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不毛の地に咲く新たな絆
幻惑の翠霧と、守るための牙
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春の陽光がバルザムの地に降り注ぐ中、わたくしたちの「要塞化計画」は着々と進んでいました。 以前のわたくしであれば、植物を「武器」にするなどという発想は、おぞましいものとして退けていたかもしれません。 けれど、愛するラッシュ様、そして家族となったリリカさんや村の皆を守るため、わたくしは自らの知識を「盾」に変える決意を固めたのです。
「奥様、この『眠り睡蓮』の種、配合が終わりました‼ 」
リリカが、額の汗を拭いながら、翠色の粉末が入った小瓶を差し出しました。 わたくしはそれを手に取り、光に透かして確認します。 蒼の月草の粒子を触媒として加えたこの粉末は、空気中の水分と反応すると、目に見えないほど微細な「幻惑の霧」へと姿を変えます。
「完璧だわ、リリカさん。これを村の入り口にある湿地帯に撒きましょう。侵入者が足を踏み入れれば、深い眠りの中へと誘われるはずよ……」
わたくしたちは、村の男たちが掘り進めた堀の周囲に、特殊な防衛植物を配置していきました。 外側には、触れるだけで強烈な痒みを引き起こす「紅棘の蔓」。 その内側には、今回の切り札である「幻惑の翠霧」を発生させる湿地。 そして最も村に近い場所には、ラッシュ様が鍛え上げた自警団が陣取っています。
「ミーシア、無理をさせてすまない。本来なら、私が剣一本ですべてを片付けるべきなのだが……」
作業を終えたわたくしの元へ、ラッシュ様が労いの言葉をかけに来てくれました。 彼の目には、わたくしへの深い愛情と共に、自らの非力さを悔やむような色が微かに混じっています。 わたくしは、土に汚れた彼の大きな手を、両手で包み込みました。
「何を仰るのですか、ラッシュ様。剣だけが戦いではありません。わたくしが植物で敵の戦意を削ぎ、あなたが民を導く。これこそが、わたくしたち夫婦の形ではありませんか⁉ 」
わたくしの言葉に、彼はハッとしたように目を見開き、やがて優しく微笑みました。 「そうだね……。君はいつだって、私に大切なことを気づかせてくれる。ありがとう、ミーシア」
その時でした。 村の物見櫓に立っていた若者が、激しく鐘を打ち鳴らしました。
「敵襲‼ 帝都の偵察騎兵、十騎が接近中‼ 」
ついに、来たのです。 カシアン伯爵が放った、わたくしたちの「実り」を奪うための尖兵たちが。 わたくしたちは、ラッシュ様の合図で、それぞれ配置につきました。 リリカは子供たちを安全な場所へ避導させ、わたくしは温室の特等席から、自ら育てた植物たちの「働き」を見守ることにしたのです。
馬の蹄の音が、地響きとなって迫ってきます。 現れたのは、帝都でも精鋭とされる黒い鎧を纏った騎兵たち。 彼らは、以前の「不毛の地」だと思い込み、何の警戒もなく村の入り口へと突進してきました。
「……今ですわ、翠霧の眠りよ……」
わたくしが心の中で呟いた瞬間。 湿地帯に撒かれた粉末が、春の湿った風に乗り、美しいエメラルドグリーンの霧となって立ち上りました。 騎兵たちは、その美しさに一瞬だけ目を奪われ……それが命取りとなったのです。
「な、なんだこの霧は……⁉ 体が、急に重く……」
「馬が動かん‼ 眠気が……」
一騎、また一騎と、黒い鎧の男たちが落馬し、泥の中に沈んでいきます。 彼らは深い眠りの中に落ち、剣を抜くことさえできません。 殺す必要はない。ただ、この地がもはや彼らの支配下にはないことを、その身に刻んでやればいい。
「公爵様、敵を無力化しました‼ 」
自警団の歓声が上がります。 ラッシュ様は、眠りこける兵士たちを見下ろし、冷徹な声で命じました。 「彼らの武器と馬を没収し、帝都との境界線まで運んで捨ててこい。そして、カシアンに伝えろ。『次に来る時は、軍隊を連れてこい。ただし、生きて帰れると思うな』とな‼ 」
圧勝でした……。 わたくしたちの「知恵」が、帝都の「武力」を圧倒した瞬間。 村人たちは抱き合って喜び、リリカもわたくしの元へ駆け寄ってきました。
けれど、わたくしの心には、勝利の喜びよりも深い、新たな決意が宿っていました。 これはまだ、長い戦いの序曲に過ぎません。 マカリスタ皇太子が、この屈辱を黙って見過ごすはずがないのです。
わたくしは、静かに眠る蒼の月草を見つめ、誓いました。 たとえどのような嵐が吹き荒れようとも、わたくしはこの地を、本当の楽園にしてみせる。 愛するあなたと、共に生きる皆のために……。
「奥様、この『眠り睡蓮』の種、配合が終わりました‼ 」
リリカが、額の汗を拭いながら、翠色の粉末が入った小瓶を差し出しました。 わたくしはそれを手に取り、光に透かして確認します。 蒼の月草の粒子を触媒として加えたこの粉末は、空気中の水分と反応すると、目に見えないほど微細な「幻惑の霧」へと姿を変えます。
「完璧だわ、リリカさん。これを村の入り口にある湿地帯に撒きましょう。侵入者が足を踏み入れれば、深い眠りの中へと誘われるはずよ……」
わたくしたちは、村の男たちが掘り進めた堀の周囲に、特殊な防衛植物を配置していきました。 外側には、触れるだけで強烈な痒みを引き起こす「紅棘の蔓」。 その内側には、今回の切り札である「幻惑の翠霧」を発生させる湿地。 そして最も村に近い場所には、ラッシュ様が鍛え上げた自警団が陣取っています。
「ミーシア、無理をさせてすまない。本来なら、私が剣一本ですべてを片付けるべきなのだが……」
作業を終えたわたくしの元へ、ラッシュ様が労いの言葉をかけに来てくれました。 彼の目には、わたくしへの深い愛情と共に、自らの非力さを悔やむような色が微かに混じっています。 わたくしは、土に汚れた彼の大きな手を、両手で包み込みました。
「何を仰るのですか、ラッシュ様。剣だけが戦いではありません。わたくしが植物で敵の戦意を削ぎ、あなたが民を導く。これこそが、わたくしたち夫婦の形ではありませんか⁉ 」
わたくしの言葉に、彼はハッとしたように目を見開き、やがて優しく微笑みました。 「そうだね……。君はいつだって、私に大切なことを気づかせてくれる。ありがとう、ミーシア」
その時でした。 村の物見櫓に立っていた若者が、激しく鐘を打ち鳴らしました。
「敵襲‼ 帝都の偵察騎兵、十騎が接近中‼ 」
ついに、来たのです。 カシアン伯爵が放った、わたくしたちの「実り」を奪うための尖兵たちが。 わたくしたちは、ラッシュ様の合図で、それぞれ配置につきました。 リリカは子供たちを安全な場所へ避導させ、わたくしは温室の特等席から、自ら育てた植物たちの「働き」を見守ることにしたのです。
馬の蹄の音が、地響きとなって迫ってきます。 現れたのは、帝都でも精鋭とされる黒い鎧を纏った騎兵たち。 彼らは、以前の「不毛の地」だと思い込み、何の警戒もなく村の入り口へと突進してきました。
「……今ですわ、翠霧の眠りよ……」
わたくしが心の中で呟いた瞬間。 湿地帯に撒かれた粉末が、春の湿った風に乗り、美しいエメラルドグリーンの霧となって立ち上りました。 騎兵たちは、その美しさに一瞬だけ目を奪われ……それが命取りとなったのです。
「な、なんだこの霧は……⁉ 体が、急に重く……」
「馬が動かん‼ 眠気が……」
一騎、また一騎と、黒い鎧の男たちが落馬し、泥の中に沈んでいきます。 彼らは深い眠りの中に落ち、剣を抜くことさえできません。 殺す必要はない。ただ、この地がもはや彼らの支配下にはないことを、その身に刻んでやればいい。
「公爵様、敵を無力化しました‼ 」
自警団の歓声が上がります。 ラッシュ様は、眠りこける兵士たちを見下ろし、冷徹な声で命じました。 「彼らの武器と馬を没収し、帝都との境界線まで運んで捨ててこい。そして、カシアンに伝えろ。『次に来る時は、軍隊を連れてこい。ただし、生きて帰れると思うな』とな‼ 」
圧勝でした……。 わたくしたちの「知恵」が、帝都の「武力」を圧倒した瞬間。 村人たちは抱き合って喜び、リリカもわたくしの元へ駆け寄ってきました。
けれど、わたくしの心には、勝利の喜びよりも深い、新たな決意が宿っていました。 これはまだ、長い戦いの序曲に過ぎません。 マカリスタ皇太子が、この屈辱を黙って見過ごすはずがないのです。
わたくしは、静かに眠る蒼の月草を見つめ、誓いました。 たとえどのような嵐が吹き荒れようとも、わたくしはこの地を、本当の楽園にしてみせる。 愛するあなたと、共に生きる皆のために……。
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