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可愛い妹とメイドが遊びに来ました 1

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「失礼いたします、アルバート様。よろしいでしょうか」
「はい。どうぞー」

 ソファーであおむけになって本を読んだままの姿勢で、オレは答えた。お行儀悪いことこの上ないが、今はアルバートなので別にいいだろう。
 リディアならそれなりに上品に過ごしているので(当社比)、アルバートでいるときくらいのびのびしたい。そもそもこの屋敷にオレを行儀が悪いなんて叱る人間はいない。
 そっと扉を開けたメイドが、一礼ののちに要件を告げる。

「アルバート様にお客様がいらしています」
「……オレ?」

 オレは当惑ながら起き上がった。
 ここにオレあての客人が訪れるなんて初めてだ。
 アルバートがここに住んでいるのは伏せているし。あるとすればシーズベルト様と関係があった令嬢が、リディアにマウント取りに来るとか?
 でもここの優秀な使用人が、そんな無礼な客を通すはずがない。当然門前払いだ。それならアルバートじゃなくてリディアにだし。

「おねーちゃん遊びに来たよー」
「お久しぶりです。お嬢さま」

 客人というのはセシルとアナベルだった。
 珍しい二人が、にこやかに手を振りながら現れた。
 普通客人は応接室に通すが、この二人はオレの私室に通した。

「久しぶり」

 おねーちゃんでもお嬢さまないんだけどな?
 おかしい。二人には本当のオレが見えていないらしい。
 ずかずか入ってきたセシルは、オレの向かいに座った。アナベルはその後ろに控えていたが、オレがしつこく勧めると、おずおずとセシルの隣に座った。
 メイドがささっとお茶を用意して部屋を退室する。
 もちろんこの二人はこの屋敷にオレが滞在していることを知っているのだけど、なんだかんだ来るのは初めてだったな。
 
「今日はいきなりどうしたんだよ?」

 セシルがお茶を一息に飲むと、テーブルの上で頬杖をついた。令嬢らしくはないが、放っておく。
 すかさずアナベルが開いたカップにお茶を注いだ。
 セシルは砂糖壺から砂糖をすくうと、お茶に入れた。スプーンでぐるぐると混ぜながら、

「アシュトン伯爵令嬢の主催するお茶会に行ってきたんだけどー」
「お前仲良かったっけ?」

 美人だが、高飛車で男の理想が高く、縁談を申し込んでくる男をばっさばっさと切り捨てている。このオレアルバートも舞踏会でダンスを申し込んだら、「将来性がある男性としか踊らないことにしていますの。ごめんあそばせ」とにっこりばっさり断られた悲しい思い出がある。セシルと気が合うとは思えないが。

「仲良くないわよ! お父さまが最近私の結婚に前向きすぎて、いいお相手を探すために貴族令嬢と交流を広めなさいって」
「ほう」

 結婚まだ早くね? と思うが、行き遅れても困るからなー。平民ならまだしも、セシルは貴族令嬢。長男のオレがシーズベルト様に嫁いでしまったので、婿に入ってもらわないといけないという責務がある。それはマジでごめんね。

「すまんセシル……」
「別にいいわよ。恋バナ聞くのは好きだし恋愛結婚できたらなーと思うけど、『好きな人じゃないと結婚したくない!』とかお花畑なこと、思ってないの。いいお相手なら結婚するわよ」
 
 おお、貴族令嬢としては頼りになるが、恋愛観めっぽうドライだ。

「アシュリー伯爵令嬢とその取り巻きがねー。だれそれが見込みあるだの、だれそれは見た目がいいけど没落しそうだのうわさ話ばーっかり。面倒になって気分が悪くなったって嘘ついて出てきたの。帰り道で、そういえばシーズベルト様のお屋敷この辺だったなって思い出して寄ったってわけ」
「お茶会ってそういうもんだろ」

 オレ男だから参加したことないけどね。リディアはマウントとられたことはあっても友だちいないし。まああんな美少女と並びたがる女はそうそういないだろうし、友だちできなくても仕方ないがな。並んで引けを取らないのはこの世でセシルくらいでは? 兄バカなのは認める。

「まあそうなんだけど。つまんないわよ。もっと建設的な話すればいいのに。あ、でも。シーズベルト様がいきなり現れたピンク髪の美少女にかっさらわれて、結婚したってすっごい怒ってたのは笑ったー」
「ぶっ」

 さらっと言われて、オレは紅茶をふき出した。辛うじてセシルとアナベルにはかからなかったが。

「ちょっと勘弁してよ、お兄ちゃん! ありえないんだけど!」

 ぶちぎれるセシル。すっごい冷たい視線を向けられる。永久凍土みたい……。お兄ちゃんこんなセシルを見たくなかったよ。
 たいしてアナベルは嫌な顔ひとつせず、さっとオレの服や床にこぼれた紅茶を拭いてくれている。

「ごめん、アナベル。そんなもん片付けさせて。ありがとう」

 謝罪すると、にっこり爽やか笑顔で、

「いいえ、仕事ですからお気になさらず。アルバート様のおむつも変えたんですよ? なんでもありません」
「え!? アナベルいくつだよ!?」

 そういえば、いつから屋敷で働いていたとかそういうこと聞いたことなかったが、見た目二十代前半のお姉さんだけど?
 ていうか自分のおむつ変えた話されるのめちゃくちゃ恥ずかしい!
 
「紳士が女性に年齢を聞くものではありませんわ」

 アナベルが唇に人差し指をあてた。すっげーにこやかなのになんか圧を感じる。怖いよ!

「はい……」

 結局彼女の年齢はうやむやになった。
 オレをじろっとひとにらみすると、セシルは話をつづけた。

「狙ってた人多いみたいね。あの若さでレオナルド様の側近だもの。しかも公爵でイケメーン」
「まあね」
「どうしてお兄ちゃんが得意げな顔してるのよ」
「だってそれオレの旦那だもん。どや顔にもなるだろ」

 どこに出しても自慢の旦那です。アシュトン伯爵令嬢の狙っていたシーズベルト様と結婚して怒らせたなんてちょっと溜飲が下がった。手痛く足蹴にされたからな。オレの性格悪いのは知ってる。

「久しぶりにシーズベルト様にもお会いしたいなー。いつおかえりになるの?」
「さあ? いつもお帰りになる時間は聞いてないから」
「はぁー? 新婚なのに? 帰ってくるの待ってないの? 『今日も出仕お疲れ様です』とかねぎらわないの? 毎晩イチャイチャしないの? 妻失格では?」

 たたみかけるように怒られるじゃん。うっ、厳しい。

「できる限り待ってるけどさー。あんまり遅いと寝落ちしちゃうんだよ。ていうか、城にも部屋があるから執務が立て込んでると泊まっちゃうときもあるし。シーズベルト様『無理して待っていなくていい。アルバートの健康や肌に悪い』って」
「はいはいごちそうさま」

 セシルはオレを適当にあしらうと、ジト目でクッキーをかりかりかじった。せんべいみたいな食べ方してるな。

「まあお兄ちゃんの元気な姿見られてよかったわ」

 セシルにうなづくアナベル。

「たまには帰ってきてくださいね」
「うん。そのうちね」

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