毒リンゴは絶対拒否します!白雪姫に転生したのに全力で死亡フラグを避けていたら、なぜか隣国のハンサム王子に溺愛されてしまいました。

紅葉山参

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鏡の再点火と、最初の毒物回避

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 オーリオン王子による過剰な捜索と、豪華なドレスの贈り物は、私の平穏な生活を根底から揺るがした。私はドレスを隠した後も、不安でいっぱいだった。

(私の目標は『美しくないこと』!ムスカ王妃から見て、私が生きていることさえ問題なのに、さらに美しさに磨きがかかっているなんて思われたら、即座に毒リンゴが飛んでくるわ!)

 私は、七兄弟の家で、ひどい予感に苛まれていた。

 そして、その予感は的中する。

 数日後。私が一人で留守番をしていると、小屋のドアがノックされた。

「ごめんください。この辺りで、行商をしている者ですが……」

 私は、フードと煤で汚れた顔をそのままに、ドアを少しだけ開けた。

 そこに立っていたのは、見慣れない、しわだらけの老婆だった。その老婆の顔は、あまりにも醜く、不気味な笑みを浮かべている。

(来た!毒殺イベントのトリガー役!)

 私は、心の中で警報を鳴らした。この老婆こそ、ムスカ王妃が変装した姿に違いない。童話では、老婆に変装して毒リンゴを売りに来るのだ。

「どなたかのお連れ様でしょうか?」

「おや、かわいそうに。こんなに地味で貧しい身なり。森の木こりたちに酷使されているようだね」

 老婆は、私の地味な姿を見て、内心で安堵したことだろう。しかし、その地味さこそ、私が必死で守っている命綱なのだ。

「私は、旅の行商人です。あなたのような可哀想な娘に、特別に良いものを分けてあげましょう」

 老婆が取り出したのは、美しい象牙と宝石で飾られた、櫛(くし)だった。

「この櫛で髪を梳かせば、あなたの美しさは、たちまち蘇るでしょう。さあ、遠慮せずに、試しにご覧なさい」

(毒櫛フラグ!毒リンゴの前に来る、古典的な刺客アイテムの一つよ!)

 私はすぐに察した。この櫛には、触れるだけで意識を失い、死に至るほどの強力な毒が仕込まれているに違いない。

 私は、笑顔を崩さずに、老婆の申し出を断った。

「ありがとうございます、おばあ様。ですが、私は、この煤だらけの髪を梳かすことなど、恐れ多いです。この櫛は、おばあ様のような美しい方にこそ相応しい。私にはもったいなくて、使えません」

 私は、老婆の手から櫛を受け取らず、深々と頭を下げた。

「それよりも、おばあ様。少し休んでいかれませんか?今、温かい木の実のスープができていますよ」

 私の予期せぬ行動に、老婆(王妃)は戸惑った。

(な、なぜだ。この娘は、美しくなる道具に飛びつくはずなのに!なぜこの地味な娘が、私を褒める?)

「い、いいえ。結構です。さあ、早くこの櫛を試すがいい!」

 王妃は焦り、私に櫛を押し付けようとした。

 その時、家の奥から、グラントの重々しい声が響いた。

「アーリャ!誰だ!誰を家に上げている!」

 グラントが、森での仕事を終えて、予期せぬタイミングで帰ってきたのだ。

(助かった!)

 老婆は、グラントの巨大な体躯を見て、明らかに怯えた。七兄弟に正体を知られるわけにはいかない。

「こ、これは失礼。私は通りすがりの行商人です。また、いつか……」

 老婆は慌てて櫛を懐にしまい、逃げるように森の中へと消えていった。

「危ないぞ、アーリャ!知らない人間を簡単に家に入れるなと言っただろう!」

 グラントは私を叱ったが、私は心の中で安堵のため息をついていた。

「ごめんなさい、グラント様。でも、あの人が、あまりにも可哀想に見えて……」

 私は、一つ目の毒物フラグを、自分の警戒心と、七兄弟の存在という最強の盾によって、無事に回避したのだった。しかし、私は知っている。王妃の嫉妬は、一度では終わらないのだ。次は、きっと毒リンゴが来る。そして、それは、私の「死」を決定づける、最大のフラグになるだろう。

 城での出来事

 一方、城では。ムスカ王妃は、私が死んだと信じ、束の間の安寧を得ていた。

「鏡よ、鏡。この世で一番美しいのはだーれ?」

「それはもちろん、ムスカ王妃様、あなた様でございます」

 王妃は、毎日その答えを聞き、歓喜していた。しかし、その歓喜は長く続かなかった。

 隣国のオーリオン王子による「真の美の象徴」を求める大々的な捜索は、ついには王城の耳にも入る、無視できない噂となっていた。人々は、その「健気で清らかな娘」の存在を、口々に噂し始めたのだ。

「聞いたか?隣国の王子様が探している娘は、この世の誰よりも純粋で美しいらしいぞ」
「名前も知らないのに、王子様は愛のポエムまで作っているそうだ」

 この噂が、魔法の鏡の判断を狂わせ始めた。

 ある朝、ムスカ王妃がいつもの質問をすると、鏡は重々しい声で答えた。

「ムスカ王妃様、あなた様は誠に美しゅうございます」

 そこで言葉が止まる。王妃は苛立った。

「続きを言いなさい!私こそが一番美しいのでしょう!?」

「しかし……今、この世界で最も『愛』と『憧憬』を集めている女性は、森の奥深くにおります。隣国のオーリオン王子が、全精力を懸けて捜索している、その『清らかなる淑女』こそが、美しさの象徴となりつつあります」

(なんですって!?)

 ムスカ王妃は、激怒した。嫉妬の炎が、彼女の冷静さを焼き尽くした。

「アーリャは死んだはず!衛兵隊長が心臓を献上したではないか!」

 王妃は、すぐに衛兵隊長を呼びつけたが、彼は「確かに猪の心臓を献上しました。姫は森に逃げ込み、獣に喰われたものと……」と、必死に言い訳をするしかなかった。

「嘘よ!私のアーリャが生きている!あの娘の存在が、私の美を再び脅かしている!衛兵隊長、今すぐ森へ戻り、あの小屋を探し出し、あの娘を完全に始末しなさい!」

 ムスカ王妃の怒りは、前回とは比べ物にならないほど激しかった。

(いよいよ来たわ。本格的な毒殺フラグよ!)
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