モブが公園で泣いていた少女にハンカチを渡したら、なぜか友達になりました~彼女の可愛いところを知っている男子はこの世で俺だけ~

くまたに

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二章・波乱万丈の夏休み!?

第21話 冷姫とプール帰り

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「楽しかったな」

「そうね」

 プールから帰る道中。電車の横並びの席に座り、二人は今日起きた出来事を思い出す。
 三人は左から唯、琉生ときて朱莉の順で座っている。朱莉は琉生の肩にもたれかかり寝息を立てて寝ている。

 一日。という短い間だったが、二人の胸の中には満足感が溢れ出す。それほど高密度な時間を過ごせたということだろう。

「絡まれた時に助けてくれてありがとね」

「……。あ、どういたしまして」

 琉生は「絡まれた時?」と、唯の話についていけなかったが、すぐにあの時の情景と共に思い出す。

 唯さんの水着姿を見て頭がおかしくなったり。周りからの視線がたくさん集まったり。更には不良に絡まれたりと本当に忙しかったな。
 それでも楽しかった。今まで人と関われなかったから、今日唯さんとプールに来ることが出来て嬉しかったな。

 と、琉生は思い出をかみしめる。その顔は優しく微笑んでいる。
 それから二人は車窓の外に流れる景色を眺めながら、他愛のない話をする。

 会話が途切れた時。唯は景色をじっと見つめながら言う。

「私達の降りる駅まであと何駅くらいだっけ?」

「あと四駅だったはずだよ」

「じゃああと少しでお別れね……」

 唯は少し寂しそうに言うが、寂しいのは唯だけでは無い。琉生も寂しいのだ。
 可能なら夕食も一緒に食べたいところだ。しかし夜遅くまで唯の自由を奪うわけにはいかない。

 琉生は唯と過ごせる時間いまを大切にし、もう少し他愛のない話を続けるのだった。

 ◆

「朱莉ー?朱莉さーん、起きてますかー」

「……」

 琉生の肩で寝入っている朱莉はピクリとも動かず、未だに寝息を立てている。
 その様子を見て唯はくすくすと笑っている。

 三人の降りる駅が少し先に見えてきた時。琉生は軽くため息を着き、朱莉にデコピンをする。
 普通のデコピンではない。近衛家流デコピンだ。

「──っ痛いよぉ……!」

 朱莉はようやく目を覚まし、目の端に涙を浮かべながら自分の額を押さえる。

「あ。起きた」

 真面目な顔で言う琉生に、朱莉は「それだけ!?」と突っ込むがスルーされてしまうのだった。


 三人は電車を降り、駅を出た時には既に夜の帳が下りており、周囲はネオンの明かりに照らされている。
 琉生達の住むマンションは、駅と唯の住むマンションの間にあるため、途中まで一緒に帰ることにした。

「この頃暑いね~」

「そうだね。地球温暖化の影響だね」

 琉生を挟むようにして唯と朱莉は話している。
 遠くには琉生達の住むマンションが見えてくる。

「おにぃ、暗いから唯ちゃんを家まで送ってあげて」

 マンションの麓まで来た時。朱莉はウインクをしながら言う。
 その言葉を聞いて唯は「大丈夫だよ」と言うが、琉生は唯の住むマンションの方へ足を進めた。
 後ろからは唯が慌てて琉生の後を追う音が聞こえてくる。

「疲れてるはずなのにありがとね」

「大丈夫だ。俺は楽しい時間が長くなったと思ってるから」

 表情を変えずそんなことを言う琉生に、唯は少し顔を赤くする。
 二人の間に流れる空気が熱くなったその時。空からポツポツと雨の雫が降り始める。
 初めは弱かったが次第に強くなり、周りの景色が見えなくなるくらいに雨が降り注いだ。

 二人は急いでマンションに向かうが、服が水分を含み少しずつ動きにくくなる。
 やっとの思いでマンションに着いた時には、服からはポタポタと水滴が垂れる羽目に。

 琉生は「この天気の中を帰らないといけないのか」と少し憂鬱な気持ちとなる。

「じゃあ俺は帰るよ。今日は楽しかったよ」

 そう言って走り去ろうとする琉生の手が、唯に強く握られる。

「待って!せっかくだから少しだけ私の部屋に寄ってかない?」

「えっ……!?」

 琉生は驚きのあまりつい唯の方へ振り向いてしまうのだった。
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