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異世界編 1章
第38話 狂人その3
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暴れまくりなバーサーカーとなったサーサラさん。
ギルドに居た冒険者数人をブッ殺し、今度は屋台街で狂ったように跳ねまくって人を襲っているのだ。
しかも、倒した人間の一部をもぎ取り、むしゃむしゃと美味しいそうに食べている。
肉を食べると、切断された手首も異様な速度で生えてくるのであった……
そして、為次を瓦礫に置き忘れた3人は、サーサラを止めようと必死に追いかける。
追いかけているのではあったが……
「無理だぜ」
「無理ね」
「無理なのですぅ」
とてもじゃないが、追いつけない。
サーサラは四つん這いで跳ねては人を襲い、どっかをもぎ取っては食べる。
近づくと、また跳ねてどっかに行ってしまい、人を襲うのだ。
最早、冒険者区画が食べ尽くされそうな勢いである。
だから、3人は無理っぽくてもとりあえず走って追いかけた。
「はぁ…… はぁ…… サーサラさん、どれだけ食べるんだよ…… 疲れたぜ」
「うぉぇ…… 走りすぎたわ」
「スイもちょっと疲れましたぁ はぁ…… はぁ……」
ひたすら追いかけたが、捕まえる以前に追いつけない。
3人とも結構走ったので、肩で息をしながら諦めモードになってきた。
「どうする?」
正秀は訊いた。
「どうしようもないわね……」
「サーサラ様は野生の王者になったのです」
「そうだな……」
「そうね……」
正秀とマヨーラは野生の王者に何故か納得する。
納得と言うか、もうそれでいいやって投げやりな感じだ。
2人を納得させ、得意げにドヤ顔をするスイは一息ついた所で汗を拭こうとするのだ。
その時であった…… 正秀は慌ててスイを止める。
「スイちゃん!」
「はう?」
「その宝物で汗を拭くのか?」
正秀に指摘され、汗を拭こうと手に持った布を見るスイ。
なんと! それは為次のパンツであった。
デデーン!!
これにはスイも驚愕だ!!
「は…… はわわ…… スイはなんて愚かな行為をしようとしたのしょうか…… 誰かさ…… いえ…… ご主人様の匂いの染みついたパンツで自分の汗を拭こうなど…… 奴隷の風上はもちろん、風下にも置けません! ご主人様の匂いに釣られて…… 危うく自分を見失うとこでした! です!」
「危なかったな、スイちゃん」
「はいです、マサヒデ様のおかげで助かったのです」
「それより、本人の匂いでも嗅いだらどうなのよ」
「むぅ、ご主人様本人もいいのですが…… あう?」
「「「……あっ!」」」
皆はようやく為次を放置して来たことを思い出した。
「はわわわ…… ご主人様をまた置きっぱなしにしてしまいましたぁ」
「やっべー、ズボン下ろしっぱなしだぜ」
それを聞いたスイは驚愕する!
「なんですと!」
「あいつも散々ね……」
「さっさと回収しに行こうぜ」
「行くですぅ。ズボンを履いていないご主人様を助けるです」
「サーサラさんは後でいっか。 な?」
「そうね、自警団や優秀な冒険者がなんとかしてくれるわ。多分」
「そうだな、俺より強い奴なんて沢山いるだろうしな」
「第一、マサヒデはまともな武器も持ってないじゃない」
「あー、そういえばそうだったな、俺が行っても仕方ないか。じゃあ、サーサラさんは他人に任せよう」
「そうしましょ」
「それがいいのですぅ」
「わははは」
「あははは」
「えへへへです」
3人は何故か楽しそうに笑うと、為次を回収する為に崩壊した冒険者ギルドへと戻るのであった。
※ ※ ※ ※ ※
一方、正秀達がサーサラを追いかけていた頃……
為次は一人、瓦礫の陰で下半身丸出しにされ、仰向けに置かれたまま何もしていなかった。
いや、何もしていないのではなく、何もできないと言った方が正しいだろう。
なんか、体がうまく動かないし、意識も微妙に朦朧としている感じだ。
だが、何よりも極度にお腹が空いていた。
どのくらいお腹が空いているのかと言えば、それは言葉に表すのが難しいほど空いているのだ。
難しいので、ここでは割合する。
お腹が空いた…… 何か食べたい……
しかし、上手く動けません。
誰か助けて欲しいかも……
ううっ、なんで俺ばっかりこんな目に……
などと為次は思い、ちょっと泣けてきていた。
だが、涙すら出ない。
そんな時であった、誰かが近づいて来る。
筋肉ムチムチのお兄さんだ!
「あうぅ(おお、誰か来てくれたわ)」
「あら? あらあら、まぁ、生存者ですわ」
筋肉ムチムチお兄さんはそう言うと、為次の下半身を凝視するのだ。
「まぁ…… りっぱなモノをお持ちねぇ、うふ、うふふ。大丈夫ぅ、今助けてあげるわねぇ…… ゴクリ」
どうやらお兄さんと言うよりは、オネエだ、筋肉オネエなのだ。
しかも、服装が街娘のスカート姿で、サイズが無かったのだろう、今にも弾けそうなほどパッツン、パッツンだ。
流石の為次もこれには焦る。
下半身丸出しなのも、かなり危険と言わざるを得ない。
「あぅうぐぐぅ(ヤバイ、ヤバイ、よりによってなんでこんな奴が…… 頼む、あっち行ってくれ)」
そんな為次の思いをよそに、オネエは為次に近づいて来る。
そして、ゾウさんをイジリ始めるのだ。
「あらー、大きくならないわねぇ……」
「うおおぉ(なる分けねーだろ、やめろ、あっち行け)」
「でも、これだけ、ケガをしていれば仕方ないわねぇ。再生しないのを見ると、あまり食べてないのねぇ。待っててねぇ今すぐアタシ特性ポーションを飲ませてあげるわ」
「おおっ(ポーションくれるのか、やったずい)」
オネエは何処からともなく、紫色の液体の入った大きなビンを取り出す。
多分、5リットルは入っているだろうデカイビンだ。
「これを飲めば、直ぐに傷も体力も回復するわぁ。でも、動けないようね。仕方ないから口移しで飲ませてあげるわね。うふ」
「うががぁ(ま、待て、待つんだ…… やめてくれ)」
為次は必死に声を出そうとするが、まもとに喋れない。
「ぅぅ…… ぁぅぅ……」
「あらー、苦しそうねぇ。直ぐに楽にしてあげるわ」
「ぁぇぇぇ…… ゥぇ……」
「早く飲ませた方がいいわねぇ。愛の口移しだとちょっと時間がかかるかしら。仕方ないわ…… 楽しみは後にして、これを使いましょう」
そう言いながら取り出したのは漏斗であった。
「うぐぁ(死の接吻は免れたか…… しかし、漏斗を使うってまさか……)」
そのまさかであった……
オネエは為次の口に漏斗を差し込むと、ビンの蓋を開ける。
蓋が開くと辺り一面に異様な臭いが漂い、中の液体からは湯気のような煙が立ち上っているのだ。
「うごぉ(なんだそれは……)」
「さあ、飲んでちょうだい、直ぐに元気になるわ」
「もがもが(なる分けねーだろ、やめろ! やめてくれ)」
為次の思いをよそに、オネエは口に突っ込まれた漏斗にドボドボと紫色の液体を流し込む。
「おっ、ごっ、ごっ、ぐごぉぉぉ…… ぁぅぅぅ」
「これでも時間が掛かるわねぇ」
「ごふっ、ごふぅ(マジで全部入れる気か…… ぐぉ)」
どんどんと謎の液体が為次の体内に流し込まれる。
鼻をつんざくような激臭と、この世の物とは思えない苦みが襲う。
為次は涙目というか泣きながら、鼻からは紫の液体を垂れ流していた。
何分経ったのだろうか……?
それは、とても永い時間に思えた。
いつの間にか、ビンの中身は空っぽになっている。
為次のお腹に全部入ったのだ。
漏斗を引き抜かれた為次は、ビクン、ビクンと体を痙攣させ白目を剥いている。
口からは煙も出ており、ゾウさんはビンビンだ。
そんな為次をオネエはペシペシ叩きながら起こそうとする。
「起きなさい、もう大丈夫よ。起きないわねぇ…… では、ゾウさんを……」
「起きたー!! 超起きたー!!」
叫びながら立ち上がると、近くに落ちていたパジャマのズボンを慌てて穿く為次。
「あらあら、残念ねぇ……」
「何が残念じゃー! 死ぬかと思ったわ!」
「まあ、すっかり元気ね。良かったわ」
「お……」
オネエの言うように、為次は動けるし喋れる。
何よりも右腕が殆ど再生していた。
「おお、治ってる」
「うふふ」
「……で、誰?」
「あたしはニクミよ。あなたは?」
「本名は?」
「ダラスよ…… って言わせないでちょうだい」
「えっと、俺は為次」
「あら、あなたがタメツグちゃんなの?」
「え? 知ってるの?」
「ええ、ガザフちゃんから話は聞いてるわ」
「え? ガザフ?」
「ガザフちゃんとは恋人同士なのよ」
「マジでー!?」
為次ビックリ。
「本当はお友達だけどね」
「マジでー!?」
為次ビックリ。
「そこは驚くとこじゃないわ……」
「まあ、他人の趣味はどうでもいいや。とりあえず、助けてもらったことにはお礼を言おう。サンクス」
「いいのよ、生存者が居ないか見てたんだから」
「そうなんすか、救助隊ですか」
「ガザフちゃんに、ギルドが騒がしいから見に行ってくれって頼まれたのよ。来てみればご覧の有様で、ケガ人が居ないか見ていたらタメツグちゃんが倒れてたのよ」
「へー、ガザフの友達なら上級国民なんだ」
「違うわ、王族よ」
「は? 王族って居たの?」
「設定上は居るわ、あたしは戦魔導士だから王族にしてるのよ」
「そうなんすか、それでポーション持ってたんだ」
「そうなのよ、よく効くでしょ」
「死ぬかと思ったけど……」
「大丈夫よ」
「まあ、いいや。それより、サーサラさんはどうなったんだ?」
「屋台の方で暴れてるみたいね」
「よし! 捕まえに行くぞ! 俺様をこんな目に会わせやがって、取っ捕まえてあんなことやこんなことをしてやる!」
「でも、バーサーカーは狂暴だしすばしっこいわよ」
「んー……」
「あたし特製の戦闘用ポーションなら……」
「お断りします」
「残念ね」
「とにかく行くぞニク!」
「ニクミよ…… それに、初めて会ったばかりなのに唐突ね……」
「お前のような変態が文句を言うんじゃない」
「変態って…… ヒドイわタメツグちゃん……」
「ニクは戦魔導士なら、付与バインド使えるっしょ?」
「ええ、もちろん使えるわ、強力なのがビンビンにね。うふふ」
「う、うん……」
「タメツグちゃんに考えがあるのね、じゃあ協力してあげるわ」
「じゃあ、不本意ながら行きますか」
「いいわよ、お楽しみはその後ね可愛いタメツグちゃん」
「…………」
こうして、為次は変態を連れてバーサーカーとなったサーサラを捕まえに行くことになった。
はたして、複数の手練れの冒険者ですら手に余るバーサーカーを、無事に捕獲できるのであろうか?
瓦礫と化した冒険者ギルドを後にする為次とニクミであった……
ギルドに居た冒険者数人をブッ殺し、今度は屋台街で狂ったように跳ねまくって人を襲っているのだ。
しかも、倒した人間の一部をもぎ取り、むしゃむしゃと美味しいそうに食べている。
肉を食べると、切断された手首も異様な速度で生えてくるのであった……
そして、為次を瓦礫に置き忘れた3人は、サーサラを止めようと必死に追いかける。
追いかけているのではあったが……
「無理だぜ」
「無理ね」
「無理なのですぅ」
とてもじゃないが、追いつけない。
サーサラは四つん這いで跳ねては人を襲い、どっかをもぎ取っては食べる。
近づくと、また跳ねてどっかに行ってしまい、人を襲うのだ。
最早、冒険者区画が食べ尽くされそうな勢いである。
だから、3人は無理っぽくてもとりあえず走って追いかけた。
「はぁ…… はぁ…… サーサラさん、どれだけ食べるんだよ…… 疲れたぜ」
「うぉぇ…… 走りすぎたわ」
「スイもちょっと疲れましたぁ はぁ…… はぁ……」
ひたすら追いかけたが、捕まえる以前に追いつけない。
3人とも結構走ったので、肩で息をしながら諦めモードになってきた。
「どうする?」
正秀は訊いた。
「どうしようもないわね……」
「サーサラ様は野生の王者になったのです」
「そうだな……」
「そうね……」
正秀とマヨーラは野生の王者に何故か納得する。
納得と言うか、もうそれでいいやって投げやりな感じだ。
2人を納得させ、得意げにドヤ顔をするスイは一息ついた所で汗を拭こうとするのだ。
その時であった…… 正秀は慌ててスイを止める。
「スイちゃん!」
「はう?」
「その宝物で汗を拭くのか?」
正秀に指摘され、汗を拭こうと手に持った布を見るスイ。
なんと! それは為次のパンツであった。
デデーン!!
これにはスイも驚愕だ!!
「は…… はわわ…… スイはなんて愚かな行為をしようとしたのしょうか…… 誰かさ…… いえ…… ご主人様の匂いの染みついたパンツで自分の汗を拭こうなど…… 奴隷の風上はもちろん、風下にも置けません! ご主人様の匂いに釣られて…… 危うく自分を見失うとこでした! です!」
「危なかったな、スイちゃん」
「はいです、マサヒデ様のおかげで助かったのです」
「それより、本人の匂いでも嗅いだらどうなのよ」
「むぅ、ご主人様本人もいいのですが…… あう?」
「「「……あっ!」」」
皆はようやく為次を放置して来たことを思い出した。
「はわわわ…… ご主人様をまた置きっぱなしにしてしまいましたぁ」
「やっべー、ズボン下ろしっぱなしだぜ」
それを聞いたスイは驚愕する!
「なんですと!」
「あいつも散々ね……」
「さっさと回収しに行こうぜ」
「行くですぅ。ズボンを履いていないご主人様を助けるです」
「サーサラさんは後でいっか。 な?」
「そうね、自警団や優秀な冒険者がなんとかしてくれるわ。多分」
「そうだな、俺より強い奴なんて沢山いるだろうしな」
「第一、マサヒデはまともな武器も持ってないじゃない」
「あー、そういえばそうだったな、俺が行っても仕方ないか。じゃあ、サーサラさんは他人に任せよう」
「そうしましょ」
「それがいいのですぅ」
「わははは」
「あははは」
「えへへへです」
3人は何故か楽しそうに笑うと、為次を回収する為に崩壊した冒険者ギルドへと戻るのであった。
※ ※ ※ ※ ※
一方、正秀達がサーサラを追いかけていた頃……
為次は一人、瓦礫の陰で下半身丸出しにされ、仰向けに置かれたまま何もしていなかった。
いや、何もしていないのではなく、何もできないと言った方が正しいだろう。
なんか、体がうまく動かないし、意識も微妙に朦朧としている感じだ。
だが、何よりも極度にお腹が空いていた。
どのくらいお腹が空いているのかと言えば、それは言葉に表すのが難しいほど空いているのだ。
難しいので、ここでは割合する。
お腹が空いた…… 何か食べたい……
しかし、上手く動けません。
誰か助けて欲しいかも……
ううっ、なんで俺ばっかりこんな目に……
などと為次は思い、ちょっと泣けてきていた。
だが、涙すら出ない。
そんな時であった、誰かが近づいて来る。
筋肉ムチムチのお兄さんだ!
「あうぅ(おお、誰か来てくれたわ)」
「あら? あらあら、まぁ、生存者ですわ」
筋肉ムチムチお兄さんはそう言うと、為次の下半身を凝視するのだ。
「まぁ…… りっぱなモノをお持ちねぇ、うふ、うふふ。大丈夫ぅ、今助けてあげるわねぇ…… ゴクリ」
どうやらお兄さんと言うよりは、オネエだ、筋肉オネエなのだ。
しかも、服装が街娘のスカート姿で、サイズが無かったのだろう、今にも弾けそうなほどパッツン、パッツンだ。
流石の為次もこれには焦る。
下半身丸出しなのも、かなり危険と言わざるを得ない。
「あぅうぐぐぅ(ヤバイ、ヤバイ、よりによってなんでこんな奴が…… 頼む、あっち行ってくれ)」
そんな為次の思いをよそに、オネエは為次に近づいて来る。
そして、ゾウさんをイジリ始めるのだ。
「あらー、大きくならないわねぇ……」
「うおおぉ(なる分けねーだろ、やめろ、あっち行け)」
「でも、これだけ、ケガをしていれば仕方ないわねぇ。再生しないのを見ると、あまり食べてないのねぇ。待っててねぇ今すぐアタシ特性ポーションを飲ませてあげるわ」
「おおっ(ポーションくれるのか、やったずい)」
オネエは何処からともなく、紫色の液体の入った大きなビンを取り出す。
多分、5リットルは入っているだろうデカイビンだ。
「これを飲めば、直ぐに傷も体力も回復するわぁ。でも、動けないようね。仕方ないから口移しで飲ませてあげるわね。うふ」
「うががぁ(ま、待て、待つんだ…… やめてくれ)」
為次は必死に声を出そうとするが、まもとに喋れない。
「ぅぅ…… ぁぅぅ……」
「あらー、苦しそうねぇ。直ぐに楽にしてあげるわ」
「ぁぇぇぇ…… ゥぇ……」
「早く飲ませた方がいいわねぇ。愛の口移しだとちょっと時間がかかるかしら。仕方ないわ…… 楽しみは後にして、これを使いましょう」
そう言いながら取り出したのは漏斗であった。
「うぐぁ(死の接吻は免れたか…… しかし、漏斗を使うってまさか……)」
そのまさかであった……
オネエは為次の口に漏斗を差し込むと、ビンの蓋を開ける。
蓋が開くと辺り一面に異様な臭いが漂い、中の液体からは湯気のような煙が立ち上っているのだ。
「うごぉ(なんだそれは……)」
「さあ、飲んでちょうだい、直ぐに元気になるわ」
「もがもが(なる分けねーだろ、やめろ! やめてくれ)」
為次の思いをよそに、オネエは口に突っ込まれた漏斗にドボドボと紫色の液体を流し込む。
「おっ、ごっ、ごっ、ぐごぉぉぉ…… ぁぅぅぅ」
「これでも時間が掛かるわねぇ」
「ごふっ、ごふぅ(マジで全部入れる気か…… ぐぉ)」
どんどんと謎の液体が為次の体内に流し込まれる。
鼻をつんざくような激臭と、この世の物とは思えない苦みが襲う。
為次は涙目というか泣きながら、鼻からは紫の液体を垂れ流していた。
何分経ったのだろうか……?
それは、とても永い時間に思えた。
いつの間にか、ビンの中身は空っぽになっている。
為次のお腹に全部入ったのだ。
漏斗を引き抜かれた為次は、ビクン、ビクンと体を痙攣させ白目を剥いている。
口からは煙も出ており、ゾウさんはビンビンだ。
そんな為次をオネエはペシペシ叩きながら起こそうとする。
「起きなさい、もう大丈夫よ。起きないわねぇ…… では、ゾウさんを……」
「起きたー!! 超起きたー!!」
叫びながら立ち上がると、近くに落ちていたパジャマのズボンを慌てて穿く為次。
「あらあら、残念ねぇ……」
「何が残念じゃー! 死ぬかと思ったわ!」
「まあ、すっかり元気ね。良かったわ」
「お……」
オネエの言うように、為次は動けるし喋れる。
何よりも右腕が殆ど再生していた。
「おお、治ってる」
「うふふ」
「……で、誰?」
「あたしはニクミよ。あなたは?」
「本名は?」
「ダラスよ…… って言わせないでちょうだい」
「えっと、俺は為次」
「あら、あなたがタメツグちゃんなの?」
「え? 知ってるの?」
「ええ、ガザフちゃんから話は聞いてるわ」
「え? ガザフ?」
「ガザフちゃんとは恋人同士なのよ」
「マジでー!?」
為次ビックリ。
「本当はお友達だけどね」
「マジでー!?」
為次ビックリ。
「そこは驚くとこじゃないわ……」
「まあ、他人の趣味はどうでもいいや。とりあえず、助けてもらったことにはお礼を言おう。サンクス」
「いいのよ、生存者が居ないか見てたんだから」
「そうなんすか、救助隊ですか」
「ガザフちゃんに、ギルドが騒がしいから見に行ってくれって頼まれたのよ。来てみればご覧の有様で、ケガ人が居ないか見ていたらタメツグちゃんが倒れてたのよ」
「へー、ガザフの友達なら上級国民なんだ」
「違うわ、王族よ」
「は? 王族って居たの?」
「設定上は居るわ、あたしは戦魔導士だから王族にしてるのよ」
「そうなんすか、それでポーション持ってたんだ」
「そうなのよ、よく効くでしょ」
「死ぬかと思ったけど……」
「大丈夫よ」
「まあ、いいや。それより、サーサラさんはどうなったんだ?」
「屋台の方で暴れてるみたいね」
「よし! 捕まえに行くぞ! 俺様をこんな目に会わせやがって、取っ捕まえてあんなことやこんなことをしてやる!」
「でも、バーサーカーは狂暴だしすばしっこいわよ」
「んー……」
「あたし特製の戦闘用ポーションなら……」
「お断りします」
「残念ね」
「とにかく行くぞニク!」
「ニクミよ…… それに、初めて会ったばかりなのに唐突ね……」
「お前のような変態が文句を言うんじゃない」
「変態って…… ヒドイわタメツグちゃん……」
「ニクは戦魔導士なら、付与バインド使えるっしょ?」
「ええ、もちろん使えるわ、強力なのがビンビンにね。うふふ」
「う、うん……」
「タメツグちゃんに考えがあるのね、じゃあ協力してあげるわ」
「じゃあ、不本意ながら行きますか」
「いいわよ、お楽しみはその後ね可愛いタメツグちゃん」
「…………」
こうして、為次は変態を連れてバーサーカーとなったサーサラを捕まえに行くことになった。
はたして、複数の手練れの冒険者ですら手に余るバーサーカーを、無事に捕獲できるのであろうか?
瓦礫と化した冒険者ギルドを後にする為次とニクミであった……
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