偽りの生贄として捧げられた先で、孤独な龍神様に「愛しい人」と甘やかされています

紅葉山参

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共鳴する魂と、黄金の涙

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 龍の里の空は、天界の兵たちが放つ黄金の矢と、琥珀様が吐き出す銀色の焔によって、恐ろしいほど鮮やかな極彩色に染まっていた。  私は、巨大な銀龍となった琥珀様の背中の鱗に必死にしがみつき、吹き荒れる暴風に耐えていた。

「琥珀様……‼」

 私の叫びは、激しい爆鳴にかき消されてしまう。  けれど、彼と私の魂を繋ぐ銀の鎖を通じて、琥珀様の激しい怒りと、それ以上に深い「私を失いたくない」という切実な願いが、心臓に直接響いてきた。

 上空で冷酷な笑みを浮かべる女神が、その細い指先を私たちに向けた。

「無駄な足掻きを、琥珀。その娘の血をこちらへ渡せば、お前の命だけは助けてあげると言っているのに。……さあ、天の理に従いなさい」

 女神が掲げた法具から、太陽を凝縮したような眩い光の束が放たれた。  それは逃げ場のない速度で琥珀様を襲う。  琥珀様は私を守るように体を丸め、その背で直撃を受け止めた。

「ぐああああっ……⁉」

「琥珀様! 嫌っ、やめて……‼」

 銀色の鱗が弾け飛び、彼の苦痛に満ちた声が空に木霊する。  私を守るために、神である彼が傷ついている。  あんなに気高く、美しかった銀色の体が、私のせいでボロボロになっていく。

 その光景を見た瞬間、私の胸の奥で、何かが激しく弾けた。  熱い、熱い衝動。  それは悲しみであり、激しい怒りでもあった。

 私、私ね……ずっと、守られるだけの存在だと思ってた。  誰かに助けてもらわないと生きていけない、無力な生贄。  でも、大好きなあなたを傷つけられてまで、生き延びたいなんて思わない!

「……やめてえええええ‼」

 私の絶叫とともに、瞳から一粒の涙がこぼれ落ちた。  その涙は、頬を伝う間に眩い光を放ち、琥珀様の鱗に触れた瞬間――巨大な「黄金の結晶」へと姿を変えた。

 それは単なる金ではなかった。  琥珀様の傷を瞬時に塞ぎ、彼の魔力を何倍にも増幅させる、奇跡の結晶。  黄金の乙女の涙。  かつての伝承にあった、世界を書き換えるほどの力が、今ここに発現したのだ。

「これ、は……力が、湧き上がってくる……。紗良、お前の想いが、私に流れ込んでくるぞ……‼」

 琥珀様の瞳が、よりいっそう深い金色に輝く。  彼の咆哮は天を震わせ、女神が展開していた光の結界を粉々に砕き散らした。    女神は驚愕に顔を歪める。 「馬鹿な! 人間ごときの感情が、神の法具を凌駕するというの⁉」

「人間ごときではない。この娘は、私の唯一無二の番だ! その愛を侮った貴様らの敗北だ!」

 琥珀様が天に向かって飛び上がり、その爪で虚空を切り裂く。  溢れ出した銀と金の魔力が渦となり、天の兵たちを次々と下界へと押し返していった。

 ◇ ◇ ◇

 激しい戦闘の末、天界の軍勢は一時的に退却していった。  静寂を取り戻した里の入り口で、琥珀様は人の姿に戻り、力なく膝をついた。  私はすぐに駆け寄り、彼の体を抱きしめる。

「琥珀様! 大丈夫ですか⁉ あちこち血が出て……私、私ね、どうすればいいか……」

「……紗良。案ずるな。お前の涙のおかげで、致命傷は免れた。……それにしても、まさかお前の力がこれほどまでとはな」

 彼は荒い息をつきながら、私の頬に触れた。  その指先はまだ微かに震えていたが、瞳には誇らしげな色が浮かんでいる。

「……私の涙が、琥珀様を苦しめるものじゃなくて、助けるものになれてよかった。私、初めて……自分がこの力を持って生まれてきた意味が、分かった気がします」

 私は彼の胸に顔を埋め、安堵の涙を流した。  今度の涙は黄金にはならず、ただの温かい雫となって、彼の衣を濡らした。

 琥珀様は私の背中に手を回し、強く、壊れ物を扱うように抱きしめる。

「だがな、紗良。……これでお前が狙われる理由は、より強固なものとなった。天界の連中は、お前の力を目の当たりにした。次はさらに強大な力で、お前を奪いに来るだろう」

「……いいえ、琥珀様。私はもう、怯えたりしません。あなたが隣にいてくれるなら、私はどんな力でも使います。あなたを守るために」

 私の決意に、琥珀様は驚いたように目を見開いたが、やがて優しく微笑んだ。  彼は私の額に唇を寄せ、静かに誓う。

「ならば、私も最後まで抗おう。……里を捨て、さらなる深淵へと向かう。誰にも見つけられぬ、世界の果てまで」

 二人の逃避行は、新たな局面へと向かおうとしていた。  けれど、その時。  崩れた岩陰から、一人の人影がふらふらと現れた。  それは、先程の戦いを見守っていたはずの預言者だった。

「……見事な共鳴でした。しかし、琥珀よ。あなたが選ぼうとしている道は、彼女をさらなる孤独に追いやる道だとは思いませんか?」

 預言者の言葉が、冷たい風のように私たちの間に吹き込んだ。
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