転落令嬢と辺境公爵の開墾スローライフ~愛と勇気と知恵で、不毛の地に楽園を築きます!

紅葉山参

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聖域の盾、動乱の世界

寄生植物の排除、あるいは真実の毒

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 運び出された植物は、巨大な蕾を持った「吸欲アザミ」と呼ばれる品種でした。これはミーシア様が、土壌から有害な魔力を取り除くために開発したもので、周囲に強い「欲」や「悪意」を持つ者がいると、その感情を吸い上げて急成長する性質を持っていました。

「な、何だこの不気味な草は。……ミーシア、ふざけているのか?」

「ふざけてなどおりませんわ。これは、バルザムで働くすべての者が最初に受ける『適性検査』です。……もし貴方たちが、本当にわたくしを家族として愛し、共にこの地を豊かにしたいと願っているなら、この花は美しい蒼色に染まるでしょう」

 ミーシア様は静かに告げました。

「ですが、もし貴方たちの心に、わたくしを利用し、バルザムの富を貪ろうとする寄生虫のような考えがあるならば……。このアザミは、その毒を吸い尽くして、貴方たちを『浄化』することになります」

「そ、そんな馬鹿なことが……。おい、やめなさいミーシア!」

 継母が逃げ出そうとしましたが、ラッシュ様の合図で騎士たちが退路を断ちました。 逃げ場を失ったドレイク一家の周囲で、吸欲アザミの蕾が不気味に脈打ち始めました。

 その瞬間でした。 アザミの隙間から噴き出したのは、鼻を突くような腐敗臭と、どす黒い粘液を伴った蔦でした。それは、ドレイク男爵たちの足首に絡みつき、彼らが抱いていた汚らわしい欲望を可視化するように、どす黒い棘を次々と芽吹かせました。

「ギャアアア! 熱い、体が熱い! 離せ、この化け物め!」

「お、お父様! お母様! 助けて、服が汚れるわ!」

 義妹の悲鳴が響き渡りますが、アザミは容赦しませんでした。彼らがミーシア様に対して抱いていた、ドロドロとした妬み、傲慢さ、そして一方的な搾取の心が、そのまま植物の糧となって彼らを締め付けていきます。

「……これが、貴方たちの正体ですわ。わたくしに縋りながら、心の中では『あの地味な女にできるなら、私にできないはずがない』『隙を見て種を盗んでやろう』と考えていたのでしょう?」

 ミーシア様の言葉に、男爵は顔を真っ青にして黙り込みました。 彼らは知らなかったのです。ミーシア様の植物学が、もはや農耕の域を超え、人の魂の真贋を見極める「法」の領域に達していることを。

「ラッシュ様。……彼らをバルザムの法に則り、処置してくださいませ。……殺す必要はありません。ですが、この地を汚そうとした罪は、相応の労働で贖ってもらわねばなりませんわ」

「ああ、承知した。……ちょうど、北部の開拓地で『人手』が足りなくて困っていたところだ。……罪人たちを更生させるための、最も過酷な肥料運びの仕事がある」

 ラッシュ様の冷徹な宣言に、ドレイク一家は力なくその場に崩れ落ちました。 かつてミーシア様を追い出し、贅沢の限りを尽くしていた彼らが、今度はミーシア様の慈悲によって「生きながらえ」、泥にまみれて働くことになる。 これこそが、命を軽んじた者への、大地からの最も残酷な回答でした。

「……連れて行け。二度と、私の妻の視界に入る場所へは出すな」

 騎士たちに引きずられていく彼らの背中を、ミーシア様は一度も振り返ることなく見送りました。 かつてのトラウマは、今、完全に昇華されました。 わたくしを捨てた過去は、今やバルザムを豊かにするための「肥料」に過ぎないのだから。

 その日の夕暮れ。 バルコニーでラッシュ様と並んでお茶を飲むミーシア様は、どこか吹っ切れたような、晴れやかな表情をしていました。

「……終わりましたわね、ラッシュ様」

「ああ。……だが、ドレイク家がここまで落ちぶれて這い寄ってきたということは、帝都の情勢は我々の想像以上に混迷しているということだ。……ミーシア、次はもっと大きな波が来るかもしれない」

「構いませんわ。……どんな嵐が来ようとも、わたくしはこの地に根を張り、貴方と共に咲き続けると決めておりますから」

 二人の誓いは、夜の静寂の中に溶けていきました。 第4章の折り返し。 ミーシア様の「聖域」は、今や寄生虫を排除し、真の意味で自立した最強の楽園へと進化を遂げようとしていました。
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