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異世界編 1章
第7話 別荘
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この世界では太陽が沈んだばかりの空に、月とリングが浮いている。
空を覆いつくす満点の星空が漆黒の闇を青白く染め上げている。
幻想的であり不気味でもある不思議な夜空を、走るレオパルト2から眺めていた。
「なんだったんだ、ありゃ?」
砲塔を正面にされて空の見えなくなった為次は言った。
「リングが空にあるな。衛星軌道あたりだと思うが…… 衛星にしてはデカ過ぎるぜ」
「うん」
それは、銀色に輝く多角形のリングであった。
今は月から少し離れた位置で静かに輝いている。
「謎のリングもだけど、星が多すぎるなぁ」
為次の言うように夜空一面を星がお覆いつくしていた。
星々から溢れる光で、まるで白夜のようである。
「夜でもこんなに明るいのか。どう思う為次?」
「え? どうって?」
「少しくらい自分の思いを話してくれてもいいだろ、嫌か?」
「思いって言われても…… ねぇ」
「まあ、直ぐにじゃなくてもいいぜ。時間はたっぷりあるようだしな。じゃあ、この夜空の感想でいいぜ」
「感想ねぇ、うーん」
為次は、少し考えてから話し始める……
「そうだね、これだけ星があるってことは銀河の中心付近ってなるかな。地球が銀河の外縁からやや内側付近だから、同じ銀河だったとしてもかなりの距離だね」
正秀は黙って静かに聞いていた。
「それが違う銀河だとしたら考えたくもないよ」
機密情報を無断で見たことだって、それ自体は怒ってはいない。
「んで、それは同じ宇宙だった場合の話だけど。もし次元そのものが違ったら…… 宇宙そのものが違ったら……」
今でも、たまに自分のことを他人行儀で見られるが辛かった。
「距離だけの問題じゃないよね。地球と同じ場所だけど、重なり合った違う世界。それとも、違う世界の違う銀河なのか……」
相手の顔色を伺いながら話す為次の癖だって、それは知っている。
「とにかく、今は情報が足らなさ過ぎるよ。だから今はマサとビールを飲みたい! それだけ!」
だけど今の正秀は少し嬉しかった。
ちょっとだけ為次が自分の気持ちを話してくれたから。
「はははははっ」
正秀は唐突に笑った。
「なんなの……」
「俺は、お前のそういうとこ好きだぜ。ははっ」
「はいはい」
それから二人は街灯も無く暗い夜道を宿泊地へと向かった。
※ ※ ※ ※ ※
しばらく進むとターナの別荘と思しき建物が見えてきた。
地図の場所にはそれしか建物が無いので、直ぐに分かった。
冒険者区画から少し離れた林の中で、人気はまったく無い。
それなりに大きな建物で、街の建物はほとんどレンガ作りだったのに対して別荘は木造のようだ。
横には何かの小屋もある。
「着いた。かも」
為次は玄関の前に戦車を停車させた。
正秀は降車して玄関の前に立ち、借りてきた鍵を挿してみる。
ガチャ
「開いた、ここで間違いないようだな」
「うん」
「これで今夜はゆっくり休めそうだな」
「うん」
「レオはそこの小屋に入れとけよ」
「うん」
「「…………」」
何故か沈黙する二人……
「どうした?」
レオパルト2を動かそうとしない為次に正秀は訊いた。
「あのさ…… 俺、ここで寝るよ」
「はぁ? 何、言ってんだ? 中に入れば風呂もあるしベッドもあるだろ、多分」
「まあ、ね……」
「何時まで戦車の中に居る気だよ、そんなとこに居たって帰れ…… あっ」
正秀は気が付いた、為次はずっと怯えていたのだと。
レオパルト2の中だけは、日本に居た時のままの空間だと。
だからといって、何時までも車内に引きこもられても困る。
なので正秀は説得しようとする。
「なあ、今のままじゃあ帰れるかどうかも分からないんだぜ」
「知ってる」
「じゃあ、しばらくはここで厄介になるんだ。何時までもそうしてる分けにも行かないだろ」
「…………」
「時間が無いのは、自分が一番知ってるはずだぜ?」
「それはそうだけど……」
時間が無い、正秀の言う通りだ。
本当は今直ぐにでも戦車から出たかった。
しかし、ここから出ると二度と帰れなくなるかも知れない。
そんな不安に怯えていた。
だから為次は悩んだ……
だが、いくら考えても、すでに答えは決まっていた。
もう時間が無いのだ。
「めんどくさい奴だな」
そう言いながら正秀は為次に近づくと、首を掴んで運転手ハッチから無理やり引き摺り出し始める。
「ちょ、ま。イタイ、痛い、やめてー」
「自分で出られないんだろ! なら、俺が出してやるよ!」
「分かった、分かった。自分で出るから」
それでも正秀は為次の首を掴んで持ち上げようとする。
「ほら、出て来いよっ」
「痛たたたたた、ちょ、マジ ……ぐぇ」
「うりゃぁぁぁ!」
「ぎゅぇぇぇぇ……」
結局、半分は無理矢理引っ張り出され、後は諦めた感じで自分から出て来た。
もはや一刻の猶予も無かったので、そのまま無言で木の陰へと走り去って行くのだった。
見送る正秀は呆れながら言う。
「しょうがない奴だな、まったく。レオは俺が車庫に入れておいてやるか」
一人になった正秀は小屋の扉を開けると、戦車に乗り込み小屋の方へと動かし始める。
小屋は物置小屋というよりは馬か何かの生き物であろうか? 動物小屋のようだ。
そこを車庫にしようとしているのだ。
「意外と狭いな」
ぶつぶつ言いながら正秀は運転席の左側にあるバックモニタを見ながらバックさせる。
にも関わらず……
ゴスッ メキッ メキメキ
「あっ!?」
入口の柱にぶつかってしまった。
戦車はなんともなかったが、小屋の入口右側を大破させ更に奥の柱にぶつかる。
「もっと右か、左に回せばいいかな」
と、運転席の左側にあるバックモニタを見ながら……
モニタには車体の左後部と奥の柱がぶつかっているのが映っている。
その時、正秀は何を思ったのか超信地旋回のモードに入れた。
超信地旋回とは左右の履帯を互いに逆進させて、その場で旋回することだ。
ちなみに超の付かない只の信地旋回は片方だけの履帯を動かして旋回することです。
「えーっと、ここがぶつかってるから、こっちに回してから後退すればいいな。うん」
運転席の左側のバックモニタを指しながら、訳の分からない確認をする。
アクセルを踏み込みハンドルを回すとレオパルト2は華麗に超信地旋回を始める。
しばらく戦車を運転していなかった正秀の予想を上回る速度で戦車は小屋の中で旋回した。
レオパルト2A6以降に装備されている55口径の長砲身は、小さな小屋など簡単に薙ぎ払う!
その時、正秀は思った。
戦車は車体そのものが武器なんだ!
ガラ ガラ ガラッ!!
崩れてくる小屋の中で、正秀はもの凄くどうでもいいことを考えるのであった……
……………
………
…
凄い音が聞こえたので、為次は慌てて戻って来た。
その顔はとてもスッキリしている。
やっぱりトイレは我慢するもんじゃないね。
などと思いながら戻って来たのだ。
今まで悩んでいた自分がバカだったと少し後悔する。
しかし、目の前の光景を見た時に、その後悔すらどうでもよくなった。
大切なレオパルト2が瓦礫に半分くらい埋もれている……
「え!? ちょ? えええええぇ? なんで」
為次は慌てて運転席付近の瓦礫をどかし始める。
「マサ!」
と、叫んだその時。
ウィィィィィン
操縦手ハッチを正秀が内側から開けた。
「よぉ、戻ったか。スッキリしただろ?」
「いやいやいや、意味が分からないよ。この状況は何なの」
「そんなの見りゃ分かるだろ。車庫に入れといたぜ」
「いやいやいや、おかしいでしょ」
「そうか?」
「どう見てもおかしいでしょ!」
「細かい奴だな」
「そんなレベルの問題じゃない気がするんだけど」
「そんなことより、レオは今夜ここに置いといて飲みに行こうぜ」
そう言いながら、正秀は酒と肴の入った紙袋を持って出て来た。
「分かったから、二度とレオは勝手に動かさないで」
正秀は振り返って、瓦礫に埋もれているレオパルト2を見る。
「そうだな、それがいい……」
「「…………」」
二人は無言でレオパルト2を後にすると、別荘へと入って行くのであった。
※ ※ ※ ※ ※
中に入ると暗かった。
灯りがない。
窓から射し込む星の明かりだけが、薄っすらと部屋を照らしている。
為次は電気なんてある分けないだろと思いながらも訊く。
「暗っ、電気は?」
「電気は無いだろ、多分。ロウソクとか見当たらないか?」
「さあ?」
「探せよ……」
正秀は入口付近の壁を薄暗い中、探って見ると『ロビー』と書かれた四角い枠があった。
そこに、手を触れると部屋に明かりが灯る。
「これがスイッッチみたいだな」
「おお、明るくなった」
所々に設置されている、丸い石のようなものが光っている。
その石をナデナデしながら為次は言う。
「へー、これが電球代わりってことか」
「明かりも魔法で供給されてる感じだな」
「残念、期待はずれだわ」
「そうだな」
二人が期待していたのは、オイルランプだった。
オイルランプがあれば灯油に近い油を精製しているはずである。
灯油が手に入るなら、ディーゼルエンジンを搭載しているレオパルト2の燃料供給ができたかも知れないのだ。
灯油でなくとも、原油さえあるなら後は蒸留施設を作りさえすれば、なんとかなるかも知れないとも考えていた。
「まあ、しょうがないか」
ガッカリ気味の為次。
「だな」
少し不満そうな為次を横目に、正秀はロビーに置いてあるテーブルの上にビールと肴を並べ始める。
そして、テーブルとセットになっているソファーに座るとビールを開けた。
「お前も座れよ」
「ああ、うん。やー、久し振りの酒だわ。嬉しいなぁ」
戦車の燃料は目処が立っていないが、自分の燃料を目の前に為次はとても嬉しそうだった。
「じゃあ乾杯だな」
「何に?」
「えーっとだな、うーん」
「じゃあレオのハッチを閉め忘れてることに乾杯!」
「えぇー……」
「「…………」」
二人は無言で顔を見合わせる……
しぶしぶ、為次は瓦礫に埋もれている戦車のハッチを閉めに行くのであった。
その後は夜遅くまで呑み明かす。
結局、風呂にも入らず、そのままソファーで寝てしまった。
そんな、ソファーで寝っ転がる為次は思うのだ。
これからのことは、また明日考えよう。
現実逃避に乾杯!!
空を覆いつくす満点の星空が漆黒の闇を青白く染め上げている。
幻想的であり不気味でもある不思議な夜空を、走るレオパルト2から眺めていた。
「なんだったんだ、ありゃ?」
砲塔を正面にされて空の見えなくなった為次は言った。
「リングが空にあるな。衛星軌道あたりだと思うが…… 衛星にしてはデカ過ぎるぜ」
「うん」
それは、銀色に輝く多角形のリングであった。
今は月から少し離れた位置で静かに輝いている。
「謎のリングもだけど、星が多すぎるなぁ」
為次の言うように夜空一面を星がお覆いつくしていた。
星々から溢れる光で、まるで白夜のようである。
「夜でもこんなに明るいのか。どう思う為次?」
「え? どうって?」
「少しくらい自分の思いを話してくれてもいいだろ、嫌か?」
「思いって言われても…… ねぇ」
「まあ、直ぐにじゃなくてもいいぜ。時間はたっぷりあるようだしな。じゃあ、この夜空の感想でいいぜ」
「感想ねぇ、うーん」
為次は、少し考えてから話し始める……
「そうだね、これだけ星があるってことは銀河の中心付近ってなるかな。地球が銀河の外縁からやや内側付近だから、同じ銀河だったとしてもかなりの距離だね」
正秀は黙って静かに聞いていた。
「それが違う銀河だとしたら考えたくもないよ」
機密情報を無断で見たことだって、それ自体は怒ってはいない。
「んで、それは同じ宇宙だった場合の話だけど。もし次元そのものが違ったら…… 宇宙そのものが違ったら……」
今でも、たまに自分のことを他人行儀で見られるが辛かった。
「距離だけの問題じゃないよね。地球と同じ場所だけど、重なり合った違う世界。それとも、違う世界の違う銀河なのか……」
相手の顔色を伺いながら話す為次の癖だって、それは知っている。
「とにかく、今は情報が足らなさ過ぎるよ。だから今はマサとビールを飲みたい! それだけ!」
だけど今の正秀は少し嬉しかった。
ちょっとだけ為次が自分の気持ちを話してくれたから。
「はははははっ」
正秀は唐突に笑った。
「なんなの……」
「俺は、お前のそういうとこ好きだぜ。ははっ」
「はいはい」
それから二人は街灯も無く暗い夜道を宿泊地へと向かった。
※ ※ ※ ※ ※
しばらく進むとターナの別荘と思しき建物が見えてきた。
地図の場所にはそれしか建物が無いので、直ぐに分かった。
冒険者区画から少し離れた林の中で、人気はまったく無い。
それなりに大きな建物で、街の建物はほとんどレンガ作りだったのに対して別荘は木造のようだ。
横には何かの小屋もある。
「着いた。かも」
為次は玄関の前に戦車を停車させた。
正秀は降車して玄関の前に立ち、借りてきた鍵を挿してみる。
ガチャ
「開いた、ここで間違いないようだな」
「うん」
「これで今夜はゆっくり休めそうだな」
「うん」
「レオはそこの小屋に入れとけよ」
「うん」
「「…………」」
何故か沈黙する二人……
「どうした?」
レオパルト2を動かそうとしない為次に正秀は訊いた。
「あのさ…… 俺、ここで寝るよ」
「はぁ? 何、言ってんだ? 中に入れば風呂もあるしベッドもあるだろ、多分」
「まあ、ね……」
「何時まで戦車の中に居る気だよ、そんなとこに居たって帰れ…… あっ」
正秀は気が付いた、為次はずっと怯えていたのだと。
レオパルト2の中だけは、日本に居た時のままの空間だと。
だからといって、何時までも車内に引きこもられても困る。
なので正秀は説得しようとする。
「なあ、今のままじゃあ帰れるかどうかも分からないんだぜ」
「知ってる」
「じゃあ、しばらくはここで厄介になるんだ。何時までもそうしてる分けにも行かないだろ」
「…………」
「時間が無いのは、自分が一番知ってるはずだぜ?」
「それはそうだけど……」
時間が無い、正秀の言う通りだ。
本当は今直ぐにでも戦車から出たかった。
しかし、ここから出ると二度と帰れなくなるかも知れない。
そんな不安に怯えていた。
だから為次は悩んだ……
だが、いくら考えても、すでに答えは決まっていた。
もう時間が無いのだ。
「めんどくさい奴だな」
そう言いながら正秀は為次に近づくと、首を掴んで運転手ハッチから無理やり引き摺り出し始める。
「ちょ、ま。イタイ、痛い、やめてー」
「自分で出られないんだろ! なら、俺が出してやるよ!」
「分かった、分かった。自分で出るから」
それでも正秀は為次の首を掴んで持ち上げようとする。
「ほら、出て来いよっ」
「痛たたたたた、ちょ、マジ ……ぐぇ」
「うりゃぁぁぁ!」
「ぎゅぇぇぇぇ……」
結局、半分は無理矢理引っ張り出され、後は諦めた感じで自分から出て来た。
もはや一刻の猶予も無かったので、そのまま無言で木の陰へと走り去って行くのだった。
見送る正秀は呆れながら言う。
「しょうがない奴だな、まったく。レオは俺が車庫に入れておいてやるか」
一人になった正秀は小屋の扉を開けると、戦車に乗り込み小屋の方へと動かし始める。
小屋は物置小屋というよりは馬か何かの生き物であろうか? 動物小屋のようだ。
そこを車庫にしようとしているのだ。
「意外と狭いな」
ぶつぶつ言いながら正秀は運転席の左側にあるバックモニタを見ながらバックさせる。
にも関わらず……
ゴスッ メキッ メキメキ
「あっ!?」
入口の柱にぶつかってしまった。
戦車はなんともなかったが、小屋の入口右側を大破させ更に奥の柱にぶつかる。
「もっと右か、左に回せばいいかな」
と、運転席の左側にあるバックモニタを見ながら……
モニタには車体の左後部と奥の柱がぶつかっているのが映っている。
その時、正秀は何を思ったのか超信地旋回のモードに入れた。
超信地旋回とは左右の履帯を互いに逆進させて、その場で旋回することだ。
ちなみに超の付かない只の信地旋回は片方だけの履帯を動かして旋回することです。
「えーっと、ここがぶつかってるから、こっちに回してから後退すればいいな。うん」
運転席の左側のバックモニタを指しながら、訳の分からない確認をする。
アクセルを踏み込みハンドルを回すとレオパルト2は華麗に超信地旋回を始める。
しばらく戦車を運転していなかった正秀の予想を上回る速度で戦車は小屋の中で旋回した。
レオパルト2A6以降に装備されている55口径の長砲身は、小さな小屋など簡単に薙ぎ払う!
その時、正秀は思った。
戦車は車体そのものが武器なんだ!
ガラ ガラ ガラッ!!
崩れてくる小屋の中で、正秀はもの凄くどうでもいいことを考えるのであった……
……………
………
…
凄い音が聞こえたので、為次は慌てて戻って来た。
その顔はとてもスッキリしている。
やっぱりトイレは我慢するもんじゃないね。
などと思いながら戻って来たのだ。
今まで悩んでいた自分がバカだったと少し後悔する。
しかし、目の前の光景を見た時に、その後悔すらどうでもよくなった。
大切なレオパルト2が瓦礫に半分くらい埋もれている……
「え!? ちょ? えええええぇ? なんで」
為次は慌てて運転席付近の瓦礫をどかし始める。
「マサ!」
と、叫んだその時。
ウィィィィィン
操縦手ハッチを正秀が内側から開けた。
「よぉ、戻ったか。スッキリしただろ?」
「いやいやいや、意味が分からないよ。この状況は何なの」
「そんなの見りゃ分かるだろ。車庫に入れといたぜ」
「いやいやいや、おかしいでしょ」
「そうか?」
「どう見てもおかしいでしょ!」
「細かい奴だな」
「そんなレベルの問題じゃない気がするんだけど」
「そんなことより、レオは今夜ここに置いといて飲みに行こうぜ」
そう言いながら、正秀は酒と肴の入った紙袋を持って出て来た。
「分かったから、二度とレオは勝手に動かさないで」
正秀は振り返って、瓦礫に埋もれているレオパルト2を見る。
「そうだな、それがいい……」
「「…………」」
二人は無言でレオパルト2を後にすると、別荘へと入って行くのであった。
※ ※ ※ ※ ※
中に入ると暗かった。
灯りがない。
窓から射し込む星の明かりだけが、薄っすらと部屋を照らしている。
為次は電気なんてある分けないだろと思いながらも訊く。
「暗っ、電気は?」
「電気は無いだろ、多分。ロウソクとか見当たらないか?」
「さあ?」
「探せよ……」
正秀は入口付近の壁を薄暗い中、探って見ると『ロビー』と書かれた四角い枠があった。
そこに、手を触れると部屋に明かりが灯る。
「これがスイッッチみたいだな」
「おお、明るくなった」
所々に設置されている、丸い石のようなものが光っている。
その石をナデナデしながら為次は言う。
「へー、これが電球代わりってことか」
「明かりも魔法で供給されてる感じだな」
「残念、期待はずれだわ」
「そうだな」
二人が期待していたのは、オイルランプだった。
オイルランプがあれば灯油に近い油を精製しているはずである。
灯油が手に入るなら、ディーゼルエンジンを搭載しているレオパルト2の燃料供給ができたかも知れないのだ。
灯油でなくとも、原油さえあるなら後は蒸留施設を作りさえすれば、なんとかなるかも知れないとも考えていた。
「まあ、しょうがないか」
ガッカリ気味の為次。
「だな」
少し不満そうな為次を横目に、正秀はロビーに置いてあるテーブルの上にビールと肴を並べ始める。
そして、テーブルとセットになっているソファーに座るとビールを開けた。
「お前も座れよ」
「ああ、うん。やー、久し振りの酒だわ。嬉しいなぁ」
戦車の燃料は目処が立っていないが、自分の燃料を目の前に為次はとても嬉しそうだった。
「じゃあ乾杯だな」
「何に?」
「えーっとだな、うーん」
「じゃあレオのハッチを閉め忘れてることに乾杯!」
「えぇー……」
「「…………」」
二人は無言で顔を見合わせる……
しぶしぶ、為次は瓦礫に埋もれている戦車のハッチを閉めに行くのであった。
その後は夜遅くまで呑み明かす。
結局、風呂にも入らず、そのままソファーで寝てしまった。
そんな、ソファーで寝っ転がる為次は思うのだ。
これからのことは、また明日考えよう。
現実逃避に乾杯!!
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