転落令嬢と辺境公爵の開墾スローライフ~愛と勇気と知恵で、不毛の地に楽園を築きます!

紅葉山参

文字の大きさ
13 / 53
不毛の地に咲く新たな絆

小さな訪問者と冷めた瞳

しおりを挟む
 収穫祭が終わり、バルザムの地に静かな冬の足音が聞こえ始めた頃のことでした。 わたくしたちの生活は、以前よりもずっと豊かになりましたが、やるべきことは山積みです。

 セリスの麦の加工、サフラスの油の精製、そして「蒼の月草」の試験栽培……。 わたくし一人の手では、家事と研究の両立が少しずつ難しくなってきていたのです。

 そんなある日の朝、村長のグレンさんが一人の少女を連れてわたくしたちの家を訪ねてきました。

「公爵様、奥様。少しご相談がありましてな……」

 グレンさんの後ろに隠れるようにして立っていたのは、ボロボロの服を着た、まだ十代半ばほどの痩せた少女でした。 彼女はうつむいたまま、わたくしたちの顔を見ようともしません。

「この子はリリカといって、身寄りのない子でして。もしよろしければ、こちらで使ってやってはいただけませんか⁉ 」

 リリカと呼ばれた少女は、その言葉を聞いた瞬間、ビクッと肩を震わせました。 彼女の細い指先が、自分の袖をきつく握りしめているのがわかります。

「メイド、ということでしょうか……⁉ 」

 わたくしが問いかけると、リリカは一瞬だけ顔を上げ、すぐにまた視線を地面に落としました。 その一瞬見えた瞳には、深い拒絶と、諦めたような冷ややかさが宿っていたのです。

 ラッシュ様は、彼女の様子を静かに見守っていましたが、やがて優しく口を開きました。

「リリカ、と言ったね。私たちは今、確かに助けを必要としている。君が来てくれるなら、とても心強いよ」

「……お好きに、すればいいです。どうせ、私は売られたようなものですから」

 彼女の口から漏れたのは、低く、刺々しい言葉でした。 グレンさんは慌てて「こら、リリカ‼ 失礼だろう‼ 」と叱りつけましたが、ラッシュ様はそれを手で制しました。

「無理強いはしたくないが、まずは今日一日、私たちの生活を見てから決めてくれないかい⁉ 」

 リリカは意外そうに眉をひそめましたが、何も答えませんでした。 こうして、わたくしたちの家に、初めての「メイド候補」がやってくることになったのです。

 わたくしは彼女を部屋に案内し、新しい服を渡そうとしました。 それは、わたくしが手縫いで仕立て直した、清潔な木綿のドレスです。

「これ、リリカさんのサイズに合うと思うわ。着替えてちょうだい」

 わたくしが微笑みかけると、彼女はひったくるように服を受け取り、呟きました。

「……気持ち悪い。どうせ、後でひどいことをするんでしょう。貴族なんて、みんな同じだわ」

 その言葉に、わたくしは胸が痛みました……。 この子は一体、これまでどんな辛い思いをしてきたのでしょうか。 けれど、言葉で否定しても今の彼女には届かないでしょう。

 わたくしたちは、ただいつも通りに振る舞うことに決めました。 着替えを終えたリリカを連れて、わたくしはまずキッチンへと向かったのです。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病弱設定されているようです

との
恋愛
『あのようにご立派な家門にお産まれになられたのに⋯⋯お可哀想なご令嬢だそうですのよ』 なんて噂が流れているけれど、誰も会ったことがないミリー・ミッドランド侯爵令嬢。 ネグレクトなんて言葉はない時代に生まれ落ちて、前世の記憶を取り戻したら⋯⋯。 前世の記憶と共に無双します! 再開しました。完結まで続投です。 ーーーーーー 恋愛小説大賞27位、ありがとうございました(感謝) ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定。 完結確定、R15は念の為・・

捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。

亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。 だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。 婚約破棄をされたアニエル。 だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。 ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。 その相手とはレオニードヴァイオルード。 好青年で素敵な男性だ。 婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。 一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。 元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……

【完結】恋が終わる、その隙に

七瀬菜々
恋愛
 秋。黄褐色に光るススキの花穂が畦道を彩る頃。  伯爵令嬢クロエ・ロレーヌは5年の婚約期間を経て、名門シルヴェスター公爵家に嫁いだ。  愛しい彼の、弟の妻としてーーー。  

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

貧乏子爵令嬢ですが、愛人にならないなら家を潰すと脅されました。それは困る!

よーこ
恋愛
図書室での読書が大好きな子爵令嬢。 ところが最近、図書室で騒ぐ令嬢が現れた。 その令嬢の目的は一人の見目の良い伯爵令息で……。 短編です。

師匠の嫉妬で才能を奪われた薬師見習いの私、牢獄で本物の力を取り戻す

er
恋愛
辺境貴族の娘セシリアは宮廷薬師見習いとして働くが、師匠エリザから無能と罵られ続ける。疫病が王都で流行すると、エリザはセシリアに濡れ衣を着せ処刑させようとする。

【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!

たまこ
恋愛
 エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。  だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...