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第4部 四神を愛しなさいと言われました
172.それは気を付けようがないことです
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今はどういう状況なのだろう。
香子はこてんと首を傾げた。
本性を現わした白虎から青龍が香子を引きはがしたまではいい。そのまま青龍に抱きしめられて膝に乗せられ、髪に頬に口づけられている状態である。
『青龍よ……』
人型に戻った白虎が低い声を発した。
『香子が愛しくてならなくて、つい……』
そう言いながら青龍は香子を放そうとしない。
『青龍さま?』
『青龍よ。昨日まで独占していたというのに、奪う気か?』
『そんなつもりはありません。白虎兄と共有できないこともわかっております。ですが香子を愛しく思う気持ちが抑えきれないのです』
青龍の声は切なそうだった。だが目の前にいる白虎が非情に剣呑である。
香子では二神を止めることはできそうもない。白虎の室の表か居間には白雲か青藍がいるはずである。
『ど、どなたか呼んでくださいっ!』
香子はありったけの声を上げて叫んだ。
その声で青龍と白虎ははっとしたような表情になった。そうは言っても表情がほんの少し動いただけなので、香子でなければわからないぐらいである。
『香子、怖がらせてしまったか? すまない』
『すまぬ……』
青龍と白虎が心配そうな声で香子に謝った。香子はかろうじて手の届く位置にいる白虎に手を伸ばした。その手を白虎が捉える。
『私は……白虎様の花嫁でもありますから……』
香子はかろうじてそれだけ言うことができた。
『花嫁様、ご無事ですか!?』
その時、室の向こうから黒月の必死な声が聞こえてきた。香子は悪いことをしたなと思った。
『大事ない』
白虎がそれに応える。それで黒月は黙ったが、きっと心配しているだろう。
『あのぅ……これから外でお茶にしませんか?』
そう提案すると、白虎は嘆息した。そして床に座る。青龍が香子を白虎に渡した。その動きがあまりに自然で、香子は目を丸くする。
『……準備させよ』
『はい』
青龍が答え、二神は立ち上がった。寝室を出て居間を通り、室の表へ出る。黒月と青藍が控えていた。
『黒月、心配をかけてごめんなさい』
『いえ……』
黒月は眉を寄せた。香子が謝るものではないと思っていそうだった。
『準備が整うまでしばしお待ちを』
青藍が言い、香子を抱えた白虎と青龍を案内した。黒月が後ろから付いてくる。黒月は香子が四神と一緒にいる時あまり近くにいることがなかったから、香子は少し不思議に思った。
そして、今日はお茶をずっと飲んでいる気がするとも思った。
外にいれば、四神もめったなことはしない。黒月を安心させるのはこれが一番いい。
日がだいぶ長くなってきた。
北京は香子の実家がある東京よりも緯度が高い。その為、春から秋にかけては日の入りが遅い。北京の緯度は元の世界とあまり変わらないようだと香子は考える。
(やっぱり不思議だなぁ)
西の空を見上げて、香子はしみじみそう思った。
庭では特に青龍が香子にちょっかいをかけてきたりはしなかった。香子はそれにほっとしたが、別れが近づいてきていることを青龍なりに感じ取っているのかもしれない。
夕飯時、香子はあることに思い至ったが、その場で聞くのは憚られた。散発的にぽろぽろと思いつくのはあまりよいことではないと香子も学んでいる。
夕飯の後の食休みを経て、香子は白虎により一旦部屋に戻された。
今日も濃い一日だった。香子はこのまま寝室に倒れたい心境だったが、今夜は白虎と過ごすことになっている。
『お風呂に入りたいわ』
『準備はできております』
女官の延夕玲に案内されて、入浴に向かう。今回は黒月にも一緒に入るよう香子は頼んだ。
黒月は一瞬嫌そうな顔をしたが、了承した。
湯にこのもやもやとした気持ちも溶けてしまえばいいと香子は思う。両手で湯を掬って顔を洗う。
『あー……気持ちいい』
そう呟いて、少し離れたところで湯に浸かる黒月を見やった。
『黒月、さっきは来てくれてありがとう』
礼を言うと、黒月はぐりんと香子に顔を向けた。ちょっと怖い。
『花嫁様、我に礼を言う必要はありません』
『そうね、でも言いたかったの。そういえば私が四神のどなたかと一緒にいる時はあまり側にいなかったじゃない? 今日は近くにいたの?』
そう香子が聞くと、黒月は大きく嘆息した。
『……花嫁様は白虎様の室にいらしたではありませんか。白虎様の室は、花嫁様の部屋から見えます』
白虎の室の前で控えていた青藍に手招きされたらしい。青藍もその方が早いと思ったのだろう。だったら青藍が声をかけてくれればよかったのではないかと香子は思った。
『それもそうね』
一室一室はそれなりに広いが、隣の棟である。渡り廊下で繋がっているのだから黒月が香子の部屋の前にいたならすぐに駆けつけることはできただろう。
『……我が食堂にいれば気付かなかったとは思いますが……』
その前は従業員の食堂にいたらしい。厨房に併設された食堂であれば少し離れている。
『そうだったのね。黒月が来てくれて助かったわ』
『花嫁様、何か望まぬことをされたのであれば……』
『ちょっとびっくりしただけよ』
そう、香子は戸惑ってしまっただけだ。
(聞かないといけないよね。これからのことも含めて)
四神全員と結婚すればいいとか、そんな単純な話ではなかったのかもしれない。香子は内心ため息をついた。
香子はこてんと首を傾げた。
本性を現わした白虎から青龍が香子を引きはがしたまではいい。そのまま青龍に抱きしめられて膝に乗せられ、髪に頬に口づけられている状態である。
『青龍よ……』
人型に戻った白虎が低い声を発した。
『香子が愛しくてならなくて、つい……』
そう言いながら青龍は香子を放そうとしない。
『青龍さま?』
『青龍よ。昨日まで独占していたというのに、奪う気か?』
『そんなつもりはありません。白虎兄と共有できないこともわかっております。ですが香子を愛しく思う気持ちが抑えきれないのです』
青龍の声は切なそうだった。だが目の前にいる白虎が非情に剣呑である。
香子では二神を止めることはできそうもない。白虎の室の表か居間には白雲か青藍がいるはずである。
『ど、どなたか呼んでくださいっ!』
香子はありったけの声を上げて叫んだ。
その声で青龍と白虎ははっとしたような表情になった。そうは言っても表情がほんの少し動いただけなので、香子でなければわからないぐらいである。
『香子、怖がらせてしまったか? すまない』
『すまぬ……』
青龍と白虎が心配そうな声で香子に謝った。香子はかろうじて手の届く位置にいる白虎に手を伸ばした。その手を白虎が捉える。
『私は……白虎様の花嫁でもありますから……』
香子はかろうじてそれだけ言うことができた。
『花嫁様、ご無事ですか!?』
その時、室の向こうから黒月の必死な声が聞こえてきた。香子は悪いことをしたなと思った。
『大事ない』
白虎がそれに応える。それで黒月は黙ったが、きっと心配しているだろう。
『あのぅ……これから外でお茶にしませんか?』
そう提案すると、白虎は嘆息した。そして床に座る。青龍が香子を白虎に渡した。その動きがあまりに自然で、香子は目を丸くする。
『……準備させよ』
『はい』
青龍が答え、二神は立ち上がった。寝室を出て居間を通り、室の表へ出る。黒月と青藍が控えていた。
『黒月、心配をかけてごめんなさい』
『いえ……』
黒月は眉を寄せた。香子が謝るものではないと思っていそうだった。
『準備が整うまでしばしお待ちを』
青藍が言い、香子を抱えた白虎と青龍を案内した。黒月が後ろから付いてくる。黒月は香子が四神と一緒にいる時あまり近くにいることがなかったから、香子は少し不思議に思った。
そして、今日はお茶をずっと飲んでいる気がするとも思った。
外にいれば、四神もめったなことはしない。黒月を安心させるのはこれが一番いい。
日がだいぶ長くなってきた。
北京は香子の実家がある東京よりも緯度が高い。その為、春から秋にかけては日の入りが遅い。北京の緯度は元の世界とあまり変わらないようだと香子は考える。
(やっぱり不思議だなぁ)
西の空を見上げて、香子はしみじみそう思った。
庭では特に青龍が香子にちょっかいをかけてきたりはしなかった。香子はそれにほっとしたが、別れが近づいてきていることを青龍なりに感じ取っているのかもしれない。
夕飯時、香子はあることに思い至ったが、その場で聞くのは憚られた。散発的にぽろぽろと思いつくのはあまりよいことではないと香子も学んでいる。
夕飯の後の食休みを経て、香子は白虎により一旦部屋に戻された。
今日も濃い一日だった。香子はこのまま寝室に倒れたい心境だったが、今夜は白虎と過ごすことになっている。
『お風呂に入りたいわ』
『準備はできております』
女官の延夕玲に案内されて、入浴に向かう。今回は黒月にも一緒に入るよう香子は頼んだ。
黒月は一瞬嫌そうな顔をしたが、了承した。
湯にこのもやもやとした気持ちも溶けてしまえばいいと香子は思う。両手で湯を掬って顔を洗う。
『あー……気持ちいい』
そう呟いて、少し離れたところで湯に浸かる黒月を見やった。
『黒月、さっきは来てくれてありがとう』
礼を言うと、黒月はぐりんと香子に顔を向けた。ちょっと怖い。
『花嫁様、我に礼を言う必要はありません』
『そうね、でも言いたかったの。そういえば私が四神のどなたかと一緒にいる時はあまり側にいなかったじゃない? 今日は近くにいたの?』
そう香子が聞くと、黒月は大きく嘆息した。
『……花嫁様は白虎様の室にいらしたではありませんか。白虎様の室は、花嫁様の部屋から見えます』
白虎の室の前で控えていた青藍に手招きされたらしい。青藍もその方が早いと思ったのだろう。だったら青藍が声をかけてくれればよかったのではないかと香子は思った。
『それもそうね』
一室一室はそれなりに広いが、隣の棟である。渡り廊下で繋がっているのだから黒月が香子の部屋の前にいたならすぐに駆けつけることはできただろう。
『……我が食堂にいれば気付かなかったとは思いますが……』
その前は従業員の食堂にいたらしい。厨房に併設された食堂であれば少し離れている。
『そうだったのね。黒月が来てくれて助かったわ』
『花嫁様、何か望まぬことをされたのであれば……』
『ちょっとびっくりしただけよ』
そう、香子は戸惑ってしまっただけだ。
(聞かないといけないよね。これからのことも含めて)
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