転落令嬢と辺境公爵の開墾スローライフ~愛と勇気と知恵で、不毛の地に楽園を築きます!

紅葉山参

文字の大きさ
32 / 53
反撃の蒼光、帝都崩壊編

毒花の凋落と、狂王の胎動

しおりを挟む
 帝都の中心にそびえ立つ、豪奢ながらも冷酷な輝きを放つ皇太子宮。その最上階にある豪華な寝室では、かつての社交界の華、モンロー・フォン・バートリーが、鏡に向かって狂ったように化粧を塗りたくっていました。

「……どうして⁉ なぜ、消えないのよ⁉ この痣が、この皺が……‼ わたくしは世界で一番美しく、誰よりも輝いているはずなのに……‼ 」

 彼女の叫び声は、喉を掻き切るような不快な響きを持っていました。鏡に映っているのは、かつての美貌を微かに留めているものの、肌は土気色に変色し、目の下には深い隈が刻まれた無残な女の姿。

 ミーシアがバルザムから放った蒼の雫は、それを手に入れられなかったモンローの精神を完全に破壊していました。彼女は偽の薬師たちに騙され、禁忌の魔導を込めた粗悪な美容薬を使い続けた結果、肉体が内側から崩壊し始めていたのです。

 そこへ、冷たい靴音を響かせてマカリスタ皇太子が入ってきました。彼は、かつて愛でるように触れていたモンローの髪を一瞥することさえせず、不機嫌そうに窓の外を眺めました。

「見苦しいぞ、モンロー。そんな醜い顔で喚き散らす暇があるなら、少しは黙っていろ。……ミーシアが、都に入ったという報告があった」

「なっ……ミーシアが⁉ あの女がなぜここに⁉ マカリスタ様、早く、早くあの女を捕まえて、その心臓を差し出させてください‼ あの女の血を浴びれば、わたくしの美しさは戻るはずですわ‼ 」

 モンローがマカリスタの足元に縋り付きましたが、皇太子は彼女をゴミでも見るかのように蹴り飛ばしました。

「血だと⁉ 愚かなことを言うな。あの女が持っているのは、植物の生命力を自在に操る、神の領域の技術だ。……バルカスが負けたのは、武力の差ではない。あの女が、この世界の理を書き換えたからだ」

 マカリスタの瞳には、愛など一片もなく、ただ狂気的な独占欲と恐怖が渦巻いていました。彼は、自分が捨てたはずのミーシアが、自分を遥かに超越する力を手に入れたことが許せなかったのです。

「……バルザムの聖女か。笑わせるな。私が認めない奇跡など、この世には存在せん。カシアン‼ 準備はどうなっている⁉ 」

 影から這い出るように現れたカシアン伯爵は、前回の敗北からすっかり萎縮し、声も震えていました。

「は、はい、殿下……。地下祭壇の魔導炉は最大出力に達しております。蒼の月草のサンプルから抽出したエネルギーと、捕らえた徴兵たちの生命力を結合させれば……今夜中に、不死の軍団『黒騎士』が完成いたします……‼ 」

「よろしい。それがあれば、帝都の反乱分子も、バルザムの残りカスも、すべて灰にできる。……ミーシア、君が育てた力を、君自身を滅ぼすための武器に変えてやろう。これこそが、最高の『ざまぁ』ではないか⁉ 」

 マカリスタは、窓ガラスを叩き割らんばかりの勢いで拳を叩きつけ、高笑いを上げました。その背後で、モンローは泥を舐めるようにして床に伏せ、憎悪に満ちた目でミーシアの名を呪い続けていました。

 その頃、潜伏先のわたくしたちは、ルナール伯爵が提供してくれた帝都の地下水道の地図を囲んでいました。皇太子宮の真下にある広大な地下空間こそが、悪魔の実験場であり、決戦の舞台となります。

「ミーシア、私は騎士たちを率いて地上から陽動をかける。君はリリカと共に地下へ潜り、魔導炉の核となっている蒼の月草を解放してほしい。……これは君にしかできない仕事だ」

 ラッシュ様がわたくしの手を取り、その指先に静かな口づけを落としました。その仕草には、わたくしへの全幅の信頼と、決して離さないという誓いが込められていました。

「承知いたしました、ラッシュ様。……わたくし、悲しいですわ。あんなに美しい月草が、悲鳴を上げているのが聞こえるのです。……彼らを救い出し、マカリスタ様の野望を、文字通り根こそぎ枯らして差し上げます」

「奥様、私も一緒です‼ バルザムで学んだ植物の知恵、ここで全部ぶつけてやりますわ‼ 」

 リリカさんが、頼もしく胸を張りました。彼女もまた、かつての弱かった自分を捨て、大切な場所を守るための戦士へと成長していました。

 夜の帳が帝都を包み、月が不気味な紅い光を放ち始めました。 マカリスタの狂気が頂点に達しようとするその時、わたくしたちの静かな反撃が始まろうとしていました。

 帝都の毒花を摘み取り、真の春を呼び戻すために。 わたくし、ミーシア・フォン・バルザムの、本当の『正義』を今、示します。

 マカリスタ様、モンロー様。 覚悟はよろしいでしょうか……⁉ 貴方たちが作り上げた偽りの楽園は、今夜、わたくしの蒼い炎によって跡形もなく消え去ることになるのですから……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病弱設定されているようです

との
恋愛
『あのようにご立派な家門にお産まれになられたのに⋯⋯お可哀想なご令嬢だそうですのよ』 なんて噂が流れているけれど、誰も会ったことがないミリー・ミッドランド侯爵令嬢。 ネグレクトなんて言葉はない時代に生まれ落ちて、前世の記憶を取り戻したら⋯⋯。 前世の記憶と共に無双します! 再開しました。完結まで続投です。 ーーーーーー 恋愛小説大賞27位、ありがとうございました(感謝) ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定。 完結確定、R15は念の為・・

捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。

亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。 だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。 婚約破棄をされたアニエル。 だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。 ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。 その相手とはレオニードヴァイオルード。 好青年で素敵な男性だ。 婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。 一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。 元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……

【完結】恋が終わる、その隙に

七瀬菜々
恋愛
 秋。黄褐色に光るススキの花穂が畦道を彩る頃。  伯爵令嬢クロエ・ロレーヌは5年の婚約期間を経て、名門シルヴェスター公爵家に嫁いだ。  愛しい彼の、弟の妻としてーーー。  

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

貧乏子爵令嬢ですが、愛人にならないなら家を潰すと脅されました。それは困る!

よーこ
恋愛
図書室での読書が大好きな子爵令嬢。 ところが最近、図書室で騒ぐ令嬢が現れた。 その令嬢の目的は一人の見目の良い伯爵令息で……。 短編です。

師匠の嫉妬で才能を奪われた薬師見習いの私、牢獄で本物の力を取り戻す

er
恋愛
辺境貴族の娘セシリアは宮廷薬師見習いとして働くが、師匠エリザから無能と罵られ続ける。疫病が王都で流行すると、エリザはセシリアに濡れ衣を着せ処刑させようとする。

【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!

たまこ
恋愛
 エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。  だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...