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第6章 サトル、始まり

6-4-9 いつかの空の下

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「サトル? どうしたのよ。また魔力が切れちゃった?」
「どこか具合が悪くなったのですか?」

 そのままカタカタ震え始めた俺を二人が心配してくれる。
 お、俺は……どうしたら、いい? この二人といっしょにいてもいいのか?
 無言で背中を向けて歩き出した俺を心配した二人が戸惑いながら、それでも俺に寄り添ってついてきてくれた。

「サトル、止まってください! マリーベルは右を!」
「帰り道にも出るのね! 『ファイア』!」

 分かれ道のあたりで、転がるように出てきて襲ってきたステーンキッドがエルフィーネの一撃で粉々に砕かれ、大きく口を開けて鋭い牙で噛みつこうとしたロックマウスはマリーベルの炎で火だるまになって転げ落ち、すぐさまエルフィーネの追撃で息絶える。
 だめだ、しっかりしろ。しっかりしろ、俺!
 ちりっと耳飾りが揺れた。……そういえば。
 この耳飾りは…いつも俺が心細くなったら、不安になったら揺れて存在を教えてくれるな。
 ルーファスネイト……あなたは何の効果もないって言ってたけど、そんなことない。これ、十分なお守りだよ。
 だって今、俺は一人じゃないって思えたもの……。
 泣きそうになってた心に、小さな光が差した。

「ほら、元気出して。早く帰りましょ!」

 マリーベルが俺と手を繋いで、エルフィーネが背中をそっと支えて歩いてくれる。
 ……ちゃんと考えなくちゃね。どうすればいいのか。どうすれば俺と関わってしまったこの子たちを守れるのかを。
 考えながら歩いてるうちに光の維持が甘くなって一瞬暗くなったけど、すぐさまマリーベルがクリスタルワンドに火を灯してくれて明るくなった。
 とたんに、最後の真っ暗な通路の天井に数羽のリリックがぶら下がって口を開けてるのが見えた。

「マリーベル、エルフィーネ、お願い!」
「任せて!」
「はい!」

 状態異常は喰らう前に防ぐ方が被害がない! だから俺は慌てて竪琴を出して、解毒の呪歌バルドだ!
 キイイイイイィィィッッッと、黒板をひっかくより不快な高音が耳から脳内を暴れるけど、俺の呪歌バルドがその効果を打ち消す。音の気持ち悪さはどうにもならないけどね!

「『風よ、数多の刃となり、咎人を刻め! エンス・ウィンド』!」
「はいっ!」

 暴れ回る風の刃がリリックたちを刻み、すり抜けてかかってきたやつはエルフィーネがメイスで殴って、壁に叩きつけて潰した。
 飛び散った血が俺の上着にまで散ったけど、エルフィーネが盛大にかぶってそうで心配だ!

「二人とも大丈夫!?」
「当然よ! エルフィは!? 血がいっぱい……ッ」
「平気ですよ」

 頬に返り血をつけたまま、穏やかにほほえんだエルフィーネが杖とローブを払うと、またつるるんっと血が落ちて真っ白に戻る。
 ……うん、髪の毛と頬は無理だけど!

「ご、ごめんね。ハンカチ……」
「ありがとうございます。でも、出てからにしましょう。また魔物に遭ったら同じことですから」
「そうね。あとでいっしょにお風呂に入りましょ!」
「はい。ニケさんもいかがですか?」

 どきんと俺の鼓動が跳ねた。……わかってる。
 これはマリーベルのための、ニケのための……エルフィーネの助け船だ。
 マリーベルはつんとしたままだけど、反対はしない。この子の場合はそれが返事だな。いやだったら絶対に言うもの。
 声をかけられたニケが近づいてくる。背後から迫る生物としての圧倒的な存在感の大きさに、俺は自分が飲み込まれて消えてしまうような恐怖を覚えた。
 なんだろう……。胸の奥で、なにかが音を立ててるような気がする。心臓じゃない、もっと深い場所で。
 ぽん、と大きくて暖かい手で肩を抱かれて、ビクリと全身が竦んだ。

「良いな。ならば、皆で入るか?」

 …………は?

「なによ、あんたもいっしょに入るの?」
「ふふ、ニケさんもわたしたちといっしょに来られますか?」

 いやいや、待って?

「ねえ、みんなって……」
「うん? みんなだろう。なにか問題でもあるか?」

 なぜそこで! こてんと首をかしげる!! 美女がそういうことするのあざといな!?

「まさか俺もなの!? ちょ、そこは男女で分かれよう!?」
「なにを今さら。素っ裸のおぬしを救ってやったではないか。お互いもう裸を見たあとなのだから、あとは何回見ても同じだろう?」
「ちがうからね!?」

 しかもそんなことを言うものだから、ほらぁ!

「ちょっと、どういうこと!? あんたまた捕まってる間になにか悪さでもされたの!?」
「サトル、だから泣いていたのですかっ?」

 心配した二人にわあわあ詰め寄られて、俺はガクガク揺さぶられながら誤解を解くべく、必死に弁解するしかなかった!
 っていうか、またって俺がなんの悪さをされたんだよ!? 今回はそんなひどいケガもしてないのに!!

「『ファイア』! エルフィ、スライムのコアが落ちたわよ!」
「はい、ありがとうございます」
「あいたっ! うわあ、ステーンキッドの赤ちゃん……。いてっ、痛いってば。な、殴りにくいなあ」

 トレントロッドで殴ろうとしたけど、握り拳ぐらいの小さなステーンキッドの赤ちゃんがさ、一生懸命俺の足にえいっえいってやってて、ためらっちゃったよ。
 まあ、エルフィーネがガツン! と粉々にしてくれたんだけど。

「サトル、見つかってしまったものは仕方がないんです」
「は、はい……」

 俺って、ちゃんと一人前の冒険者になれるのかな……。
 そんな風に数回出てきた魔物は無事俺たちだけで撃退して、なんとか坑道跡から出た。
 うわ、光が眩しい。それに空気というか風がさわやかだ……。気持ちいいなあ。

「あ」
「エルフィーネ!」

 ほっと一息ついたところでエルフィーネの身体が揺れて、慌てて支えに走る。

「エルフィ、どうしたの!?」
「だ、大丈夫です。すみません」
「大丈夫じゃないよ。魔力切れじゃない? エリクシール飲む? あ、エルフの里の木の実もあるし、これも食べたら効くよ」

 だって、あのメイスは一発殴るごとにMPを使うって聞いた。恐らくだけど、必要な破壊力に合わせて消費MPも増えるんじゃないかな。
 だとしたら、今日のエルフィーネはめちゃくちゃたくさんMPを消費したはずだ。

「いえ、そこまでは必要ありません。自分ではまだ大丈夫なつもりでしたが、過信してしまいましたね」

 エルフィーネはふうと大きな息をついて、しゃんと姿勢を正す。このまま倒れ込むってほどではないのはさすがだ。俺だとこうはいかなかっただろうな。

「ねえ、エルフィ。あたしがおんぶしてあげるわ」
「ありがとうございます。気持ちだけで十分ですよ」
「だって……」
「大丈夫です。わたしはまだ歩けますから。でも、これ以上の前衛は無理そうです。ごめんなさい、二人とも」

 ここでちゃんと引けるエルフィーネは大人だなあ。しみじみ感心してしまった。

「わかった。ありがとう、エルフィーネ。あとは俺ががんばるからね。歩くのが辛くなったら言って。俺がおんぶするよ」
「はい、わかりました」

 にっこりと返事してくれたけど、絶対言ってくれなさそう。よし、エルフィーネの限界をちゃんと見抜かないとね!

「エルフィは十分がんばってくれたから、謝らないで! でもサトルだけじゃ前衛としてはやっぱり心配よね……。ねえ、エルフィ、あたしにそのメイスを貸して! こうなったらあたしが前衛をするわ!!」
「それじゃ意味ないだろ!?」

 三人というかエルフィーネを挟んで二人でわあわあ言い合ってたら、「そこまでですよ」ってぽにぽにっとリチャードに止められてしまった。

「さあ、エルフィーネ嬢。わたくしめにエスコートを任せていただけますか?」
「ふふ、うれしいです。ありがとう、リチャード」
「ええ。さあ、お手をどうぞ」

 優雅な仕草で差し出された肉球……手に、エルフィーネがそっと自分の手を乗せる。いいなあ、王子様とお姫様っぽい!

「素敵ね、あのまま舞踏会とか行っちゃいそうだわ……!」
「確実に行けるよね! そんで、なんかくるくる踊るんだよね!」
「あたしも踊れるわよ! 村祭りの踊りだけど!!」
「そうなんだ。俺もなんか、えーと、うん。たぶん踊れる!」
「いいわねえ! 今度踊りましょうよ! 踊りは好きに動けばいいのよ。楽しかったらそれで正解だもの!」

 そうだよね! 子どもたちもいっしょに、なにか音楽を添えて踊ったら楽しそうだ。
 二人で笑い合ってたら、今度は後ろからぽんぽんっと小さな手にお尻を叩かれる。ピルピルさんだ。

「そりゃ楽しそうでいいなー。もちろんボクも混ぜておくれよ? ところでマリーベル、疲れはないかい?」
「もう、ピルさんたらまたお尻! えっと、大丈夫よ。途中でちょっと魔力を取られたけど、ニケがわけてくれたもの」
「それならよかった。よーし、じゃあこのピルパッシェピシェールが今日の娘っこの戦い方について、いろいろアドバイスしてやろう!」
「本当!? でもピルさんたら魔法ジョブじゃないのに」
「ボクぐらいの超・超ベテランになったら、そんなの関係ないさ!」
「じゃあお願いするわ!」

 小さな手に呼ばれたマリーベルがいそいそと行ってしまう。あの子は才能だけじゃなく、向上心があるし努力も惜しまない。……将来は必ず強力な、そして名を残す魔女になるだろうな。
 そして俺は。

「逃げなかったのだな」
「……逃げられたら逃げてるよ」

 そばに来た竜に、首根っこを押さえ込まれてた。いや、心境だけね。
 楽しそうに、でも少し心配そうに。ときどきこっちを振り返る女の子二人に笑顔で手を振って、俺はゆっくり歩きながら隣に並んだ女丈夫を見ずに、固い声で言った。

「一つ聞くよ」
「いくつでも聞けば良い」
「俺はあの子たちを巻き込みたくない。どうすればいい?」

 もしも俺がいることであの子たちに危険が及ぶなら、俺は黙って姿を消そう。そう思ったんだ。

「出会った時点で、縁は結ばれる。巻き込むつもりがあろうとなかろうと、おぬしの持つ宿命の中に多くの命が灯るだろう」
「ニケ、言葉遊びはいらない」
「………おぬしが離れようとも、あの子らの願いは強い。その手はしかとおぬしの運命の糸を掴んでおるな」
「二人とも、お人好しだもんなぁ……」

 俺は頭を抱えて深くため息をついた。
 あの子たちは俺が姿を消したら消したで、きっと探してくれるんだろう。そして心配する。
 いつか大人になって、それでも見つからなくてもきっと、ずっと……。ああ、どうしてかな。
 それが簡単に想像できてしまった。
 がくりと項垂れたけど、……うん。本当はね。俺も、……俺もさ、みんなと離れたくないよ。
 ひとりは淋しいもの。
 ちりっと耳飾りがまた揺れた。

「……ニケ、お願い。俺といっしょに来てくれる?」
「無論だ。言うたであろう」
「うん。どうかあの子たちを守って。俺のことはいい。自分でなんとかする。……できるようになってみせるから、あの子たちをお願い」
「ふふ、勇ましいことだ」

 真紅の長い髪が風で揺れた。美しいその髪を目で追って、俺は柔らかな色の、透き通るように青い空を見上げる。

「あとは、あなたの武器だなあ」
「ふむ、我には拳も脚もこの尾もある。べつに手ぶらでも困らんが」
「ダメだよ。竜の女戦士ニケには、絶対ハルバードを握っていて欲しい!」
「そうか。愛い子の望みだ。ならばそうしよう」

 わしゃわしゃと俺の頭を撫でたニケにそのまま肩を抱かれて、長身な分かなりの大股に引きずられるようにして歩いた。
 あれ、もうみんな坑道跡の出口のゲートにいるのか。まあ緩くても下り坂だもんな。

「おかえりなさい! 無事の撃破おめでとうございま……角!?」
「あれ、そちらの女性は……え、尻尾!?」

 ここに入るときにいた見張りの人間ヒューマン獣人族ガルフの茶猫のお兄さんたちがニケを見て目を白黒させてる。

「あれ、ニケはどこからここに入ったの? もしかしてすごく朝早かったとか?」
「うん? エルフの抜け道から入ったぞ。我らにとってここは庭だからな」
「へえ、こんなとこまで繋がってるんだ」
「そりゃそうさー。薬草栽培はエルフが手伝ってるからな」

 なるほど、納得した。

「で、ですがその方はエルフではないですよね……!?」
「その角と尻尾は、ま、まさか魔物……っ」

 あれ、なんでそんなに怯えてるんだろ?

「リチャードもいるのに、そこはせめて魔族とか魔人って言って欲しいよね」
「はて、わたくしよりも恐れられていますねえ。やはり角でしょうか?」

 俺ももしかしたら感覚がずれてるのかな? リチャードと顔を合わせてこてんと首をかしげてたら、マリーベルがどんどん怖い想像を膨らませて顔色を悪くしていく二人の前に出た。

「心配いらないわ」
「いや、しかし」
「こんな方のことは一言も聞いておりませんから…」
「心配いらないの!」

 そして今にも魔物が出たって叫びそうな様子の二人にむっとしたマリーベルが、ぎゅっとニケの手を握ってぐいっと引っ張りながら、ふんすと薄い胸を張って言ったのだった。

「この人は、ニケって名前で、竜族なの! だから角とか尻尾とか鰭っぽいのがあるのよ。魔物といっしょにしないでちょうだい! あたしのご先祖様のお嫁さんだったんだし、なんなら今はあたしのお嫁さんみたいなものよ!! だってあたしが受け継いだんだから!!」

 うわ、マリーベル強い! リチャードとエルフィーネはぽかんと、ピルピルさんはとぼけた顔で口笛を、ニケは……。
 ニケは、呆然とマリーベルを見て、まるで目の前で火花でも散ったんじゃないかって眩しそうな目をした。
 それから幸せそうにさ。本当に幸せそうに笑って、ぎゅうっとマリーベルを抱きしめたんだ。

「きゃあ! ちょっと、痛いわよ!?」
「そうだな、我はおぬしに受け継がれた竜だ。我の加護を受け継いだ娘よ」

 感極まった様子で、まるで王子かって仕草でピンク色の髪に口づけたニケに、若い男二人と俺が赤くなっちゃったけど、マリーベルはべしっとそんなニケを払って言った。

「もう、大げさすぎ! ねえ、だから心配いらないわ。これでいいでしょ?」

 いや、そういう意味じゃないと思う!

「あ、は、はい……?」
「はは……まあ、ピルさんもいるしいいか。あとで村長に話を通しておいてくださいね」
「ははは! ロイドならニケのことは代々聞いてるから大丈夫さー。封印ケーラはかけてないけど、またなにかあったら小鳥を飛ばせ。中は徹底的に綺麗にしたから、しばらくは大丈夫だと思うぞ。まあ、次は念のために早めに調査員を寄越すようサイモンに言っとくさ」
「よろしくお願いします!」

 ぺこっとそろって頭を下げた二人に、ひらひらと手を振ったピルピルさんが歩いて行く。

「サトル……」
「大丈夫でしたか?」

 少し疲れた様子のエルフィーネと、いつもどおりのリチャードに聞かれて、俺は笑顔を見せて「うん」と頷いた。
 さっき、俺の様子がおかしかったのを気にしてくれてるんだよね。その気持ちがうれしい。
 ニケはご機嫌だ。晴れ晴れとした表情を見てたら、もちろんよかったねって俺も思いたいんだけどさ。

「マリーベル……いいの?」
「なにがよ?」
「あんなことを竜に言うなんて」

 心配になって聞いたんだけど、やっぱりこの子は強いな。

「だって、この印は竜に祝福された血の証なんでしょ? あたしが受け継いだんだし、ニケはあたしの家族ってことでいいんじゃない?」
「それはそうだけど、祝福を受け継いだことは君の責任じゃないんだからね?」

 俺もエルフィーネもリチャードも、っていうかニケもうんうんと頷いてる。そうだよね。強制じゃないよね!?

「それはそうよ! でも、こうでも言っておかないと、みんなニケの尻尾や角を見てびっくりするじゃない。リチャードに石を投げる人も許せないけど、あたしのご先祖様を守って大怪我したニケに石を投げられても腹が立つし」
「そ、それはまあそうかな」
「はい。マリーベルの気持ちはわかりますが」

 エルフィーネも話に加わってきた。そうだよね、今じゃもうエルフィーネはマリーベルのお姉さんみたいなものだもの。そりゃ気になるよ。

「まあいいじゃない! ニケはご先祖様のリーリエから受け継いだ竜だけど、あたしは誰のものでもないわ! ニケもそれでいいわよね?」
「ああ、もちろんだ。マリーベル。リーリエの血を色濃く継ぐ娘。おぬしという命の炎を我は愛している」
「リーリエの代わりにしたら、燃やすわよ!」

 ぱっと火のマナを散らしたマリーベルを愛しそうに見つめたニケが笑った。

「代わりになどするものか。リーリエはたった一人、そしておぬしもたった一人だ。おぬしもリーリエのように精一杯に誰かを愛し、誰かに愛されれば良い。もちろん、おぬしたちもだぞ」

 あれ、俺とエルフィーネまでぎゅっとされてしまった。ビスチェは固いけど、胸当てからこぼれそうなおっぱいはやっぱりむにょんと豊かで柔らかい。
 エルフィーネもびっくりした顔で、おっぱいに半分埋もれて俺を見てた。
 竜の愛情って強くて怖いなぁ……。

「ニケ! 防具が痛いよ!」
「おお、それはすまなんだな」

 慌てて離れたら、エルフィーネも笑ってニケから離れる。
 はあ、あとは村長さんに報告と、ギルドへの提出用の報告書をまとめるのと、女神の鏡の小島のお墓をきれいにしたい。そのあとでもいいから、帰るまでに教会の子たちへのお土産が採れたらいいなあ。
 坑道跡のある山から離れて田んぼに向かって歩きながら伸びをしかけて、あちこちの痛みを思い出してやめておく。絶対これまた青あざだらけだな。治ってからにしよう。
 とにかく先に村長さんのところへ行こうかと思ったのだけど……あれ? なんだか村の人たちが騒いでるみたい?

「ピルピルさん、なにかあったの?」
「あー、ちょっとな……」

 な、なんだろう。
 先に行ったはずなのに、なぜか微妙な表情でここにいたピルピルさんに首をかしげたんだけど、なぜかこっちに村長の息子さん、ニコラさんが息せき切って駆け込んできた。

「た、大変です!」
「うん、一応聞こうか。先に言っとくけど、村に入り込んだ二頭のでかい魔物が暴れる心配はないからな?」
「そうなんですか! ここからでもわかるなんてさすが……いや、それより! ああああの、急にですねっ、げ、月光旅団のお二人が現れまして!」

 え?

「サトル君はどこだと! 父のところへっ! 特にヴィントさんがもう恐ろしい剣幕で! た、助けてくださ……え!? こっちにも魔物っ!?」
「ニケは魔物じゃなくて竜族よ! 失礼しちゃうわ!」
「も、申し訳ありません! はい? 竜族!?」

 えええ……?
 ニコラさんもニケを見て混乱してるけど、俺もだよ!
 なんであの二人がこんなところに……って、あ。

「サトル君?」
「少年……?」

 涙目でピルピルさんに縋りつかんばかりな様子のニコラさんに戸惑ってたら、リチャードは臭い物を嗅いだ猫の顔で、ピルピルさんは半目になって俺を見た。
 心当たりしかない俺は、無言で顔を覆ってへたり込む。

「ごめんなさい……!」

 ……うん。そういえば小鳥を飛ばしたんだった。
 いやあ、あんなズタボロの状態だったし、絶対どこかで力尽きただろうって思ってたんだけどなあ……。
 どうやら、たどり着いちゃったみたい……。

「えっと、な、なんかよくわかんないけど、サトル! とりあえずあたし、いっしょに謝ってあげるわ」
「はい。なにがあったかはわかりませんが、わたしもですよ。わたしたちは仲間なのでしょう?」
「うう……はい、お願いします」

 ああぁ……やっちゃったあぁ……!!
 顔を覆ってへたり込んだままもごもご言う俺に、マリーベルとエルフィーネが笑って、リチャードは優しい顔に戻って、そんな俺たちを一人ずつぽにぽにと撫でる。
 ニケは興味深そうに自分を見てあわあわする村人を眺め、ピルピルさんは半泣きのニコラさんに手を引っ張られて、村長宅へ走って行った。
 どうやら俺の最初の任務は、あまりかっこいい終わり方にならなかったっぽい……。
 いや、まだこれからだから! この次はきっと、がんばるから!!
 ……うん。本当にさ。次はもうちょっとスマートにこなせたらいいなあ。
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