虐げられし陰の皇女ですが、生贄嫁いだ隣国で「蛮王」に甘く愛され、飯テロ&内政チートで国を救うことになりました

紅葉山参

文字の大きさ
10 / 12
飯テロと溺愛の加速、そして王妃への道のり

正式な婚礼と、国を救う初めての「飯テロ」

しおりを挟む
 スーザンが内政改革の第一歩として流通システムに手を加えてから、わずか一ヶ月が過ぎた。王宮に届けられる食糧の質は劇的に改善し、兵士たちの食事にも栄養価の高い食材が回り始めた。目に見える変化は、王の健康だけでなく、兵士たちの士気にも好影響を与え、スーザンに対する王宮内の評価は、単なる「王の寵愛を受ける女」から、「王の命運を握る賢女」へと変わりつつあった。

 そして、ロキニアス王とスーザンの婚礼の日が訪れた。

 婚礼は、派手な外交儀礼を嫌うロキニアスの方針により、最小限の規模で行われた。しかし、トロイセン王国の最高位の貴族と武官たちが集結し、厳粛な雰囲気の中で執り行われた。

 スーザンは、トロイセンの伝統的な衣装に身を包んだ。それは、豪華絢爛な帝国のドレスとは異なり、動きやすくも威厳のある、厚手の革と上質な布を組み合わせたものだった。

 ロキニアスは、正装の鎧を纏い、いつもの冷酷な仮面を維持していたが、スーザンと向かい合い、誓いの言葉を交わす際、彼の銀色の瞳には、誰にも気づかれないほどの微かな熱が宿っていた。

「スーザン・ロア・マドレス。貴様は今日より、トロイセン王国の正式な王妃である。我が命ある限り、この国と、貴様を守り抜くことを誓う」

 誓いの口づけは、儀礼的なものだったが、ロキニアスの唇は冷たく、そして力強かった。その瞬間、スーザンは自分がこの国の運命と、この蛮王の孤独な魂を、完全に背負うことになったのだと実感した。

 婚礼の儀式が終わると、スーザンは早速、王妃としての公務を開始した。彼女の最初の公務は、王宮内の食堂で、兵士たちのための「栄養改善プログラム」を発動することだった。

「王妃殿下、兵士の食事までご心配いただかなくても……」

 グスタフ宰相は、いまだスーザンに不信感を抱いていたが、王の命令と、流通改善の実績を前に、表立って反対はできなかった。

「宰相殿。兵士こそが、このトロイセンの盾であり剣です。彼らの体力が回復しなければ、国力は上がりません。そして、栄養はただの食事ではなく、戦術です」

 スーザンは、公の場で、自らの知識を初めて披露した。

 彼女は、兵士たちのための新しい食事体系を提案した。それは、彼女の知識と神眼で特定された、栄養価の高いトロイセン産の穀物と野菜を組み合わせた、「パワー飯」と呼ばれるものだ。具体的には、米に様々な豆類と乾燥野菜を混ぜて炊き込み、発酵調味料で味付けした、いわゆる五穀米と具沢山の味噌汁の組み合わせだった。

「これは……味が濃く、力強い。だが、これまでになく、身体に染みわたる」

 兵士たちが一口食べると、驚きの声を上げた。彼らは日頃から塩辛い乾燥肉や硬いパンに慣れていたが、スーザンの作る食事は、素材の旨味と深いコクがありながらも、胃に優しく、持続的なエネルギーを与えるものだった。

 スーザンは、この「飯テロ」を通じて、兵士たちに直接訴えかけた。

「皆様が戦場で命を懸けられるのは、健康な体と、確固たる士気があってこそです。わたくしは王妃として、皆様の体力を維持する責任があります。この食事は、皆様の命を守る盾となるでしょう」

 この行動は、たちまち兵士たちの間で絶大な人気を呼んだ。スーザンは、上流階級の貴族だけでなく、国の基盤である兵士たちの支持も獲得したのだ。

 その夜、ロキニアスは、王妃となったスーザンの部屋を訪れた。

 彼の纏う鎧は脱がれ、動きやすい簡素な服姿だ。彼はスーザンを寝台に座らせると、自分もその隣に腰を下ろした。

「兵士の食事改善。なかなかやる」ロキニアスは素直に褒めた。

「彼らが元気になれば、王の負担が減りますから」

「ふん。そうか。だが、貴様が他の男たちに優しく振る舞うのは、見ていて気が散る」

 ロキニアスは、スーザンの顔を両手で包み込んだ。彼の大きな手は、彼女の小さな顔をすっぽりと覆い隠してしまう。

「貴様の優しさと知恵は、私と、この国のためにだけ使え。他の誰にも、貴様の温かさに触れさせるな」

 彼の銀色の瞳には、冷酷さではなく、燃えるような独占欲が浮かんでいた。それは、もはや蛮王の仮面を脱ぎ捨てた、一人の男としての激しい感情だった。

「王よ……わたくしは、王の王妃です。わたくしのすべては、この国と、王のためにあります」

 スーザンは、彼の手に自分の手を重ね、力強く頷いた。その瞬間、ロキニアスは、スーザンの額に深く、そして長い口づけを落とした。

 それは、儀礼的な誓いではなく、二人の魂を強く結びつける、情熱と執着の証だった。蛮王の溺愛は、ここから加速し、トロイセンの国全体を巻き込む壮大な内政チートの物語が本格的に動き始める。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

あっ、追放されちゃった…。

satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。 母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。 ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。 そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。 精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。

私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。 

さくら
恋愛
 私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。  そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。  王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。  私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。  ――でも、それは間違いだった。  辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。  やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。  王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。  無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。  裏切りから始まる癒しの恋。  厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さくら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

お飾り王妃の愛と献身

石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。 けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。 ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。 国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。

逆行転生した侯爵令嬢は、自分を裏切る予定の弱々婚約者を思う存分イジメます

黄札
恋愛
侯爵令嬢のルーチャが目覚めると、死ぬひと月前に戻っていた。 ひと月前、婚約者に近づこうとするぶりっ子を撃退するも……中傷だ!と断罪され、婚約破棄されてしまう。婚約者の公爵令息をぶりっ子に奪われてしまうのだ。くわえて、不貞疑惑まででっち上げられ、暗殺される運命。 目覚めたルーチャは暗殺を回避しようと自分から婚約を解消しようとする。弱々婚約者に無理難題を押しつけるのだが…… つよつよ令嬢ルーチャが冷静沈着、鋼の精神を持つ侍女マルタと運命を変えるために頑張ります。よわよわ婚約者も成長するかも? 短いお話を三話に分割してお届けします。 この小説は「小説家になろう」でも掲載しています。

処理中です...