年下彼氏の策略

水無瀬雨音

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嫉妬3

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「ここです。すいませんマジで散らかってますけど」
 間取りは1LDKだったが、ゆとりがあるので二人でも余裕で暮らせそうだ。
 広々としたリビングに通される。黒を基調としてテレビやソファ、テーブルと一通りの家具が揃っているだけだが、どれも質がよさそうだ。
 行儀が悪いと思いつつも他人の家にめったに踏み入れることがないので興味深くキョロキョロしてしまう。
 忙しく片付ける暇もないのだろう。言葉通り服や雑誌などで雑然としていた。いかにも若い男性の一人暮らしという感じだ。
 樹なら片付けに来てくれる女性の一人や二人いそうなものだが、敢えてなのかとりあえず今はいないのが見てとれた。
「とりあえず座ってください。コーヒーと紅茶どっちがいいですか?」
 樹が荷物をガラステーブルに置き、ソファの上に積んであった服を寄せて座るスペースを作ってくれる。ありがたくちょこんと座らせてもらう。
 見るからに質のよいソファであまり触れるのが何となく申し訳なく、座り心地はいいのに居心地が悪い。
「ありがとう。紅茶もらっていい?」
「もっと普通にしてください。とって食ったりしないので」
 笑いながら樹がリビングと対面になっているキッチンに引っ込む。
 ケトルの沸く音がして、茶葉のよい香りが広がる。ほどなくして黒いカップに入った紅茶を持ってきてくれる。
「砂糖とミルクはいりますか?」
「大丈夫だよ。ありがとう」
 コーヒーであれば必須なのだが、紅茶ならなければないで構わない。
 祐の言葉を受けて、樹も祐の隣に座った。樹はコーヒーを持っている。樹がコーヒーが好きならコーヒーでも良かったのにと申し訳なく思う。
「千堂くん」
「はい」
「どうしてぼくにこんなによくしてくれるの?」
 常々疑問に思っていたことだった。人当たりがいい樹は他部署の祐にも会えば親切だったが、最近はわざわざ時間を作ってまでイメチェンに協力してくれたりと特に顕著だ。
 特に祐が樹に何かしてあげられているとは思えないのだが。
「…それは俺にも分かりません。ずっと必要以上に人に関わらないようにしていた俺がなんであんたに構いたくて仕方ないのか。
 あんたといるといつもの俺じゃいられなくなるのに。構わないでいるのはもっと辛いんです」
 ポツリと樹が呟く。
「なんでですかね」
 祐に言っているのではなく、どこか自分に訊ねているような気がする。
 普段の樹と違うので何ともこたえようがなく黙っていると、(というより樹は祐には答えを求めていないだろう)ぱっと樹の表情がいつもの明るいものに戻った。
「小鳩さんどうせろくな服持ってないですよね?飲み終わったらクローゼット見に行きましょう。合いそうな服あればあげますから」
「ええ…。い、いいよ。自分で買うよ。何だったら千堂くんが見立ててくれれば失敗しないし」
 樹のお下がり……。
 多分どこぞのブランドとかなのだろうから高いものな気がする。例え着ていないものだとしてもそうおいそれともらうわけにはいかない。
 それ以前に身長差が15センチほどあるのでサイズの問題で合わない気がする。

 
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