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第4部 四神を愛しなさいと言われました
146.どうして花嫁を置いて逝くのか
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四神宮の茶室で、みなにお茶を配ってから香子は茶を啜った。
今日のお茶は竜井である。中国十代銘茶のうちの一つで、中国茶の中で香子が一番好きな緑茶だ。茶葉は独特で、香子は乾燥した竜井の茶葉は、小さな石の破片に似ていると思っている。それも柔らかい、別の石を当てた時にすぐにこぼれるような破片だと。
薄緑色の茶葉がそう香子に連想させた。
『……四神の領地には今回で全て視察を終えました』
香子がそう言うと、四神が頷く。
『……決めるのか?』
朱雀がいつになく低い声を発した。
『……その前に確認したいことがございます』
『なんだ』
空気がヒリつくのを香子は感じた。だがそれを確認しないで誰かの元に嫁ぐのを、香子はよしとしない。
『……もし四神が千年を超えて生きたとしても、花嫁が応えないのならばもう千年生き続けることは可能なのでしょうか?』
『それは……』
朱雀が珍しく眉を寄せた。
『……考えたことはなかったな』
玄武が呟く。その黒い瞳は穏やかだった。
『何故天皇は約千年と四神の寿命を区切ったのでしょう? そこにもしも大した理由がないというのならば、延ばすこともまた可能ではないでしょうか?』
『……我にはわからぬ』
玄武は珍しく目を伏せた。先代の花嫁が生きていれば、玄武はもう次代を成して世界に溶け込もうとする時であったはずである。
だが先代の花嫁は早めに身罷り、玄武は次代を成せていないからまだ生きているのだ。
『あと、私が気になっているのは先代の花嫁と青龍様です。先代の花嫁は役目を放棄したことで先代の青龍様と共に身罷ったのでしょうか? だとしたら、もし私が天皇の返事がなければどなたの領地に向かわないと決めれば、私も役目を放棄したとみなされて死んでしまうのではないでしょうか?』
『香子!』
必死な声を聞いて、香子の胸は痛んだ。
だが香子は決めていた。
誰とも離れる気はないのだと。
そもそも、何故香子がこの世界に呼ばれたのかも不明である。たまたま天皇が別世界を覗いた先に見えたのが香子だったのかもしれないが、そうならそうでいいから教えてほしいと香子は思った。
四神は天皇よりも身分が低い(?)神のようで、天皇の考えていることはわからない。
そういうものだと思っていることが、香子としては耐えがたかった。
『……そなたは面白いな』
朱雀が苦笑した。
『……私にとっては何も面白くなどありません』
香子はきっぱりと答えた。
『何故に?』
朱雀の目は不思議そうだった。
『だって、いきなりこちらの世界に連れ去られてきたあげく、四神と結婚しろと言われましたし。それだけならともかく、私が子を産んだら四神が身罷るってなんなんですか? どうして四神は私と一緒に最後まで生きていてくれようとはしないんですか?』
『ほう……』
朱雀が感心したように声を発した。
『そなたは本当に、我らを愛してくれているのだな』
『……ええ、そのようです』
気の遠くなるような時を、一緒に過ごしたいと思うぐらいには香子は四神が好きなのだ。
『……ならば我らも覚悟を決めよう』
『え……』
朱雀の表情の変化を見て、香子は違和感を覚えた。まるで、朱雀ではないような……。
そう香子が思った時、一瞬意識が途絶えた。
『?』
次の瞬間、香子は戻ってきたと思った。何故「戻ってきた」と考えたのか香子にはわからない。
四神は優しく香子を見守っている。
そうして何故か、もう大丈夫だと香子は思った。なにがもう大丈夫なのかは少し考えてもわからなかったが、全て香子の思い通りになるような気がしたのだった。
『?』
(もしかして私も、なんか操作されてる?)
そう考えて、香子は「やだなぁ」とげんなりしたのだった。
* *
遥か天上にいる一柱の神は笑った。
そして、四神の愛をどこまで受け止められるのかと、ある少女を見守ることにした。
人であった少女は『天皇からの返事は?』などと言っている。
そんなものはなくてももう、四神は少女のものだ。四神の目は少女しか見ておらず、遥か天上にいる神のことなど忘れている。
あとはもう少女がこの世界から去りたいと思った時に去ればいい。
もし少女がこの世界から去りたくないと思うのならば、いつまでもいればいい。
これだから人を観察するのは止められない。
今日のお茶は竜井である。中国十代銘茶のうちの一つで、中国茶の中で香子が一番好きな緑茶だ。茶葉は独特で、香子は乾燥した竜井の茶葉は、小さな石の破片に似ていると思っている。それも柔らかい、別の石を当てた時にすぐにこぼれるような破片だと。
薄緑色の茶葉がそう香子に連想させた。
『……四神の領地には今回で全て視察を終えました』
香子がそう言うと、四神が頷く。
『……決めるのか?』
朱雀がいつになく低い声を発した。
『……その前に確認したいことがございます』
『なんだ』
空気がヒリつくのを香子は感じた。だがそれを確認しないで誰かの元に嫁ぐのを、香子はよしとしない。
『……もし四神が千年を超えて生きたとしても、花嫁が応えないのならばもう千年生き続けることは可能なのでしょうか?』
『それは……』
朱雀が珍しく眉を寄せた。
『……考えたことはなかったな』
玄武が呟く。その黒い瞳は穏やかだった。
『何故天皇は約千年と四神の寿命を区切ったのでしょう? そこにもしも大した理由がないというのならば、延ばすこともまた可能ではないでしょうか?』
『……我にはわからぬ』
玄武は珍しく目を伏せた。先代の花嫁が生きていれば、玄武はもう次代を成して世界に溶け込もうとする時であったはずである。
だが先代の花嫁は早めに身罷り、玄武は次代を成せていないからまだ生きているのだ。
『あと、私が気になっているのは先代の花嫁と青龍様です。先代の花嫁は役目を放棄したことで先代の青龍様と共に身罷ったのでしょうか? だとしたら、もし私が天皇の返事がなければどなたの領地に向かわないと決めれば、私も役目を放棄したとみなされて死んでしまうのではないでしょうか?』
『香子!』
必死な声を聞いて、香子の胸は痛んだ。
だが香子は決めていた。
誰とも離れる気はないのだと。
そもそも、何故香子がこの世界に呼ばれたのかも不明である。たまたま天皇が別世界を覗いた先に見えたのが香子だったのかもしれないが、そうならそうでいいから教えてほしいと香子は思った。
四神は天皇よりも身分が低い(?)神のようで、天皇の考えていることはわからない。
そういうものだと思っていることが、香子としては耐えがたかった。
『……そなたは面白いな』
朱雀が苦笑した。
『……私にとっては何も面白くなどありません』
香子はきっぱりと答えた。
『何故に?』
朱雀の目は不思議そうだった。
『だって、いきなりこちらの世界に連れ去られてきたあげく、四神と結婚しろと言われましたし。それだけならともかく、私が子を産んだら四神が身罷るってなんなんですか? どうして四神は私と一緒に最後まで生きていてくれようとはしないんですか?』
『ほう……』
朱雀が感心したように声を発した。
『そなたは本当に、我らを愛してくれているのだな』
『……ええ、そのようです』
気の遠くなるような時を、一緒に過ごしたいと思うぐらいには香子は四神が好きなのだ。
『……ならば我らも覚悟を決めよう』
『え……』
朱雀の表情の変化を見て、香子は違和感を覚えた。まるで、朱雀ではないような……。
そう香子が思った時、一瞬意識が途絶えた。
『?』
次の瞬間、香子は戻ってきたと思った。何故「戻ってきた」と考えたのか香子にはわからない。
四神は優しく香子を見守っている。
そうして何故か、もう大丈夫だと香子は思った。なにがもう大丈夫なのかは少し考えてもわからなかったが、全て香子の思い通りになるような気がしたのだった。
『?』
(もしかして私も、なんか操作されてる?)
そう考えて、香子は「やだなぁ」とげんなりしたのだった。
* *
遥か天上にいる一柱の神は笑った。
そして、四神の愛をどこまで受け止められるのかと、ある少女を見守ることにした。
人であった少女は『天皇からの返事は?』などと言っている。
そんなものはなくてももう、四神は少女のものだ。四神の目は少女しか見ておらず、遥か天上にいる神のことなど忘れている。
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これだから人を観察するのは止められない。
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