転落令嬢と辺境公爵の開墾スローライフ~愛と勇気と知恵で、不毛の地に楽園を築きます!

紅葉山参

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聖域の盾、動乱の世界

太陽を喰らう焔、蒼き防壁の目覚め

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 ハインリヒ将軍の先遣隊が「更生」という名の農作業に従事し始めた頃。 ザルツブルク本国では、この敗報を受けた国王が、怒りに震えていました。

「……たかが植物学者の女に、我が精鋭が膝を屈しただと!? 許さぬ。……あの地を、根こそぎ焼き払え!! 」

 北の王が放ったのは、国際条約で禁じられた、古代魔導兵器「日輪の業火(ソーラー・フレア)」でした。 それは、大気中の魔力を集束させ、地上の一点を太陽のごとき高熱で焼き尽くす、最悪の大量破壊兵器です。

 翌日。 バルザムの空に、不自然な「二つ目の太陽」が現れました。 恐ろしい熱波が地上に降り注ぎ、森の木々が苦しげに葉を丸め、大地が悲鳴を上げ始めました。

「……奥様! 空が、空が燃えていますわ!! このままでは、月草たちが枯れてしまいます!! 」

 リリカさんが、必死に水を撒きながら叫びました。 ですが、この異常な熱の前では、普通の水など一瞬で蒸発してしまいます。

 わたくしは、公爵邸の屋上に立ち、空に浮かぶ巨大な魔導陣を見上げました。 ラッシュ様が、剣の柄を固く握り締め、わたくしの横に立ちました。

「ミーシア……。あれは人の手で対抗できる規模ではない。……全住民を地下壕へ避難させるべきか」

「いいえ、ラッシュ様。……逃げる必要はありません。……あのような傲慢な火遊び、わたくしの植物たちが許しませんわ」

 わたくしは、胸元に下げた「蒼の雫」の結晶に、すべての意識を集中させました。 これまでバルザム全土に張り巡らせてきた、蒼の月草のネットワーク。 そのすべてに、一斉に命令を下します。

「吸い上げなさい、命の源を。……空からの怒りを、貴方たちの輝きに変えるのです!! 」

 わたくしの声に応えるように、バルザムの森から、無数の蒼い光の柱が天に向かって立ち昇りました。 それは、月草たちが持つ、驚異的な「魔力吸収能力」と「蒸散作用」を極限まで高めた結果でした。

 空に立ち込める霧が、瞬く間に濃密な「蒼の結界」へと姿を変えていきます。 魔導兵器が放つ高熱の光線が、その結界に接触した瞬間。 バチバチという激しい音と共に、熱エネルギーがすべて蒼い光へと変換され、地中に還元されていったのです。

「な……!? 熱くない……。むしろ、涼しいくらいですわ! 」

 リリカさんが驚いて空を仰ぎました。 降り注いでいた死の光は、月草のフィルターを通ることで、植物の成長を促す「慈しみの光」へと浄化されていました。

「……馬鹿な。王国の最終兵器が、ただの植物に吸い尽くされているというのか……? 」

 遠くの丘からその様子を観測していたザルツブルクのスパイたちが、絶望に顔を白くしていました。 彼らは、自分たちが放った攻撃が、皮肉にもバルザムの土地をさらに豊かにする「肥料」にされていることに気づいていなかったのです。

「ラッシュ様。……攻勢に転じるのは、今ですわ。……相手の魔力が枯渇したこの瞬間を、逃さないで」

「ああ、承知した。……これこそが、我が妻が誇る最高の防壁だ。……全軍、突撃!! 略奪者たちに、真の勇気とは何かを教えてやれ!! 」

 蒼い光に包まれたバルザムの騎士たちが、光の矢となって国境へと駆け抜けていきました。 最新の魔導兵器すらも栄養に変えてしまう、究極の「ざまぁ」。 世界はついに知ることになります。 一人の植物学者が、一国の軍隊よりも遥かに恐ろしく、そして尊い存在であることを。
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