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「これで正式に婚約者となったが、改めて尋ねる」
 クロードはソフィアを、優しく膝から下ろし立たせた。前にひざまづかれソフィアは狼狽したが、押し止められる。クロードはその手をとって、じっとソフィアの目を見上げる。

「私と婚姻を前提とし、婚約してくれるな?」

 国王の許しを得て、男爵が伯爵となった今、ソフィアが拒む理由はなかった。ソフィアが一人拒んだところで、すでに結婚式の招待状まで出されてはどうにもできないが。
 自分の心のままに答えて、いいのだろうか。
 迷ったのは一瞬だった。

「喜んでお受けいたします。クロード様」

 ソフィアは頷いた。 
 嬉しそうなクロードが、優しく抱きしめてくる。
 もっと伝えたいことはたくさんあったのに、言葉がつまって出てこない。
 過ごした時間はほんの数日であったにも関わらず、大好きだったクロード。もらった髪飾りを見ては、楽しかった時間を思い返した。
 クロードとの再会は叶うことなく、社交界デビューしたら言い寄られた誰かと結婚するのだろうと考えていた。会いたくてたまらなかったクロードと再び相まみえることができ、婚約することができた。こんな恐ろしいほどの幸福があっていいのかと、ソフィアはしみじみ思う。
 幸せを噛み締めていると、自然と涙が溢れてしまう。
「な、なぜ泣くのだ」
 あわてふためくクロードは涙に弱いらしい。指先で涙をすくいとりながら、困惑した顔で言う。
「ソフィアの笑顔は大輪の花のようだが、泣いている姿は朝露のついた薔薇のようだ。どちらも美しく見ていたいから困るな」
「クロード様、何をおっしゃっているのですか」
 思わず笑いが込み上げてしまい、ソフィアの涙は止まった。
「うむ。やはりソフィアは笑っている顔が一番よい」
 クロードは満足気に頷き、ソフィアのあごを掴んで優しく引き寄せた。
 ーーキスをされる
 ソフィアは自然と目を閉じた。
 もう少しで唇が触れる。


 と、そのとき。

「クロード殿下。謁見が終わったら、速やかにお戻りくださいと申し上げたはずですが!こちらにおられますよね?失礼します」
 激しいノックとともに扉が開き、青年がずかずかと入ってくる。あっけにとられているソフィアをよそに、クロードの手首をしっかり掴む。
「クロード様付きの文官のライナスです。ご挨拶はいずれきちんとさせていただきます。あわただしくして申し訳ありません」
 まるで嵐のような人物だ。そそくさと簡単に挨拶をすませると、クロードを引きずるように出ていってしまう。
 ーーいいところだったのだぞ。ずっと働きづめだったのだから、少しくらいの栄養補給バチはあたらぬ。
 ーークロード様が執務をおいておでかけになるからでしょう。
 二人の会話がどんどん小さくなっていく。
 
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