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反撃の蒼光、帝都崩壊編
鉄の都の影、穢れた王座
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帝都の巨大な城壁が見えてきた時、わたくし、ミーシアを襲ったのは懐かしさではなく、胸を突くような不快な圧迫感でした。かつて憧れ、誇りとしていたこの都は、今やマカリスタ皇太子の強欲を具現化したかのように、灰色に澱んだ空気に包まれています。
道行く人々の顔には生気がなく、かつての華やかさは影を潜めていました。それもそのはず、マカリスタはバルザム遠征の失敗による国庫の損失を補うため、領民に重税を課し、さらには若者たちを強引に徴兵して、不気味な魔導実験の材料にしているという噂は真実だったのです。
「……ひどい匂いですわね。サフラスの香りとは程遠い、鉄と硫黄が混ざり合ったような、不浄な匂いですわ」
わたくしは馬車の窓から外を見ながら、思わず鼻を覆いました。隣に座るラッシュ様は、深く被ったフードの奥で、鋭い瞳を光らせています。
「ああ。魔導の力の乱用が、この都の精霊たちを汚してしまったんだろう。……ミーシア、まずは旧知の仲であるルナール伯爵の別邸へ向かおう。彼は表向きは皇太子に従っているが、裏では反旗を翻す機会を窺っているはずだ」
わたくしたちは身分を隠し、下層貴族や商人が利用する質素な宿を中継地点としながら、潜伏先へと向かいました。その途上、市場の裏路地で、一人の母親が病に伏した子供を抱えて泣き叫んでいる光景に遭遇したのです。
「お願い、誰か助けて‼ 息子が、息子がもう息をしていませんの‼ 神殿へ行っても、多額の献金がなければ祈祷もしてくれないなんて……」
その叫び声は、かつてわたくしがバルザムへ追放された時に感じた絶望そのものでした。わたくしはラッシュ様の制止を待たず、馬車を止めさせました。
「ミーシア、危険だ。まだ目立つわけには……」
「わかっていますわ、ラッシュ様。でも、わたくしがこの薬を抱えてきたのは、権力を奪い返すためだけではありません。……救える命を見捨てて、何が楽園の主でしょうか⁉ 」
わたくしの決然とした態度に、ラッシュ様は短く息を吐き、静かに頷きました。わたくしは馬車を降り、跪いて母親の元へ歩み寄りました。
「お母様、これを。……一口だけでいいですから、お子様に飲ませてあげて」
わたくしが取り出したのは、蒼の月草のエッセンスを凝縮した蒼の雫です。母親は疑いと藁をも掴む思いが混ざった表情でそれを受け取り、ぐったりとした少年の口に含ませました。
すると、どうでしょう。少年の青白かった頬にみるみるうちに赤みが差し、苦しげだった呼吸が穏やかな寝息へと変わったのです。
「あ、ああ……。神様、ありがとうございます……‼ このお方は、女神様だわ……‼ 」
周囲にいた人々が、奇跡を目の当たりにしてざわめき始めました。わたくしは騒ぎが大きくなる前に、リリカさんの手を取って馬車へと戻りました。
「奥様、かっこよかったですわ‼ でも、あの青い光を見られてしまいました。すぐに帝都の兵士たちに伝わってしまうかもしれません……」
「それでいいのよ、リリカさん。……わたくしたちがここに来たという『希望』を、まずは底辺の人々から広めていくの。マカリスタ様が一番恐れるのは、武器を持った兵士ではなく、希望を取り戻した民の心なのですから」
わたくしの言葉通り、この小さな奇跡は、その日のうちに帝都の下町へと広まっていきました。蒼い光を放つ謎の聖女と、かつての英雄ラッシュ・フォン・バルザムの帰還。その噂は、澱んだ帝都の空気に、清涼な風を吹き込み始めていたのです。
一方、潜伏先に到着したわたくしたちを待っていたのは、やつれ果てたルナール伯爵でした。彼はわたくしたちの姿を見るなり、崩れ落ちるようにして床に膝をつきました。
「公爵閣下……ミーシア様……。よくぞ、よくぞ戻ってくださいました……。もう、帝都は限界です。マカリスタ殿下は、禁忌の魔導兵器を完成させるため、今夜にも最後の大規模な生贄の儀式を行おうとしております……‼ 」
伯爵の口から語られたのは、想像を絶する悪行の数々でした。わたくしたちがバルザムで命を育んでいた間、この男は命を弄んでいたのです。わたくしは、握りしめた扇が折れんばかりに力を込めました。
「……マカリスタ様。貴方の傲慢な独りよがりに、終止符を打って差し上げますわ」
復讐の幕は、すでに上がっていました。わたくしの中に宿る蒼の月草の力が、邪悪な魔力を察知し、激しく共鳴し始めていたのです。
道行く人々の顔には生気がなく、かつての華やかさは影を潜めていました。それもそのはず、マカリスタはバルザム遠征の失敗による国庫の損失を補うため、領民に重税を課し、さらには若者たちを強引に徴兵して、不気味な魔導実験の材料にしているという噂は真実だったのです。
「……ひどい匂いですわね。サフラスの香りとは程遠い、鉄と硫黄が混ざり合ったような、不浄な匂いですわ」
わたくしは馬車の窓から外を見ながら、思わず鼻を覆いました。隣に座るラッシュ様は、深く被ったフードの奥で、鋭い瞳を光らせています。
「ああ。魔導の力の乱用が、この都の精霊たちを汚してしまったんだろう。……ミーシア、まずは旧知の仲であるルナール伯爵の別邸へ向かおう。彼は表向きは皇太子に従っているが、裏では反旗を翻す機会を窺っているはずだ」
わたくしたちは身分を隠し、下層貴族や商人が利用する質素な宿を中継地点としながら、潜伏先へと向かいました。その途上、市場の裏路地で、一人の母親が病に伏した子供を抱えて泣き叫んでいる光景に遭遇したのです。
「お願い、誰か助けて‼ 息子が、息子がもう息をしていませんの‼ 神殿へ行っても、多額の献金がなければ祈祷もしてくれないなんて……」
その叫び声は、かつてわたくしがバルザムへ追放された時に感じた絶望そのものでした。わたくしはラッシュ様の制止を待たず、馬車を止めさせました。
「ミーシア、危険だ。まだ目立つわけには……」
「わかっていますわ、ラッシュ様。でも、わたくしがこの薬を抱えてきたのは、権力を奪い返すためだけではありません。……救える命を見捨てて、何が楽園の主でしょうか⁉ 」
わたくしの決然とした態度に、ラッシュ様は短く息を吐き、静かに頷きました。わたくしは馬車を降り、跪いて母親の元へ歩み寄りました。
「お母様、これを。……一口だけでいいですから、お子様に飲ませてあげて」
わたくしが取り出したのは、蒼の月草のエッセンスを凝縮した蒼の雫です。母親は疑いと藁をも掴む思いが混ざった表情でそれを受け取り、ぐったりとした少年の口に含ませました。
すると、どうでしょう。少年の青白かった頬にみるみるうちに赤みが差し、苦しげだった呼吸が穏やかな寝息へと変わったのです。
「あ、ああ……。神様、ありがとうございます……‼ このお方は、女神様だわ……‼ 」
周囲にいた人々が、奇跡を目の当たりにしてざわめき始めました。わたくしは騒ぎが大きくなる前に、リリカさんの手を取って馬車へと戻りました。
「奥様、かっこよかったですわ‼ でも、あの青い光を見られてしまいました。すぐに帝都の兵士たちに伝わってしまうかもしれません……」
「それでいいのよ、リリカさん。……わたくしたちがここに来たという『希望』を、まずは底辺の人々から広めていくの。マカリスタ様が一番恐れるのは、武器を持った兵士ではなく、希望を取り戻した民の心なのですから」
わたくしの言葉通り、この小さな奇跡は、その日のうちに帝都の下町へと広まっていきました。蒼い光を放つ謎の聖女と、かつての英雄ラッシュ・フォン・バルザムの帰還。その噂は、澱んだ帝都の空気に、清涼な風を吹き込み始めていたのです。
一方、潜伏先に到着したわたくしたちを待っていたのは、やつれ果てたルナール伯爵でした。彼はわたくしたちの姿を見るなり、崩れ落ちるようにして床に膝をつきました。
「公爵閣下……ミーシア様……。よくぞ、よくぞ戻ってくださいました……。もう、帝都は限界です。マカリスタ殿下は、禁忌の魔導兵器を完成させるため、今夜にも最後の大規模な生贄の儀式を行おうとしております……‼ 」
伯爵の口から語られたのは、想像を絶する悪行の数々でした。わたくしたちがバルザムで命を育んでいた間、この男は命を弄んでいたのです。わたくしは、握りしめた扇が折れんばかりに力を込めました。
「……マカリスタ様。貴方の傲慢な独りよがりに、終止符を打って差し上げますわ」
復讐の幕は、すでに上がっていました。わたくしの中に宿る蒼の月草の力が、邪悪な魔力を察知し、激しく共鳴し始めていたのです。
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