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番外編 あなたの痛みにふれさせて 2
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虎視眈々とシーズベルト様に話を切り出そうとしていたオレだったが、その機会はなかなかおとずれなかった。最近のシーズベルト様は、超絶機嫌が悪かったからだ。
なんでも城の中がごたついているらしいが、シーズベルト様は家庭に仕事を持ち込まないタイプ。
今までどんなに忙しかったり大変なことがあっても、屋敷に戻ったら切り替えて穏やかなシーズベルト様になっていたので、珍しい。
……相当大変なんだろうな。
イライラしながらシーズベルト様がネクタイを引き抜く。
「ったく。本当に任せられるなら喜んで任せるが、できないくせに若造が出しゃばるななどと……。ぶん投げてもいいが、結局尻拭いさせられるのはこっちなんだ。なぁ、アルバート?」
「ええ、そうですよね」
断片的に言われてもさっぱりわかんねーけど、相槌を打っておく。詳細を聞き返す度胸はない。つーか、守秘義務だのなんだのあるだろうしな。
「シーズベルト様、よかったらオレが体流しましょうか?」
何の気なしに提案すると、シーズベルト様の動きが止まった。
うん?
オレなんかそんなに変なこと言った?
つかれてたら自分で洗うのめんどいかなって思っただけだけど。
嫌だけど言いにくいのかな。
「お一人でゆっくり入られたいならどうぞ。オレ後で入りますから」
「一緒に入ろう」
オレが逃げ出さないようにするみたいに、シーズベルト様はがしっと強く手首をつかみ、奥の浴室に向かう。
「ああ、はい……」
え、なに嬉しかったの?
誘ったのオレだけど、ぐいぐい来られすぎると……引く。
嬉しい反面、どんだけ一緒に入りたいのかと。
「君が了承してくれるなんて初めてだな」
「そういえばそうかもしれませんね」
初対面の日、(正確にはアーテルで会ってるから二回目だけれど)誘われて以来か。
裸見られたら恥ずかしいとかいう感情はないけど、その後もなんとなく誘われたら断ってたな。オレ一人で入りたい派だから。
シーズベルト様はさっと服を脱ぎ捨てると、オレのものもはぎとる。
「自分で脱げますけど……」
前言撤回。やっぱ恥ずかしい。
いいって言ったのに全身洗われる。オレがシーズベルト様を洗うって名目だったのに、なんでオレがやられたのか分からない。
バカでかい泡だらけの浴槽に、並んでつかる。というか、こんなバカでかい浴槽にくっついて入ることもないんだけど、そこをつっこむほどは野暮ではない。
めちゃくちゃ顔がつやっつやしてるな、この人。帰宅した時よりも機嫌がよくなったようで、よかったよかった。
「少しは癒されました?」
「ああ。君が毎日こうして一緒に入ってくれるなら、あいつらを合法的に失脚させる方法を思いつきそうだ」
表情を変えずに、なんか怖いこと言った!
「ベッドも毎日ともにしてくれれば最高だな」
「……考えておきます」
ただ一緒に寝るだけならいいんだけどね。それですむはずないから。
毎日手を出されると体力ミジンコのオレは辛い。
まぁ仕事が大変な間は一緒に寝てもいいかな。
あ、シーズベルト様の機嫌がいい今こそ聞くチャンスなのでは?
「シーズベルト様、お聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか」
「ああ」
「ご家族の話をうかがいたくて」
そう切り出した途端、シーズベルト様は不快そうに眉をひそめた。
吐き捨てるように、
「……君の耳に入れるような話ではない。耳汚しだ」
耳汚しって……。
「ご家族の話がですか?」
「そうだ」
貴族にしては仲良し一家の一員であるオレには、想像もつかない。
「オレにもお話していただけないんですか?」
「君だから話したくない」
「オレだから、ですか?」
「ああ。もういいか。この話は不快だ。……もうあがる。君は?」
そこまでばっさばっさ切られると、オレには食い下がれない。
「あ、オレも! 出ます!」
オレはシーズベルト様に続いて、浴槽から出た。
なんでも城の中がごたついているらしいが、シーズベルト様は家庭に仕事を持ち込まないタイプ。
今までどんなに忙しかったり大変なことがあっても、屋敷に戻ったら切り替えて穏やかなシーズベルト様になっていたので、珍しい。
……相当大変なんだろうな。
イライラしながらシーズベルト様がネクタイを引き抜く。
「ったく。本当に任せられるなら喜んで任せるが、できないくせに若造が出しゃばるななどと……。ぶん投げてもいいが、結局尻拭いさせられるのはこっちなんだ。なぁ、アルバート?」
「ええ、そうですよね」
断片的に言われてもさっぱりわかんねーけど、相槌を打っておく。詳細を聞き返す度胸はない。つーか、守秘義務だのなんだのあるだろうしな。
「シーズベルト様、よかったらオレが体流しましょうか?」
何の気なしに提案すると、シーズベルト様の動きが止まった。
うん?
オレなんかそんなに変なこと言った?
つかれてたら自分で洗うのめんどいかなって思っただけだけど。
嫌だけど言いにくいのかな。
「お一人でゆっくり入られたいならどうぞ。オレ後で入りますから」
「一緒に入ろう」
オレが逃げ出さないようにするみたいに、シーズベルト様はがしっと強く手首をつかみ、奥の浴室に向かう。
「ああ、はい……」
え、なに嬉しかったの?
誘ったのオレだけど、ぐいぐい来られすぎると……引く。
嬉しい反面、どんだけ一緒に入りたいのかと。
「君が了承してくれるなんて初めてだな」
「そういえばそうかもしれませんね」
初対面の日、(正確にはアーテルで会ってるから二回目だけれど)誘われて以来か。
裸見られたら恥ずかしいとかいう感情はないけど、その後もなんとなく誘われたら断ってたな。オレ一人で入りたい派だから。
シーズベルト様はさっと服を脱ぎ捨てると、オレのものもはぎとる。
「自分で脱げますけど……」
前言撤回。やっぱ恥ずかしい。
いいって言ったのに全身洗われる。オレがシーズベルト様を洗うって名目だったのに、なんでオレがやられたのか分からない。
バカでかい泡だらけの浴槽に、並んでつかる。というか、こんなバカでかい浴槽にくっついて入ることもないんだけど、そこをつっこむほどは野暮ではない。
めちゃくちゃ顔がつやっつやしてるな、この人。帰宅した時よりも機嫌がよくなったようで、よかったよかった。
「少しは癒されました?」
「ああ。君が毎日こうして一緒に入ってくれるなら、あいつらを合法的に失脚させる方法を思いつきそうだ」
表情を変えずに、なんか怖いこと言った!
「ベッドも毎日ともにしてくれれば最高だな」
「……考えておきます」
ただ一緒に寝るだけならいいんだけどね。それですむはずないから。
毎日手を出されると体力ミジンコのオレは辛い。
まぁ仕事が大変な間は一緒に寝てもいいかな。
あ、シーズベルト様の機嫌がいい今こそ聞くチャンスなのでは?
「シーズベルト様、お聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか」
「ああ」
「ご家族の話をうかがいたくて」
そう切り出した途端、シーズベルト様は不快そうに眉をひそめた。
吐き捨てるように、
「……君の耳に入れるような話ではない。耳汚しだ」
耳汚しって……。
「ご家族の話がですか?」
「そうだ」
貴族にしては仲良し一家の一員であるオレには、想像もつかない。
「オレにもお話していただけないんですか?」
「君だから話したくない」
「オレだから、ですか?」
「ああ。もういいか。この話は不快だ。……もうあがる。君は?」
そこまでばっさばっさ切られると、オレには食い下がれない。
「あ、オレも! 出ます!」
オレはシーズベルト様に続いて、浴槽から出た。
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