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異世界編 2章

第101話 剣術その1

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 ―― 翌朝

 今日も朝から特訓だ。
 姉妹が早朝から出向いて来たので、朝食も手早く済ませ森の特訓場へと向かう。
 しかし、行くのは正秀とシャルだけである。
 為次は気の訓練をするからと、貞宗と一緒に残された。
 もちろんシムリは為次達と一緒だ。

 「んじゃ、行ってくるぜ」

 「行ってくる」

 「いてら」

 適当に2人を見送る為次。

 「あまり、隊長を怒らせるなよ」

 「はいはい」

 「私が見張ってるから大丈夫なんだよ。ね、タメツグさん」

 と、為次を睨めつけながらシムリは言うのだ。
 どうやら姉のおっぱいを揉んだことを、まだ根に持っている様子だ。

 「おう、頼んだぜ、シムリちゃん」

 こうして、正秀とシャルは特訓へ向け、お出かけするのであった。

 Let's特訓場へ!
 
 ※  ※ 森の特訓場 ※  ※

 昨日と違って本日は晴天なり。
 落雷の心配も無い。

 「今日はいい天気だぜ」

 「ああ、まったくだ、正に特訓日和であるな」

 「おう」

 森の開けた場所、いわゆる特訓場に到着した2人。
 お互いに向かい合い、正秀は大剣ジャスプリを構えて、やる気満々だ。

 シャルもご自慢の…… えー……
 なんか長い武器、凄そうなのだ多分。

 「ロングソードだ」

 そう、知ってた。

 「うむ……」

 シャルもロングソードを構えている。
 刀身の幅こそ細いが、長さは大剣並である。
 この世界の武器は全体的にどれも大きい。
 為次の持つ三尺刀を横に並べれてみれば、小刀しょうとうと見間違える程だ。

 「ではマサヒデ君、準備はいいかな?」

 「おうっ、いつでもいいぜ!」

 今日の正秀はハイテンションなのだ。
 お気に入りの大剣を遂に使いこなせる。
 そんな期待からだ。
 
 あれは一目惚れであった。
 スレイブが携えていた大剣。
 マンティコアへと果敢に立ち向かった大剣。
 まさにおとこのロマンである。

 自分も欲しいと思った……

 大剣を手にし、悪者を一網打尽。
 正義の大剣マスター水谷マンとなりたい!
 などと、よく分からない変な期待が膨らむのであった。

 「うぉぉぉ! シャル! 早くしてくれ!」

 「分かっている」

 「俺を大剣マスターへといざなってくれぇぇぇ!」

 「マサヒデ君、少し落ち着きたまへ」

 「これが落ち付いていられるかっ!」

 正秀は叫びながら、突然ジャンプをした。
 
 「トウッ!!」

 5メートルは飛び上がっただろうか。
 空中で一回転してから大剣を下に向け落下して来る。

 「バーニングハート!」

 ドーン!

 大剣が地面に突き刺さると同時に、衝撃波が周囲へと広がる。
 シャルはその様子を土埃から顔を手で庇いながら、呆れ顔で見ている。

 「な、何をして……?」

 地上へと降り立った正秀は、大剣を引き抜くと変なポーズを取るのだ。

 「どうだ! 参ったか悪党めっ!」

 脳内で繰り広げられる妄想に我慢ならず、一人ヒーローごっこをしてしまった。
 最後のポーズは超カッコいいと自画自賛で、ご満悦である。

 「どうだ、ではない! 何をしてるんだ君は!?」

 「へへっ、悪りぃ悪りぃ」

 「まったく…… やる気があるのはいいが、暴れれば良い分けではないぞ」

 「分かってるって、それより、何をすればいいんだ?」

 「うむ、手始めに君の腕前を見せてもらう」

 「おう」

 「マサヒデ君は気功戦士だが、気を使うのは控えてもらおう」

 「使っちゃダメなのか?」

 「そうだ、私が教えるのは剣術であるからな」

 「なるほど」

 「まずは立ち合いからだ」

 「おう! いつでもいいぜ」

 「では、剣を構えたまへ」

 「よし! 怪我をしても知らないぜ?」

 「スイ君からヒールポーションを貰ってきている、安心していいぞ」

 「おう!」

 正秀は大剣を右下に構え、脇構えっぽい構えを取る。
 対してシャルは、正面に剣を持ってくる中段の構えだ。

 「行くぜ! はりゃー!」

 ブン ブン ブン

 大剣が右へ左へと勢い良く振られる。
 それをシャルは後ろへと飛び退き避ける。
 それでもお構い無しに、ブンブン振りながら前進する正秀。

 「おりゃ! おりゃ! おりゃー!」

 「…………」

 ガキンッ!

 単調で大振りな攻撃に、ロングソードを合わせて軽くあしらうシャル。

 「あっ!?」

 正秀には何が起こったのか分からなかった。
 勢い良く振り回していた大剣が、突然に握る手からスッポ抜けて飛んでいった。
 飛ばされた大剣は、クルクルと空中で回りながら、ドサリと地面に突き刺さった。

 「悪りぃな、手が滑っちまったぜ」

 「…………」

 再び大剣を拾い上げると、ブンブン振り回す。

 ブン ブン ブン

 ガキィン!

 「あれ?」

 ブン ブン

 ガキィン!

 「ぬぉ?」

 ブン

 ガキィン!

 「ぐっ……」

 ガキィン!

 ……………
 ………
 …

 あれから何度、同じことを繰り返したのだろうか?
 大剣ジャスプリは宙を舞うばかりである。

 「ぜぇ、ぜぇ…… お、おかしいぜ……ぇ」

 流石の戦士もだいぶ疲れてきた様子である。
 だが、対戦相手のシャルは息一つ切らしていない。

 「マサヒデ君、君の腕前は良く分かった」

 「い、今のは違う! 少し調子が悪いだけだぜ」

 流石に悔しい、悔し過ぎる正秀君。
 もう、なりふり構ってはいられない。

 「くそっ……(せめて一太刀だけでも)」

 もう、最後の手段に出るしかない。

 「あ! あんな所に空飛ぶ、ご飯がぁ!」

 と、空を指す。
 今度は不意を付いての攻撃だ。

 ガキィン!

 弾き飛ばされた……

 「マサヒデ君……」

 正秀はトボトボと地面に刺さる大剣を取りに行く。

 抜き取ると……

 「うわぁぁぁん! やだー! こんなのやだー! 違うんだぁー!」

 叫びながら、大剣の先をドスドスと地面に叩き付け始める。

 「やだー! やだー!」

 駄々っ子状態になってしまった。
 見るも堪えない正秀に、シャルは呆れて物も言えない。

 しかし……

 その内に変化が表れ始めた。
 駄々っ子本人は気が付かないが、シャルはそれを見て少し驚いた。
 地面を叩く切先きっさきが叩き付けられる度に、爆発が発生しているのだ。

 「お、おい、マサヒデ君」

 「やだー! やだー!」

 ボン! ボン! ボン!

 「マサヒデ君……」

 ボン! ボン! ボン!

 「おい……」

 ボン! ボン! ボン!

 止まらない正秀に、シャルは仕方なく近づく。

 「いい加減にしたまへ!」

 耳元で思いっ切り叫んだ。
 流石の駄々っ子も驚いて、ちょっと正気に戻った感じだ。

 「ほへ?」

 ようやく正秀の手が止まった。

 「ほへ、ではない! 落ち着くんだ」

 「お? おう……」

 「まったく、君という人は……」

 正秀は辺りをキョロキョロしている。

 「何処だここは?」

 「大丈夫か? 特訓の最中だぞ」

 だいぶ正気に戻った正秀は、思い出した。
 都合の悪いことを忘れて……

 「そうだったな、じゃあ始めようぜ」

 「バカか君は! さっきからやっているだろう!」

 「……あーあー、聞こえなーい」

 「もういい……」

 「あ、はい」

 「なんだか、タメツグ君みたいだな……」

 「う……」

 「それより、もう一度地面を叩いてみたまへ」

 「ん? 地面を?」

 「ああ、そうだ」

 「こうか?」

 言われて、大剣を振り上げ地面に気合を入れて振り下ろす。

 ドカーンッ!!

 先程とは違い、大爆発を起こした!
 2人は爆風に煽られて吹っ飛ぶ。

 「うわぁぁぁ!」

 「きゃぁぁぁ!」

 地面に叩き付けられ、舞い上がった土を被る2人。
 ちょっと生き埋めになってしまった。

 「ぶはっ! ペッペッ…… なんだこりゃ?」

 「けほっ、けほっ……」

 突然の爆発に、驚きながらも土を払い除け起き上がる。
 泥だらけだ。
 多分、帰ったらクリスに怒られるが、今は気にしない。

 「なんだ? 何が起きた!? ペッ」

 「やはりそうか…… けほっ」

 「シャル、何か知ってるのか?」

 「いや…… そうではないが」

 「へ?」

 「もしや、今の爆発こそマサヒデ君の属性ではないのか?」

 「俺の…… 属性……」

 「サダムネ氏も言っていただろう、気功士には属性があると」

 「お、おう……」

 正秀は正面に大剣を構える。

 そして……

 「うぉぉぉぉぉ!!」

 大剣にめっちゃくちゃ気合を入れてみる。
 純粋な気功士ではない自分には、属性など無いと思っていた。
 しかし、シャルに言われてノリノリになってきたのだ。

 「はぁぁぁ! どうだっ!!」

 「んん?」

 特に変化は見られない。
 貞宗のいかずちや為次の炎のように、武器に何か纏う気配は無い。

 「何もならないぜ……」

 「いや待て、よく見るんだ」

 「ん?」

 言われて、よく見ると巨大な刀身がゆらゆらしている。
 淡いオレンジ色の光を発しながら、陽炎のように揺らめいている。

 「なんだこりゃ?」

 不思議に思い、正秀はそっと手を触れてみようとする。

 が。

 「待つんだ! 爆発するかも知れないぞ!」

 「うおっ」

 慌てて触れようとした手を引っ込める。

 「なんだそれは……」

 「ど、どうしたらいい?」

 「私に聞かれても困るが」

 仕方ないので、再び振り回すことにした。
 何が仕方ないのかは分からないが、なんとなく楽しいからだ。
 ブンブン振り回す軌跡には、揺らめきが付き纏う。

 「うぉ、すげぇぜ」

 「あまり振り回すと危ないぞ」

 「へへっ」

 調子こいた正秀は、そのままシャルに向かって行く。

 「勝負だぜ!」

 「き、貴様っ!」

 ブン ブン ブン

 「くそっ」

 シャルはロングソードを構え、捌こうとするのだが……

 ボンッ!

 剣が触れ合った瞬間爆発した。

 「きゃっ」

 驚くシャル。
 ロングソードが宙を舞い、地面に突き刺さる。
 遂に、大剣ジャスプリが偉業を成し遂げた瞬間である。
 などと、正秀は悦に浸っていた。

 「やった! 俺はやったぞー!」

 「マサヒデ君……」

 「いやっほー」

 嬉しさあまり、大剣をナデナデする正秀。

 ボンッ!

 「うぎゃ!」

 爆発した……

 ※  ※  ※  ※  ※

 その頃、為次は……

 「動くな!」

 バシンッ

 「痛っ」

 「次に精神を乱したら、首を刎ねるぞ!」

 「ちょ、ま」

 「愛のムチだ、喜べ!」

 「普通は卒塔婆そとばで叩くもんでしょ!」

 「あれは卒塔婆じゃねぇ!」

 貞宗さんで座禅をさせられていた。
 動くたび、貞宗にムチでシバかれる為次。
 尚、卒塔婆とは墓の後ろに刺さっているアレだ。

 そんな痛みに耐えるあるじを見てスイは思う。

 「羨ましいのです、ゴクリ」
 
 と……

 口に出していた。
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