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二章 スピード婚と結婚生活
里帰り1
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(やっぱり……私とアンセル様にはきっと何かあるんだわ)
なぜ私にアンセル様との記憶が一切ないのか。それは分からない。
だけど、私とアンセル様がお会いしたことがあるのだと思えば、腑に落ちることはいくつもある。
ビリー、お義母様、フェンリルは私のことを知っているようなそぶりを見せたし、涙ぐんでまでいた。やっぱり初対面の相手にする態度ではないと気になった私は聞いてみたけど、皆にごまかされてしまった。
そして最初にアンセル様からの手紙を受け取った時。
確かにウォルトはアンセル様の手紙を、私に渡さないようにしていた。うっかり渡してしまった後は、取り返そうとすらしていたし。「アンセル様と結婚する」と私が決めた時にはどうにか引き留めようとしていた。
少なくともウォルトにとって、アンセル様と私が顔を合わせることは歓迎すべきことではなかったようだ。
お義母様たちには過去の私と何があったのかは分からないけれど、今の私のことは歓迎していただけたようだけど。
誰も教えてくれないのだから、自分で調べるしかない。
そしてその手掛かりはあるとしたら、実家の屋敷にしかない。
私はアンセル様に里帰りの許可をもらうことにした。
仕事から戻ったアンセル様を玄関で出迎えて、一緒に部屋に向かう。アンセル様がカバンをテーブルに置いたところで、里帰りの話を切り出すことにした。
「里帰り?」
ネクタイを引き抜きながら、アンセル様が怪訝そうに言った。
(ネ、ネクタイ引き抜くアンセル様、超絶色っぽい……。ボタン外したシャツから見える鎖骨……!)
私はくらっとしそうになったので、目をそらした。
と言うか私の前で着替えるの、やめてほしい。いや、アンセル様には着替えくらい今さらって言われるんだけど、恥ずかしいものは恥ずかしい。見るのも、見られるのも。
「あ、あの……アンセル様。話が終わったら出て行きますので、それまでお着替えお待ちいただけませんか?」
「なぜ?」
私が顔をそらしているから、アンセル様の表情は見えないが面白がるような声をしている。
「目、目のやり場に困りますので……」
「何を今さら?」
近づいてきたアンセル様が、私のあごを掴んで無理やり目を合わせる。基本無表情なことが多いのに、珍しくニヤニヤしている。
「僕の裸を毎日のように見ているだろう?」
「く、暗いので、見ていません!」
「そうか。じゃあ今度は明るくしてするか?」
な、何かアンセル様ぐいぐいくるわね……。
基本的にアンセル様ってあまり物事に執着しないんだけど、私にはたまに強引なところがある。やっぱり仮にとは言え妻だからかしら。
「け、結構です!」
(必然的に私のことも明るい中で見られるってことじゃない!)
仮に私のことを見られないとしても、アンセル様の裸をはっきり見てしまうなんて平静でいられる自信が全くない。
一生懸命首を振る私を面白そうにアンセル様は見ていたが、ひとまず諦めてくれたようだった。着替えするのもやめてくれたようで、私の顎から手を離し、ソファーに座る。ぽんぽんとその隣を軽くたたいたので、私もそこに座った。
「まあ今夜は止めておこう。……そのうちにな」
(ん?なんか最後が気になる気がしたけど……まあいいや)
私は聞こえなかったことにした。
「アンセル様がよくしてくださっているのはよく存じ上げているのですけど、領民や使用人の様子を見ておきたいのです」
一番の理由は手がかり探しだったけれど、それも大いに里帰りしたい理由の一端だった。
アンセル様はしばらく考え込んでいたけれど、頷いた。
「まぁいいだろう。だが供にフェンリルをつける。僕が帰宅する前には屋敷に戻ること。分かったな」
断られるのを予想していたのだが、あっさりアンセル様は許可をくれた。一応条件をつけられたけど、それは言われなくてもしようと思っていたことだから何でもない。
「ありがとうございます。アンセル様」
私が笑うと、アンセル様は照れたような顔をして顔をそらした。
「別に……。妻が実家に里帰りしたいというのを拒むほど、僕は狭量な男じゃない。君が無事なら別にいいんだ」
(アンセル様たちが隠そうとしていることの手がかりを、私は探そうとしているのに)
少し心が痛んだけれど、どうしても私は知りたかった。探しに行ったところで、手掛かりが見つかるかは分からないけれど。
(ごめんなさい。アンセル様)
心の中で私は謝罪した。
なぜ私にアンセル様との記憶が一切ないのか。それは分からない。
だけど、私とアンセル様がお会いしたことがあるのだと思えば、腑に落ちることはいくつもある。
ビリー、お義母様、フェンリルは私のことを知っているようなそぶりを見せたし、涙ぐんでまでいた。やっぱり初対面の相手にする態度ではないと気になった私は聞いてみたけど、皆にごまかされてしまった。
そして最初にアンセル様からの手紙を受け取った時。
確かにウォルトはアンセル様の手紙を、私に渡さないようにしていた。うっかり渡してしまった後は、取り返そうとすらしていたし。「アンセル様と結婚する」と私が決めた時にはどうにか引き留めようとしていた。
少なくともウォルトにとって、アンセル様と私が顔を合わせることは歓迎すべきことではなかったようだ。
お義母様たちには過去の私と何があったのかは分からないけれど、今の私のことは歓迎していただけたようだけど。
誰も教えてくれないのだから、自分で調べるしかない。
そしてその手掛かりはあるとしたら、実家の屋敷にしかない。
私はアンセル様に里帰りの許可をもらうことにした。
仕事から戻ったアンセル様を玄関で出迎えて、一緒に部屋に向かう。アンセル様がカバンをテーブルに置いたところで、里帰りの話を切り出すことにした。
「里帰り?」
ネクタイを引き抜きながら、アンセル様が怪訝そうに言った。
(ネ、ネクタイ引き抜くアンセル様、超絶色っぽい……。ボタン外したシャツから見える鎖骨……!)
私はくらっとしそうになったので、目をそらした。
と言うか私の前で着替えるの、やめてほしい。いや、アンセル様には着替えくらい今さらって言われるんだけど、恥ずかしいものは恥ずかしい。見るのも、見られるのも。
「あ、あの……アンセル様。話が終わったら出て行きますので、それまでお着替えお待ちいただけませんか?」
「なぜ?」
私が顔をそらしているから、アンセル様の表情は見えないが面白がるような声をしている。
「目、目のやり場に困りますので……」
「何を今さら?」
近づいてきたアンセル様が、私のあごを掴んで無理やり目を合わせる。基本無表情なことが多いのに、珍しくニヤニヤしている。
「僕の裸を毎日のように見ているだろう?」
「く、暗いので、見ていません!」
「そうか。じゃあ今度は明るくしてするか?」
な、何かアンセル様ぐいぐいくるわね……。
基本的にアンセル様ってあまり物事に執着しないんだけど、私にはたまに強引なところがある。やっぱり仮にとは言え妻だからかしら。
「け、結構です!」
(必然的に私のことも明るい中で見られるってことじゃない!)
仮に私のことを見られないとしても、アンセル様の裸をはっきり見てしまうなんて平静でいられる自信が全くない。
一生懸命首を振る私を面白そうにアンセル様は見ていたが、ひとまず諦めてくれたようだった。着替えするのもやめてくれたようで、私の顎から手を離し、ソファーに座る。ぽんぽんとその隣を軽くたたいたので、私もそこに座った。
「まあ今夜は止めておこう。……そのうちにな」
(ん?なんか最後が気になる気がしたけど……まあいいや)
私は聞こえなかったことにした。
「アンセル様がよくしてくださっているのはよく存じ上げているのですけど、領民や使用人の様子を見ておきたいのです」
一番の理由は手がかり探しだったけれど、それも大いに里帰りしたい理由の一端だった。
アンセル様はしばらく考え込んでいたけれど、頷いた。
「まぁいいだろう。だが供にフェンリルをつける。僕が帰宅する前には屋敷に戻ること。分かったな」
断られるのを予想していたのだが、あっさりアンセル様は許可をくれた。一応条件をつけられたけど、それは言われなくてもしようと思っていたことだから何でもない。
「ありがとうございます。アンセル様」
私が笑うと、アンセル様は照れたような顔をして顔をそらした。
「別に……。妻が実家に里帰りしたいというのを拒むほど、僕は狭量な男じゃない。君が無事なら別にいいんだ」
(アンセル様たちが隠そうとしていることの手がかりを、私は探そうとしているのに)
少し心が痛んだけれど、どうしても私は知りたかった。探しに行ったところで、手掛かりが見つかるかは分からないけれど。
(ごめんなさい。アンセル様)
心の中で私は謝罪した。
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