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現代編 序章
第4話 帰還
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敵拠点を抜けた二人は、敵前線部隊に後方より奇襲をかけることになった。
敵の通信施設の破壊成功よって、レオパルト2の存在が前線で戦闘している部隊に知らされていないのである。
しばらく走ると、敵後方部隊の自走砲や多連装ロケット車両が見えてきた。
瓦礫の中を疾走するレオパルト2は照準を自走砲に向ける。
敵の戦車は後方部隊には見当たらない。
すべて最前線に廻しているようであった。
「見えてきたな、自走を叩く」
正秀はパノラマサイトを覗きながら言った。
「りょかーい」
自走砲なら榴弾でも容易に破壊できる。
何より周辺にも被害を出せる。
榴弾を装填すると、躊躇なく砲撃を開始した。
レオパルト2のFCSならば走行間射撃も容易であった。
主砲を発射すると、爆音と共に自走砲が爆発する。
直ぐさま隣の装填手席に移動して再装填をしなければならない。
発射速度が遅いのが難点である。
当然、敵はレオパルト2の存在に気が付いた。
しかし、いきなり後方からの攻撃でパニックになっている様子である。
その隙に正秀は、次の手近な標的も破壊するのだ。
次弾の装填が終わった頃には、敵後方部隊の直ぐ後ろまで迫っていた。
為次は撃破された自走砲によって、敵兵が散らばってできた抜け道を見つける。
そして、一気にその隙間を駆け抜けるのだ。
「ほらよ、行きがけの駄賃だ」
楽しそうに、近くにいたブラチーノを撃破する正秀。
そのままスモークを発射し走り抜け、敵後方部隊は難なく突破できた。
3両撃破の戦果である。
「ひゃっほーい、行けた、行けた」
「気を抜くなよ! これからが本番だぜ為次」
その時……
後方に信号弾が見えた。
敵発見を知らせる信号弾だ。
それを見た正秀は、なんだか楽しそうに言う。
「とうとうバレたみたいだな」
「うん」
もう後戻りはできない、どうなろうが突っ込むしかないのである。
整地であれば最高速度時速70キロ以上は出せるレオパルト2。
砂埃を巻き上げながら全力疾走する。
もっとも瓦礫や建物があるのでそこまで速度は出せない。
だが、この不整地を走るのならば普通の車両ではとても追いつけないだろう。
そして、ついに敵前線部隊を射程に捉えた。
敵の数は多いものの、自衛隊に比べると意外と古い兵器を使っている。
正秀は敵のT-72に向かって硬芯鉄鋼弾を撃ち込む。
流石に前線部隊の戦車は反応装甲を付けていたが、後方からの攻撃である。
いとも簡単に装甲を撃ち抜かれると、爆発炎上した。
「よし、突っ込むぞ!」
「はいはい」
適当な返事をする為次は、レオパルト2を敵陣に飛び込ませると攻撃を回避するためにスラローム走行を始める。
揺れる車内で正秀は必死に再装填をしていた。
射撃準備が完了するまでは、ひたすら回避するしかないのだ。
そんなことはお構い無しに、敵がこちらに攻撃をしかけてくる。
「マサ、早くしてよ」
「やってるんだぜ!」
敵は構わず戦車砲を撃ち込んでくる。
それに合わせ、崩れかけた建物にレオパルト2を突っ込ませる。
壁がガラガラと崩れ攻撃を防いでくれるのだ。
そのまま止まらずに反対側の壁を突き破って外に出る。
建物に沿って回り込み敵戦車の側面をついた。
すかさず政秀は二両目を撃破するのであった。
※ ※ 自衛隊最前線 ※ ※
敵前線部隊は混乱に陥っていた。
たった一両の戦車に……
それに自衛隊は気が付いた。
敵の激しかった攻撃が手薄になっていたのだ。
敵陣を双眼鏡で確認すると戦車が一両だけ暴れ回っているではないか。
「どこのバカだ? あの戦車は」
双眼鏡を覗きながら隊員Aは呆れていた。
「敵を攻撃してるようですが、あのままではヤられてしまいますね」
隊員Aと同じく双眼鏡を覗く隊員Bは言った。
「敵では無いようだが、我が自衛隊でもないな」
「どうします?」
「識別信号弾を上げてみろ」
「了解」
隊員Bは隣に居る隊員Cへ信号弾を上げるように手で合図をするのであった。
※ ※ レオパルト2車内 ※ ※
為次はレオパルト2を必死に運転して逃げ回っていた。
意外にもダメージは殆ど無かった。
敵も同士討ちになるので中々撃てないのだ。
そんな時、南の方で信号弾が上がっているのが見えた。
それは、日本の同盟国を表す光だ。
正に今の二人にとっては、僅かな希望をつなぐ光でもあった。
正秀は直ぐさま車長ハッチを開けると、同色の信号弾を打ち上げる。
「頼むぞ……」
※ ※ 自衛隊最前線 ※ ※
隊員Bは直ぐに、その信号を確認した。
「間違いありません味方です」
「よし、後方に連絡してMLRSの要請をしろ」
―― MLRS
マルチプル・ランチ・ロケット・システムの略だ。
一両につき12連発のロケット弾を発射できる。
自衛隊にはアメリカ製のM270MLRSが配備されている。
この戦場でも後方で複数の車両が待機していた。
「了解」
命令を受けた隊員Bは隣の隊員Cに、また手で合図を出す。
「座標はあのバカ戦車の左右100メートルくらいでいい。適当でいいから早くさせるんだ」
「りょ、……え? 近すぎます! 巻き込んでしまいますよ」
「かまわん! どうせほっといてもヤられるだけだ。それより急がせろ! 直ぐに攻撃だ。我々も合わせて突撃するぞ!」
「了解っ!」
今度は隊員Cの肩をポンポンと叩くだけであった。
「誰だか知らんが、あと数分持ち堪えろよ」
そう言うと隊員Aは10式戦車に搭乗する。
それに続き、隊員Bと隊員Cは87式自走高射機関砲に搭乗した。
※ ※ レオパルト2車内 ※ ※
正秀は知っていた、あの前線に居る隊長である隊員Aを。
自分の教官を務めた人物であった。
「おい、為次」
「なに? この忙しい時に」
ちょっとイラついた返事をしてしまった。
ひたすら回避行動をして疲れているのだ。
それに、寝てないから。
「このエリアから動くな」
「はぁ? 何言ってんの? そんなことしたら、完全に囲まれるよ」
「それでいい」
「なんなの、諦めたの? このまま死ねって……」
「言う通りにしろっ!!」
為次の言葉を遮るように正秀は怒鳴り上げる。
「ふぅー…… 分かったよ、あと5分の命かな」
「5分もつのか?」
「え? ああ、それくらいは…… ね」
「頼む」
それからは無我夢中だった。
どんなに攻撃を避けても、この場から移動できなければ同じことの繰り返しでしかない。
正秀が数両の車両を撃破しくれたものの、焼け石に水である。
ふと、横を見ると新たな敵軍が近づいてくるのが見える。
「おい、マサぁ、あっちからも新手だよ。もうだめ……」
その時であった、諦めの言葉は凄まじい轟音に掻き消される。
ドーン! ドドーン!!
それは地面をも揺るがす、この世のものとは思えないほどの爆音だ。
ペリスコープの前は煙や埃で何も見えない。
為次はいったい何が起こったのか訳が分からなかった。
そんな時に、車内で一人はしゃいでいる正秀のことはもっと意味不明に思える。
「よっしゃ! やったぜ為次」
「え? 何? なんなの?」
「自衛隊からの援護射撃だ」
視界が晴れてくると周りの状況が見えてきた。
敵の残骸と死骸が散らばっている。
レオパルト2に集まってきていた敵は、一網打尽にされていたのだ。
MLRSによる面制圧である。
結果的に、レオパルト2による囮作戦を決行した形となっていた。
「上手くいったな」
為次は呆れ気味に訊く。
「知ってたの?」
「いや、ここまでやれるとは思っていなかったぜ」
正秀は初めからこれを狙っていたようだった。
だが、実際には可なり分の悪い賭けでもあった。
「まだ、終わって無いぜ」
「あ、うん」
残った敵に自衛隊が攻撃を始めていた。
それに続いて、二人も残党狩りを始める。
敵はすでに撤退を開始している様子だった。
左右に展開していた敵も中央が制圧された為に分断された状況だ。
自衛隊による挟撃で、成す術もなく圧されていた。
「助かった…… かな」
為次はシートに深く座り直しながら言った。
「とりあえずだけどな。こっちは終わりそうだし、隊長の部隊に合流するか。報告もあるんだぜ」
「ん、分かった」
為次は戦車を動かすと、本隊へと合流させるのであった。
※ ※ ※ ※ ※
本体へ合流し戦車を降りると、隊長である隊員Aの元へと向かった。
その時、既に戦闘は終わりかけていた。
「水谷三等陸尉、及び、山崎二等陸士、両名只今帰還しました」
正秀は敬礼しなが報告する。
その横で為次は……
「あ、ども」
と、軽く会釈していた。
為次はこのおっさんが苦手であった。
何も悪いことをしていないのに、直ぐ怒るからだ。
挨拶しただけでも訳の分からないことを怒鳴りだす。
だから内心ビクビクしていた。
只、実際のところは規律を教えているだけなのだが……
「二人とも、よく無事で戻ってきたな」
隊員Aは笑顔で迎えてくれる。
「車長が見あたらないようだが?」
「あぁ、車長なら腕だけに……」
ゴスッ!
為次が言い終わる前に、横から正秀にどつかれた。
「立派な最後でありました」
慌てて簡素に答え直した正秀。
「そうか、車長は残念だが、お前達もよくやったな。おかげで敵を押し返せたぞ。とりあえず拠点に戻って休息しろ、戦いはまだ続くからな」
「いや~ほんと、一睡もしてないから疲たっスよぉ、お腹も空いたし」
隊員Aと正秀は呆れたように為次を見るが、特に何も言わなかった。
言ったところで無駄なのは、分かっているから。
「ところで、この戦車は?」
「レオパルト2A6っスよ、かっこいいでしょ」
隊員Aは為次の返答を聞き流し、正秀の方を向いて訊き直す。
「どこで手に入れたんだ?」
「御前ケ岳の技研であります」
「うむ、まだ、じゅうぶん使えそうだな。すまないが、しばらくそのままで戦力として加わってもらう」
「ハッ!」
「装填手の補充隊員も何とかしてやりたいが、多分厳しいだろう」
「ご安心下さい、自分が二人…… いえ、三人分働いてみせます!」
「ふふっ、頼もしい限りだな、だがあまり無理をするな。とにかく今は、しっかり休養するんだ」
「はいっ!」
「やたー、お休みだぁ」
隊員Aは最後に舐めたことをぬかす為次を一発殴っておこうかと思う。
しかし、今回の活躍に免じて堪えるのであった。
こうして二人は前線拠点である、坂祝中学校に戻ることができた。
そして、一時の休息を得るのであった……
敵の通信施設の破壊成功よって、レオパルト2の存在が前線で戦闘している部隊に知らされていないのである。
しばらく走ると、敵後方部隊の自走砲や多連装ロケット車両が見えてきた。
瓦礫の中を疾走するレオパルト2は照準を自走砲に向ける。
敵の戦車は後方部隊には見当たらない。
すべて最前線に廻しているようであった。
「見えてきたな、自走を叩く」
正秀はパノラマサイトを覗きながら言った。
「りょかーい」
自走砲なら榴弾でも容易に破壊できる。
何より周辺にも被害を出せる。
榴弾を装填すると、躊躇なく砲撃を開始した。
レオパルト2のFCSならば走行間射撃も容易であった。
主砲を発射すると、爆音と共に自走砲が爆発する。
直ぐさま隣の装填手席に移動して再装填をしなければならない。
発射速度が遅いのが難点である。
当然、敵はレオパルト2の存在に気が付いた。
しかし、いきなり後方からの攻撃でパニックになっている様子である。
その隙に正秀は、次の手近な標的も破壊するのだ。
次弾の装填が終わった頃には、敵後方部隊の直ぐ後ろまで迫っていた。
為次は撃破された自走砲によって、敵兵が散らばってできた抜け道を見つける。
そして、一気にその隙間を駆け抜けるのだ。
「ほらよ、行きがけの駄賃だ」
楽しそうに、近くにいたブラチーノを撃破する正秀。
そのままスモークを発射し走り抜け、敵後方部隊は難なく突破できた。
3両撃破の戦果である。
「ひゃっほーい、行けた、行けた」
「気を抜くなよ! これからが本番だぜ為次」
その時……
後方に信号弾が見えた。
敵発見を知らせる信号弾だ。
それを見た正秀は、なんだか楽しそうに言う。
「とうとうバレたみたいだな」
「うん」
もう後戻りはできない、どうなろうが突っ込むしかないのである。
整地であれば最高速度時速70キロ以上は出せるレオパルト2。
砂埃を巻き上げながら全力疾走する。
もっとも瓦礫や建物があるのでそこまで速度は出せない。
だが、この不整地を走るのならば普通の車両ではとても追いつけないだろう。
そして、ついに敵前線部隊を射程に捉えた。
敵の数は多いものの、自衛隊に比べると意外と古い兵器を使っている。
正秀は敵のT-72に向かって硬芯鉄鋼弾を撃ち込む。
流石に前線部隊の戦車は反応装甲を付けていたが、後方からの攻撃である。
いとも簡単に装甲を撃ち抜かれると、爆発炎上した。
「よし、突っ込むぞ!」
「はいはい」
適当な返事をする為次は、レオパルト2を敵陣に飛び込ませると攻撃を回避するためにスラローム走行を始める。
揺れる車内で正秀は必死に再装填をしていた。
射撃準備が完了するまでは、ひたすら回避するしかないのだ。
そんなことはお構い無しに、敵がこちらに攻撃をしかけてくる。
「マサ、早くしてよ」
「やってるんだぜ!」
敵は構わず戦車砲を撃ち込んでくる。
それに合わせ、崩れかけた建物にレオパルト2を突っ込ませる。
壁がガラガラと崩れ攻撃を防いでくれるのだ。
そのまま止まらずに反対側の壁を突き破って外に出る。
建物に沿って回り込み敵戦車の側面をついた。
すかさず政秀は二両目を撃破するのであった。
※ ※ 自衛隊最前線 ※ ※
敵前線部隊は混乱に陥っていた。
たった一両の戦車に……
それに自衛隊は気が付いた。
敵の激しかった攻撃が手薄になっていたのだ。
敵陣を双眼鏡で確認すると戦車が一両だけ暴れ回っているではないか。
「どこのバカだ? あの戦車は」
双眼鏡を覗きながら隊員Aは呆れていた。
「敵を攻撃してるようですが、あのままではヤられてしまいますね」
隊員Aと同じく双眼鏡を覗く隊員Bは言った。
「敵では無いようだが、我が自衛隊でもないな」
「どうします?」
「識別信号弾を上げてみろ」
「了解」
隊員Bは隣に居る隊員Cへ信号弾を上げるように手で合図をするのであった。
※ ※ レオパルト2車内 ※ ※
為次はレオパルト2を必死に運転して逃げ回っていた。
意外にもダメージは殆ど無かった。
敵も同士討ちになるので中々撃てないのだ。
そんな時、南の方で信号弾が上がっているのが見えた。
それは、日本の同盟国を表す光だ。
正に今の二人にとっては、僅かな希望をつなぐ光でもあった。
正秀は直ぐさま車長ハッチを開けると、同色の信号弾を打ち上げる。
「頼むぞ……」
※ ※ 自衛隊最前線 ※ ※
隊員Bは直ぐに、その信号を確認した。
「間違いありません味方です」
「よし、後方に連絡してMLRSの要請をしろ」
―― MLRS
マルチプル・ランチ・ロケット・システムの略だ。
一両につき12連発のロケット弾を発射できる。
自衛隊にはアメリカ製のM270MLRSが配備されている。
この戦場でも後方で複数の車両が待機していた。
「了解」
命令を受けた隊員Bは隣の隊員Cに、また手で合図を出す。
「座標はあのバカ戦車の左右100メートルくらいでいい。適当でいいから早くさせるんだ」
「りょ、……え? 近すぎます! 巻き込んでしまいますよ」
「かまわん! どうせほっといてもヤられるだけだ。それより急がせろ! 直ぐに攻撃だ。我々も合わせて突撃するぞ!」
「了解っ!」
今度は隊員Cの肩をポンポンと叩くだけであった。
「誰だか知らんが、あと数分持ち堪えろよ」
そう言うと隊員Aは10式戦車に搭乗する。
それに続き、隊員Bと隊員Cは87式自走高射機関砲に搭乗した。
※ ※ レオパルト2車内 ※ ※
正秀は知っていた、あの前線に居る隊長である隊員Aを。
自分の教官を務めた人物であった。
「おい、為次」
「なに? この忙しい時に」
ちょっとイラついた返事をしてしまった。
ひたすら回避行動をして疲れているのだ。
それに、寝てないから。
「このエリアから動くな」
「はぁ? 何言ってんの? そんなことしたら、完全に囲まれるよ」
「それでいい」
「なんなの、諦めたの? このまま死ねって……」
「言う通りにしろっ!!」
為次の言葉を遮るように正秀は怒鳴り上げる。
「ふぅー…… 分かったよ、あと5分の命かな」
「5分もつのか?」
「え? ああ、それくらいは…… ね」
「頼む」
それからは無我夢中だった。
どんなに攻撃を避けても、この場から移動できなければ同じことの繰り返しでしかない。
正秀が数両の車両を撃破しくれたものの、焼け石に水である。
ふと、横を見ると新たな敵軍が近づいてくるのが見える。
「おい、マサぁ、あっちからも新手だよ。もうだめ……」
その時であった、諦めの言葉は凄まじい轟音に掻き消される。
ドーン! ドドーン!!
それは地面をも揺るがす、この世のものとは思えないほどの爆音だ。
ペリスコープの前は煙や埃で何も見えない。
為次はいったい何が起こったのか訳が分からなかった。
そんな時に、車内で一人はしゃいでいる正秀のことはもっと意味不明に思える。
「よっしゃ! やったぜ為次」
「え? 何? なんなの?」
「自衛隊からの援護射撃だ」
視界が晴れてくると周りの状況が見えてきた。
敵の残骸と死骸が散らばっている。
レオパルト2に集まってきていた敵は、一網打尽にされていたのだ。
MLRSによる面制圧である。
結果的に、レオパルト2による囮作戦を決行した形となっていた。
「上手くいったな」
為次は呆れ気味に訊く。
「知ってたの?」
「いや、ここまでやれるとは思っていなかったぜ」
正秀は初めからこれを狙っていたようだった。
だが、実際には可なり分の悪い賭けでもあった。
「まだ、終わって無いぜ」
「あ、うん」
残った敵に自衛隊が攻撃を始めていた。
それに続いて、二人も残党狩りを始める。
敵はすでに撤退を開始している様子だった。
左右に展開していた敵も中央が制圧された為に分断された状況だ。
自衛隊による挟撃で、成す術もなく圧されていた。
「助かった…… かな」
為次はシートに深く座り直しながら言った。
「とりあえずだけどな。こっちは終わりそうだし、隊長の部隊に合流するか。報告もあるんだぜ」
「ん、分かった」
為次は戦車を動かすと、本隊へと合流させるのであった。
※ ※ ※ ※ ※
本体へ合流し戦車を降りると、隊長である隊員Aの元へと向かった。
その時、既に戦闘は終わりかけていた。
「水谷三等陸尉、及び、山崎二等陸士、両名只今帰還しました」
正秀は敬礼しなが報告する。
その横で為次は……
「あ、ども」
と、軽く会釈していた。
為次はこのおっさんが苦手であった。
何も悪いことをしていないのに、直ぐ怒るからだ。
挨拶しただけでも訳の分からないことを怒鳴りだす。
だから内心ビクビクしていた。
只、実際のところは規律を教えているだけなのだが……
「二人とも、よく無事で戻ってきたな」
隊員Aは笑顔で迎えてくれる。
「車長が見あたらないようだが?」
「あぁ、車長なら腕だけに……」
ゴスッ!
為次が言い終わる前に、横から正秀にどつかれた。
「立派な最後でありました」
慌てて簡素に答え直した正秀。
「そうか、車長は残念だが、お前達もよくやったな。おかげで敵を押し返せたぞ。とりあえず拠点に戻って休息しろ、戦いはまだ続くからな」
「いや~ほんと、一睡もしてないから疲たっスよぉ、お腹も空いたし」
隊員Aと正秀は呆れたように為次を見るが、特に何も言わなかった。
言ったところで無駄なのは、分かっているから。
「ところで、この戦車は?」
「レオパルト2A6っスよ、かっこいいでしょ」
隊員Aは為次の返答を聞き流し、正秀の方を向いて訊き直す。
「どこで手に入れたんだ?」
「御前ケ岳の技研であります」
「うむ、まだ、じゅうぶん使えそうだな。すまないが、しばらくそのままで戦力として加わってもらう」
「ハッ!」
「装填手の補充隊員も何とかしてやりたいが、多分厳しいだろう」
「ご安心下さい、自分が二人…… いえ、三人分働いてみせます!」
「ふふっ、頼もしい限りだな、だがあまり無理をするな。とにかく今は、しっかり休養するんだ」
「はいっ!」
「やたー、お休みだぁ」
隊員Aは最後に舐めたことをぬかす為次を一発殴っておこうかと思う。
しかし、今回の活躍に免じて堪えるのであった。
こうして二人は前線拠点である、坂祝中学校に戻ることができた。
そして、一時の休息を得るのであった……
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