異世界で四神と結婚しろと言われました

浅葱

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第4部 四神を愛しなさいと言われました

152.甘いのはよく知っています

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 白虎はとても機嫌がいい。
 香子を腕に収めたまま長椅子から立ち上がった。

香子シャンズ、参るぞ』
『え……』

 香子は戸惑ったが、おそらく白虎の室に連れて行かれてしまうのだろうなと力を抜いた。ここで逆らってもしかたないのである。
 白虎は香子を抱き上げて渡り廊下に出た。

『白虎様』
『なんだ?』
『できれば少しでも書の練習がしたいです』
『……我では指導をしてはやれぬぞ』
『一小時(一時間)ぐらいだめですか?』
『……まぁよい』

 媚びない程度に上目遣いというのを香子は覚えた。香子的にもかなりギリギリを攻めている。

『白雲』
『はい』
『香子は書の練習がしたいそうだ。整えさせよ』
『かしこまりました』

 白雲がスッと動く。侍女たちに伝えにいったのだろう。香子は白虎の室に連れて行かれた。
 白雲はすぐに戻ってきた。そして優雅な所作で長椅子に腰掛けた白虎と香子にお茶を淹れる。
 香子はずず……とお茶を啜った。

(うん、ほっとする)

 お茶は緑茶である。四神宮で使われている茶葉は全て最高級品なので香子は満足していた。とはいえ日本茶とは味わいが違うので、たまに日本茶が飲みたくなることもある。そんな時は、日本茶の元となっていると言われる径山香茗ジンシャンシャンミンを取り寄せてもらったりしている。これぐらいの贅沢はいいではないかと香子は開き直っていた。
 白虎は香子がお茶を飲むのを邪魔しない程度に抱きしめ、その髪に何度も口づける。
 最近はスキンシップも激しくなったなと香子は思う。
 それが嫌ということはないが、なんとなくむずがゆい。いちいち胸に甘いものがこみ上げてくるから困ってしまうのだ。

(白虎様のことだって、好きなんだよねえ)

 失言は本当にいただけないが。
 その失言のおかげで、先に領地に向かうのは対象外なのだということを理解してほしいと香子は思う。

(でも、わかってくれるものなのかな?)

 百年二百年で理解してくれればいいのだが、白虎もすでに五百年ぐらいは生きているはずだ。すでに考えなども固まっているだろうから、そこはどうなのだろうと香子も考えてしまう。

『香子、如何した?』
『……いろいろ考えることがあるのですよ、いろいろ』
『抱き合って忘れてしまえばよい』
『書の練習をするんです! 抱き合うのは夜です!』

 そうきっぱり答えると、白虎はクックックッと笑った。何がおかしかったのかわからなくて、香子はムッとした。

『なんですか』
『そなたが愛しくてならないだけだ』
『そんな言葉ではごまかされませんよ!』

 キリキリ白状しろと、茶器を置いて顔を近づけようとしたところで室の表から声がかかった。どうやら書を練習する準備が整ったとのことである。

『残念なことだ』

 白虎は楽しそうにそう言うと、香子の口唇を塞いだ。

「んっ……」

 肉厚の長い舌が香子の舌を捕らえる。

「んんっ……」

 なんでこんなに口づけがうまいのかと、香子は身を震わせた。そう、四神が本気を出せば、香子がかなうわけもない。手加減してくれているのだということを香子も理解していた。
 香子は白虎を軽く叩いた。これ以上はまずい。
 白虎は名残惜しそうに口唇を放す。

『……字など書かずともよいであろうに』
『美しい字が書きたいんです……』

 日本にいた時からもっと真面目に取り組めばよかったと、香子は後悔しているぐらいである。経験というのはしないよりもした方がいいのだということがこちらの世界に来てわかった。もちろん、そう簡単に異世界トリップなどしてはたまらないのだが。

(もう絶対に帰れないんだよねえ)

 それだけははっきりしている。先日、なんともいえないものが香子の中にいろいろ落ちてきた。あれは天皇ティエンホワンが情報を一気に与えてくれたのではないかと香子は思っている。

(めんどくさかったのかもねー)

 すごく不敬なことを思っている自覚はあるが、香子的にはもう元の世界に戻れないのだから思うぐらいは許してほしい。
 白虎はため息を吐くと、香子を抱いて立ち上がった。

『行くぞ。一小時だけだ』
『はい、ありがとうございます!』

 香子は白虎にくっついた。なんだかんだいって四神は香子に甘い。神様だから、わかりあえない感情もあるがお互いを愛しいと思う気持ちに間違いはない。
 そうして香子は茶室で書を書くのに集中した。
 白虎は茶室で、侍女が淹れた茶を啜っている。香子に書き方の指導をしているのは白雲だ。

『持ち方はどうであろうといいのです。力が入りすぎています。そこは止めて、筆を流しましょう』
『はい!』

 白雲は真面目だった。

『……毎日書いた方がよろしいかと』
『そうよね』

 四神が協力してくれればいいのだがと、香子はちら、と白虎を見た。青龍はなんだかんだ言って付き合ってくれるが、白虎は協力的とは言いがたい。

『張錦飛から、明日伺いますとのことです』

 書の練習を終えてから、白雲がさらりと言った。

『ええ……そういうことはもっと早く言ってよ』
『言っても変わりませんので』
『言うようになったわね……』

 これだから眷属ってやつは、と香子は思ったのだった。
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