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第4部 四神を愛しなさいと言われました
170.ちゃんと好きだから困るのです
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白虎は香子がその腕の中にいると機嫌がいい。
香子は白虎がまっすぐに香子を寝室に連れて行くと思っていたが、そうはならなかった。白虎を香子を抱いたまま長椅子に腰掛けると、青藍にお茶を淹れさせた。
白虎の室でお茶を飲めというのは社交辞令でもなんでもなかったらしい。
(白虎様が社交辞令……)
一番似合わない言葉だと、香子は自分で考えて噴き出してしまった。
『香子、如何した?』
椅子になっている白虎に顔を覗き込まれ、香子は思わずその顔を手で軽く押してしまった。
『香子……』
唸るような声に、香子はまずいと思った。
『すみません、おかしなことを考えてしまいまして……』
『許さぬ』
首の後ろをやんわりと掴まれたかと思うと、香子はそのまま白虎に口を吸われた。
「んっ……」
ちょっとした戯れであったが、香子は胸が早鐘を打つのを感じた。舌を絡め取られ、軽く吸われて慄く。その手慣れた仕草に香子は内心ムッとした。
いつのまにか白雲の姿は消えていた。そういうところも、香子はほんの少しだけ気に食わないと思う。
(見られたいわけじゃないけど、経験豊富ですって言われてるみたいでなんかなぁ……)
四神が経験豊富なのはいいことだと香子も思うのだが、それとこれとは別なのだ。乙女心は今日も複雑なのである。自分が面倒だと香子は思った。
「はぁ……」
口づけを解いて、白虎は楽しそうな顔をした。
『元の姿の白虎様に触りたいのですが、可能ですか?』
『玄武兄を呼ぼう』
『お願いします』
香子はこてんと白虎の胸に頬をすり寄せた。白虎の理性が飛ぶ危険性もあったが、こんなことができるのは花嫁だけの特権である。
『困った……』
香子は思わず呟いた。
『如何した?』
『……いえ、ちょっと私も自分の気持ちの整理がついていないので……』
素直に、想いが溢れてしまっていると言いそうになり、香子は慌てて言葉を取り繕った。
『そなたの気持ちだと?』
白虎は楽しそうだった。玄武がやってきて、助かったと香子は思った。
『玄武様がいらっしゃいました! 白虎様、さあ本性を現わしてください!』
『……なかなか複雑だな』
白虎は苦笑しながらも寝室に香子を運び、玄武が見守る中白虎の姿になった。
「もふもふー!」
香子は白虎の白と黒の混じる姿にぴっとりとくっつき、白虎を堪能した。
そうしてその夜は玄武、朱雀と共に過ごした。
翌日は張錦飛が香子に書を教えにくる日である。
昨日は白虎とも短時間しか一緒に過ごせなかった為、その日も白虎と過ごすことになっているのだが香子は手を胸の前に上げて断った。
『香子?』
白虎が唸るような声を上げる。場所は香子の室である。白風がおろおろしているのが香子の横目に映った。
こんなことで動揺していては四神の花嫁など務まらない。
香子はそう思っているので、白虎をしっかりと見据えた。
『白虎様は、書の練習には付き合ってくださいませんよね? 今日は張老師がいらっしゃいますから、その前に少しでも練習しておきたいのです』
『……張が帰ってからなら我と過ごせるのだな?』
『はい。青龍様にお声がけいただいてもいいですか?』
白虎はククッと喉の奥で笑った。
『我をただの連絡に使うなど、そなたぐらいだぞ。青龍をよこす』
『ありがとうございます』
四神もきちんと話せばわからないわけではないのだ。聞けることと聞けないことがあるだけである。些か聞けないことが多い気がするが、それは香子の要求が多いだけだと香子自身も思いたい。
『香子、今宵は共に過ごさせよ』
耳元でそう囁かれて、香子は真っ赤になった。油断も隙もあったものではない。
『……相談してください』
香子は苦し紛れにそう答えた。白虎は長袍を翻した。その所作があまりにも美しくて、香子は一瞬見惚れた。
白虎が部屋を出ていってから、香子はたまらず『呸!』(ふん!)と声を上げた。態度が悪いことは承知の上である。
侍女や女官たちが目を丸くしていたが、香子はそれどころではなかった。
『……そんなところまで堪能なのだな』
部屋の扉がキイと音を立てて開いた。青龍だった。どうやらさっきの悪態を聞かれてしまったらしかった。青龍の声は楽しそうである。
『……白虎様が悪いんです』
『そうか。書の練習をするのだったか』
『はい、お付き合い願います』
『わかった』
青龍は素直に頷いた。自分で頼んでおいてなんだが、青龍は優しすぎると香子は思う。……もちろん今は、である。
香子は意外と執念深いのだ。
茶室で書の練習をし、ひと段落ついてから四神と昼食を食べ、落ち着いたところで張が来た。
『お会いできて嬉しゅうございます』
『こちらこそ。張老師、どうぞよろしくお願いします』
張はにこやかだが、その指導は毎回容赦がない。香子の上達が遅いことにたびたび首を傾げている。香子も書を綺麗に書きたいのはやまやまだが、いかんせん筆は苦手だった。しかしこの国では筆しかないのである。
もうそれに慣れる以外方法はなかった。
『……花嫁様の字は、個性的でございますな』
とうとう張の口からそんな言葉まで出てきて、香子は内心へこんだ。それを茶室で聞いていた青龍が珍しく噴き出したので、香子は後で青龍をしめようと思ったのだった。
香子は白虎がまっすぐに香子を寝室に連れて行くと思っていたが、そうはならなかった。白虎を香子を抱いたまま長椅子に腰掛けると、青藍にお茶を淹れさせた。
白虎の室でお茶を飲めというのは社交辞令でもなんでもなかったらしい。
(白虎様が社交辞令……)
一番似合わない言葉だと、香子は自分で考えて噴き出してしまった。
『香子、如何した?』
椅子になっている白虎に顔を覗き込まれ、香子は思わずその顔を手で軽く押してしまった。
『香子……』
唸るような声に、香子はまずいと思った。
『すみません、おかしなことを考えてしまいまして……』
『許さぬ』
首の後ろをやんわりと掴まれたかと思うと、香子はそのまま白虎に口を吸われた。
「んっ……」
ちょっとした戯れであったが、香子は胸が早鐘を打つのを感じた。舌を絡め取られ、軽く吸われて慄く。その手慣れた仕草に香子は内心ムッとした。
いつのまにか白雲の姿は消えていた。そういうところも、香子はほんの少しだけ気に食わないと思う。
(見られたいわけじゃないけど、経験豊富ですって言われてるみたいでなんかなぁ……)
四神が経験豊富なのはいいことだと香子も思うのだが、それとこれとは別なのだ。乙女心は今日も複雑なのである。自分が面倒だと香子は思った。
「はぁ……」
口づけを解いて、白虎は楽しそうな顔をした。
『元の姿の白虎様に触りたいのですが、可能ですか?』
『玄武兄を呼ぼう』
『お願いします』
香子はこてんと白虎の胸に頬をすり寄せた。白虎の理性が飛ぶ危険性もあったが、こんなことができるのは花嫁だけの特権である。
『困った……』
香子は思わず呟いた。
『如何した?』
『……いえ、ちょっと私も自分の気持ちの整理がついていないので……』
素直に、想いが溢れてしまっていると言いそうになり、香子は慌てて言葉を取り繕った。
『そなたの気持ちだと?』
白虎は楽しそうだった。玄武がやってきて、助かったと香子は思った。
『玄武様がいらっしゃいました! 白虎様、さあ本性を現わしてください!』
『……なかなか複雑だな』
白虎は苦笑しながらも寝室に香子を運び、玄武が見守る中白虎の姿になった。
「もふもふー!」
香子は白虎の白と黒の混じる姿にぴっとりとくっつき、白虎を堪能した。
そうしてその夜は玄武、朱雀と共に過ごした。
翌日は張錦飛が香子に書を教えにくる日である。
昨日は白虎とも短時間しか一緒に過ごせなかった為、その日も白虎と過ごすことになっているのだが香子は手を胸の前に上げて断った。
『香子?』
白虎が唸るような声を上げる。場所は香子の室である。白風がおろおろしているのが香子の横目に映った。
こんなことで動揺していては四神の花嫁など務まらない。
香子はそう思っているので、白虎をしっかりと見据えた。
『白虎様は、書の練習には付き合ってくださいませんよね? 今日は張老師がいらっしゃいますから、その前に少しでも練習しておきたいのです』
『……張が帰ってからなら我と過ごせるのだな?』
『はい。青龍様にお声がけいただいてもいいですか?』
白虎はククッと喉の奥で笑った。
『我をただの連絡に使うなど、そなたぐらいだぞ。青龍をよこす』
『ありがとうございます』
四神もきちんと話せばわからないわけではないのだ。聞けることと聞けないことがあるだけである。些か聞けないことが多い気がするが、それは香子の要求が多いだけだと香子自身も思いたい。
『香子、今宵は共に過ごさせよ』
耳元でそう囁かれて、香子は真っ赤になった。油断も隙もあったものではない。
『……相談してください』
香子は苦し紛れにそう答えた。白虎は長袍を翻した。その所作があまりにも美しくて、香子は一瞬見惚れた。
白虎が部屋を出ていってから、香子はたまらず『呸!』(ふん!)と声を上げた。態度が悪いことは承知の上である。
侍女や女官たちが目を丸くしていたが、香子はそれどころではなかった。
『……そんなところまで堪能なのだな』
部屋の扉がキイと音を立てて開いた。青龍だった。どうやらさっきの悪態を聞かれてしまったらしかった。青龍の声は楽しそうである。
『……白虎様が悪いんです』
『そうか。書の練習をするのだったか』
『はい、お付き合い願います』
『わかった』
青龍は素直に頷いた。自分で頼んでおいてなんだが、青龍は優しすぎると香子は思う。……もちろん今は、である。
香子は意外と執念深いのだ。
茶室で書の練習をし、ひと段落ついてから四神と昼食を食べ、落ち着いたところで張が来た。
『お会いできて嬉しゅうございます』
『こちらこそ。張老師、どうぞよろしくお願いします』
張はにこやかだが、その指導は毎回容赦がない。香子の上達が遅いことにたびたび首を傾げている。香子も書を綺麗に書きたいのはやまやまだが、いかんせん筆は苦手だった。しかしこの国では筆しかないのである。
もうそれに慣れる以外方法はなかった。
『……花嫁様の字は、個性的でございますな』
とうとう張の口からそんな言葉まで出てきて、香子は内心へこんだ。それを茶室で聞いていた青龍が珍しく噴き出したので、香子は後で青龍をしめようと思ったのだった。
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