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追放の日の宣告と出発
王妃候補指名と、トロイセンを覆う希望の光
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食糧流通の不正についてロキニアス王と密談を交わした翌日、スーザンの地位はさらに確固たるものとなった。
ロキニアスは、スーザンに与えた「全権代理人」という密命を支えるため、彼女の立場を公的に守る必要があると判断したのだ。彼の行動は迅速だった。
王宮の広間には、宰相グスタフを筆頭とする保守派の貴族たちと、武官たちが集められた。厳かな空気が広間を満たしている。スーザンはロキニアスの隣、本来であれば王妃が立つべき位置に立つよう命じられた。
グスタフは、不満を隠さずにスーザンを一瞥したが、ロキニアスの冷たい眼光に逆らうことはできなかった。
ロキニアスは、玉座から立ち上がり、その圧倒的な存在感をもって広間に集まった貴族たちを一掃した。
「貴様らを集めたのは、今日、トロイセン王国の未来に関わる重大な決定を伝えるためだ」
彼の低い声が、広間に響き渡る。
「先日、帝国から和平の使者として、スーザン皇女がこの地に参った。当初、彼女の立場は単なる生贄であったかもしれない。しかし、この数日間で、私は彼女の類まれなる知恵と、国を思う心を、誰よりも深く理解した」
ロキニアスは、隣に立つスーザンに視線を向けた。その銀色の瞳には、冷酷さではなく、深い信頼と、抑えきれない熱のようなものが宿っている。
「彼女の助言と、もたらした異国の知恵によって、私の疲弊していた体は急速に回復した。これは単なる偶然ではない。彼女の持つ力が、このトロイセンを内側から強化できる証拠だ」
保守派の貴族たちは、互いに顔を見合わせる。彼らの懸念は、ロキニアスがスーザンの魅力に惑わされているのではないかという点だったが、ロキニアスの語る言葉はあくまで「国力」と「王の健康」という、論理的なものだった。
ロキニアスは、決定的な言葉を告げた。
「よって、私は今日、この場で公的に宣言する。スーザン皇女を、トロイセン王国の『王妃候補』として正式に指名する」
広間は、一瞬の沈黙の後、爆発的なざわめきに包まれた。
「近いうちに、私は彼女と婚礼を挙げ、トロイセン王妃として迎え入れる。この決定は、我が国の国益と、和平の確固たる証しとして、誰にも覆すことは許されない」
ロキニアスの言葉は、彼自身の意志の強さを示していた。これは、グスタフ宰相ら保守派の貴族たちの、スーザンを排斥しようとする動きに対する、王による完全な牽制だった。
グスタフは、苦渋の表情で一歩前に出た。
「陛下……それはあまりにも早計ではございませんか。彼女は未だ、帝国の血を引く異国の娘に過ぎません。王妃の座は、この国の血を……」
「グスタフ」ロキニアスは静かに、しかし有無を言わせぬ圧力で、宰相の言葉を遮った。
「私が求めているのは、古い血筋ではない。この国を、そして私自身を、強くする力だ。スーザンはその力を持っている。貴様の忠誠心は知っているが、この件にこれ以上異議を唱えるのであれば、それは私の命と、トロイセンの未来に異を唱えることと同義と見なす」
ロキニアスは、完全にスーザンの味方についた。彼の激しい執着と独占欲は、公の場においても、彼女を守る盾となったのだ。
スーザンは、この瞬間、自分がロキニアス王にとって、単なる生贄や客人ではなく、最も重要な存在として認識されていることを確信した。
(これで、私は安全になった。そして、王の全権代理人としての内政改革に、誰も表立って逆らえなくなる)
スーザンは、ロキニアスの期待に応えるため、一歩前に進み出た。
「ロキニアス王に、心より感謝申し上げます。わたくしは、トロイセン王妃となる者として、この国の食糧事情の改善、そして国力の向上に、持てる全ての知識と知恵を捧げることを誓います」
彼女の言葉は、貴族たちの不満を和らげる効果があった。彼らが聞きたかったのは、彼女が王に媚びる言葉ではなく、この国の利益のために尽くすという誓いだったからだ。
ロキニアスは、スーザンの誓いを聞き、満足そうに頷いた。彼の顔に浮かぶ微かな安堵の表情は、長年の重圧から解放されつつある王の、人間的な弱さを見せていた。
その日の午後、王妃候補となったスーザンは、公的に王宮内の図書館と資料室へのアクセス権を与えられた。彼女は早速、食糧流通の不正に関わる貴族や商人のネットワーク、そして彼らが抱える領地の問題について、詳細な調査を開始した。
スーザンの神眼と前世の知識が、今、トロイセンという国の内政という、壮大な舞台で、その真価を発揮しようとしていた。
ロキニアスは、スーザンに与えた「全権代理人」という密命を支えるため、彼女の立場を公的に守る必要があると判断したのだ。彼の行動は迅速だった。
王宮の広間には、宰相グスタフを筆頭とする保守派の貴族たちと、武官たちが集められた。厳かな空気が広間を満たしている。スーザンはロキニアスの隣、本来であれば王妃が立つべき位置に立つよう命じられた。
グスタフは、不満を隠さずにスーザンを一瞥したが、ロキニアスの冷たい眼光に逆らうことはできなかった。
ロキニアスは、玉座から立ち上がり、その圧倒的な存在感をもって広間に集まった貴族たちを一掃した。
「貴様らを集めたのは、今日、トロイセン王国の未来に関わる重大な決定を伝えるためだ」
彼の低い声が、広間に響き渡る。
「先日、帝国から和平の使者として、スーザン皇女がこの地に参った。当初、彼女の立場は単なる生贄であったかもしれない。しかし、この数日間で、私は彼女の類まれなる知恵と、国を思う心を、誰よりも深く理解した」
ロキニアスは、隣に立つスーザンに視線を向けた。その銀色の瞳には、冷酷さではなく、深い信頼と、抑えきれない熱のようなものが宿っている。
「彼女の助言と、もたらした異国の知恵によって、私の疲弊していた体は急速に回復した。これは単なる偶然ではない。彼女の持つ力が、このトロイセンを内側から強化できる証拠だ」
保守派の貴族たちは、互いに顔を見合わせる。彼らの懸念は、ロキニアスがスーザンの魅力に惑わされているのではないかという点だったが、ロキニアスの語る言葉はあくまで「国力」と「王の健康」という、論理的なものだった。
ロキニアスは、決定的な言葉を告げた。
「よって、私は今日、この場で公的に宣言する。スーザン皇女を、トロイセン王国の『王妃候補』として正式に指名する」
広間は、一瞬の沈黙の後、爆発的なざわめきに包まれた。
「近いうちに、私は彼女と婚礼を挙げ、トロイセン王妃として迎え入れる。この決定は、我が国の国益と、和平の確固たる証しとして、誰にも覆すことは許されない」
ロキニアスの言葉は、彼自身の意志の強さを示していた。これは、グスタフ宰相ら保守派の貴族たちの、スーザンを排斥しようとする動きに対する、王による完全な牽制だった。
グスタフは、苦渋の表情で一歩前に出た。
「陛下……それはあまりにも早計ではございませんか。彼女は未だ、帝国の血を引く異国の娘に過ぎません。王妃の座は、この国の血を……」
「グスタフ」ロキニアスは静かに、しかし有無を言わせぬ圧力で、宰相の言葉を遮った。
「私が求めているのは、古い血筋ではない。この国を、そして私自身を、強くする力だ。スーザンはその力を持っている。貴様の忠誠心は知っているが、この件にこれ以上異議を唱えるのであれば、それは私の命と、トロイセンの未来に異を唱えることと同義と見なす」
ロキニアスは、完全にスーザンの味方についた。彼の激しい執着と独占欲は、公の場においても、彼女を守る盾となったのだ。
スーザンは、この瞬間、自分がロキニアス王にとって、単なる生贄や客人ではなく、最も重要な存在として認識されていることを確信した。
(これで、私は安全になった。そして、王の全権代理人としての内政改革に、誰も表立って逆らえなくなる)
スーザンは、ロキニアスの期待に応えるため、一歩前に進み出た。
「ロキニアス王に、心より感謝申し上げます。わたくしは、トロイセン王妃となる者として、この国の食糧事情の改善、そして国力の向上に、持てる全ての知識と知恵を捧げることを誓います」
彼女の言葉は、貴族たちの不満を和らげる効果があった。彼らが聞きたかったのは、彼女が王に媚びる言葉ではなく、この国の利益のために尽くすという誓いだったからだ。
ロキニアスは、スーザンの誓いを聞き、満足そうに頷いた。彼の顔に浮かぶ微かな安堵の表情は、長年の重圧から解放されつつある王の、人間的な弱さを見せていた。
その日の午後、王妃候補となったスーザンは、公的に王宮内の図書館と資料室へのアクセス権を与えられた。彼女は早速、食糧流通の不正に関わる貴族や商人のネットワーク、そして彼らが抱える領地の問題について、詳細な調査を開始した。
スーザンの神眼と前世の知識が、今、トロイセンという国の内政という、壮大な舞台で、その真価を発揮しようとしていた。
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