元公爵令嬢の私は冷酷な王子に嫌われましたが、最強辺境伯に溺愛されて幸せな人生を始めます!~地味メイドに転生した私のざまぁ逆転劇~

紅葉山参

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王都を離れ、辺境伯の馬車で知る優しさ

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王子の執務室を出てから、私は怒涛のような時間の流れの中にいた。

「エリス、君の私物は何かあるか」

「は、はい……と言っても、着替えと、ささやかな貯金だけです。全て、あのメイド部屋の隅に……」

ライオンハート様は私の返答に頷くと、付き従う騎士に指示を出した。彼の行動は一切の迷いがない。王子の逆鱗に触れたことなど、全く気にも留めていないようだった。

辺境伯は王都での滞在を切り上げ、その日のうちに辺境伯領へ向かうという。文字通り、【電撃的な求婚と連れ去り】だった。

王宮の裏門から馬車に乗り込む。その馬車は、王族のそれよりも質実剛健で、魔獣の襲撃にも耐えられるよう頑丈に造られていると聞いた。

馬車の中で、私はようやく息をつくことができた。私の正面には、ライオンハート様が座っている。彼の黒い軍服は、王都の貴族が着る華美な衣装とは違い、機能性と威厳を兼ね備えていた。

「……あの、ライオンハート様」

緊張で声が震える。

「君はもう、私に敬語を使う必要はない」

彼は静かに言った。その声は、執務室での鋼のような響きとは違い、どこか優しさを帯びていた。

「しかし、私は一介のメイドですし、辺境伯様の婚約者としては……」

「君はもう、王宮のメイドではない。そして、私の領地の未来の女主人だ。立場が変わったのだから、態度も改めるべきだろう」

彼の言葉に、私は戸惑いを覚えた。王子の下では、一挙手一投足に注意を払い、常に委縮していなければならなかったのに。

「……では、ライオンハート、様」

「呼び方も変えろ。これからは、私のことを【ライオンハート】と呼んでほしい」

ライオンハート。彼の本名だ。

私は顔が熱くなるのを感じた。公の場ではライオンハート公爵、あるいは辺境伯と呼ばれる彼を、下の名前で呼ぶなど、恐れ多いことだ。

「ラ、ライオンハート様……」

「よし。そして、君のことはエリス、と呼んでいいか」

「はい……」

「エリス」

ライオンハート様は、私の名前を呼んだ。その響きは、私を「厄介な影」と罵ったアスモデウス王子の声とは全く違う。

「君は、どうしてあんなにもアスモデウス殿下に嫌われていた」

単刀直入な質問に、私は息を呑んだ。

「それは……私にも分かりません。ただ、殿下は私の地味な外見や、能無しのメイドであることに苛立ちを覚えていたのだと思います」

「そうか」

ライオンハート様はそう言って、馬車の窓の外に視線を向けた。

「だが、私は違う」

彼の視線が、再び私に戻る。

「君の灰色の髪は、辺境の雪山を思わせる、静かで美しい色だ。そして、その瞳は、絶望の中でも光を探し続ける、__強い意志__を宿している。私はそれを見た」

彼が私を求めた理由。それは、私の前世の公爵令嬢としての記憶や能力ではなく、__今の私__の持つ【精神的な強さ】だった。王宮で耐え忍んできた日々が、彼には輝きに見えたというのか。

「あの飾り皿の件も、君ではないだろう」

「はい。私は触れていません」

「分かっている。ジェニファーというメイド長が、アスモデウス殿下と共謀して君を陥れようとしたのだろう。彼女の視線に、明確な__悪意__があった」

彼の観察力は恐ろしく鋭い。一瞬にして真実を見抜いていた。

「私が君に求婚した理由は二つある」

ライオンハート様は、一つずつ指を折って数えるように言った。

「一つは、君の持つ【強靭な精神】だ。辺境の冬は厳しく、王都のような華やかさはない。しかし、君ならそこで生き抜ける」

「二つ目は……君は、私にとって__癒し__になる」

「癒し……ですか?」

最強の辺境伯が、メイドの私に癒しを求めている**!?**

「私はこれまで、剣と血にまみれた人生を送ってきた。華美な女性や、政略的な駆け引きをする貴族の女性たちに囲まれるのは疲れる。君の持つ__静けさ__と__誠実さ__は、私の心を安らげる。それに……君の存在は、とても__心地がいい__」

ライオンハート様は、そう言うと、私の手にそっと触れた。彼の指先は、剣を握りしめてきた男の手らしく、硬くて節くれだっているが、その体温はとても優しかった。

「エリス。私が君を【心から溺愛しよう】と言ったのは、嘘ではない。君は、王都の【厄介な影】などではない。私の領地を照らす、__光__になってくれる」

彼の真摯な言葉に、私の目には涙が溢れてきた。

「ライオンハート様……私は、私は……」

「泣かなくていい。君を泣かせるようなことは、もう誰にもさせない。王都の屈辱は全て忘れろ」

彼の指が、そっと私の涙を拭い取る。その仕草は、まるで壊れ物を扱うように丁寧で、優しかった。

馬車は王都の門をくぐり、辺境への長い旅路についた。

私は馬車の窓から、もう二度と戻ることのない、冷たい王都の城を見つめた。

(さようなら、アスモデウス王子。ジェニファー。あなたたちが私を【厄介な影】と呼んだこと、一生忘れない。でも……私はもう、あなたの支配下にはいない)

私の心には、これまでの絶望とは違う、温かい__希望__が灯っていた。

(私の新しい人生は、ここから始まる。ライオンハート様と共に、辺境で)

私は、ライオンハート様の大きな手に、そっと自分の手を重ねたのだった。
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