転落令嬢と辺境公爵の開墾スローライフ~愛と勇気と知恵で、不毛の地に楽園を築きます!

紅葉山参

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辺境に地へ

希望の井戸を掘る

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 バルザムの不毛地での生活が始まって、三日が経った。今日の目標は、何よりも水脈の確保なのです。

 公爵である彼は、朝早くから、村の老人に教わった場所で、掘削作業を開始していた。

「ミーシア、君は家で休んでいなさい。この作業は、私の領主としての最初の大仕事だからね」

 そう言って、愛する夫は、慣れない手つきでシャベルを振るい始めた。

 彼は、帝国でも最高峰の教育を受け、肉体労働とは無縁の生活を送っていた人だ。その白い肌と、繊細な手は、重いシャベルを持つにはあまりにも不釣り合いに思える。

 しかし、彼は一切の弱音を吐きません。ただひたすらに、わたくしとの未来のために、硬い地面を掘り進める。

「いいえ、ラッシュ様。わたくしも手伝いますよ」

 わたくしは、小さな鍬を持って、彼の隣に立った。わたくしが掘るのは、井戸ではなく、昨日手に入れたナーガの豆を植えるための畑なの。

 井戸の掘削は、想像以上に困難だった。少し掘り進むと、粘土質の土壌が石のように硬くなり、シャベルの刃先が弾かれてしまう。

 汗だくになりながら、ラッシュ様は何度もシャベルを突き立てるけれど、なかなか深くなりません。

「くっ…、この土地は、本当に私たちを試しているようだ」

 彼が、珍しく苦悶の声を上げた。

 わたくしは、掘り起こされた土を、注意深く観察したわ。

「ラッシュ様、少し土を湿らせて掘ってみてはいかがでしょうか?この粘土質の土は、乾燥すると非常に硬くなります」

「少量の水で湿らせると、粘り気は増しますが、割れやすくなるはずです」

 これは、以前、読んだ古代の土木技術の文献に記されていた知識だった。

「なるほど。ミーシア、君の頭脳は本当に素晴らしいね」

 彼は、持っていた水筒から僅かな水を土にかけ、再び掘り始めた。すると、どうでしょう。先ほどよりも格段に掘りやすくなりました。

 その間、わたくしは、家の裏手の小さな区画で、ナーガの豆を植えるための耕作を続けた。硬い土を掘り起こし、石を取り除き、根っこを断ち切る作業よ。

 一つ一つの作業が、わたくしの体力と精神力を削っていくのがわかる。手のひらは、既にいくつものマメができ、破れて血が滲んでいました。

 午後になり、ついに井戸の底から、湿った土の匂いとは違う、水の気配がしてきた。

「ミーシア!来た!水だ!」

 ラッシュ様の喜びの声が、わたくしの疲れた体に響き渡った。

 彼は、最後に力を込めて深く掘り進めました。すると、ゆっくりと、濁った水が湧き出してくる。

「…成功だ。これで、私たちは、この土地で生きていけるよ」

 彼は、泥まみれになりながらも、最高の笑顔を見せてくれました。その笑顔は、帝都で見たどんな宝石よりも輝いていたわ。

 わたくしは、彼の元へ駆け寄り、泥だらけの彼を抱きしめた。

「ラッシュ様…!本当に、本当にありがとうございます!」

 この水があれば、生活できる。そして、わたくしが耕した畑に、ナーガの豆の種を蒔くことができるのです。

 私たちは、井戸の周りを石で固める作業を一旦中断し、わたくしの畑へと向かった。

「この種が、私たちの最初の収穫となる。そして、この土地を救う最初の担い手となるのだ」

 ラッシュ様が、そう言って、丁寧に一つ一つ、ナーガの豆の種を土の中に埋めていった。わたくしは、その種に、井戸から汲み上げたばかりの水を、優しく注ぐ。

 夕食時、私たちは、二人で泥だらけになった手を見つめ合った。

「帝都では、こんな手で社交界に出たら、モンローに何を言われたかわからないな」と公爵は笑った。

「モンローの言葉など、もう気にもなりません。わたくしにとって、この手のマメは、あなたと共に生きている証ですよ」

 わたくしは、彼の大きな、それでいて優しい手を握りしめた。

「愛するミーシア。君のその力と知恵、そして私への愛に、心から感謝するよ。さあ、明日は、この土地に建てる、私たち二人の家について、じっくりと語り合おうね」

 公爵は、わたくしの額に、泥のついた唇でキスをした。わたくしたちは、この辺境の地で、愛と勇気と知恵を使い、新しい生活を築き始めている。その確かな手応えを感じた夜だった。
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