『偽りの檻の公女は、冷徹王子の寵愛で華麗に逆転ざまぁします~虐げられた私を救ったのは、私の真の婚約者でした~』

紅葉山参

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婚約の準備と、社交界の思惑

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 クロヴィス公爵家の没落と、リゼット公女の劇的な出現は、社交界の最大の話題となっていた。冷徹なエドワード王子が、十年間虐げられていた女性を寵愛し、公然と婚約者として迎え入れたという事実は、貴族たちに大きな衝撃を与えた。

「まさか、あのリゼットが真の公女だったとは」 「公爵夫人とセシリアは、ざまぁされるべき当然の報いを受けたわ」

 貴族たちの間では、リゼットに対する同情と、王子の決断に対する畏敬の念が高まっていた。かつてリゼットを蔑んだ人々も、手のひらを返したように彼女の美しさと気品を称賛し始めた。

 リゼットは、公女としての公務に慣れるため、エドワード王子と共にいくつかの小規模な公務に参加し始めた。彼女が公爵邸で培った、観察眼と謙虚さ、そして知性は、貴族たちとの交流においてすぐに役立った。彼女は、王子の冷たさとは対照的な、親しみやすい温かさを持っていた。

 しかし、全ての貴族が彼女を歓迎しているわけではなかった。

 特に、王子の婚約者となることを目指していた有力貴族の令嬢たちは、突然現れたリゼットに強い嫉妬と警戒心を抱いていた。

 
 リゼットとエドワード王子の正式な婚約発表会が、二週間後に迫っていた。王室は、リゼットの血筋と、彼女の正当性を国内外に示すため、盛大な式典を計画していた。

 エドワード王子は、リゼットのために、王室に代々伝わる宝飾品を準備させた。中でも、王妃が代々身につける、輝かしいダイヤモンドのティアラは、リゼットの頭上で最も光り輝くはずだった。

 ある日、リゼットが離宮で侍女たちとティアラの試着をしていると、エドワード王子がふと現れた。

「……とても似合っている。貴女のために作られたようだ」

「殿下、ありがとうございます。このような素晴らしいものを私が身につけても、よろしいのでしょうか」

 リゼットは不安そうにティアラに触れた。使用人として生きてきた過去が、あまりにも豪華な現在の生活に、まだ馴染めずにいた。

 王子は、そっとティアラに触れ、リゼットの顔を覗き込んだ。

「リゼット。貴女の価値は、貴女自身が決めるものだ。このティアラは、貴女の真の地位を示すもの。そして、貴女が私にとって、何よりも大切な存在であることの証明だ」

 王子は、リゼットを抱き寄せ、優しく囁いた。

「過去の記憶を恐れるな。私の隣にいれば、誰も貴女を傷つけられない。貴女が受けた苦しみの分だけ、私は貴女に愛と栄光を与える」

 二人の間には、硬い盟約を超えた、深い愛が育まれていた。王子は、リゼットの傷を癒やし、彼女を支えることを、自らの使命としていた。

 
 婚約発表会を目前に控え、リゼットは、初めて王室が主催する大規模な慈善茶会に出席することになった。これは、公女としての資質を見る、社交界の試金石のようなものだった。

 茶会の会場は、王宮の華やかなサロン。リゼットは、王子から贈られた淡いブルーのドレスを纏い、ディアン騎士団長と共に現れた。

 茶会には、有力公爵家の娘で、かつて王子の婚約者候補の一人であった、イザベラ公爵令嬢も出席していた。イザベラは、美貌と傲慢さを兼ね備えた女性で、リゼットの存在を快く思っていなかった。

 イザベラは、リゼットのそばに近づき、冷たい視線を向けた。

「リゼット公女殿下。華やかなご身分になられたわね。ただ、公爵家で十年も使用人をされていた方が、急に王子の隣に立つというのは、王室の伝統を軽んじているように見えますが」

 その言葉は、リゼットの過去を公然と侮辱するものだった。周囲の貴婦人たちも、固唾を飲んで二人のやり取りを見守っていた。

 リゼットの顔から血の気が引く。過去の恐怖が蘇りそうになったが、彼女は強く歯を食いしばり、公女としての毅然とした態度を崩さなかった。

「イザベラ公爵令嬢。ご心配ありがとうございます」

 リゼットは、静かに、そして明確な声で返答した。

「私は確かに、クロヴィス公爵家で過酷な生活を送っておりました。しかし、私はその日々で、貴族が失いがちな『労働の尊さ』と『人への思いやり』を学びました。貧しい生活を知る者が、この国の貧しい人々を救うために何ができるか。それは、豪華なサロンにいるだけでは学べない、王妃となるべき者にとって、最も必要な資質であると、殿下は私に教えてくださいました」

 リゼットの言葉は、単なる言い返しではなかった。それは、彼女の辛い過去を、未来の王妃として必要な「資質」へと昇華させた、力強い宣言だった。

 イザベラは、リゼットの知的な反論と、彼女の瞳に宿る真の強さに言葉を失った。

 周囲の貴族たちからも、リゼットの知性と謙虚さに対する称賛の声が上がった。

 茶会を終え、リゼットが離宮に戻ると、エドワード王子が待ち構えていた。

「よくやった、リゼット」

 王子は、彼女を抱きしめた。

「貴女は、見事にあの傲慢な令嬢の挑戦を退けた。貴女の過去は、弱点ではなく、貴女の最大の強みとなったのだ。私には、貴女が隣にいなくてはならない」

「殿下……」

 リゼットは、王子の腕の中で、完全な安心感を得た。彼女はもう、孤独ではない。彼女の過去を知り、それでも深く愛し、信頼してくれる人がいる。

「リゼット。婚約発表会では、貴女の母君が、王室に託したもう一つの秘密を公開する。それは、貴女の血筋の正当性を、さらに確固たるものにするだろう」

 王子は、リゼットの首筋にキスを落とし、優しく囁いた。

「もうすぐ、貴女は真の王妃となる。私の、唯一の光として」
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