47 / 183
異世界編 1章
第40話 狂人その5
しおりを挟む
街中を爆走するレオパルト2を走って追いかけて来た正秀達の3人は、上級国民区画の手前にある階段の登り口へと来ていた。
しかし、そこでは門は無いが2人の門兵に足止めされていたのであった。
基本的に上級国民区画へは上級国民及び王族しか立ち入りが許可されていないのだ。
「お前達にも見えてるだろ! あの戦…… 陸上艇を止めるんだよ!」
正秀は兵士に向かって叫んでいた。
レオパルト2は階段の一番上で鎮座している。
街を狙っているようだが、俯角が取れないのだろう、階段の斜面を利用して車体を前方に傾けていた。
「さっさと、ここを通せよ!」
「ダメだ、ダメだ。ここから先はお前ら平民は通せん」
「あいつは街ごとサーサラさんを砲撃する気なんだよ! 早く止めないとマズいんだよ!」
「そんなことは知らん、第一あの陸上艇にはニクミ様が乗っておられる」
それを聞いたマヨーラは驚く。
「ええっ? ニクミ様が乗ってるの!?」
「誰だそれ?」
「……王族よ」
「王族?」
「まさか、本当にニクミ様に拾われてたなんて…… タメツグ……」
「王族は居ないんじゃなかったのか?」
「え? マサヒデ…… どうしてそれを……」
「あっ…… えっと、まあなんだ…… と、とにかく、今はそんなことよりアイツを止めるのが先だぜ!」
「……分かったわ。あなた達が、どこまで知ってるかは知らないけれど、とりあえずあのバカをなんとかしましょ」
「すまねぇ…… マヨーラ」
「うん……」
マヨーラは兵士達を向かって言う。
「あなた達、どうしてもここを通せないの?」
「さっきからそう言ってるだろ」
「何度言えば分かるんだ? さっさと失せろ」
「私はターナのパーティーメンバーなのよ? 知ってるでしょ?」
「そ、それは…… 知っているが……」
「ターナ様が居ないんじゃ……」
「分かってくれよ…… 俺達だって仕事なんだ」
「もう! 変なところで真面目なんだから!」
「仕方ないだろ……」
「どうしてもダメなの?」
「「ダメだ」」
2人の兵士が意地でも通してくれない様子を見る正秀は呟く。
「無理か……」
「どうしよう、マサヒデ」
「しょうがない、こっちは諦めて街の連中を避難させよう」
「ええ、分かったわ」
「ご主人様を回収しに行かないのですか?」
「それは後回しだ、スイちゃん」
「残念ですぅ」
「本当にタメツグは街を攻撃する気なのかしら?」
「そうじゃなきゃ、こんな所までレオで来ないだろ」
「確かにね」
「よし、行くぞ!」
仕方なく皆は元来た道を戻り、サーサラが暴れているであろう方へと再び向かうのであった。
しつこい連中が、やっと何処かへと行ったので兵士達は顔を見合わせる。
「ふー、やっと行ってくれたぜ」
「やれやれ……」
「それにしても、あの陸上艇は本当に街を攻撃する気なのか?」
「ニクミ様の考えてることは分からん」
「ああ…… そうだな」
※ ※ レオパルト2車内 ※ ※
―― その頃
為次はレオパルト2のFCSと格闘していた。
砲撃手席に座り、あちこちを弄り回しているのだ。
「くっそ、どうやるんだこれ?」
「どうしたのタメツグちゃん、早くリューダンを飛ばさないの?」
「距離の設定方法が分かんないんだお、おっ」
「タメツグちゃんが分かんないじゃ、どうしようもないわねぇ」
「いや、ちょっと待ってろ、何となく理解できるかもっぽい」
「なんだか知らないけど、頑張ってねぇん」
「説明書でも有ればな…… んま、あったとこで、どうせ英語かドイツ語だろうけど」
……………
………
…
しばらくFCSを弄っていた為次は、使い方が理解できた様子であった。
もっとも、なんとなくしか理解していないが……
「よし! だいたい分かったかも。多分おおむね良好っぽい」
「凄く不安ね……」
「うるさい! やるぞ。ニクはペリスコープでも覗いてろ」
「ペリスコープってどれかしら?」
「目の前にある横長の窓みたいなの」
言われてニクミはペリスコープを覗いてみた。
しかし、少し外側に向かって斜めに付いているので目標より視界がズレている。
「まあ、街が見えるわ。うふふ」
「そいじゃ、やるか」
為次は一旦、車長席に行くとパノラマサイトで街の様子を窺う。
「何処に行ったんだ、サーサラは……」
「広場の方じゃないかしら?」
「お前それで見えるのか…… スゲーな」
「うふふぅ」
為次もパノラマサイトを回し広場を確認する。
「あ、ほんとだ。居た居た」
標的が決まると、もう一度砲手席に戻り射撃準備に取り掛かる。
「えっと…… 何メートルくらいだったけ?」
「何がかしら?」
「ニクに聞いても分からんか…… 確か80メートル位だったかな……」
DM11HEの被害有効半径は爆発地点から約80メートル強です。
「どうしよっかな…… 近すぎるとミンチだろうし、遠いと避けられるかな? まあ、魔法が効けばいいから80メートルちょい手前にしとくか、なっと。よし! やるぜー…… ってあれ? マサかな?」
砲塔を旋回させ照準を付ける為次の目に、見知った3人もサーサラの近くに映っていた。
「うぉぉぉ! 大チャーンス! あいつらもまとめて仕返しじゃぁ!!」
「広場が見えなくなっちゃたわぁ」
「ひゃっはぁー!!」
「タメツグちゃん楽しそうね……」
為次は、いつにも無くご機嫌でした。
※ ※ 街中の噴水とかある感じの広場 ※ ※
「適当な背景説明の場所に着いたのです」
「すまねぇスイちゃん…… 今回のイベントは3話の予定だったんだ」
「マサヒデは何を言ってるの?」
「気にしないでくれマヨーラ」
「ついでに適当に説明すると、広場の中心辺りでサーサラ様を数名の冒険者が囲ってるのですよ。微妙に追い詰めたっぽいですが、返り討ちに会っている感じです。ですが、おかげ様で私たちもサーサラ様に追いつけました、です」
親切なスイは状況説明までしてくれた。
「ありがとう、スイちゃん」
「手抜きもいいとこね……」
そんな感じの場所で正秀は冒険者達に避難を呼び掛ける。
「おい! みんな! 今すぐここから離れるんだ!」
「あー? てめぇは何言ってんだよ! コイツを取っ捕まえないとだろ」
「もうすぐここに砲撃が来る! 巻き込まれるぜ!」
「砲撃だと? こんな街中に誰がそんなことするかよ」
別の冒険者も言った。
「あのバカよ!」
そう言いながら、マヨーラは階段に鎮座している戦車を指す。
「ああ? なんだありゃぁ?」
「遠くて分かり辛いな…… 陸上艇か? なんであんなとこに……」
見慣れない陸上艇を見た冒険者達は口々に言った。
「アレがこっちを狙ってるんだよ!」
「なんだと……」
「おい。あれって、まさかサダムネキャノンじゃ……」
「あ? 嘘だろ……」
その時だった……
レオパルト2の砲口が静かに光り、炎と煙を吐き出した。
それよりも先に、砲口からは砲弾が射出されている。
それは、何かをばら撒くと小さな翼を広げ、光りながら真っ直ぐに広場へと向かって飛んで来きた。
「ちきしょう!」
正秀は叫ぶも音速より速く飛来してくるソレが見えてからは、もはや為す術は無い。
狙われた者は、死を覚悟する暇すらないだろう……
正秀は咄嗟にマヨーラとスイを抱え、地面に伏せるのが精一杯であった。
ドカーン!!
周囲に轟音が轟く!
飛来した砲弾が空中で爆発したのだ。
ようやく届いた砲撃音は爆音に掻き消され、それと同時に小さな球が広範囲にばら撒かれる。
球は広場に居た人々を容赦なく襲った。
体を打ち付け激痛が走る……
かすめただけでも肉を抉られる……
広場にはタングステンの雨が降り注ぎ、まさに地獄絵図であった。
正秀はその時にようやく死の恐怖に怯えることができた。
「くっそ、本当に撃ちやがった! 痛ってーぇ…… ん?」
痛みは感じた…… だがそのケガは直ぐに治り、痛みもおさまる……
ニクミのかけた強力なヒールが効いていたのだ。
しかし、それと同時に体も動かなくなる。
バインドの魔法もバッチリ効いてる。
「うぐああ(なんだ、体が動かねぇ?)」
そして……
広場は静寂に包まれた……
※ ※ レオパルト2車内 ※ ※
「いゃー、上手く行ったわぁー。ふふん♪」
「ご機嫌ねぇ」
「当たり前っしょ、それより広場どっち?」
「次の角を左に曲がって、真っ直ぐに行けば着くわ」
「うい」
「…………」
砲撃の終わった為次達は、麻痺している奴らにイタズラをしようと広場に向かっていた。
戦車で。
上級国民区画の階段を降りる時に兵士が何か喚いていたが、軽くスルーしといた。
それより、降りる時にも砲身をぶつけそうになり、為次は「階段が急すぎんだよ」などと怒っていたのだ。
砲塔を回すのがめんどくさかったので、階段で信地旋回し後退で降りたら、ちょっとミステリーサークルっぽい跡ができたものだ。
「着いた」
広場に到着すると為次とニクミは降車した。
辺りには弾痕があちこちにあり破片榴弾の威力を物語っている。
そして、麻痺して動けない人々が倒れていた。
「全員無事みたいだし、ちゃんと麻痺してるようね。すばらしいわタメツグちゃん」
「おういえーい。ねぇ、バインドってどのくらい効果あんの?」
「耐性にもよるけど、この人達なら3時間位かしらねぇ」
「おお! それは凄い」
「うふふぅ」
「そ・れ・じゃ…… さーってと、どーしよっかなー♪ かなー?」
為次は3人固まって倒れている正秀達に近づくと、とりあえず全員仰向けにする。
それから『川』の字に並べた。
3人は目は見えているようで、為次を見ると何か言おうとしている。
「ぅぅぅ…… ぁぅぅ……」
正秀は必死に喋ろうとするがバインドが強すぎて喋れないようだ。
「タメツグちゃんは、サーサラを捕まえに来たんじゃないのかしら?」
「え? ああ、サーサラさんはどうでもいいや…… と、思ったけど」
為次はサーサラに近づくとしゃがみ込む。
「何色かなー?」
そう言いながら、ボロボロになっている長めのスカートをめくって確認してみた。
「ぐぉ! 純白ですよ! だいぶ汚れてるけど、それはそれで…… ゴクリ」
「タメツグちゃん……」
満足した為次は再び3人所に近づくと、同じようにしゃがみ込む。
「ではでは、マヨからねー」
「いぎぎぃ(こ、このバカツグ…… まさか私まで……)」
マヨーラのミニスカートに手を掛ける。
「あぁぁ(う、嘘でしょ……)」
めくった。
「おお! 大人ぶって黒のレースですか! あひゃひゃひゃ」
「うっぐぐぐ(タメツグ、後で絶対に殺す!)」
「ロリっ子のくせして、あーひゃひゃひゃ、おもしれー。うははは。せっかくだから、このままめくったままにしとくか……」
「ひぎぃ(ぎゃーー! 元に戻しなさいよバカツグ!)」
「えっとぉ、次はマサさんですねー♪」
「うが(俺もかよ……)」
「ズボンとパンツ下ろしとくかぁ」
「うがが(なんだと……)」
正秀のゾウさんを出しておき、それを指しながら言う。
「ニク! ご褒美にこれをいじらせてあげよう」
「まぁ、嬉しいわぁ、うふふ」
「うぎゃぁ(ぎゃぁぁぁぁぁ! よせ! よすんだ!)」
ニクミはゾウさんをいじるものの、大人のゾウにならないので直ぐに飽きた様子だ。
麻痺しているので仕方がない。
「後はスイか…… スイカだって、ぷぷぷ」
「はうう(はわ、スイはご主人様に弄ばれるのですね、ドキドキなのです)」
「スイはほっとくか……」
「むむむー(なんですと! 何故ですかご主人様! スイも弄って下さい。あんなことや、こんなことをするのですよ! ささ、早くするのです)」
そんな為次がバカをやっている時であった。
誰か来た。
「どうやら、終わったようですわね」
ターナとスレイブだった。
「タメツグが捕まえたのか?」
スレイブは訊いた。
「何を?」
「何って、バーサーカーだろ!」
「ああ、あれね。ニクに手伝ってもらったけど」
「ニクってニクミ様か? 王族に向かってなんて奴だ……」
「いいのよ、スレイブちゃん」
「は、はい」
「とにかくお手柄よ、よくやってくれたわね」
と、ターナは褒めてくれるが為次にとっては予想外の行動を始める。
「あなたのお仲間も助けてあげましょう」
「は?」
「ディスペルマジック!」
ターナは杖を掲げ呪文を唱えた。
呪文解除の魔法だ。
サーサラを除く人々のバインドが解ける……
「え? えっと……」
その様子を為次は唖然と見ていた。
皆が起き上がり始める。
当然、正秀達は服装を直し為次に詰め寄る……
「あら、タメツグさん、ご活躍だったみたいね」
マヨーラがわざとらしく言った。
「いやぁ、為次のおかげで無事にサーサラさんを捕まえられたぜ」
「むっふー、なのです」
為次は皆から目を逸らしながら言う。
「えーっと、みなさんご無事で何よりです…… はい、ははは」
ターナは1人とぼけた様子で見ている。
「あらあら、皆さんどうしたのかしら?」
「さあな……」
「じゃ、じゃあ帰るわ……」
そう言うと、為次は慌ててレオパルト2に逃げ込もうとする。
「らいとにんぐぼると~」
逃げようとする為次をマヨーラの放った電撃が襲う。
「にぎゃぁぁぁぁぁ!」
バタリッ
為次はレオパルト2の手前で無残にも倒れてしまった……
その後、サーサラはターナ達に回収され、転生の加護を受けることになった。
そんなこんなで、破壊された街は再び落ち着きを取り戻すのであった。
あと、為次はロープでグルグル巻きにされると、広場にある一本の木に吊るされた。
それは、巨大なミノムシにしか見えなかった……
しかし、そこでは門は無いが2人の門兵に足止めされていたのであった。
基本的に上級国民区画へは上級国民及び王族しか立ち入りが許可されていないのだ。
「お前達にも見えてるだろ! あの戦…… 陸上艇を止めるんだよ!」
正秀は兵士に向かって叫んでいた。
レオパルト2は階段の一番上で鎮座している。
街を狙っているようだが、俯角が取れないのだろう、階段の斜面を利用して車体を前方に傾けていた。
「さっさと、ここを通せよ!」
「ダメだ、ダメだ。ここから先はお前ら平民は通せん」
「あいつは街ごとサーサラさんを砲撃する気なんだよ! 早く止めないとマズいんだよ!」
「そんなことは知らん、第一あの陸上艇にはニクミ様が乗っておられる」
それを聞いたマヨーラは驚く。
「ええっ? ニクミ様が乗ってるの!?」
「誰だそれ?」
「……王族よ」
「王族?」
「まさか、本当にニクミ様に拾われてたなんて…… タメツグ……」
「王族は居ないんじゃなかったのか?」
「え? マサヒデ…… どうしてそれを……」
「あっ…… えっと、まあなんだ…… と、とにかく、今はそんなことよりアイツを止めるのが先だぜ!」
「……分かったわ。あなた達が、どこまで知ってるかは知らないけれど、とりあえずあのバカをなんとかしましょ」
「すまねぇ…… マヨーラ」
「うん……」
マヨーラは兵士達を向かって言う。
「あなた達、どうしてもここを通せないの?」
「さっきからそう言ってるだろ」
「何度言えば分かるんだ? さっさと失せろ」
「私はターナのパーティーメンバーなのよ? 知ってるでしょ?」
「そ、それは…… 知っているが……」
「ターナ様が居ないんじゃ……」
「分かってくれよ…… 俺達だって仕事なんだ」
「もう! 変なところで真面目なんだから!」
「仕方ないだろ……」
「どうしてもダメなの?」
「「ダメだ」」
2人の兵士が意地でも通してくれない様子を見る正秀は呟く。
「無理か……」
「どうしよう、マサヒデ」
「しょうがない、こっちは諦めて街の連中を避難させよう」
「ええ、分かったわ」
「ご主人様を回収しに行かないのですか?」
「それは後回しだ、スイちゃん」
「残念ですぅ」
「本当にタメツグは街を攻撃する気なのかしら?」
「そうじゃなきゃ、こんな所までレオで来ないだろ」
「確かにね」
「よし、行くぞ!」
仕方なく皆は元来た道を戻り、サーサラが暴れているであろう方へと再び向かうのであった。
しつこい連中が、やっと何処かへと行ったので兵士達は顔を見合わせる。
「ふー、やっと行ってくれたぜ」
「やれやれ……」
「それにしても、あの陸上艇は本当に街を攻撃する気なのか?」
「ニクミ様の考えてることは分からん」
「ああ…… そうだな」
※ ※ レオパルト2車内 ※ ※
―― その頃
為次はレオパルト2のFCSと格闘していた。
砲撃手席に座り、あちこちを弄り回しているのだ。
「くっそ、どうやるんだこれ?」
「どうしたのタメツグちゃん、早くリューダンを飛ばさないの?」
「距離の設定方法が分かんないんだお、おっ」
「タメツグちゃんが分かんないじゃ、どうしようもないわねぇ」
「いや、ちょっと待ってろ、何となく理解できるかもっぽい」
「なんだか知らないけど、頑張ってねぇん」
「説明書でも有ればな…… んま、あったとこで、どうせ英語かドイツ語だろうけど」
……………
………
…
しばらくFCSを弄っていた為次は、使い方が理解できた様子であった。
もっとも、なんとなくしか理解していないが……
「よし! だいたい分かったかも。多分おおむね良好っぽい」
「凄く不安ね……」
「うるさい! やるぞ。ニクはペリスコープでも覗いてろ」
「ペリスコープってどれかしら?」
「目の前にある横長の窓みたいなの」
言われてニクミはペリスコープを覗いてみた。
しかし、少し外側に向かって斜めに付いているので目標より視界がズレている。
「まあ、街が見えるわ。うふふ」
「そいじゃ、やるか」
為次は一旦、車長席に行くとパノラマサイトで街の様子を窺う。
「何処に行ったんだ、サーサラは……」
「広場の方じゃないかしら?」
「お前それで見えるのか…… スゲーな」
「うふふぅ」
為次もパノラマサイトを回し広場を確認する。
「あ、ほんとだ。居た居た」
標的が決まると、もう一度砲手席に戻り射撃準備に取り掛かる。
「えっと…… 何メートルくらいだったけ?」
「何がかしら?」
「ニクに聞いても分からんか…… 確か80メートル位だったかな……」
DM11HEの被害有効半径は爆発地点から約80メートル強です。
「どうしよっかな…… 近すぎるとミンチだろうし、遠いと避けられるかな? まあ、魔法が効けばいいから80メートルちょい手前にしとくか、なっと。よし! やるぜー…… ってあれ? マサかな?」
砲塔を旋回させ照準を付ける為次の目に、見知った3人もサーサラの近くに映っていた。
「うぉぉぉ! 大チャーンス! あいつらもまとめて仕返しじゃぁ!!」
「広場が見えなくなっちゃたわぁ」
「ひゃっはぁー!!」
「タメツグちゃん楽しそうね……」
為次は、いつにも無くご機嫌でした。
※ ※ 街中の噴水とかある感じの広場 ※ ※
「適当な背景説明の場所に着いたのです」
「すまねぇスイちゃん…… 今回のイベントは3話の予定だったんだ」
「マサヒデは何を言ってるの?」
「気にしないでくれマヨーラ」
「ついでに適当に説明すると、広場の中心辺りでサーサラ様を数名の冒険者が囲ってるのですよ。微妙に追い詰めたっぽいですが、返り討ちに会っている感じです。ですが、おかげ様で私たちもサーサラ様に追いつけました、です」
親切なスイは状況説明までしてくれた。
「ありがとう、スイちゃん」
「手抜きもいいとこね……」
そんな感じの場所で正秀は冒険者達に避難を呼び掛ける。
「おい! みんな! 今すぐここから離れるんだ!」
「あー? てめぇは何言ってんだよ! コイツを取っ捕まえないとだろ」
「もうすぐここに砲撃が来る! 巻き込まれるぜ!」
「砲撃だと? こんな街中に誰がそんなことするかよ」
別の冒険者も言った。
「あのバカよ!」
そう言いながら、マヨーラは階段に鎮座している戦車を指す。
「ああ? なんだありゃぁ?」
「遠くて分かり辛いな…… 陸上艇か? なんであんなとこに……」
見慣れない陸上艇を見た冒険者達は口々に言った。
「アレがこっちを狙ってるんだよ!」
「なんだと……」
「おい。あれって、まさかサダムネキャノンじゃ……」
「あ? 嘘だろ……」
その時だった……
レオパルト2の砲口が静かに光り、炎と煙を吐き出した。
それよりも先に、砲口からは砲弾が射出されている。
それは、何かをばら撒くと小さな翼を広げ、光りながら真っ直ぐに広場へと向かって飛んで来きた。
「ちきしょう!」
正秀は叫ぶも音速より速く飛来してくるソレが見えてからは、もはや為す術は無い。
狙われた者は、死を覚悟する暇すらないだろう……
正秀は咄嗟にマヨーラとスイを抱え、地面に伏せるのが精一杯であった。
ドカーン!!
周囲に轟音が轟く!
飛来した砲弾が空中で爆発したのだ。
ようやく届いた砲撃音は爆音に掻き消され、それと同時に小さな球が広範囲にばら撒かれる。
球は広場に居た人々を容赦なく襲った。
体を打ち付け激痛が走る……
かすめただけでも肉を抉られる……
広場にはタングステンの雨が降り注ぎ、まさに地獄絵図であった。
正秀はその時にようやく死の恐怖に怯えることができた。
「くっそ、本当に撃ちやがった! 痛ってーぇ…… ん?」
痛みは感じた…… だがそのケガは直ぐに治り、痛みもおさまる……
ニクミのかけた強力なヒールが効いていたのだ。
しかし、それと同時に体も動かなくなる。
バインドの魔法もバッチリ効いてる。
「うぐああ(なんだ、体が動かねぇ?)」
そして……
広場は静寂に包まれた……
※ ※ レオパルト2車内 ※ ※
「いゃー、上手く行ったわぁー。ふふん♪」
「ご機嫌ねぇ」
「当たり前っしょ、それより広場どっち?」
「次の角を左に曲がって、真っ直ぐに行けば着くわ」
「うい」
「…………」
砲撃の終わった為次達は、麻痺している奴らにイタズラをしようと広場に向かっていた。
戦車で。
上級国民区画の階段を降りる時に兵士が何か喚いていたが、軽くスルーしといた。
それより、降りる時にも砲身をぶつけそうになり、為次は「階段が急すぎんだよ」などと怒っていたのだ。
砲塔を回すのがめんどくさかったので、階段で信地旋回し後退で降りたら、ちょっとミステリーサークルっぽい跡ができたものだ。
「着いた」
広場に到着すると為次とニクミは降車した。
辺りには弾痕があちこちにあり破片榴弾の威力を物語っている。
そして、麻痺して動けない人々が倒れていた。
「全員無事みたいだし、ちゃんと麻痺してるようね。すばらしいわタメツグちゃん」
「おういえーい。ねぇ、バインドってどのくらい効果あんの?」
「耐性にもよるけど、この人達なら3時間位かしらねぇ」
「おお! それは凄い」
「うふふぅ」
「そ・れ・じゃ…… さーってと、どーしよっかなー♪ かなー?」
為次は3人固まって倒れている正秀達に近づくと、とりあえず全員仰向けにする。
それから『川』の字に並べた。
3人は目は見えているようで、為次を見ると何か言おうとしている。
「ぅぅぅ…… ぁぅぅ……」
正秀は必死に喋ろうとするがバインドが強すぎて喋れないようだ。
「タメツグちゃんは、サーサラを捕まえに来たんじゃないのかしら?」
「え? ああ、サーサラさんはどうでもいいや…… と、思ったけど」
為次はサーサラに近づくとしゃがみ込む。
「何色かなー?」
そう言いながら、ボロボロになっている長めのスカートをめくって確認してみた。
「ぐぉ! 純白ですよ! だいぶ汚れてるけど、それはそれで…… ゴクリ」
「タメツグちゃん……」
満足した為次は再び3人所に近づくと、同じようにしゃがみ込む。
「ではでは、マヨからねー」
「いぎぎぃ(こ、このバカツグ…… まさか私まで……)」
マヨーラのミニスカートに手を掛ける。
「あぁぁ(う、嘘でしょ……)」
めくった。
「おお! 大人ぶって黒のレースですか! あひゃひゃひゃ」
「うっぐぐぐ(タメツグ、後で絶対に殺す!)」
「ロリっ子のくせして、あーひゃひゃひゃ、おもしれー。うははは。せっかくだから、このままめくったままにしとくか……」
「ひぎぃ(ぎゃーー! 元に戻しなさいよバカツグ!)」
「えっとぉ、次はマサさんですねー♪」
「うが(俺もかよ……)」
「ズボンとパンツ下ろしとくかぁ」
「うがが(なんだと……)」
正秀のゾウさんを出しておき、それを指しながら言う。
「ニク! ご褒美にこれをいじらせてあげよう」
「まぁ、嬉しいわぁ、うふふ」
「うぎゃぁ(ぎゃぁぁぁぁぁ! よせ! よすんだ!)」
ニクミはゾウさんをいじるものの、大人のゾウにならないので直ぐに飽きた様子だ。
麻痺しているので仕方がない。
「後はスイか…… スイカだって、ぷぷぷ」
「はうう(はわ、スイはご主人様に弄ばれるのですね、ドキドキなのです)」
「スイはほっとくか……」
「むむむー(なんですと! 何故ですかご主人様! スイも弄って下さい。あんなことや、こんなことをするのですよ! ささ、早くするのです)」
そんな為次がバカをやっている時であった。
誰か来た。
「どうやら、終わったようですわね」
ターナとスレイブだった。
「タメツグが捕まえたのか?」
スレイブは訊いた。
「何を?」
「何って、バーサーカーだろ!」
「ああ、あれね。ニクに手伝ってもらったけど」
「ニクってニクミ様か? 王族に向かってなんて奴だ……」
「いいのよ、スレイブちゃん」
「は、はい」
「とにかくお手柄よ、よくやってくれたわね」
と、ターナは褒めてくれるが為次にとっては予想外の行動を始める。
「あなたのお仲間も助けてあげましょう」
「は?」
「ディスペルマジック!」
ターナは杖を掲げ呪文を唱えた。
呪文解除の魔法だ。
サーサラを除く人々のバインドが解ける……
「え? えっと……」
その様子を為次は唖然と見ていた。
皆が起き上がり始める。
当然、正秀達は服装を直し為次に詰め寄る……
「あら、タメツグさん、ご活躍だったみたいね」
マヨーラがわざとらしく言った。
「いやぁ、為次のおかげで無事にサーサラさんを捕まえられたぜ」
「むっふー、なのです」
為次は皆から目を逸らしながら言う。
「えーっと、みなさんご無事で何よりです…… はい、ははは」
ターナは1人とぼけた様子で見ている。
「あらあら、皆さんどうしたのかしら?」
「さあな……」
「じゃ、じゃあ帰るわ……」
そう言うと、為次は慌ててレオパルト2に逃げ込もうとする。
「らいとにんぐぼると~」
逃げようとする為次をマヨーラの放った電撃が襲う。
「にぎゃぁぁぁぁぁ!」
バタリッ
為次はレオパルト2の手前で無残にも倒れてしまった……
その後、サーサラはターナ達に回収され、転生の加護を受けることになった。
そんなこんなで、破壊された街は再び落ち着きを取り戻すのであった。
あと、為次はロープでグルグル巻きにされると、広場にある一本の木に吊るされた。
それは、巨大なミノムシにしか見えなかった……
3
あなたにおすすめの小説
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる