転落令嬢と辺境公爵の開墾スローライフ~愛と勇気と知恵で、不毛の地に楽園を築きます!

紅葉山参

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不毛の地に咲く新たな絆

蒼の雫と、見えざる経済の刃

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 帝都の偵察隊を退けてから、バルザムの村には奇妙な緊張感と、それ以上に熱い「活気」が満ちていました。 わたくし、ミーシアは、温室の奥に設けた臨時の調合室で、連日、蒼の月草の研究に没頭していました。 それは、迫り来る帝国正規軍に対抗するための、わたくしなりの「戦い」の準備だったのです。

「……リリカさん、抽出液の温度を二十五度に保ってちょうだい。一分でも揺らげば、この蒼の輝きは濁ってしまうわ」

「はい、奥様‼ 魔法計の目盛りは一点の狂いもありませんわ‼ 」

 リリカは、真剣な眼差しで大釜を見つめていました。 彼女は、わたくしの助手としての才能を驚異的なスピードで開花させています。 蒼の月草の花びらから、わずか数滴しか採れない純度の高い雫。 これを、サフラスの精製油と特定の鉱石粉末に反応させることで、わたくしは新しい「薬」を完成させようとしていたのです。

「できたわ……。これが、わたくしたちの新たな『剣』になるはずよ……」

 完成したのは、小指ほどの小さな瓶に詰められた、星空を溶かし込んだような美しい青色の液体。 これを服用すれば、末期の熱病さえも瞬時に癒やし、肉体に漲るような活力を与えます。 ですが、この薬の真の恐ろしさはその効能ではなく、帝都の「欲望」をコントロールする力にありました。

 わたくしは、村の唯一の連絡係である信頼できる行商人のグレンさんに、この試作品を託しました。 「グレンさん、これを帝都の『ある場所』へ流してほしいのです。ただし、わたくしたちの名前は決して出さないでくださいね……?」

 わたくしが指定したのは、皇太子の政敵である公爵家や、教会の上層部が利用する最高級の薬局でした。 帝都の腐りきった貴族社会。 そこでは、健康と若さこそが何よりの武器であり、それを手に入れるためなら、彼らはどんな犠牲も厭いません。 わタルサムの蒼の月草が生み出す「奇跡」が、独り歩きして帝都を蝕み始める……。 それこそが、わたくしが仕掛けた第一の罠でした。

 数日後、書斎で資料を整理していたわたくしの元へ、ラッシュ様が険しい表情で入ってこられました。 「ミーシア、帝都から不穏な噂が届いたよ。君が流したあの薬が、向こうの貴族の間で文字通り『狂乱』を巻き起こしているらしい」

「あら、思っていたよりも早かったですわね⁉ 」

 わたくしは、淹れたてのハーブティーを楽しみながら、静かに微笑みました。 ラッシュ様は、わたくしの隣に腰を下ろし、その逞しい手でわたくしの肩を抱き寄せました。

「公爵家や教会が、その薬の『独占権』を巡って争いを始めたそうだ。マカリスタも、自分が手に入れられなかった奇跡が他人の手に渡ることを恐れ、焦り始めている。……君は、帝都の内部から彼らを自滅させるつもりだね⁉ 」

「ふふ、そこまで仰るなら隠せませんわね。彼らは欲が深すぎます。自分たちが追放した女が、自分たちの命を握る鍵を持っているとも知らずに……」

 わたくしの言葉に、ラッシュ様は感嘆のため息をつき、わたくしの額にそっと唇を寄せました。 「私の妻は、世界で一番美しく、そして恐ろしい。だが、その知恵こそが、私たちの未来を照らす唯一の光だ。愛しているよ、ミーシア」

 あなたのその信頼が、わたくしの何よりの原動力なのです。 帝都では今頃、モンローが自分に回ってこない「若返りの秘薬」の話を聞いて、キーキーと喚き散らしていることでしょう。 武力で攻める前に、まずは彼らの足元を揺るがす。 わたくしたちの復讐は、まだ始まったばかり。

 しかし、外の世界では着実に「嵐」が形作られていました。 帝都の城門を、重装歩兵の連隊がくぐり抜けたという知らせが入ったのです。 その数は五百。 一介の村を潰すにはあまりに過剰な、マカリスタ皇太子の「意地」と「恐怖」が具現化した軍勢。

「ラッシュ様、いよいよですわね……」

「ああ、ミーシア。バルザムの地が、帝国の墓場になることを教えてやろう」

 わたくしたちは、手を取り合い、窓の外に広がる黄金色の麦畑を見つめました。 そこには、自分たちの居場所を守るために武器を研ぐ、勇敢な村人たちの姿がありました。 もう、誰もわたくしたちから何も奪わせない。 この蒼い奇跡が咲き誇る大地で、わたくしたちは真の勝利を掴み取るのです……‼
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