異世界に吹っ飛ばされたんで帰ろうとしたら戦車で宇宙を放浪するハメになったんですが

おっぱいもみもみ怪人

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異世界編 1章

第9話 炎竜その1

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 正秀と為次は借家に戻ると、キューリ小屋の残骸と飲み散らかしたロビーは綺麗に片づけてあった。
 誰だか知らないが綺麗にしてくれていたので、不都合な記憶は忘却の彼方へと追いやる。

 それよりも風呂に入って綺麗にさっぱりしたのち、ロビーで今後の相談をすることにしたのである。

 正秀が先に風呂に入りロビーのソファーで待っていると、為次も頭を拭きながら風呂から上がって来た。

 「よう、為次。久しぶりの風呂はどうだった?」

 「すげー広い風呂だったよ。しかも、お湯が垂れ流しだねぇ」

 「垂れ流しって…… 嫌な言い方するなよ。ま、それは置いといて、とりあえず座れよ」

 「うん」
 
 正秀はキッチンで見つけたグラスにワインを注ぐと、街で買っておいた肴をテーブルに並べる。
 肴は何かの肉を焼いたものと、謎の実に謎のソースがたっぷりかけてあるものだ。

 「食えるのそれ?」

 あからさまに怪しげな食材を見る為次は訊いた。
 買ってきた本人は深く考えていない様子で言う。

 「大丈夫だろ、多分」

 「まあ、いいか」

 為次は謎肉を摘まむとソファーに座った。
 さっそく食べてみる。

 「おお、美味いかも昨日のと違うね」

 「じゃあ、一杯やりながらコイツを選ぶとするか」

 そう言いながら正秀はギルドでもらってきた依頼書をテーブルに並べる。
 為次はそれを一枚手に取ってみた。
 
 「えーとこれはゴブリン退治か。んで、そっちのがキャベツの採取。こっちの世界にもキャベツがあるんかよ」

 「でも、キューリが鳥だからな、野菜のキャベツとも限らんだろ」

 「んまあ、確かに」

 しばらく為次は依頼書を眺めていた。
 一通り目を通し終わると、バサッとテーブルの上に投げた。

 「それより、これどう?」

 と、ポケットから一枚の依頼書を出し正秀に差し出す。

 「ん? なんだ? お前も貰ってきたのか」

 為次の依頼書を手に取り内容を確認する。

 「レッドドラゴンの討伐及びエレメンタルストーンの回収…… 討伐報酬1億ゴールド!? プラス、石の売却1億ゴールドだと!? なんだこれは……」

 正秀は依頼内容と報酬額の高さに驚いた。

 「なんか凄いよねそれ」

 「しかし、やばいんじゃないのか?」

 「別に無理なら無理でいいけどさ、ちょっとくらい見てみたくない? レッドドラゴン。伝説の生物の王者だよ」

 「ま、まあ…… 見るくらいならいいかもな。ついでに撃破できれば儲けもんだし」

 「でしょ。まだ、5百万ゴールドがあるし、しばらくは生活にも困らないだろうから、そう焦って仕事する必要も無いよ」

 「それも、そうだな」

 「でしょでしょ」

 「じゃあ依頼内容をちゃんと確認しとくか」
 
 依頼書の内容はこうだった。

 【数日前、炎竜の山にレッドドラゴンが発生、近くのファーサ村が襲われ消滅。
 王国が討伐隊を派遣するも大敗、いまだ健在のレッドドラゴン討伐を王国から依頼。
 報酬は1億ゴールド。
  その討伐任務に伴いエレメンタルストーンの購入を上級国民であるガザフ氏が申し出。
 売却額は1億ゴールド】

 「村を襲ったとかじゃなくて、消滅なんだな」

 正秀は依頼書を為次に返し言った。

 「流石ドラゴンってとこだねー」

 「だな」

 「でもでも、レオの装甲ならドラゴンのブレスも大丈夫でしょ」

 「数千度は耐えるだろうしな、多分。しかし、この発生ってのは何だ? 魔獣ってのは勝手に湧くものか?」

 「魔法生命体とかターナが言ってたし、そうかもね」

 「ほんと不思議なことだらけだな」

 「そだね」

 「地図も付いてるし、明日にでも行ってみるか」

 「うん」

 「他にやることも無いしな」

 「りょかーい。でも、王国の討伐隊が倒せない魔獣を冒険者に依頼するって、どうなんだろね」

 「中には王国の軍人より強い冒険者が居るってとこじゃねーのか?」

 「へぇー」

 「いや、俺も知らないぜ」

 「ああ、そうだよね」

 その後も二人は、明日の打合せっぽいことを話したりしながら、楽しそうに飲み明かした。
 もっとも今朝みたいに、またターナに殴られるとヤバイからと少々控えめに呑むのであった。

 ※  ※  ※  ※  ※

 ―― 翌朝

 二人はレオパルト2に搭乗すると、さっそく炎竜の山へと向かう。
 王都サイクスの外壁を出ると、そこには草原が広がっている。
 目的である炎竜の山は、ここから北東の方角だ。
 そこを目指し為次は爽快にレオパルト2を走らせる。
 
 「地図だと、こっちの方角だね」

 「そうだな。でも、あまり高い山が見えないぜ」

 正秀はパノラマサイトを覗きながら言った。
 北には遠く雪を被った山が見えるが、北東の方角には地平線が広がるだけである。

 「地図だと、そんなに遠くない感じだけど、だいぶ距離あるんかな?」

 「どうだろうな?」

 「今のとこは燃料満タンに近いけど、補給できんのがねぇ……」

 レオパルト2の航続距離は約500キロメートルだ。
 しかし、その距離は整地を時速50キロで巡航した場合である。
 不整地走行や戦闘機動をしようものなら、直ぐに燃料を消費してしまう。
 こちらの世界に来てからは、補給のできない現状を為次は常に不満に思っていた。

 「もし、ドラゴン倒せたら2億ゴールドだけど、原油堀に使うから」

 「マジか…… 燃料だけ補給しても、砲弾も消耗品だし、足回りとかの整備はどうすんだよ」

 「どうしよう……」

 今のままでは、レオパルト2をこのまま運用するには前途多難である。
 だから今の内に稼いでおこうという気持ちが強かった。
 この先どうなるかなど分かる由も無いのだから。
 だから様子見がてら、この高額依頼の偵察に行くことは二人とも迷いはあまりなかったのだ。

※  ※  ※  ※  ※

 しばらく走ると、草原は終わり、ゴツゴツした岩だらけの場所になってきた。
 前方には小高い丘が見えてくる。

 「岩ばっかになってきたっぽい」

  大きな岩に注意しながら為次はレオパルト2を走らせる。

 「だが、肝心の山が見えないぜ」

 「結構、走ったけどまだかよ。まったくもー」

 かれこれ1時間近く走っている、直線距離にすると王都から50キロ近い距離だ。
 これを往復すれば単純に考えても、燃料の1/5以上を消費することになる。
 
 「こんなに遠いのかよ、地図だと近そうなのにぃ」

 為次はぶつぶつ言いながら岩の丘を駆け上る。
 
 「結構、適当な地図だからな」

 それは丘に登りきった時であった。

 「んぬぁ! マジかよ!」

 突然、為次は急ブレーキをかけると、戦車前部のサスペンション沈み込む。
 正秀は急停車の体制を取っていなかったので、砲手席に転がり落ちた。

 「いってぇぇぇ! 急に止まるなよ! バカ」

 「や、ヤバかった……」

 「どうしたんだよ? ったく」

 正秀は文句を言いながらも、車長席に戻るとパノラマサイトを覗き込む。

 それは、何とも言えない恐ろしい光景であった。

 二人の眼前には溶岩の池が広がっている……
 レオパルト2はその溶岩池の寸前で止まっていた。
 正確には転輪2つ分くらいは崖からハミ出している。
 あと少しブレーキ遅ければ溶岩の池に真っ逆さまであった。

 「やばい、やばい、ちょっと下がるわ」

 少しバックして安全そうな所に戦車を停める為次。

 「お、おう……」

 為次はハッチから頭を出し、その光景を眺めてみる。

 「あっつ」

 正秀もハッチから頭を出してみると、やっぱり熱い。

 「確かに熱いな」

 「もしかしてここが炎竜の山?」

 「そうかもな、見た感じだと過去に爆発的噴火で山体が吹っ飛んだ感じだぜ」

 「その跡が溶岩の池ってもうね、あっひゃー! もうびっくりどっきりですよ」

 「意味不明な驚き方してなくていいから、見てみろよ。二時の方角」

 正秀は双眼鏡を覗きながら、そう言った。

 為次もその方角を双眼鏡で見てみる。

 「んー、どこー?」

 「ほら、あの島みたいになってるとこだぜ」

 そこには、溶岩の中に巨大な岩の島がある。
 その上には目的の魔獣と思われるレッドドラゴンが居た。

 「キターーーーーッ!!」

 伝説の竜を前に為次は大興奮だ。

 「テンション上がり過ぎだろ」

 「い、い、今なら殺れるんじゃね? 何か寝とるっぽいし」

 「そうだな、動かないなら簡単に撃破できそうだぜ」

 「でしょ、でしょ!」

 「とは言え、あそこで倒すと石を取りに行けないぜ?」

 「討伐だけでも1億っしょ、まあいいじゃない」

 「それもそうだな、んじゃ、いっちょるか!」

 正秀は装填手席に移動すると翼安定徹甲弾を装填する。
 どうせ、取りに行けないエレメンタルストーンならと心臓ごとぶっ飛ばす考えだ。
 再び車長席に戻る、狙いをドラゴンの胸の辺りにつける。

 「へへ、チョロいな、これで1億か」

 「やったぞい。1億あれば、しばらく遊んで暮らせるわ」

 「この変な世界でしか、使えねーけどな」

 そして、正秀は車長席にある射撃用スティックで確実に狙いをすましトリガーを引いた。
 次の瞬間、爆音と共に砲弾が発射される。

 ドゴーン!!

 砲口から火炎とともに砲弾が撃ち出される。
 薬莢受けには2つ目の薬莢が転がり出て来た。
 もっとも、薬莢のほとんどは燃えて、底部しか出て来ないが。

 発射された砲弾は装填筒を分離させると、弾心だけが寸分の狂いもなくレッドドラゴンへと着弾するのだ。
 
 「よっしゃ! 頂きだぜ」

 正秀は1億円…… もとい1億ゴールドゲットを確信した。

 「お疲れさーん。あれだけデカイから、バラバラにはなってないよね」

 「多分な」

 二人は喜びながらレッドドラゴンの死骸を双眼鏡で確認する。
 着弾の爆風が巻き上げた埃が収まってくると、レッドドラゴンの死骸が見えてきた。

 否、見えるはずであった……

 しかし、二人の目に映ったものは、眠りから覚めレオパルト2を睨み、咆哮を上げるレッドドラゴンの姿であった。

 「ぐぉぉぉぉぉ!」と、その叫びはこの世のものとは思えないほど恐ろしいもので、大地をも揺るがす。

 「お、おい…… マサぁ、ちゃんと当ててよ……」

 「当たっただろ! お前も見ただろ!」

 二人にはその光景が信じられなかった……
 いや、信じたくなかった。
 9百万ジュールを一点に集中させたエネルギーを喰らって、無傷でいられる生物などあり得ないのだ。
 居てはならないのだ!
 まさに、二人にとっては悪夢であった。

 否、悪夢は終わらない……

 二人のドラゴンを見つめる瞳孔が広がる。
 レッドドラゴンは静かに羽ばたくと、その巨体を浮かび上がらせる。
 どう見てもアノ羽ばたきでは飛べるわけがない。
 あの巨体で浮遊できるわけがない。

 生物の口に炎が収束されるわけがない。

 炎……

 「ブレス!? 為次ぅっ!!」

 正秀は咄嗟に為次の名を叫ぶ!

 その時、為次は笑っていた。

 この世界に来る少し前の、美濃加茂で敵陣突破をした時のように……
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