転落令嬢と辺境公爵の開墾スローライフ~愛と勇気と知恵で、不毛の地に楽園を築きます!

紅葉山参

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反撃の蒼光、帝都崩壊編

独立の誓いと、忍び寄る欲の影

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 宴から一夜明け、わたくしたちは公爵邸の書斎で、皇帝陛下から託された一通の親書を開きました。 そこには、バルザムの地に関する歴史的な決定が記されていました。

「……バルザム特区。帝国政府の干渉を一切受けない、完全なる自治権の付与……。これは、実質的な独立国としての扱いですね、ラッシュ様」

 わたくしが読み上げると、ラッシュ様は力強く頷きました。

「ああ。皇帝陛下は、マカリスタがこの地に働いた無礼を、この上ない形で償ってくださった。……これで、バルザムは誰の顔色も伺うことなく、君の知識と私の剣で、理想の楽園を築くことができる」

 バルザム独立特区。 それは、わたくしたちが手に入れた「真の自由」の証でした。 これからは、帝都の政治的な駆け引きに翻弄されることなく、大地の声に耳を傾け、命を育むことに専念できます。

 しかし、光が強ければ、影もまた濃くなるものです。 平和な空気に包まれるバルザムに、不快な「羽音」が忍び寄ってきました。

「奥様、困った方々が門の前にいらしていますわ……」

 リリカさんが、露骨に嫌そうな顔をして報告に来ました。 彼女の手には、金縁の豪華ながらも、どこか古臭い紋章が刻まれた名刺が握られていました。

「……フォン・ドレイク男爵。……わたくしの、実家の父、ですか」

 わたくしはその名を聞いた瞬間、背筋に冷たいものが走るのを感じました。 あの日、マカリスタ様から婚約破棄を言い渡された時。 実の娘であるわたくしを「家の恥さらし」と罵り、一銭の持参金も持たせずに着の身着のままで追い出した、あの父。

「……入れて差し上げて。今のわたくしには、もう彼らを恐れる理由はありませんわ」

 わたくしはラッシュ様の制止を制し、応接室へと向かいました。 そこに座っていたのは、かつての尊大さはどこへやら、薄汚れた燕尾服に身を包み、卑屈な笑みを浮かべたドレイク男爵と、わたくしの義母と義妹でした。

「おお、ミーシア!  我が家の自慢の娘よ!  よくぞ、よくぞ生き延びてくれた!  お前が『バルザムの聖女』として帝都を救ったと聞いた時は、父として涙が止まらなかったぞ!」

 男爵はわたくしの姿を見るなり、涙ぐむ芝居をしながら駆け寄ってこようとしました。 ですが、傍らに控えるラッシュ様の鋭い気迫に気圧され、その場で立ち止まりました。

「お父様、お久しぶりですわ。……お忘れかもしれませんが、わたくしはあの日、貴方によってドレイク家から除籍され、縁を切られたはずです。……今のわたくしは、バルザム公爵夫人。貴方の『娘』ではございませんわ」

 わたくしの冷徹な言葉に、義母が必死になって口を挟みました。

「そんな水臭いことを言わないで、ミーシアちゃん!  あれはマカリスタ様の圧力が怖くて、仕方なくしたことなのよ。……実は今、ドレイク家は多額の借金で首が回らなくてね。……ほら、お前が持っているあの『蒼の雫』、少し分けてくれれば、すべて解決するのよ」

「……ざまぁございませんわね」

 わたくしの隣で、リリカさんがポツリと、けれどはっきりと呟きました。 その通りです。わたくしを捨て、マカリスタ様に媚びへつらっていた彼らは、主君の失脚と共に没落し、今やその日暮らしの困窮に陥っていたのです。

「お帰りください。……わたくしの薬は、命を救うためのものであって、欲に塗れた人々の財布を潤すためのものではありません。……もし二度とわたくしたちの前に現れるなら、不法侵入としてバルザムの法で裁かせていただきますわ」

 わたくしが静かに告げると、男爵たちは顔を真っ青にして、捨て台詞を吐きながら逃げ出していきました。 かつてのわたくしなら、彼らの言葉に傷ついていたかもしれません。 けれど今のわたくしには、守るべき大地があり、愛してくれる家族がいます。

「ミーシア。……毅然とした対応だったね。誇りに思うよ」

 ラッシュ様がわたくしの肩を抱き寄せました。 ですが、不穏な影は彼らだけではありませんでした。 窓の外、バルザムの国境近くの山脈から、見たこともない紋章を掲げた鳥が飛び立っていくのが見えました。

「……ラッシュ様。あれは隣国、ザルツブルク王国の偵察鳥ではありませんか?」

 ラッシュ様の表情が、瞬時に戦士のそれへと変わりました。 「ああ。……帝都の弱体化と、バルザムの驚異的な発展。それを隣国が見逃すはずがない。……どうやら、本当の試練はこれから始まるようだね」

 第3章が終わり、物語は激動の第4章へと突入します。 内部の敵を倒したわたくしたちの前に立ちふさがるのは、国境を越えた巨大な野望。 けれど、不毛の地を楽園に変えたわたくしたちの絆は、どんな軍隊よりも強く、しなやかです。

「受けて立ちましょう、ラッシュ様。……バルザムの蒼い光を、今度は世界に知らしめる時ですわ」

 わたくしたちは、さらなる高みを目指して、再び歩み始める決意を固めました。
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