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第4部 四神を愛しなさいと言われました
128.間違ってはいませんでした
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……自分の言ったことに後悔することになるなんて、昨夜は思っていませんでした。
香子はひどく後悔していた。
香子はそれほど字がうまいとはいえないのである。
だからこそ、学ぶのであれば毎日の練習が必要と言える。だが、そうは四神がさせてくれない。おかげで張が来る日ぐらいしか書を学ぶことができない。それでは全く上達しないのである。
『……ふむ。読めるが……』
『及第点とは言えませんな』
香子の字を見て、玄武と青龍に火が点いたらしい。
書の練習を全くさせてくれない四神が悪いのだと香子は弁明したかったが、後ろから包み込むように筆を持つ手を持たれ、何度も何度も字の練習をさせられた。
『次、だな。これは毎日しなければならぬだろう』
『そうですね』
『青龍、毎日二刻は時間を取るとしよう』
『そうしましょう』
二神の話し合いにより、香子は四神宮を離れるまで毎日一時間書の練習を課されることとなった。
(嬉しいんだけど……嬉しいんだけど、なんか違う……)
香子は首を傾げた。
昼食の席で、玄武が香子の書の練習の時間を毎日取るという話をした。朱雀はほんの一瞬眉を寄せ、白虎は低く唸った。
『……我はかまわぬ』
朱雀はそう応えた。
『その二刻は香子に触れられぬというのですか』
『共にいることに変わりはなかろう』
白虎の不満そうな声に、玄武はそうさらりと返した。
『……白虎よ、そなたが不安定になってなんとする。香子のしたいことを一日二刻程度叶えられぬようでは、到底選んではもらえぬのではないか?』
朱雀が静かにそう声をかけた。
『……香子は我らの妻ではありませぬか』
『妻の行動は制限してもよいというのだな?』
玄武に問われ、白虎は一瞬黙った。
少ししてから、
『妻は夫に従うものです』
白虎は当たり前のように答えた。香子としてはショックだったが、こちらの世界ではそれが当然だったと思い直す。だがそれで、まず白虎を選ぶことはないだろうと香子は思った。もしかしたら、白虎を選ぶのは一番最後かもしれない。
もし先代の白虎のように香子を攫うようなことがあれば、どうなるかわからないと香子は思った。
(離縁はできないものね……)
白虎のことは嫌いではないし、身体を重ねるのにも大分抵抗は薄れてきた。
だがこれから百年単位で共に暮らせるかと聞かれたら、香子はわからないと答えるだろう。
『……白虎、香子の顔を見よ』
朱雀が白虎に促した。
別にそんなこと言わなくてもいいのに、と香子は思った。
白虎の言っていることに間違いはない。だがそれを香子が受け入れられることは別だ。
白虎は香子の顔を見て、軽く首を振った。
『……すまない。そなたの気持ちを考えてはおらなんだ』
『……妻が夫に従うべきだというのはわかります』
香子が口を開く。
『香子』
『私はすでに四神に嫁ぎました。玄武様、朱雀様、白虎様、青龍様の妻であることに変わりはありません』
四神は口を噤んだ。
『ですが、どなたの領地へ向うかは私に決定権があるはずです』
『……そうであったな』
白虎はがっくりと首を垂れた。
たった一言で、と思う者もいるかもしれない。だが言ってはいけない言葉というのはあるのだ。
『香子』
玄武が声をかけた。
『はい』
『挽回の機会はあるのだろうか』
そう問われて、香子は首を傾げた。そして青龍を見る。青龍は頷いた。
最初、青龍の態度がとても悪かったのは前述した通りである。誤解とはいえ、青龍は香子に対してひどいことを言った。今はそれを改め、できることならば己の領地に香子を迎えたいと思っている。
『……そうですね。確約はできませんが』
よくも悪くも四神は正直だ。思っていない行動はとれないだろう。特に白虎は歯に絹着せるような発言はできない。
『白虎様は失言が多すぎますから』
『……そのようだ』
白虎は珍しく困ったような笑みを浮かべた。
(でも、最初に白虎様を選ぶことはないだろうな)
香子はそう思った。
結局しぶしぶではあるが、一日に二刻書の練習をするという話で落ち着いた。玄武がそれを提案してくれたことが、香子はとても嬉しかった。
とはいえ遅すぎた感もある。こんなことなら恥ずかしがらずに玄武の前で書を披露すべきだった。
香子はボールペンやシャーペンで書いた字は玄武に見せていたから、てっきり見せていたものだと勘違いしていたがそうではなかったらしい。そして玄武もまたボールペン、シャーペンで書かれた字を見てそれほどひどい字だとは認識していなかったようである。
ただ、当然だが香子の字はキレイとは言い難い。丁寧に書けばそれなりだが、走り書きなどはひどいものだ。それらも含めてキレイになったらいいなと香子は思った。
さてそんなすったもんだを経て、張錦飛が来る時間となった。
たった午前中だけではあったが、少しは字がキレイになっていると香子は思いたかった。
当然ながらそんな短時間で字が改善されるわけもないのだが。
『……練習を怠りましたな?』
張が顎鬚を撫でながら指摘する。
香子はうっと詰まった。
『……こ、これからは練習の時間も取れるはずなので……』
『それならもよいのですがな』
張はほっほっほっと笑った。
それを聞きながら、香子はやっぱりバルタン星人かなと思ったのだった。
香子はひどく後悔していた。
香子はそれほど字がうまいとはいえないのである。
だからこそ、学ぶのであれば毎日の練習が必要と言える。だが、そうは四神がさせてくれない。おかげで張が来る日ぐらいしか書を学ぶことができない。それでは全く上達しないのである。
『……ふむ。読めるが……』
『及第点とは言えませんな』
香子の字を見て、玄武と青龍に火が点いたらしい。
書の練習を全くさせてくれない四神が悪いのだと香子は弁明したかったが、後ろから包み込むように筆を持つ手を持たれ、何度も何度も字の練習をさせられた。
『次、だな。これは毎日しなければならぬだろう』
『そうですね』
『青龍、毎日二刻は時間を取るとしよう』
『そうしましょう』
二神の話し合いにより、香子は四神宮を離れるまで毎日一時間書の練習を課されることとなった。
(嬉しいんだけど……嬉しいんだけど、なんか違う……)
香子は首を傾げた。
昼食の席で、玄武が香子の書の練習の時間を毎日取るという話をした。朱雀はほんの一瞬眉を寄せ、白虎は低く唸った。
『……我はかまわぬ』
朱雀はそう応えた。
『その二刻は香子に触れられぬというのですか』
『共にいることに変わりはなかろう』
白虎の不満そうな声に、玄武はそうさらりと返した。
『……白虎よ、そなたが不安定になってなんとする。香子のしたいことを一日二刻程度叶えられぬようでは、到底選んではもらえぬのではないか?』
朱雀が静かにそう声をかけた。
『……香子は我らの妻ではありませぬか』
『妻の行動は制限してもよいというのだな?』
玄武に問われ、白虎は一瞬黙った。
少ししてから、
『妻は夫に従うものです』
白虎は当たり前のように答えた。香子としてはショックだったが、こちらの世界ではそれが当然だったと思い直す。だがそれで、まず白虎を選ぶことはないだろうと香子は思った。もしかしたら、白虎を選ぶのは一番最後かもしれない。
もし先代の白虎のように香子を攫うようなことがあれば、どうなるかわからないと香子は思った。
(離縁はできないものね……)
白虎のことは嫌いではないし、身体を重ねるのにも大分抵抗は薄れてきた。
だがこれから百年単位で共に暮らせるかと聞かれたら、香子はわからないと答えるだろう。
『……白虎、香子の顔を見よ』
朱雀が白虎に促した。
別にそんなこと言わなくてもいいのに、と香子は思った。
白虎の言っていることに間違いはない。だがそれを香子が受け入れられることは別だ。
白虎は香子の顔を見て、軽く首を振った。
『……すまない。そなたの気持ちを考えてはおらなんだ』
『……妻が夫に従うべきだというのはわかります』
香子が口を開く。
『香子』
『私はすでに四神に嫁ぎました。玄武様、朱雀様、白虎様、青龍様の妻であることに変わりはありません』
四神は口を噤んだ。
『ですが、どなたの領地へ向うかは私に決定権があるはずです』
『……そうであったな』
白虎はがっくりと首を垂れた。
たった一言で、と思う者もいるかもしれない。だが言ってはいけない言葉というのはあるのだ。
『香子』
玄武が声をかけた。
『はい』
『挽回の機会はあるのだろうか』
そう問われて、香子は首を傾げた。そして青龍を見る。青龍は頷いた。
最初、青龍の態度がとても悪かったのは前述した通りである。誤解とはいえ、青龍は香子に対してひどいことを言った。今はそれを改め、できることならば己の領地に香子を迎えたいと思っている。
『……そうですね。確約はできませんが』
よくも悪くも四神は正直だ。思っていない行動はとれないだろう。特に白虎は歯に絹着せるような発言はできない。
『白虎様は失言が多すぎますから』
『……そのようだ』
白虎は珍しく困ったような笑みを浮かべた。
(でも、最初に白虎様を選ぶことはないだろうな)
香子はそう思った。
結局しぶしぶではあるが、一日に二刻書の練習をするという話で落ち着いた。玄武がそれを提案してくれたことが、香子はとても嬉しかった。
とはいえ遅すぎた感もある。こんなことなら恥ずかしがらずに玄武の前で書を披露すべきだった。
香子はボールペンやシャーペンで書いた字は玄武に見せていたから、てっきり見せていたものだと勘違いしていたがそうではなかったらしい。そして玄武もまたボールペン、シャーペンで書かれた字を見てそれほどひどい字だとは認識していなかったようである。
ただ、当然だが香子の字はキレイとは言い難い。丁寧に書けばそれなりだが、走り書きなどはひどいものだ。それらも含めてキレイになったらいいなと香子は思った。
さてそんなすったもんだを経て、張錦飛が来る時間となった。
たった午前中だけではあったが、少しは字がキレイになっていると香子は思いたかった。
当然ながらそんな短時間で字が改善されるわけもないのだが。
『……練習を怠りましたな?』
張が顎鬚を撫でながら指摘する。
香子はうっと詰まった。
『……こ、これからは練習の時間も取れるはずなので……』
『それならもよいのですがな』
張はほっほっほっと笑った。
それを聞きながら、香子はやっぱりバルタン星人かなと思ったのだった。
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