転落令嬢と辺境公爵の開墾スローライフ~愛と勇気と知恵で、不毛の地に楽園を築きます!

紅葉山参

文字の大きさ
11 / 53
辺境に地へ

黄金の波と青い奇跡

しおりを挟む
 帝都から送り込まれた視察団を追い返してから、数日が経過しました。 あのヴァルターたちの青ざめた顔を思い出すたび、胸がすくような思いがいたしますわ。

 バルザムの不毛地と呼ばれたこの場所は今、驚くべき変化を見せています。 わたくし、ミーシアは今、黄金色に色づき始めたセリスの麦畑の前に立っていました。

 さらさらと、乾いた風が麦の穂を揺らして通り抜けていきます。 その音はまるで、大地が喜びに震えているかのように聞こえるのです。 かつては赤茶けた土しかなかったこの場所に、命の輝きが満ちている……。

「ミーシア、そんなところで立ち止まってどうしたんだい⁉ 」

 背後から、優しくも力強い声が響きました。 振り返ると、そこには愛する夫、ラッシュ様の姿があります。

 あなたは、帝都にいた頃よりもずっと逞しくなられましたね。 かつての白皙の貴公子としての面影を残しつつも、その肌は健康的に焼け、肩幅もがっしりとされたようです。 額に浮かぶ汗を拭うその仕草さえ、今のわたくしには何より眩しく映ります。

「ラッシュ様……。見てください、この麦の輝きを」

 わたくしは、歩み寄ってきた彼の大きな手に、そっと自分の手を重ねました。 あなたの手のひらには、いくつもの硬いマメができています。 それは、わたくしたちがこの土地で、自分たちの力で生き抜いてきた証なのです。

「ああ、本当に見事だ。君が土壌改良を提案してくれなければ、この光景は一生見られなかっただろう」

 ラッシュはそう言って、誇らしげに目を細めました。 彼の言葉に、ミーシアの胸は熱い幸福感で満たされていきます。

 私たちの成功は、村の人々との関係も劇的に変えていきました。 今では、村人たちが自ら進んで私たちの畑を手伝いに来てくれるのです。

「奥様、麦の具合はどうですか⁉ 」

 遠くから、老農夫のグレンさんが声をかけてくれました。 彼は、わたくしたちが配ったナーガの豆を自分の畑にも植え、その効果を誰よりも実感してくれた恩人です。

「順調ですよ、グレンさん‼ 収穫が本当に楽しみですわね」

 わたくしが笑顔で手を振り返すと、村の男たちも元気よく応えてくれました。 孤立無援だったはずのこの場所で、私たちはいつの間にか「仲間」を得ていたのです。

 わたくしは、麦の収穫を待つ間、新たな研究に没頭することにしました。 サフラスの木から採れる実。 これを使って、良質な油を抽出する方法を確立したのです。

「ラッシュ様、これを見てください。サフラスの油ですよ……」

 作業小屋を訪れた夫に、わたくしは透明な琥珀色の液体を差し出しました。 この油は食用になるだけでなく、灯りとしても非常に優秀です。 さらに、わたくしが隠し持っていたハーブの知識を組み合わせれば、香りの良い石鹸も作れるはず。

「君の知恵は、本当に尽きることがないね⁉ 」

 ラッシュ様は驚いたように目を見開き、そして楽しそうに笑いました。 「このバルザムには、まだまだ眠っている宝物があるのかもしれない」

 その言葉通り、奇跡はさらに続きました。 ある日、村の子供たちがわたくしの元へ駆け込んできたのです。

「ミーシア様‼ 崖の下に、すっごく綺麗な花が咲いてるんだ‼ 」

 子供たちに手を引かれ、案内された先は、厳しい岩が突き出した切り立った崖の下でした。 その日陰の岩間に、ひっそりと、しかし凛とした佇まいで咲く青い花……。

 それを見た瞬間、わたくしは息を呑みました。 植物図鑑の隅々まで記憶していたわたくしにとって、それは見間違うはずのない花だったのです。

「これは……『蒼の月草』……⁉ 」

 思わず、その場に膝をついてしまいました。 蒼の月草。 それは、帝都の最高級薬院でさえ、手に入れるのが極めて困難とされる幻の薬草です。 熱病を瞬時に鎮め、傷を癒やす力を持つ、命の草。

「なぜ、こんな不毛の地に、これほどの奇跡が……」

 わたくしの瞳から、自然と涙が溢れました。 きっと、この土地は不毛だったのではありません。 あまりにも純粋で、あまりにも強い生命力を秘めていたからこそ、誰にも媚びずにこの時を待っていたのでしょう。

 わたくしは、この大発見をすぐにラッシュに報告しました。 「ラッシュ様、バルザムはただの領地ではありません。ここは、世界を救う薬草の園になる可能性を秘めているのですわ‼ 」

 あなたの瞳にも、新たな希望の火が灯りました。 愛するあなたと、わたくし、ミーシア。 そしてこの豊かな大地。

 わたくしたちのワンダフルライフは、今、本物の輝きを放ち始めたのです……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病弱設定されているようです

との
恋愛
『あのようにご立派な家門にお産まれになられたのに⋯⋯お可哀想なご令嬢だそうですのよ』 なんて噂が流れているけれど、誰も会ったことがないミリー・ミッドランド侯爵令嬢。 ネグレクトなんて言葉はない時代に生まれ落ちて、前世の記憶を取り戻したら⋯⋯。 前世の記憶と共に無双します! 再開しました。完結まで続投です。 ーーーーーー 恋愛小説大賞27位、ありがとうございました(感謝) ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定。 完結確定、R15は念の為・・

捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。

亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。 だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。 婚約破棄をされたアニエル。 だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。 ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。 その相手とはレオニードヴァイオルード。 好青年で素敵な男性だ。 婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。 一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。 元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……

【完結】恋が終わる、その隙に

七瀬菜々
恋愛
 秋。黄褐色に光るススキの花穂が畦道を彩る頃。  伯爵令嬢クロエ・ロレーヌは5年の婚約期間を経て、名門シルヴェスター公爵家に嫁いだ。  愛しい彼の、弟の妻としてーーー。  

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

貧乏子爵令嬢ですが、愛人にならないなら家を潰すと脅されました。それは困る!

よーこ
恋愛
図書室での読書が大好きな子爵令嬢。 ところが最近、図書室で騒ぐ令嬢が現れた。 その令嬢の目的は一人の見目の良い伯爵令息で……。 短編です。

師匠の嫉妬で才能を奪われた薬師見習いの私、牢獄で本物の力を取り戻す

er
恋愛
辺境貴族の娘セシリアは宮廷薬師見習いとして働くが、師匠エリザから無能と罵られ続ける。疫病が王都で流行すると、エリザはセシリアに濡れ衣を着せ処刑させようとする。

【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!

たまこ
恋愛
 エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。  だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...