昔助けた王子様に求婚されて外堀を埋められています

水無瀬雨音

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 いち早く反応したのはマリアだった。
「ソフィア様、王都に着いたらお話ししようと思っていたのですが、黙っていて申し訳ありません」
 申し訳なさそうに頭を下げる。
「私の側仕えのメイドだったというだけだ。私が頼んでアルデンヌ男爵家で働いてもらった」
「しかしながらマリアの紹介状はブローニュ伯爵でしたが」
 マリアがアルデンヌ男爵家にやってきたのは10年前。ソフィアと8歳違いと年が近かったため、ソフィア付きのメイドにしてもらったのだ。
 持ってきた紹介状は王宮ではなくブローニュ伯爵からで、伯爵本人からもマリアの働きぶりについてたまたま会ったときに話が出たと男爵が言っていたはずだ。
「ブローニュ伯爵の息子とは学友で特に懇意にしていてな。頼んだらすぐ引き受けてくれた。一応伯爵家で一週間ほどマリアに働いてもらったので問題ない。
 男爵にも手紙で伝えてはいたが、マリアが王宮からきたメイドだとソフィアに知られると面倒だということになったのでな。紹介状をソフィアも目にするかは分からなかったが念のためだ」
「クロードさまが突拍子もないことをおっしゃるのは慣れていましたので」
 王宮にいたのはそんなに長い期間ではないはずだが、いろいろあったのだろう。何か思い出したようで、マリアは疲れたような顔をした。
「ですが、なぜそこまでしてマリアを私付きのメイドにさせたのですか?」
 ソフィアが疑問に思うのも無理はない。紹介状の偽装ととられるかすれすれの話なのだ。
「離れている間のソフィア様のご様子を逐一ご報告せよ、と仰せになったのです」
「男爵ではずっとソフィアの側にいるというのは無理なのでな。マリアのおかげで離れている間のこともよく存じているぞ!」
 クロードは誇らしげに言う。
「木に登って降りられなくなった猫を助けようとしたら自分も降りられなくなった、という話もあったな」
「幼いころの話です。マリアもそのような恥ずかしい話をご報告するのはやめて……」
 ともすれば見張られて気持ち悪いともとられる話だが、ソフィアは自分でも不思議なことに、いろいろ手を回してまで自分のことを知りたいと思ってくれているのが嬉しかった。
「ソフィアが嫌がる話のほうが私は知りたいのだ」
 クロードは、ソフィアの絹糸のようになめらかな髪を一束手に取り軽くキスをした。
「クロード様の恥ずかしい話も聞かせてください!」
 自分の恥部だけを知られているのは不公平だとの思いからだったが、思いきったことを言ってしまった気がする。クロードは口元をほころばせた。
「もちろんだ。少しずつ話してやろう。褥でな」
「わ、私たちはまだ夫婦でないのに褥だなんて」
 頬を染めるソフィアをクロードはほほえましく見つめる。
「ですから私の前ではやめてくださいと、先程申し上げたばかりなのですがね・・・・・」
 マリアの呟きは二人には届いていないだろう。
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