異世界で四神と結婚しろと言われました

浅葱

文字の大きさ
624 / 653
第4部 四神を愛しなさいと言われました

172.それは気を付けようがないことです

しおりを挟む
 今はどういう状況なのだろう。
 香子はこてんと首を傾げた。
 本性を現わした白虎から青龍が香子を引きはがしたまではいい。そのまま青龍に抱きしめられて膝に乗せられ、髪に頬に口づけられている状態である。

『青龍よ……』

 人型に戻った白虎が低い声を発した。

香子シャンズが愛しくてならなくて、つい……』

 そう言いながら青龍は香子を放そうとしない。

『青龍さま?』
『青龍よ。昨日まで独占していたというのに、奪う気か?』
『そんなつもりはありません。白虎兄と共有できないこともわかっております。ですが香子を愛しく思う気持ちが抑えきれないのです』

 青龍の声は切なそうだった。だが目の前にいる白虎が非情に剣呑である。
 香子では二神を止めることはできそうもない。白虎の室の表か居間には白雲か青藍がいるはずである。

『ど、どなたか呼んでくださいっ!』

 香子はありったけの声を上げて叫んだ。
 その声で青龍と白虎ははっとしたような表情になった。そうは言っても表情がほんの少し動いただけなので、香子でなければわからないぐらいである。

『香子、怖がらせてしまったか? すまない』
『すまぬ……』

 青龍と白虎が心配そうな声で香子に謝った。香子はかろうじて手の届く位置にいる白虎に手を伸ばした。その手を白虎が捉える。

『私は……白虎様の花嫁でもありますから……』

 香子はかろうじてそれだけ言うことができた。

『花嫁様、ご無事ですか!?』

 その時、室の向こうから黒月の必死な声が聞こえてきた。香子は悪いことをしたなと思った。

『大事ない』

 白虎がそれに応える。それで黒月は黙ったが、きっと心配しているだろう。

『あのぅ……これから外でお茶にしませんか?』

 そう提案すると、白虎は嘆息した。そしてベッドに座る。青龍が香子を白虎に渡した。その動きがあまりに自然で、香子は目を丸くする。

『……準備させよ』
『はい』

 青龍が答え、二神は立ち上がった。寝室を出て居間を通り、室の表へ出る。黒月と青藍が控えていた。

『黒月、心配をかけてごめんなさい』
『いえ……』

 黒月は眉を寄せた。香子が謝るものではないと思っていそうだった。

『準備が整うまでしばしお待ちを』

 青藍が言い、香子を抱えた白虎と青龍を案内した。黒月が後ろから付いてくる。黒月は香子が四神と一緒にいる時あまり近くにいることがなかったから、香子は少し不思議に思った。
 そして、今日はお茶をずっと飲んでいる気がするとも思った。
 外にいれば、四神もめったなことはしない。黒月を安心させるのはこれが一番いい。
 日がだいぶ長くなってきた。
 北京は香子の実家がある東京よりも緯度が高い。その為、春から秋にかけては日の入りが遅い。北京の緯度は元の世界とあまり変わらないようだと香子は考える。

(やっぱり不思議だなぁ)

 西の空を見上げて、香子はしみじみそう思った。
 庭では特に青龍が香子にちょっかいをかけてきたりはしなかった。香子はそれにほっとしたが、別れが近づいてきていることを青龍なりに感じ取っているのかもしれない。
 夕飯時、香子はあることに思い至ったが、その場で聞くのは憚られた。散発的にぽろぽろと思いつくのはあまりよいことではないと香子も学んでいる。
 夕飯の後の食休みを経て、香子は白虎により一旦部屋に戻された。
 今日も濃い一日だった。香子はこのまま寝室に倒れたい心境だったが、今夜は白虎と過ごすことになっている。

『お風呂に入りたいわ』
『準備はできております』

 女官の延夕玲に案内されて、入浴に向かう。今回は黒月にも一緒に入るよう香子は頼んだ。
 黒月は一瞬嫌そうな顔をしたが、了承した。
 湯にこのもやもやとした気持ちも溶けてしまえばいいと香子は思う。両手で湯を掬って顔を洗う。

『あー……気持ちいい』

 そう呟いて、少し離れたところで湯に浸かる黒月を見やった。

『黒月、さっきは来てくれてありがとう』

 礼を言うと、黒月はぐりんと香子に顔を向けた。ちょっと怖い。

『花嫁様、我に礼を言う必要はありません』
『そうね、でも言いたかったの。そういえば私が四神のどなたかと一緒にいる時はあまり側にいなかったじゃない? 今日は近くにいたの?』

 そう香子が聞くと、黒月は大きく嘆息した。

『……花嫁様は白虎様の室にいらしたではありませんか。白虎様の室は、花嫁様の部屋から見えます』

 白虎の室の前で控えていた青藍に手招きされたらしい。青藍もその方が早いと思ったのだろう。だったら青藍が声をかけてくれればよかったのではないかと香子は思った。

『それもそうね』

 一室一室はそれなりに広いが、隣の棟である。渡り廊下で繋がっているのだから黒月が香子の部屋の前にいたならすぐに駆けつけることはできただろう。

『……我が食堂にいれば気付かなかったとは思いますが……』

 その前は従業員の食堂にいたらしい。厨房に併設された食堂であれば少し離れている。

『そうだったのね。黒月が来てくれて助かったわ』
『花嫁様、何か望まぬことをされたのであれば……』
『ちょっとびっくりしただけよ』

 そう、香子は戸惑ってしまっただけだ。

(聞かないといけないよね。これからのことも含めて)

 四神全員と結婚すればいいとか、そんな単純な話ではなかったのかもしれない。香子は内心ため息をついた。
しおりを挟む
感想 94

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

黒騎士団の娼婦

星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた

いに。
恋愛
"佐久良 麗" これが私の名前。 名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。 両親は他界 好きなものも特にない 将来の夢なんてない 好きな人なんてもっといない 本当になにも持っていない。 0(れい)な人間。 これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。 そんな人生だったはずだ。 「ここ、、どこ?」 瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。 _______________.... 「レイ、何をしている早くいくぞ」 「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」 「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」 「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」 えっと……? なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう? ※ただ主人公が愛でられる物語です ※シリアスたまにあり ※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です ※ど素人作品です、温かい目で見てください どうぞよろしくお願いします。

処理中です...