偽りの生贄として捧げられた先で、孤独な龍神様に「愛しい人」と甘やかされています

紅葉山参

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預言者の正体と、悲しき因縁

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 鐘の音は、侵入者を告げる合図だった。  龍の里に、人間に見つかるはずのないこの場所に、一体誰がやってきたというのか。  琥珀様は即座に衣を纏い、私を自らの背後に庇った。

「……何者だ。里の結界を破り、ここまで辿り着くとは」

 広間の中央、虚空が歪み、一人の老人が姿を現した。  昨日の刺客とは違い、その男からは一切の殺気が感じられない。  だが、その瞳には、永い年月を経て磨かれた、恐ろしいほどの知性が宿っていた。

「久しぶりだな、琥珀。……いや、龍神殿と言うべきか」

「……その声、まさか……。三百年前に死んだはずの、あの男か⁉」

 琥珀様の声が驚愕に震える。  目の前の老人は、優雅に一礼し、私の方へと視線を向けた。

「初めまして、黄金の乙女……紗良殿。私は預言者、と呼ばれている者です。もっとも、本当の名はとうの昔に忘れましたがね」

 この人が、預言者……‼  私は恐怖で身を強まらせたが、老人の瞳に浮かぶのは、敵意ではなく、どこか深い哀しみだった。

「あなたが、どうして私のことを……⁉ 村人たちに、あんな嘘を教えたのはあなたなのですか⁉」

「嘘、ではありませんよ。あなたの血は、確かに世界を豊かにし、あるいは滅ぼす力を持っている。……私はただ、あなたが『正しい主』に選ばれるのを助けたかっただけなのです」

 預言者はそう言って、琥珀様を指し示した。

「琥珀。貴様も分かっているはずだ。この娘の力は、いずれ天界の神々の耳に届く。その時、貴様一人の力で彼女を守り通せると思っているのか?」

「黙れ! 紗良を道具にするような真似はさせん。貴様が何を企んでいようと、私はこの娘を離さない!」

 琥珀様の周囲に、激しい稲妻が迸る。  しかし、預言者は動じることなく、静かに語り続けた。

「私は彼女を奪いに来たのではない。……警告しに来たのです。天界からの追手が、すでにこの里の入り口まで迫っている。黄金の乙女を手に入れ、地上を支配しようとする傲慢な神々がね」

 その言葉に、宮殿が激しく揺れた。  里の外側から、凄まじい神威が押し寄せているのが、私にも分かった。  村人や刺客とは比べ物にならない、本物の「神」の怒り。

「琥珀様……!」

「……紗良、案ずるな。お前は私が守る。何があっても、私の側にいろ!」

 琥珀様は私を強く抱きしめ、天に向かって咆哮した。  彼の姿が眩い光に包まれ、巨大な銀の龍へと変化していく。  私はその美しい龍の背中に乗り、共に戦場へと向かう決意をした。

 ◇ ◇ ◇

 里の入り口には、黄金の鎧を纏った兵士たちが整列していた。  その中心に立つのは、冷酷な笑みを浮かべた一人の女神。

「あら、琥珀。こんな辺境で、汚らわしい人間を飼っていたの? さあ、その娘を渡しなさい。彼女は天界の宝物庫に収められるべき存在よ」

「……汚らわしいのは、お前の心だ。紗良は私の妻だ。誰にも触れさせはせん!」

 龍の姿となった琥珀様が、灼熱の炎を吐き出し、天の兵たちを薙ぎ払う。  激しい爆炎が上がり、空が紅く染まる。  私は琥珀様の背中で、必死に彼に呼びかけ続けた。

「琥珀様、頑張って! 私、私ね……あなたと一緒に、生きていきたいの! こんなところで、終わりたくない!」

 私の叫びに呼応するように、手首の銀の鎖が激しく輝き始めた。  私の体の中から、温かく、けれど圧倒的な力が溢れ出してくる。  それが琥珀様の魔力と混ざり合い、彼の銀色の鱗がさらに眩しく発光した。

「――これが、紗良の力か……! 力が、溢れてくる……!」

 琥珀様は女神に向かって突撃し、その巨大な爪で彼女の盾を砕いた。  女神は驚愕に目を見開き、後退していく。

「馬鹿な……人間と龍神が、これほどまでの共鳴を……⁉」

 戦いは激化し、里の美しい景色は次第に崩壊していく。  けれど、私たちの絆は、その破壊の中でも、より強く、より深く結ばれていった。

 あなたは、どうしてそんなにボロボロになりながら私を守るのですか⁉  私は涙を流しながら、彼の広い背中を強く抱きしめた。  この戦いの先に、私たちの平穏はあるのだろうか。  それでも、私はこの手を離さない。  たとえ、全世界を敵に回したとしても。
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