9 / 13
共鳴する魂と、黄金の涙
しおりを挟む
龍の里の空は、天界の兵たちが放つ黄金の矢と、琥珀様が吐き出す銀色の焔によって、恐ろしいほど鮮やかな極彩色に染まっていた。 私は、巨大な銀龍となった琥珀様の背中の鱗に必死にしがみつき、吹き荒れる暴風に耐えていた。
「琥珀様……‼」
私の叫びは、激しい爆鳴にかき消されてしまう。 けれど、彼と私の魂を繋ぐ銀の鎖を通じて、琥珀様の激しい怒りと、それ以上に深い「私を失いたくない」という切実な願いが、心臓に直接響いてきた。
上空で冷酷な笑みを浮かべる女神が、その細い指先を私たちに向けた。
「無駄な足掻きを、琥珀。その娘の血をこちらへ渡せば、お前の命だけは助けてあげると言っているのに。……さあ、天の理に従いなさい」
女神が掲げた法具から、太陽を凝縮したような眩い光の束が放たれた。 それは逃げ場のない速度で琥珀様を襲う。 琥珀様は私を守るように体を丸め、その背で直撃を受け止めた。
「ぐああああっ……⁉」
「琥珀様! 嫌っ、やめて……‼」
銀色の鱗が弾け飛び、彼の苦痛に満ちた声が空に木霊する。 私を守るために、神である彼が傷ついている。 あんなに気高く、美しかった銀色の体が、私のせいでボロボロになっていく。
その光景を見た瞬間、私の胸の奥で、何かが激しく弾けた。 熱い、熱い衝動。 それは悲しみであり、激しい怒りでもあった。
私、私ね……ずっと、守られるだけの存在だと思ってた。 誰かに助けてもらわないと生きていけない、無力な生贄。 でも、大好きなあなたを傷つけられてまで、生き延びたいなんて思わない!
「……やめてえええええ‼」
私の絶叫とともに、瞳から一粒の涙がこぼれ落ちた。 その涙は、頬を伝う間に眩い光を放ち、琥珀様の鱗に触れた瞬間――巨大な「黄金の結晶」へと姿を変えた。
それは単なる金ではなかった。 琥珀様の傷を瞬時に塞ぎ、彼の魔力を何倍にも増幅させる、奇跡の結晶。 黄金の乙女の涙。 かつての伝承にあった、世界を書き換えるほどの力が、今ここに発現したのだ。
「これ、は……力が、湧き上がってくる……。紗良、お前の想いが、私に流れ込んでくるぞ……‼」
琥珀様の瞳が、よりいっそう深い金色に輝く。 彼の咆哮は天を震わせ、女神が展開していた光の結界を粉々に砕き散らした。 女神は驚愕に顔を歪める。 「馬鹿な! 人間ごときの感情が、神の法具を凌駕するというの⁉」
「人間ごときではない。この娘は、私の唯一無二の番だ! その愛を侮った貴様らの敗北だ!」
琥珀様が天に向かって飛び上がり、その爪で虚空を切り裂く。 溢れ出した銀と金の魔力が渦となり、天の兵たちを次々と下界へと押し返していった。
◇ ◇ ◇
激しい戦闘の末、天界の軍勢は一時的に退却していった。 静寂を取り戻した里の入り口で、琥珀様は人の姿に戻り、力なく膝をついた。 私はすぐに駆け寄り、彼の体を抱きしめる。
「琥珀様! 大丈夫ですか⁉ あちこち血が出て……私、私ね、どうすればいいか……」
「……紗良。案ずるな。お前の涙のおかげで、致命傷は免れた。……それにしても、まさかお前の力がこれほどまでとはな」
彼は荒い息をつきながら、私の頬に触れた。 その指先はまだ微かに震えていたが、瞳には誇らしげな色が浮かんでいる。
「……私の涙が、琥珀様を苦しめるものじゃなくて、助けるものになれてよかった。私、初めて……自分がこの力を持って生まれてきた意味が、分かった気がします」
私は彼の胸に顔を埋め、安堵の涙を流した。 今度の涙は黄金にはならず、ただの温かい雫となって、彼の衣を濡らした。
琥珀様は私の背中に手を回し、強く、壊れ物を扱うように抱きしめる。
「だがな、紗良。……これでお前が狙われる理由は、より強固なものとなった。天界の連中は、お前の力を目の当たりにした。次はさらに強大な力で、お前を奪いに来るだろう」
「……いいえ、琥珀様。私はもう、怯えたりしません。あなたが隣にいてくれるなら、私はどんな力でも使います。あなたを守るために」
私の決意に、琥珀様は驚いたように目を見開いたが、やがて優しく微笑んだ。 彼は私の額に唇を寄せ、静かに誓う。
「ならば、私も最後まで抗おう。……里を捨て、さらなる深淵へと向かう。誰にも見つけられぬ、世界の果てまで」
二人の逃避行は、新たな局面へと向かおうとしていた。 けれど、その時。 崩れた岩陰から、一人の人影がふらふらと現れた。 それは、先程の戦いを見守っていたはずの預言者だった。
「……見事な共鳴でした。しかし、琥珀よ。あなたが選ぼうとしている道は、彼女をさらなる孤独に追いやる道だとは思いませんか?」
預言者の言葉が、冷たい風のように私たちの間に吹き込んだ。
「琥珀様……‼」
私の叫びは、激しい爆鳴にかき消されてしまう。 けれど、彼と私の魂を繋ぐ銀の鎖を通じて、琥珀様の激しい怒りと、それ以上に深い「私を失いたくない」という切実な願いが、心臓に直接響いてきた。
上空で冷酷な笑みを浮かべる女神が、その細い指先を私たちに向けた。
「無駄な足掻きを、琥珀。その娘の血をこちらへ渡せば、お前の命だけは助けてあげると言っているのに。……さあ、天の理に従いなさい」
女神が掲げた法具から、太陽を凝縮したような眩い光の束が放たれた。 それは逃げ場のない速度で琥珀様を襲う。 琥珀様は私を守るように体を丸め、その背で直撃を受け止めた。
「ぐああああっ……⁉」
「琥珀様! 嫌っ、やめて……‼」
銀色の鱗が弾け飛び、彼の苦痛に満ちた声が空に木霊する。 私を守るために、神である彼が傷ついている。 あんなに気高く、美しかった銀色の体が、私のせいでボロボロになっていく。
その光景を見た瞬間、私の胸の奥で、何かが激しく弾けた。 熱い、熱い衝動。 それは悲しみであり、激しい怒りでもあった。
私、私ね……ずっと、守られるだけの存在だと思ってた。 誰かに助けてもらわないと生きていけない、無力な生贄。 でも、大好きなあなたを傷つけられてまで、生き延びたいなんて思わない!
「……やめてえええええ‼」
私の絶叫とともに、瞳から一粒の涙がこぼれ落ちた。 その涙は、頬を伝う間に眩い光を放ち、琥珀様の鱗に触れた瞬間――巨大な「黄金の結晶」へと姿を変えた。
それは単なる金ではなかった。 琥珀様の傷を瞬時に塞ぎ、彼の魔力を何倍にも増幅させる、奇跡の結晶。 黄金の乙女の涙。 かつての伝承にあった、世界を書き換えるほどの力が、今ここに発現したのだ。
「これ、は……力が、湧き上がってくる……。紗良、お前の想いが、私に流れ込んでくるぞ……‼」
琥珀様の瞳が、よりいっそう深い金色に輝く。 彼の咆哮は天を震わせ、女神が展開していた光の結界を粉々に砕き散らした。 女神は驚愕に顔を歪める。 「馬鹿な! 人間ごときの感情が、神の法具を凌駕するというの⁉」
「人間ごときではない。この娘は、私の唯一無二の番だ! その愛を侮った貴様らの敗北だ!」
琥珀様が天に向かって飛び上がり、その爪で虚空を切り裂く。 溢れ出した銀と金の魔力が渦となり、天の兵たちを次々と下界へと押し返していった。
◇ ◇ ◇
激しい戦闘の末、天界の軍勢は一時的に退却していった。 静寂を取り戻した里の入り口で、琥珀様は人の姿に戻り、力なく膝をついた。 私はすぐに駆け寄り、彼の体を抱きしめる。
「琥珀様! 大丈夫ですか⁉ あちこち血が出て……私、私ね、どうすればいいか……」
「……紗良。案ずるな。お前の涙のおかげで、致命傷は免れた。……それにしても、まさかお前の力がこれほどまでとはな」
彼は荒い息をつきながら、私の頬に触れた。 その指先はまだ微かに震えていたが、瞳には誇らしげな色が浮かんでいる。
「……私の涙が、琥珀様を苦しめるものじゃなくて、助けるものになれてよかった。私、初めて……自分がこの力を持って生まれてきた意味が、分かった気がします」
私は彼の胸に顔を埋め、安堵の涙を流した。 今度の涙は黄金にはならず、ただの温かい雫となって、彼の衣を濡らした。
琥珀様は私の背中に手を回し、強く、壊れ物を扱うように抱きしめる。
「だがな、紗良。……これでお前が狙われる理由は、より強固なものとなった。天界の連中は、お前の力を目の当たりにした。次はさらに強大な力で、お前を奪いに来るだろう」
「……いいえ、琥珀様。私はもう、怯えたりしません。あなたが隣にいてくれるなら、私はどんな力でも使います。あなたを守るために」
私の決意に、琥珀様は驚いたように目を見開いたが、やがて優しく微笑んだ。 彼は私の額に唇を寄せ、静かに誓う。
「ならば、私も最後まで抗おう。……里を捨て、さらなる深淵へと向かう。誰にも見つけられぬ、世界の果てまで」
二人の逃避行は、新たな局面へと向かおうとしていた。 けれど、その時。 崩れた岩陰から、一人の人影がふらふらと現れた。 それは、先程の戦いを見守っていたはずの預言者だった。
「……見事な共鳴でした。しかし、琥珀よ。あなたが選ぼうとしている道は、彼女をさらなる孤独に追いやる道だとは思いませんか?」
預言者の言葉が、冷たい風のように私たちの間に吹き込んだ。
0
あなたにおすすめの小説
感情の無い聖女様は、公爵への生贄にされてしまいました
九条 雛
恋愛
「――私など、ただの〝祈り人形〟でございます。人形に感情はありませぬ……」
悪逆非道の公爵の元へと生贄として捧げられてしまった聖女は、格子の付いた窓を見上げてそう呟く。
公爵は嗜虐に満ちた笑みを浮かべ言い放つ。
「これからは、三食きちんと食べてもらおう。こうして俺のモノとなったからには、今までのような生活を送れるとは思わぬことだな」
――これは、不幸な境遇で心を閉ざしてしまった少女と、その笑顔を取り戻そうとする男の物語。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。
王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。
そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。
これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。
⚠️本作はAIとの共同製作です。
契約妻に「愛さない」と言い放った冷酷騎士、一分後に彼女の健気さが性癖に刺さって理性が崩壊した件
水月
恋愛
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件の旦那様視点短編となります。
「君を愛するつもりはない」
結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。
出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。
愛を期待されないのなら、失望させることもない。
契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。
ただ「役に立ちたい」という一心だった。
――その瞬間。
冷酷騎士の情緒が崩壊した。
「君は、自分の価値を分かっていない」
開始一分で愛さない宣言は撤回。
無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。
図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました
鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。
素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。
とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。
「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」
退屈扱いされた私が、公爵様の教えで社交界を塗り替えるまで
有賀冬馬
恋愛
「お前は僕の隣に立つには足りない」――そう言い放たれた夜から、私の世界は壊れた。
辺境で侍女として働き始めた私は、公爵の教えで身だしなみも心も整えていく。
公爵は決して甘やかさない。だが、その公正さが私を変える力になった。
元婚約者の偽りは次々に暴かれ、私はもう泣かない。最後に私が選んだのは、自分を守ってくれた静かな人。
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件
水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」
結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。
出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。
愛を期待されないのなら、失望させることもない。
契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。
ただ「役に立ちたい」という一心だった。
――その瞬間。
冷酷騎士の情緒が崩壊した。
「君は、自分の価値を分かっていない」
開始一分で愛さない宣言は撤回。
無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。
以後、
寝室は強制統合
常時抱っこ移動
一秒ごとに更新される溺愛
妻を傷つける者には容赦なし宣言
甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。
さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――?
自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。
溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる