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異世界編 1章
第42話 食物
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エ、エリア…… なんとか王国。
「エリステアル王国よ」
マヨーラが教えてくれるが、知ってた。
「…………」
ここはエリステアル王国、大陸の南に位置する大国であり、他国との貿易も盛んな国である。
もっとも、この大陸には3つしか国が無い。
その内の1つがこのエリステアル王国であり、その王都がサイクスだ。
中央の大きな川を跨ぐように街は造られており、その周りを巨大な円形の壁で囲われている。
川を挟んで向かって左が平民区画、そして右側が今居る冒険者区画となっている。
そして、正秀と為次はこの異世界に飛ばされてからと言うもの、毎日この王都サイクスでウロウロしてるだけなのだ。
だから今日もサイクスの中をレオパルト2で走っていた。
食べ物を作っている食物プラントへ工場見学に行く為に。
「意外と遠いっつか、広いねこの街」
為次達は戦車で、正門のある南から反時計回りでサイクスの街の外周を走っている。
そこは、草原や林が広がっていて、左手に見えるゴチャゴチャとした街とは対照的であった。
「食物プラントはギルドのちょうど反対側なのよ」
「そうなんだ。まあ、この世界の美味しい食べ物をどうやって作ってるのか見たいし、広くて走りやすいからドライブにはちょうどいいかな」
「そうだな、この一週間で色々ありすぎたし、のんびりするのもいいかもだぜ」
「のんびりはいいけど、あんな所行っても面白くないわよ」
「そうなのか?」
「そうよ、何もないし……」
「何も無い?」
為次は訊いた。
「無いわよ。食材入れるとこと、食料が出て来るとこがあるだけなんだから」
「なんだそれ?」
「なんすかそれは?」
「まあ、行けば分かるわ」
「おう」
「うん……」
そんな、道も半ばまで来た時であった。
「はぁ~ぁ…… うー」
為次の膝の上で寝ていたスイが起きたようだ。
「んお、起きたか?」
「おはょぅござぁまぁす、ご主人様ぁ~」
「あ…… うん、おはよう」
「ここは何処ですかぁ?」
「レオの中だよ」
「つばい様の…… 何処か行くのですか? ご主人様」
「食物プラントだよ」
「はぁい……」
為次は人付き合いが苦手…… 否、嫌いだった。
決して、社会不適合な引き籠りと言う分けでもない。
バスを運転していた頃は、若い運転手だからとおばさんからよく話しかけられたり、最中を貰ったりしたものだ。
なぜか最中が多いが、そんなことは気にもせず、営業スマイルと天気のお話でおば様方を楽しませたりもした。
もっとも、最中よりイチゴ大福を寄越せとも思ったがそれはいい。
つまり、何が言いたいかと言えば、最中はともかく為次はコミュ障って分けではない。
だが、人と話すのは好きではなかった……
何故なら面倒臭いから。
他人とは何を考え、何を思うのかは自分には分からない。
それは為次だけではなく皆がそうであろう。
もちろん否定する者も居るだろうが、言葉とは曖昧なものである。
物事や感情を言葉で正確に相手に伝えることは、とても困難なことなのだ。
だから、自分が本当に相手の気持ちが分かったと言い張ったとこで、それは上辺だけの自己満足に過ぎない。
そうやって人々は言葉を使い、自分を誤魔化し相手を知らない内に騙しながら生きて行く。
それが嫌だった…… 否、正確にはそんな考えをする自分が嫌だった……
スイはさっき自分のことを「ご主人様」と呼んだ。
教えたはずだった…… いや、教えていない、お願いした。
レオパルト2の車内ではご主人様と呼ばないでくれと、あの時は本心から、心の底からお願いしたのだ。
それを確かにスイは承諾したはずだった。
だが、たった今、否定された。
忘れているのかも知れない、恥ずかしがっているのかも知れない、初めから覚えていないのかも知れない……
理由はどうでもいい、否定されたことだけが事実なのだから。
もう一度、教えれば、頼めばいいなどとは思わない、自分はそこまで立派な人間ではないから。
他人に教え、行動や考えを制限することはそれ自体に責任を伴う。
自分が教えたことによって、それで何か不具合があったならば教えた人間が責任を取らなくてはならないのだ。
もっとも、そこまで考えて人に何かを教える人は少ないだろう。
殆どが適当な言葉で無責任に相手に何かを教える。
そうやって、自分が他人より上の立場であることを主張したいだけなのだから。
だから、為次の教えることは相手が知っていないと困るであろうことだけであった。
ハッチの開け方とかその程度だ。
そして、珍しく本気で言った自分の言葉はスイには届いていなかった、理解してもらえなかった……
為次は少し安心していた。
スイも他人だと思うことができたから。
今、自分の膝の上でこちらを見ている可愛い少女を好きになりかけていたから……
それは、とても危険なことだ。
心底相手に惚れこむなど危険極まりない。
そのような感情は自分の命を危険に晒すのだ。
他人を助けるために自分の身を挺して守る行動を、沢山見て来た。
戦闘中はもちろん、一般生活においてもだ。
愛や友情など要らない。
それこそ上っ面の言葉だけであり、離婚もすれば喧嘩別れもするのだ。
所詮はその程であり、生きて行くことには必要ない、寧ろ邪魔だ。
などと、為次は下らないことを考えていた……
「あの…… えっと……」
スイは何か言いたそうに為次を見つめた。
「ん? なに?」
「えへへへ…… タメツグ様」
為次の下らない考えは、そのスイの一言で全否定されてしまった。
「ダメ? でしょうか?」
「ぐぁ…… んもっ」
「はぅ…… 怒ってますか? つばい様の中でなんと呼んでいいのかと思いまして……」
「怒る? そうだね、バカな自分に怒ってるかも」
「はう?」
「ありがとう、スイ」
為次はスイを複雑な気持ちで抱き寄せるのであった……
※ ※ ※ ※ ※
しばらく走るとマヨーラの指示で、街の中へと入って行く。
そこは通路も広く、キューリ車が頻繁に行き交っている。
食べ物をと取にいったり、食材を運び込んでいるのだろう。
「着いた」
街に入ってからすぐに、レンガ造りで大きめな四角い建物があった。
入口の所に『食物プラント』と書いてあるが、スイとマヨーラには読めないようだ。
とりあえず、入口の手前で降車するが、戦車が意外と通行の邪魔だ。
しかし、駐禁で切符を切られる分けでもないので、邪魔だけどその辺に駐車しといた。
「ここが食物プラントか」
正秀はあまり深くは考えずに言った。
「そうよ」
「なんかあんまり面白くない建物だねー」
「面白くないのです」
為次とスイの言うように、四角いだけの建物で特に装飾も無く味気ない。
「だから言ったでしょ」
「ま、せっかくだから、とりあえず入ってみようぜ」
「うん」
中へ入ると、そこは天井も高く広い空間だった。
壁は神殿の中のように殆ど繋ぎ目の無い白い壁だが、長年の汚れからなのだろう、茶色く濁った色をしていた。
奥の方に、幾つかのシャッターのような扉が並んでいる。
左側に並んでいる扉には、運び込まれた野獣や植物を無造作に放り込まれている。
右側に並んでいる扉からは、街で見かける食材や調理済みの食物が出て来る。
そして、その横には、この世界とは不釣り合いな操作パネルが設置してあった。
「うお、なんかすげー」
外見とは打って変わって、食物がモリモリ出てくる様は圧巻だ。
その光景に為次は驚いた。
「ご飯がいっぱい出て来るのです」
「なんなんだここは……」
流石の正秀も驚いた様子だ。
「ね、言ったでしょ、別に面白くないって」
マヨーラは面白く無いと言うが、為次は機械を見てハイテンションだ。
「いやいやいや、スゲーよこれは…… 機械が勝手に食料にして排出するんかよ」
「そう? 普通の光景だけど……」
「食料の生産はオートメーション化されてるのか」
正秀は感心して頷いていた。
「どうなってるんだ? 向こうの操作パネルみたいなとこに誰かおるな」
為次は操作パネルが設置されている方を見ると、少年が1人暇そうに機械を見ていた。
「ここの管理人よ」
「管理人か、少し話でも聞いてみるか」
と正秀は言って管理人の方へと向かう。
後から3人も続いて操作パネルの方へと行ってみる。
「おうおうおう、なんじゃ我らは!? 何しに来たんじゃコラァッ!」
正秀達を見た少年管理人さんは、なぜか超威圧的だ。
それを見た為次は思わず口が滑ってしまう。
「うお…… 変な少年」
「誰が変じゃコラッ! しばいたろか!? ああん!?」
「なぜ故にケンカ腰なのか……」
「うっせえぇっボケが! てめぇが間抜けな顔してっからだろ! 文句あっか!?」
「あ…… いえ……」
管理人さんは、見た目は少年だが言動や行動のそれはおっさんであった。
この世界では見た目と年齢が一致していない、それは分かっていたことであった。
生命の加護か、転生の加護の時に設定年齢を低くした、おっさんなのであろう。
しかし、やっぱり慣れないものなのです。
「すまないな、俺達は見学しに来ただけなんだ」
正秀は言った。
「ああ!? 見学だ!? そうか! よー来たな坊主ども! 始めからそう言えよ! ああ? そうだろ!」
「そ、そうだな…… すまない」
「分かりゃーいいんだよ! 分かればよっ!」
そして、少年おっさんは唐突に解説を始める。
「おっしゃあっ! まずコイツが食物管理魔法陣だ!」
少年おっさんは、そう言いながら操作パネルをドンドン叩き始めた。
「あう…… 壊れるよ……」
人間より機械が好きな為次は心配そうだ。
「はぁぁぁ!? 何ゆーとんじゃ我は!? 俺の扱いで壊れるゆーんかい? あー!? なめとんのかコラッ!」
「い、いえ…… ごめんなさい……」
「おう、分かりゃーいいんじゃよ! 分かりゃーな!」
「はぃ……」
為次が要らないことを言ったせいで話が進まないでの、仕方なく正秀は言う。
「そ、それじゃあ、せっかくだからここの施設の説明の続きをしてもらえますか?」
「そうじゃのー、己らがそこまで言うならしゃーない。耳かっぽじって、おとなしーよー聞けよ。ああ!?」
「「はぃ……」」
少年おっさんのハイテンションな説明によれば、この施設は古来より人々に食料を与え続けている神聖な場所らしい。
神聖な割には、管理人さんの施設の扱いは超雑だ。
それはともかく、説明によると左のシャッターから原料を入れると、望んだ食べ物が右のシャッターから出て来るらしい。
また、原料を投入するとそれに応じた対価がお金として排出され、逆にお金を投入して指定した食べ物を排出される。
そして、欲しい食べ物は操作パネルで入力するのだが、その操作パネルに表示される文字は特定の人にしか読めない。
正秀と為次には読めるが、マヨーラとスイには読めなかった。
また、レシピも登録できるらしい。
操作パネルで、成分と調理過程を入力することによって、新たなる食べ物が生み出される。
そうやって、この世界の人々の食料がこの施設によって日々生産され続けるのであった。
「なるほどな、良く分かったぜ。ありがとう」
「うへへへ、そうじゃろう、そうじゃろう、ビックリしたろ? 驚けコンチクショー!」
「へー、ここで、新しい食べ物が開発されるんだ…… じゃあ日本酒もここで開発されたのかな?」
為次は気になっていた日本酒のことを訊いてみた。
「ああー!? あったりめーだろボケがぁ! サダムネの考えた最高の酒だぜ! そんなことも知らねーのかよボケが!」
「あう…… すいません……」
「サダムネ?」
「あ? マジで知らねーのかよ! コンチクショーがっ! 超有名な冒険者だろ!」
「もしかして、30年前に異世界から来た冒険者なの?」
為次の問いに、少年おっさんは相変わらず狂ったテンションで答える。
「あったりめーだろ! 他に誰が居るんだよ! ボケがっ!」
正秀はサダムネという名前を聞いて、何か思い当たる節があった。
しかし、思い出せない様子である。
「サダムネ…… サダムネ…… どこかで聞いたような……」
「スイも聞いたことあるのです、サダムネ様」
考え込む正秀に代わって為次が言う。
「そりゃ、スイはこの世界の人間だから当然でしょ、有名人らしいから」
「そうなのですが……」
「サダムネはマサヒデ達と同じで異世界から来た冒険者よ、30年前だけどね」
とマヨーラは言った。
「30年前の冒険者…… 俺達と似た陸上艇の乗ってたってターナも言ってたな…… なんか嫌な感じの名前だな……」
為次はサダムネという名前がなんだか嫌いらしい。
正秀は頑張って思い出そうとするも、思い出せない。
「んー…… 何者なんだ……」
何処となく引っかかる、30年前にこの世界にやって来た有名冒険者のサダムネ。
それは、正秀にとって懐かしい響きの名前であった。
逆にその名前に嫌悪感を感じた為次。
そんな、正秀と為次は、なんとなく日本を恋しく思ったのであった……
「エリステアル王国よ」
マヨーラが教えてくれるが、知ってた。
「…………」
ここはエリステアル王国、大陸の南に位置する大国であり、他国との貿易も盛んな国である。
もっとも、この大陸には3つしか国が無い。
その内の1つがこのエリステアル王国であり、その王都がサイクスだ。
中央の大きな川を跨ぐように街は造られており、その周りを巨大な円形の壁で囲われている。
川を挟んで向かって左が平民区画、そして右側が今居る冒険者区画となっている。
そして、正秀と為次はこの異世界に飛ばされてからと言うもの、毎日この王都サイクスでウロウロしてるだけなのだ。
だから今日もサイクスの中をレオパルト2で走っていた。
食べ物を作っている食物プラントへ工場見学に行く為に。
「意外と遠いっつか、広いねこの街」
為次達は戦車で、正門のある南から反時計回りでサイクスの街の外周を走っている。
そこは、草原や林が広がっていて、左手に見えるゴチャゴチャとした街とは対照的であった。
「食物プラントはギルドのちょうど反対側なのよ」
「そうなんだ。まあ、この世界の美味しい食べ物をどうやって作ってるのか見たいし、広くて走りやすいからドライブにはちょうどいいかな」
「そうだな、この一週間で色々ありすぎたし、のんびりするのもいいかもだぜ」
「のんびりはいいけど、あんな所行っても面白くないわよ」
「そうなのか?」
「そうよ、何もないし……」
「何も無い?」
為次は訊いた。
「無いわよ。食材入れるとこと、食料が出て来るとこがあるだけなんだから」
「なんだそれ?」
「なんすかそれは?」
「まあ、行けば分かるわ」
「おう」
「うん……」
そんな、道も半ばまで来た時であった。
「はぁ~ぁ…… うー」
為次の膝の上で寝ていたスイが起きたようだ。
「んお、起きたか?」
「おはょぅござぁまぁす、ご主人様ぁ~」
「あ…… うん、おはよう」
「ここは何処ですかぁ?」
「レオの中だよ」
「つばい様の…… 何処か行くのですか? ご主人様」
「食物プラントだよ」
「はぁい……」
為次は人付き合いが苦手…… 否、嫌いだった。
決して、社会不適合な引き籠りと言う分けでもない。
バスを運転していた頃は、若い運転手だからとおばさんからよく話しかけられたり、最中を貰ったりしたものだ。
なぜか最中が多いが、そんなことは気にもせず、営業スマイルと天気のお話でおば様方を楽しませたりもした。
もっとも、最中よりイチゴ大福を寄越せとも思ったがそれはいい。
つまり、何が言いたいかと言えば、最中はともかく為次はコミュ障って分けではない。
だが、人と話すのは好きではなかった……
何故なら面倒臭いから。
他人とは何を考え、何を思うのかは自分には分からない。
それは為次だけではなく皆がそうであろう。
もちろん否定する者も居るだろうが、言葉とは曖昧なものである。
物事や感情を言葉で正確に相手に伝えることは、とても困難なことなのだ。
だから、自分が本当に相手の気持ちが分かったと言い張ったとこで、それは上辺だけの自己満足に過ぎない。
そうやって人々は言葉を使い、自分を誤魔化し相手を知らない内に騙しながら生きて行く。
それが嫌だった…… 否、正確にはそんな考えをする自分が嫌だった……
スイはさっき自分のことを「ご主人様」と呼んだ。
教えたはずだった…… いや、教えていない、お願いした。
レオパルト2の車内ではご主人様と呼ばないでくれと、あの時は本心から、心の底からお願いしたのだ。
それを確かにスイは承諾したはずだった。
だが、たった今、否定された。
忘れているのかも知れない、恥ずかしがっているのかも知れない、初めから覚えていないのかも知れない……
理由はどうでもいい、否定されたことだけが事実なのだから。
もう一度、教えれば、頼めばいいなどとは思わない、自分はそこまで立派な人間ではないから。
他人に教え、行動や考えを制限することはそれ自体に責任を伴う。
自分が教えたことによって、それで何か不具合があったならば教えた人間が責任を取らなくてはならないのだ。
もっとも、そこまで考えて人に何かを教える人は少ないだろう。
殆どが適当な言葉で無責任に相手に何かを教える。
そうやって、自分が他人より上の立場であることを主張したいだけなのだから。
だから、為次の教えることは相手が知っていないと困るであろうことだけであった。
ハッチの開け方とかその程度だ。
そして、珍しく本気で言った自分の言葉はスイには届いていなかった、理解してもらえなかった……
為次は少し安心していた。
スイも他人だと思うことができたから。
今、自分の膝の上でこちらを見ている可愛い少女を好きになりかけていたから……
それは、とても危険なことだ。
心底相手に惚れこむなど危険極まりない。
そのような感情は自分の命を危険に晒すのだ。
他人を助けるために自分の身を挺して守る行動を、沢山見て来た。
戦闘中はもちろん、一般生活においてもだ。
愛や友情など要らない。
それこそ上っ面の言葉だけであり、離婚もすれば喧嘩別れもするのだ。
所詮はその程であり、生きて行くことには必要ない、寧ろ邪魔だ。
などと、為次は下らないことを考えていた……
「あの…… えっと……」
スイは何か言いたそうに為次を見つめた。
「ん? なに?」
「えへへへ…… タメツグ様」
為次の下らない考えは、そのスイの一言で全否定されてしまった。
「ダメ? でしょうか?」
「ぐぁ…… んもっ」
「はぅ…… 怒ってますか? つばい様の中でなんと呼んでいいのかと思いまして……」
「怒る? そうだね、バカな自分に怒ってるかも」
「はう?」
「ありがとう、スイ」
為次はスイを複雑な気持ちで抱き寄せるのであった……
※ ※ ※ ※ ※
しばらく走るとマヨーラの指示で、街の中へと入って行く。
そこは通路も広く、キューリ車が頻繁に行き交っている。
食べ物をと取にいったり、食材を運び込んでいるのだろう。
「着いた」
街に入ってからすぐに、レンガ造りで大きめな四角い建物があった。
入口の所に『食物プラント』と書いてあるが、スイとマヨーラには読めないようだ。
とりあえず、入口の手前で降車するが、戦車が意外と通行の邪魔だ。
しかし、駐禁で切符を切られる分けでもないので、邪魔だけどその辺に駐車しといた。
「ここが食物プラントか」
正秀はあまり深くは考えずに言った。
「そうよ」
「なんかあんまり面白くない建物だねー」
「面白くないのです」
為次とスイの言うように、四角いだけの建物で特に装飾も無く味気ない。
「だから言ったでしょ」
「ま、せっかくだから、とりあえず入ってみようぜ」
「うん」
中へ入ると、そこは天井も高く広い空間だった。
壁は神殿の中のように殆ど繋ぎ目の無い白い壁だが、長年の汚れからなのだろう、茶色く濁った色をしていた。
奥の方に、幾つかのシャッターのような扉が並んでいる。
左側に並んでいる扉には、運び込まれた野獣や植物を無造作に放り込まれている。
右側に並んでいる扉からは、街で見かける食材や調理済みの食物が出て来る。
そして、その横には、この世界とは不釣り合いな操作パネルが設置してあった。
「うお、なんかすげー」
外見とは打って変わって、食物がモリモリ出てくる様は圧巻だ。
その光景に為次は驚いた。
「ご飯がいっぱい出て来るのです」
「なんなんだここは……」
流石の正秀も驚いた様子だ。
「ね、言ったでしょ、別に面白くないって」
マヨーラは面白く無いと言うが、為次は機械を見てハイテンションだ。
「いやいやいや、スゲーよこれは…… 機械が勝手に食料にして排出するんかよ」
「そう? 普通の光景だけど……」
「食料の生産はオートメーション化されてるのか」
正秀は感心して頷いていた。
「どうなってるんだ? 向こうの操作パネルみたいなとこに誰かおるな」
為次は操作パネルが設置されている方を見ると、少年が1人暇そうに機械を見ていた。
「ここの管理人よ」
「管理人か、少し話でも聞いてみるか」
と正秀は言って管理人の方へと向かう。
後から3人も続いて操作パネルの方へと行ってみる。
「おうおうおう、なんじゃ我らは!? 何しに来たんじゃコラァッ!」
正秀達を見た少年管理人さんは、なぜか超威圧的だ。
それを見た為次は思わず口が滑ってしまう。
「うお…… 変な少年」
「誰が変じゃコラッ! しばいたろか!? ああん!?」
「なぜ故にケンカ腰なのか……」
「うっせえぇっボケが! てめぇが間抜けな顔してっからだろ! 文句あっか!?」
「あ…… いえ……」
管理人さんは、見た目は少年だが言動や行動のそれはおっさんであった。
この世界では見た目と年齢が一致していない、それは分かっていたことであった。
生命の加護か、転生の加護の時に設定年齢を低くした、おっさんなのであろう。
しかし、やっぱり慣れないものなのです。
「すまないな、俺達は見学しに来ただけなんだ」
正秀は言った。
「ああ!? 見学だ!? そうか! よー来たな坊主ども! 始めからそう言えよ! ああ? そうだろ!」
「そ、そうだな…… すまない」
「分かりゃーいいんだよ! 分かればよっ!」
そして、少年おっさんは唐突に解説を始める。
「おっしゃあっ! まずコイツが食物管理魔法陣だ!」
少年おっさんは、そう言いながら操作パネルをドンドン叩き始めた。
「あう…… 壊れるよ……」
人間より機械が好きな為次は心配そうだ。
「はぁぁぁ!? 何ゆーとんじゃ我は!? 俺の扱いで壊れるゆーんかい? あー!? なめとんのかコラッ!」
「い、いえ…… ごめんなさい……」
「おう、分かりゃーいいんじゃよ! 分かりゃーな!」
「はぃ……」
為次が要らないことを言ったせいで話が進まないでの、仕方なく正秀は言う。
「そ、それじゃあ、せっかくだからここの施設の説明の続きをしてもらえますか?」
「そうじゃのー、己らがそこまで言うならしゃーない。耳かっぽじって、おとなしーよー聞けよ。ああ!?」
「「はぃ……」」
少年おっさんのハイテンションな説明によれば、この施設は古来より人々に食料を与え続けている神聖な場所らしい。
神聖な割には、管理人さんの施設の扱いは超雑だ。
それはともかく、説明によると左のシャッターから原料を入れると、望んだ食べ物が右のシャッターから出て来るらしい。
また、原料を投入するとそれに応じた対価がお金として排出され、逆にお金を投入して指定した食べ物を排出される。
そして、欲しい食べ物は操作パネルで入力するのだが、その操作パネルに表示される文字は特定の人にしか読めない。
正秀と為次には読めるが、マヨーラとスイには読めなかった。
また、レシピも登録できるらしい。
操作パネルで、成分と調理過程を入力することによって、新たなる食べ物が生み出される。
そうやって、この世界の人々の食料がこの施設によって日々生産され続けるのであった。
「なるほどな、良く分かったぜ。ありがとう」
「うへへへ、そうじゃろう、そうじゃろう、ビックリしたろ? 驚けコンチクショー!」
「へー、ここで、新しい食べ物が開発されるんだ…… じゃあ日本酒もここで開発されたのかな?」
為次は気になっていた日本酒のことを訊いてみた。
「ああー!? あったりめーだろボケがぁ! サダムネの考えた最高の酒だぜ! そんなことも知らねーのかよボケが!」
「あう…… すいません……」
「サダムネ?」
「あ? マジで知らねーのかよ! コンチクショーがっ! 超有名な冒険者だろ!」
「もしかして、30年前に異世界から来た冒険者なの?」
為次の問いに、少年おっさんは相変わらず狂ったテンションで答える。
「あったりめーだろ! 他に誰が居るんだよ! ボケがっ!」
正秀はサダムネという名前を聞いて、何か思い当たる節があった。
しかし、思い出せない様子である。
「サダムネ…… サダムネ…… どこかで聞いたような……」
「スイも聞いたことあるのです、サダムネ様」
考え込む正秀に代わって為次が言う。
「そりゃ、スイはこの世界の人間だから当然でしょ、有名人らしいから」
「そうなのですが……」
「サダムネはマサヒデ達と同じで異世界から来た冒険者よ、30年前だけどね」
とマヨーラは言った。
「30年前の冒険者…… 俺達と似た陸上艇の乗ってたってターナも言ってたな…… なんか嫌な感じの名前だな……」
為次はサダムネという名前がなんだか嫌いらしい。
正秀は頑張って思い出そうとするも、思い出せない。
「んー…… 何者なんだ……」
何処となく引っかかる、30年前にこの世界にやって来た有名冒険者のサダムネ。
それは、正秀にとって懐かしい響きの名前であった。
逆にその名前に嫌悪感を感じた為次。
そんな、正秀と為次は、なんとなく日本を恋しく思ったのであった……
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