行させた方がよろしいかと存じます』
白雲は口を開くと、そんなことを言った。
『……そうだな。香子は食べることに執着している。四神宮ほどの質は必要ないだろうが、香子が満足する料理を出せなければ我の領地には来てくれぬだろう』
香子は包子にかぶりつきながら白雲と白虎の会話を聞いていた。
(食に執着って……それは確かにそうだけど……)
香子は中華料理がとても好きなだけである。元の世界に帰れないと知っても、食べ物がおいしいからどうにかなっていると言っても過言ではない。
『……花嫁様は昨夜の料理がお口に合わなかったと、そういうことでしょうか』
『そうだ』
食事中、白虎の室に控えていた白風の問いに白雲が答えた。
『……わかりました』
そのままどこかへ行こうとする白風を、香子は慌てて引き止めた。
『四神宮に人を入れる場合は許可が必要だから、先に白雲と話し合ってもらえる?』
『かしこまりました』
いきなり連れて行って料理の修行がしたいなんて言い出したら、主官である趙文英をまた困らせてしまうに違いないと香子は思った。そうでなくとも趙には苦労をかけっぱなしである。できるだけ趙に負担をかけたくない。
『……妬けるな』
『えっ?』
香子の椅子になっている白虎が呟いた。
『な、何を……』
『そなたは人を気遣いすぎる』
白虎はそう言いながら香子の髪に口づけた。
『我にもっとかまえ』
『……十分、かまっているではありませんか』
『足りぬ』
香子は頬を染めながら、饅頭を真ん中から少し割り、ザーサイと野菜の和え物を詰めた。そしてそれにかぶりつく。
(うん、おいしい)
中華料理はそれだけでおいしいが、白虎の土地の伝統料理はなんだろうと香子は考えた。中国はとにかく土地が広いので、郷土料理もたくさん種類がある。四神に嫁いだことで香子のこれからの人生はとても長い。一生かけて大陸の料理を制覇できるかしら? と香子はのんきに思った。
『香子?』
『はい?』
朝食がおいしくて、香子は白虎のことを一瞬忘れていた。そう、朝食はおいしいのだ。
『昼食は四神宮に戻ってからの方がよろしいでしょう。白虎様、そのようにお伝え願えますか?』
『わかった』
白虎を連絡係にするなんて、白雲でもなければできないだろうと香子は思う。もちろん白虎も念話が使えるから引き受けるのだろう。
『あ』
『如何した?』
『昼食を四神宮でということは、趙だけでなく延夕玲と黒月にも伝えてくださいね。それから、こちらの厨師を四神宮に派遣するという話は趙に早めに伝えるようにしてください』
『そなたは神使いが荒いのではないか?』
『いつも言葉が足りないではありませんか。私と一緒にいたいとお思いでしたら、もう少し考えてください』
そう香子が言えば、白虎は苦笑した。
『そなたにはかなわぬ』
白虎は香子が頼んだ通り伝えたようだった。
朝食の後は、戻ってきた白風に髪と衣裳を整えてもらい、香子は白虎の館の庭園を散策させてもらった。
庭園も綺麗なのだが、その背景がまた素晴らしいと香子は思う。高い雪山が連なっているのが、すぐ近くに見えるのだ。
『本当に、綺麗なところですね』
『花嫁様に気に入っていただけるなら何よりです』
白風が心持ち嬉しそうに言う。
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